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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
116/119

第116話  アラドの街8

 スコールは目覚めると同時に口に手をあてた。

 焦点が合うよりも先に吐き気が襲いかかってきたからだ。

 体を動かすと至る所が悲鳴を上げる。身体中が痛い。


 額に手を当てながら今の状況を確認する。

 今はベッドの上だ。


「えーと、確かルータスと戦って……」


 恐らく試合の後、ぶっ倒れた自分を誰かがここに運んでくれたのだろう。

 今が朝なのか夜なのかも分からない。

 一体どれくらい寝ていたのだろうか?


 記憶を探ると、非常にまずい事をしている。

 客観的にみると酔った勢いでルータスに絡んだだけだ。

 負けず嫌いの性格が悪い方向に転がってしまった。これは反省すべき点である。


 スコールは立ち上がり部屋を出る。風に当たりたい気分だからだ。

 外はまだ暗く星空がとても美しい。夜空を見上げながら歩きだす。

 向かう先は温泉だ。

 夜の風はひんやりとして気持ちよく吐き気は少しおさまった。


 今は一刻も早く熱いお湯に入りたい。

 何よりも風呂に入って酒でガンガンする頭をスッキリさせたかった。


 目的の温泉が見えてきた。

 入り口の扉から明かりが漏れている。

 スコールは中に入ると中には誰もいない様だ。

 どれくらい寝ていたのか不明だが恐らく今は真夜中だ。皆もう寝ているだろう。


 脱衣所で服を脱ぐと身体中アザだらけである。


「くそう、ルータスの野郎」


 完全に自業自得なのだが声に出さずにはいられなかった。

 そしてそのまま風呂場へ入る同時に湯気が鼻を通りぬける。

 中はもう見慣れたいつもの温泉だ。


 しかし誰もいない風呂は中々みられない。

 元々風呂は広いが余計に広く感じた。


 スコールは木の小さな椅子に座りタライで湯を頭からかぶった。

 頭から滴る湯と一緒に、頭の痛みも取れていく。

 もう一度頭から湯をかぶり視界を邪魔する髪の毛をかき上げる。

 そして身体中を一通り洗う。


「ふーう」


 思わず大きなため息が漏れる。

 もう一度頭から湯をかぶると両膝の上に肘をつき髪の毛から垂れる湯をじっと見ていた。


 一本の線のように垂れているが、次第にポタポタと滴に変わっていく。

 そのままボーッと滴を目で追っていると扉が開く音が鳴り響き誰かが入ってきた。

 スコールは入り口に視線を向けるが湯気で誰なのか分からない。


 こんな時間に誰なのだろう?


