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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
103/119

第103話  酒場3

 アイ達と楽しい時間は一瞬で過ぎ去り魔王城に闇が押し寄せた。

 他の国に比べて城内は強力な魔力結晶のおかげで明るいが静かなものである。

 そんな中、スコールは自室にいた。

 部屋と言ってもタンスとベッドがあるだけの部屋だ。


 寝る為の部屋と言った方がいいかもしれない。

 元々ごちゃごちゃした部屋は好きではないため不必要なものは置かない主義なのだ。

 だからスコールも今は何時もの服とは違いシャツにズボンのラフな格好である。


「ちょっと飲みすぎた――」


 頭が少し痛い。

 手を握りしめ頭を数回叩きながら部屋の中を少し歩く。


 しかし思ったより今回の同盟は大きく動いたな……

 この先に、大きな変化が多そうだ。


 スコールは大きく背伸びをする。

 久しぶりに大きく羽を伸ばして今日は違う意味で疲れていた。

 体中が休息を要求しているのが分かる。


「さぁ、寝るか――」


 スコールはベッドに横になると疲れた体が布団の温もりに溶けていく。(疲れたと言っても今日は飲みすぎただけ)


 スコールはすぐに深い眠りの世界に落ちる―― はずだった。


 急に部屋のドアが開かれ、スコールは誰かと思い体を起こした。

 そこには何故か体操服のような半袖のシャツに短パン姿のアイがモグローンらしきぬいぐるみを抱えて立っている。


「ノックくらいしろよ。どうしたんだ? なんか用か?」


 アイは答えない。一体どうしたと言うのだろう。

 それどころかアイはスタスタ歩いて来ると、驚くほど自然にスコールの布団に潜り込む。


 は?


 スコールが呆気にとられていると、


「明日も早いからねー。おやすみ」


 そう言ってアイはスコールの隣で横になった。


「おい! ちょっと待てよ!」


 アイはクルリと背中を向け何も話さない。


「全く……何なんだよ!」


 何か不明だが話をする気がないアイにこれ以上構っていても仕方がない。

 今は体が睡眠を欲している。


「じゃあ俺は床で寝るから」


 本当は柔らかく暖かいベッドで眠りたいが占領されていてはどうすることもできない。

 スコールは完全に体を起こしベッドから出ようとすると、強い力で服を掴まれた。

 振り返ると服を掴んだアイは不気味な笑顔で、


「まぁ、まぁ、まぁ」


 声に合わせて首を横に振った。


「お前……もしかして……」


 ここでスコールは一つの疑惑をアイに向ける。


「まさか怖いのか?」


 バーで死者だか亡霊だかの話をしていた時の姿から想像はついていたが……

 まさかここまでとは……


「そっ! そんな訳ないじゃん! アイはもう大人だよ! そんな訳ないじゃん! アイは子供じゃないの!」


 図星を突かれたのか非常にうるさい。


「だったら1人で寝ろ」

「い、一応念のために」


 一体何のためなんだろう。


「あのな……幽霊とかは人が想像した架空の存在なんだよ。だからそんなのはいない」

「そんなのは分かってるよ! でも、もしもって事があるでしょ」


 服を掴む力が強くなった。


「もしもはない。安心しろ」


 そもそも幽霊がダメでゲノムやアンデッドが大丈夫な基準が分からん。

 怖いだけならキマイラのほうがよっぽど怖い。


「いいでしょ! 男の子は女の子を守るものでしょ! 大体、今まで旅先で同じ部屋で寝たり野宿だってしてたじゃん! 今更気にすることないでしょ!」


 今度は怒り出した。

 普段からうるさいアイが大声を出すと酒が残った頭に響く――


「あー 辞めてくれ。頭に響く」


 全くコロコロと忙しい奴だ。

 大体アイは、何から守れと言うのだろうか?


 それに、一緒の部屋では寝たが一緒の布団で寝たことはない。

 もしかして、ルータスと同じ部屋にいるのも半分は怖いからじゃないのだろうか。


「コー君のバカ!」


 アイは鋭い視線を飛ばしてくる。

 モグローンのぬいぐるみを抱えたまま凄まれても駄々っ子にしか見えない。


「分かった分かった。もう喚くな。俺は疲れてるんだ」


 スコールは諦め布団に入る。

 ここでアイと言い争っても勝てる気はしない。

 今は何よりも眠い。


「おやすみ」


 アイはそう言いながらスコールの真横に引っ付く。

 そんなに引っ付かなくてもいい気もするが言葉に出すのも面倒だ。

 

 人肌の温もりがスコールの腕に伝わる。

 昔に母親と一緒に寝た時の温もりとは少し違う気がする。

 スコールはチラリとアイを見ると、胸元にぬいぐるみを抱え布団から顔だけ出していた。


「そのぬいぐるみは何なんだ?」

「ミクさんに作ってもらったの」


 もっと可愛い生き物は無かったのだろうか?

