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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
104/119

第104話  メイド隊

 今日の魔王城は何やら騒がしかった。

 朝早くから大広間には大勢の姿があった。その中心に立つ人物は勿論ディーク・ア・ノグアである。


 四角い台の上に立つディークの後ろにはミシェルとミクが挟むように並び、少し離れた所にスコールとアイの姿もあった。

 そして部屋を囲むようにモグローンとチャンネが並んでいる。


 要するに全員集合しているのだ。(ルータスとティア以外……)

 ディークの目の前、大広間の真ん中には20人の奴隷の姿があった。

 そう、ユーコリアスとの契約によって用意してもらった奴隷だ。


 勿論、奴隷など珍しくもない。探せばいくらでもいる。

 今いる奴隷は念のためスパイの侵入を防ぐ事もあって数ある中からディークが直々に選んだ20人なのだ。

 皆は勿論ハーフであるが、人種はエルフやオーガのハーフなど様々だ。


 共通しているのは若い女性だといることだけだ。

 それは勿論、ティアの抜けた穴を埋めるメイド候補だからだ。

 10人ずつの2列横隊で並んでいる彼女達をディークは右から左へゆっくりと見渡した。


 今しがた到着したばかりのメイド候補だ。

 その為、服装は様々で一般的な普通の服装であるが元が奴隷だけに腕に手枷の後が見える者も、ちらほら見受けられた。

 皆は例外無くおどおどしく落ち着きがない。

 自分達のこれからに不安を感じているのだろう。


 まぁ……魔王城に連れて来られれば怯えるのも無理はないか……


 まずはこの雰囲気を何とかしなくてはいけない。

 ここは第一印象が重要である。

 ディーク、咳払いを一つした。


「ようこそ。我が城へ! 君達を歓迎しよう」


 ディークの声だけが響く。

 全く反応がない。


 もしかしたら自分だけ一段高い所にいるのがだめなのかもしれない。

 そう考えたディークは、台から降りるとトレイの前に移動した。


 こう言うものは同じ目線で同じ距離で話した方が馴染みやすいと相場で決まっている。

 ディークは真ん中の前列に立つ1人のオーガのハーフに狙いをつけた。


「君はこれから何をするかは知っているかな?」


 ディークに話しかけられたオーガのハーフは、ビクりと体を震わせる。

 そして弱々しい声で答えた。


「わ、私はこれから犯されたり叩かれたりします。あまり酷いことはしないで下さい……」


 帰ってきた言葉にディークはズッコケそうになりながら、


「ちゃうわい!」


 思わず大きな声が出てしまった。

 ディークは軽い感じで返したつもりであったが彼女には違った。

 ディークの声に驚き、頭を抱え塞ぎ込む。


「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい!」


 体をブルブルと震わせながら謝罪の言葉を繰り替えした。

 ディークは彼女が今までどれだけ劣悪な環境にいたのかを悟る。

 ディークは、ひたすら謝る彼女の前に膝をつき肩に手を置くと、


「大きな声を出してすまない。何も心配するな」


 ディークの声から何かを感じたのかオーガのハーフは謝罪の言葉を止めた。

 ディークは立ち上がり台の上に戻ると全員に向かって叫ぶ。


「君達は奴隷だ。でも我が魔王城に来たからにはそれは過去のものだ。ここではそんな者は1人もいない。だからこれからは同胞として力を貸してくれ」


 まずはある程度心を開いてもらわないと話にならない。しかしそれが難しい。

 奴隷は、スパイの可能性がないと言ったメリットはあるがその辺のデメリットもあった。


 奴隷とは奴隷商が扱う商品である。

 それは全国共通の常識であり珍しい事ではない。

 力のない者の道は決まっている。それがこの世の中だ。


 その道とは主に二択である。


 一つは奴隷、誰かに買われ働く者だ。

 働く内容は飼い主によって大きく異なる。

 中には劣悪な環境もあるだろう。


 しかしそれでも奴隷を買うのは貴族しかいない為、餓死したりする事は少ないと言ったメリットもある。

 わざわざ金を払って買った奴隷を簡単に死なせてしまっては勿体ないからだ。


 そしてもう一つは、貧民街のようなスラムで生きることだ。

 こっちの場合、何者にも縛られない代わりに環境も例外なく危険である。


 どちらを選ぶのかは本人次第であるがどちらも決して良い者ではないだろう。

 奴隷市場では男の方が高い。男は労働力になるからだ。

 女性であっても容姿が良ければ高いが割合で言えば少数である。


 だからこそ女性の奴隷は労働環境が悪いことが多いのだ。

 それはディークが話しかけた女性を見ただけでよく分かった。

 そしてディークは更に続ける。