 スコールの頭に浮かんだ疑問はすぐに解決する。

 スコールの視線の先には女性の裸体があった。

 褐色の肌に膨らんだ胸、サラサラの銀色の髪だ。

 スコールは事態が飲み込めず時が止まった様に固まった。


「あれ? 隊長じゃねぇか!」


 そう、そこにいたのはヤヤだったのだ。

 スコールの目は大きく見開かれると同時に全裸のヤヤから視線をそらす。


「な、な、何でお前がこんな所に居るんだ! 女風呂は隣だろうが!」


 スコールは心拍数が大きく上昇するのが分かる。

 年頃の女性の裸を見たのだ当然の反応と言えるだろう。


「あ―― こんな時間だし誰もいないと思って適当に入っちまった」

「入っちまった。じゃねえよ!」

「あれ? もしかして隊長、私の体みて興奮した?」


 ヤヤに焦りの色は感じられない。むしろこの状況を楽しんでいるかの様にポーズをとった。

 目のやり場に困る。


「と、とりあえず俺は上がるから」


 スコールは立ち上がると入り口に向かって逃げる様に歩きだす。


「ちょっと待ちやがれ!」


 次の瞬間、スコールの背中に柔らかい感触が伝わる。

 なんとヤヤが背中に飛びついてきたのだ。


 そして蟹挟みのようにがっちりと掴む。

 ここは風呂、当然ヤヤは全裸だ。

 色々な場所が当りまくっているのが分かる。


「おい、ヤヤ! 何してるんだ!」

「逃げるんじゃねーよ! 折角なんだから一緒に風呂に入ろうぜ!」

「そんなこと出来るか! バカ!」


 スコールはヤヤを振り落とそうと体を動かすもヤヤは離れない。

 すると、ヤヤはスコールの耳元で囁く。


「大きな声で叫んじゃおうかなー」


 コイツは何を言っている? 俺が何をしたと……


「わ、分かったから一度離れろ」

「観念したか」


 流石にこの状況で叫ばれるのはまずい。

 こう言った場合、大抵理由に関係なく男が非難されるものなのだ。


 スコールは適当にやり過ごす事にきめて風呂に浸かった。

 ヤヤは変な鼻歌をうたいながらスコールの隣に入ってくる。


 ヤヤが風呂に浸かると波紋がすぐにスコールの体にぶつかった。

 流石に直視は出来ないのでヤヤに背中を向けるような形をとるしかない。

 しかしその行動はヤヤの不満を爆発させる。


「なんでそっち向くんだよ! こっち向けよ!」

「そんな事出来るか!」

「やっぱり私の裸見ると興奮しちゃうんだ」

「お前は俺をからかいにきたのか? いい加減にしてくれ」


 ぶっちゃけ興奮していないと言えば嘘になる。と言うか年頃の男女だ。

 この状況で興奮しない男なんているはずもない。生物として当然の反応と言えるだろう。


「違うよ。隊長とゆっくり2人だけで話がしたかったんだよ」

「だったらここじゃなくてもバーでいいだろ」

「バーだと毎日アイちゃんと飲んでるじゃねえか。まぁ裸の付き合いってやつだ」


 それは年頃の男女でする事ではないと言ってやりたいが、ここまで来てもう遅い。


「わかったよ」

「んで、隊長はアイちゃんの事どう思ってるんだ?」


 頼りになる仲間だ。と言いたかったが、ヤヤの求めている答えはそう言った意味ではないことぐらい流石に分かる。


「俺はアイにそう言う感情は無い。前にも言っただろう」

「じゃあ今は特定の女はいないって事でいいんだな?」

「ああそうだ」


 ヤヤはスコールの背中をさすりながら、


「じゃあ私が立候補する! こう見えて結構スタイルには自信があるんだぜ? ちょっと見てみろよ」

「だから触るな! 大体なんでヤヤは俺にこだわるんだ?」

「だってこの国は本当に純血とか関係なさそうだしな。私はこの国に夢を見ているんだ。本当に魔王様の言う国が出来るなら賭けてみようと思う。だから少しくらいガッツいてもバチは当たらねぇだろ」


 ヤヤの気持ちはよく分かっているつもりだ。

 ハーフの人生などはっきり言って殆どが厳しい人生を送ることになる。

 そんなハーフが普通に暮らせる国が出来たのだ。しかもただの国ではない聖剣所有国だ。

 期待しない者などいないだろう。


「ヤヤは少しガッツきすぎだな」

「隊長は男前だしな。昨日だってかっこよく戦っていたしね。やっぱり強い男の子供を女は求めるもんなんじゃねえの?」


 こんな度ストレートな返答もヤヤらしいといえばヤヤらしいが……


「よく分からんな」

「大体、隊長は誰か好きになったりした事ないのか?」

「そうだな…… 特に意識したことはない」


 考えてみればアルファード学園時代に女子に告白された事はあったが付き合ったりしたことはない。特定の女子を意識したことがないからだ。

 試しにどんなものか付き合ってみることも考えたがそれは未遂でおわった。


 魔王軍に入ってからは強くなる事だけに集中していて、それ以前の問題だ。


「ふーん。じゃあ恋人とか欲しくないの?」

「今は考えた事ないかな」

「まじかよ! 側にいて欲しいとか、一緒にいて楽しいとか!」

「仲間としてならあるぞ」


 昔のスコールなら仲間としても無かっただろう。

 しかし今は何でも一人で出来るといきがっていたスコールではない。

 仲間の大切さは十分理解している。


「気持ちいいことしまくりたいとか思ったことねぇの!?」


 直球すぎて色々な意味で返答に困る。

 スコールはヤヤの方に振り返った。

 お互い裸ではあるが湯気で全て丸見えという訳ではない。


「俺だって男だ。興味無い訳じゃない」


 カッコつけて興味がないと言いたいところだが普通に考えて男なんだからそんな奴はいないだろう。

 この場合見え見えの嘘を付いたところで格好はつかない。


「じゃあ私を抱きしめて欲望をぶつけてみて」


 ヤヤは両手を大きく広げる。


「バカか」

「興味あるんじゃないの?」

「極端な奴だな……」

「じゃぁ、私は隊長から見てどうなの?」


 ここは「下品な女だ」と軽く流してやりたいが、ヤヤの表情から冗談を言える状況ではない。


「あくまで個人的な意見だが、悪い女ではない。どちらかと言えばいい女だ」


 普段ならこんな意見は出てこないだろう。

 しかしこの状況でなら話は別だ。

 どうしても女として認識してしまう。むしろしない男など存在するのだろうか。



「え…… ほんと?」

 

 ヤヤは予想以上の答えが返ってきたのか少し頬を染める。

 普段からは想像できないような表情にスコールの胸は高鳴った。

 

「あぁ」

「だったら何も問題ないじゃんか」

「今は国の大切な時期だ。そんな事をしている場合じゃないだろ」


 やる事だって山ほどある。遊んでいる時間はない。


「魔王様がだめだって言ったのか? 言ってねぇだろ。思い込みで選択肢減らすと視野が狭くなるぜ。それに大切な人がいる方が強くなれるって言うじゃねぇか」


 ヤヤの割にはまともな事を言っている。

 恋人どうこうは置いといて勝手に決めつけるのは確かに悪い癖みたいになっている気がする。

 スコールはヤヤの顔を眺めながら、


「お前も少しは良いこと言うな」

「そうだろ!? なら話を戻すけど私が側にいるのは嫌か?」


 スコールは深いため息をついた。

 どうも納得する答えが返ってこない限りヤヤは引きそうにない。


「賑やかだな」

「じゃあ、私と話したりするのはどうだ?」

「色々な意味で飽きはしないぞ」


 皮肉っているつもりだったがヤヤは嬉しそうな表情を見せる。 


「じゃあ私を嫁にしろ」

「ちょっと待て」


 一々段階がぶっ飛んでいるヤヤであった。

 ヤヤは頬を膨らませ変な唸り声を上げる。


「うー 何が不満なんだよ。私の事は嫌いなのか?」


 悲しそうな顔をするヤヤはいつもと違い少し綺麗に見えた。

 一生懸命なヤヤを見ているとスコールの言葉にも熱が入る。


「俺はだな、結婚するならしっかりと覚悟を決めてからじゃないと嫌なんだ。ヤヤが俺を愛すると言うのなら俺だってヤヤを一生愛する覚悟がないと傷つける事になるだろう?」

「本当かっこいいな隊長は。つうか、嫁は何人貰う予定なんだ?」


 ヤヤの衝撃的な言葉に一瞬固まる。

 エルドナでは重婚は認められていなかった。

 もしかしてハーフは一夫多妻制なのだろうか?


「何人って……複数貰うものなのか?」

「だって魔王様は嫁さん2人いるじゃん。だったらこの国はそうなんじゃないの?」


 確かに言われてみればそうだ。

 国の王が重婚しているならこの国は一夫多妻制を採用していると考えるのが普通だろう。

 しかし王だから特別とも考えられない事もない。

 そもそもこの国に結婚という概念はあるのだろうか?


「その辺は落ち着いたら一度ディーク様と話し合う必要があるな。だが――」


 スコールはヤヤの頭を優しく撫でる。


「どっちだろうが俺の愛する女は1人でいい。とりあえず今は考えておくって事でいいか? 必ずちゃんとした返事はするよ」

「しょうがねぇな。一応嫁候補って事なんだろ? 今日はこの辺で手を打っとくか」


 スコールはヤヤを撫でていた手を止めポンポンと叩き、


「ヤヤのそういう下品なところと真っ直ぐなところは嫌いじゃないぞ」


 スコールの言葉にヤヤの顔はみるみる真っ赤に染りだす。


「な、なんだよ急に!」

「ほう。今の表情は女らしいぞ」

「うるさい!」

「でもあれだ。こんな話はお前としか出来ないな」


 考えてみればこんな話は過去に一度もしたことがない。

 ルータスやアイにだってこんな話は出来ないだろう。


「ふふん! 私なら何時でも相談に乗ってやるよ」

「その時が来たらな」

「つか、隊長、暑いな」


 なんだかんだで結構な時間風呂に浸かっている。

 話していると気にならなかったが少しのぼせて来た。

 ヤヤのおかげで二日酔いも吹っ飛んだ。


「そうだな。俺はもう上がる」


 スコールは立ち上がると素早く風呂を出る。


「ちょっと待てよ。私も上がる――」


 後ろからヤヤの声が聞こえてくるが待つわけにはいかない。

 流石に2人で着替えるのはまずい為、スコールは手早く服を着て温泉を出た。

 入り口を出ると火照った体にあたる風が気持ちいい。

 空を見上げると美しい星空が広がり吸い込まれそうになった。


 しばらく空を見上げていると、中からヤヤが出てきた。

 バスローブの様な形の服を着ている。

 急いで出てきたのか髪はまだ濡れていてその姿が月明かりに照らされ美しく見えた。

 外にいるスコールを見つけるなりヤヤは嬉しそうな表情を見せながら、


「なんだよ隊長、待っていてくれたの? 何だかんだ言っても私の事好きなんだな」


 なんだかヤヤを見ていると元気をもらえる。今日はもう少しヤヤと話がしたい。


「まぁなんだ。もう一度飲みなおすか――」

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