「これはカルバナ帝国も現女王であるユーコリアスの理想でもある。女王は今後そう言った隔たりのない国を理想とし力を入れていく方針だ」


 ここでカルバナ帝国の株を上げておかなければならない。

 基本的に奴隷は自国に恨みを持つ者が多い為だ。

 同盟国であるカルバナを恨まれて場合今後何かの障害になる可能性もある。

 だからこそ新しく女王となったユーコリアス姫は違うと言った宣伝もしておかなくてはならないだろう。


「君達はこれからメイドとして働いてもらう」


 ディークは壁際に立っているモグローンに目配せをした。

 するとモグローン達は手にシワ一つないピカピカのメイド服を掲げメイド候補の前にやってくる。

 モグローンがメイド服を手渡した事を確認すると、


「これからこれに着替えてもらおうかな」


 ディークの言葉にメイド候補達は一斉にその場で服を脱ぎ始めだ。

 まさかその場で着替えるとは思いもしないディークは手を振りそれを抑止する。


「ちょと待て! 着替えはあの部屋で行え!」


 そう言いながら部屋を指差すと、ミクが動きその扉を開ける。


「どうぞこちらへ」


 ミクの声に従いメイド候補達は部屋の中へ移動した。

 そして最後にミクもディークに一礼をして部屋に入っていく。


 ――思ったよりも大変だ。


 静か大広間に静かな時が流れる。

 そして、その時間は扉を開く音共に終わり、ミクが大広間へ出てきた。


「さぁ――」


 ミクが手を上げ合図をするとメイド候補達はメイド服を身につけ元の位置に戻った。

 ディークは顎に手を当てながら観察する。


 最初とは違いかなり華やかに見える。

 今までモグローンと鉄臭い武器を掲げる者達の雰囲気から一転した。


 中々良いではないか! やはり奴隷と言えども若い女性は花があるな……


 ディークは満足気に数回頷く。


「我が配下となったからには身だしなみには気をつけてもらおう」


 メイド候補達にまだイヤリングはない。

 念の為ある程度様子を見てからの方が良いと判断した為だ。


「そして君達の上司にあたる。メイド長は――」


 ディークの声と共に奥から静かに歩いてきたスカーレットの全貌が明らかになると、メイド候補達から変な声が上がった。

 小さく押し殺した声だが間違いなく悲鳴だろう。


「これからよろしくお願いします」


 スカーレットは礼儀正しい一礼をするもの周りは完全に引いている。


 分かる。分かるぞその気持ち――


 ディークが始めてスカーレットを見た時のことを思い出す。

 しかしまぁ、後は時間が解決するだろう。

 ちょっと危険なアビスにあり。塀に囲まれ建っている城の中で、人が少ないキマイラやモグローン達が暮らし、骸骨の上司に仕えるだけだ。


 ――――


 うん、言葉にしてみると中々凄まじい。


 しかし、ディークには秘策があった。


「諸君! 中々個性的な面子ではあるが皆仲間だ。それに今日は特別だ」


 ディークは指をパチンと鳴らす。

 すると大広間の地面に大きな魔方陣が浮かび上がりその魔法は発動され一瞬にして視界は暗転した。

 次に見た光景はディークにとっては何時もの魔王城のバーである。


 だが今日バーは少し違っていた。

 綺麗に並べられたテーブルには色とりどりの豪華な料理や酒が並べられ見ているだけでヨダレが垂れそうである。

 メイド候補達もいきなり場所が変わり驚きこそしたもののすぐに目の前の料理に心を奪われている。


「今日は君達の歓迎会を兼ねてスカーレットが用意してくれた」


 ディークの言葉に1人のメイド候補が口を開く。


「こんな凄い物頂いて良いのですか?」


 そうは言ってはいるがどう見ても先程に比べて表情が明るい。

 それもそうだ。奴隷と言う立場では食べられない物ばかりである。


 ふふふ……人は美味い料理と酒さえあれば分かり合えるのだ!

 その証拠にメイド達は皆豪華な料理に興味津々である。

 これぞ我が秘策!


 ディークは自画自賛しながら得意気に口を開く。


「当たり前だ。我が国は何よりもまず酒を楽しむ事を目的としているのだ」


 得意気に話すディークの後ろからミクが驚く。


「えぇ!? いつの間に目的が変わったのですか? 世界征――」


 まだ何か言ってはいるが、この際ミクの突っ込みは無視する事にした。

 ディークは目の前の椅子に座るとビールの入ったジョッキを手に取る。

 間一髪入れずにミクとミシェルがディークの両隣へ座るとミシェルはディークの腕に抱きついてきた。


「皆も好きな場所に座れ。ここには人種も違えば種族も違うが皆仲間だ。今日から楽しく行こうじゃないか!」


 ディークの声に合わせてミクとミシェルがジョッキを軽く当ててきた。

 モグローン達はすでにおっ始めている。

 グラスが当たる小さな音と共に、魔王城の宴会は幕を開ける――

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