 何でモグローンなのか謎だが、それはあえて突っ込まないでおこう。


 そんな事を考えているとスコールの意識は夢の世界へ溶けていった。





 漆黒の衣に包まれた魔女が現れ杖を振るう。

 一瞬で魔法は詠唱されスコールに向かって炎の玉が飛んできた。

 轟々と燃え盛る凄まじい炎だ。

 スコールはその玉を下から上に斬り上げ二つに裂くと鋭い視線を飛ばす。


「お前は何者だ!」


 魔女は不気味な笑みを浮かべるとスコールの周りから薄気味悪い真っ黒な手足が無数に現れた。

 見たことのない魔法である。

 魔女は指をパチンと鳴らすと地面から生えた手足はスコールに襲いかかる。

 スコールは剣で切り刻みその手足を払いのけるも数が多い。


 ダメだ――持ちこたえられない!


 スコールは一転して回避に回る。

 後ろに大きく飛び退き距離をとった。

 しかし手足は予想を超えた凄い速度でスコールを追尾してきた。


 まずい!


 一瞬の隙を突かれスコールの首に黒い手が巻きついてきた。

 強い力で首を締め付け動く事が出来ない。


「ぐぐぐ……がはっ!」


 黒い手を必死で引き離そうとするがガッチリ掴んだ手を離す事が出来ない。

 もがけばもがくほど首は締め上げられ息ができない。

 捕らえられたスコールに今度は黒い足が襲いかかり今度は蹴りの連打を叩き込む。


 こんなに凄い魔法使うわりに攻撃が原始的だが……

 凄い威力だ――何とかしないとまずい!


 魔女は完全に殺しに来ている。

 しかも魔術を使って―― と、言うことは――


「まさか……お前は……」


 こいつが碧眼の魔女か!

 間違いない。こんなやばい奴はそれ以外にない。

 しかしスコールの言葉に魔女は可愛らしい声で、


「お肉大好き~」


 まるで意味が分からない。一体何を言っているんだ?

 魔女は手かざすと今度は謎のスライムを召喚した。

 禍々しい青のスライムは見るからにやばそうな色をしている。


 まさか毒!?


 だとすればヤバい。動けない状況であれをけしかけられたら――


 スコールの思考より先に魔女はスライムを放つ。

 するとスライムはスコールの右耳にまとわりついた。

 ドロドロして不快感全開のスライムだ。


「――――痛!」


 まさかのスライムはスコールの右耳に噛み付いた。


 そもそもスライムに歯があるのか?

 いや、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 このままでは耳を食いちぎられてしまう。


 しかしもがけばもがくほど首を絞める黒い手と蹴りを叩き込む足の攻撃も激しさを増す。

 耳に走る激痛に耐えながら必死に抵抗する。


 ヤバい! もうダメだ!


 俺はここまでなのか――


 ――――


 ――


 目を開けると見慣れた魔王城の自室の天井画が見える。

 どうやら夢を見ていたようだ。

 夢と現実が混ざり合い状況が分からない。


 しかしすぐに強制的に現実を知ることとなる。

 首を絞める手と耳の激痛がスコールを襲ったからだ。

 それと聞き覚えのある声で――


「美味しいお肉~」


 その原因はアイだった。

 スコールの右横に寝ていたアイがスコールの首に絡みつき耳に噛みついていた。


 ――――!?


 スコールはすぐにアイを振り払い耳を押さえる。


「うわぁ! お前何してんだ! 痛ってーな!」


 耳はアイの唾でベトベトになっている。

 スコールはシャツでベトベトの耳を拭いていると、アイが目を擦りながら起き上がった。


「うみゃうみゃ……おはよう」


 スコールはベッドから抜け出し鏡を除くと、耳に歯型がついている。


「おはようじゃねえよ! 一体何なんだよ!」


 アイのシャツは右側が右肩からずり落ちて危ない雰囲気をかもちだしていた。

 そしてベッドに座り込み虚ろ眼で首を左右に振って辺りを確認する。

 

「アレ……美味しいご飯が消えた……」


 コイツ……食い物と間違えて耳に噛みついたのかよ……


 これなら、ちびっ子アイの方が100倍扱いやすい。

 大きくなると更に面倒くささも大きくなっている。危うく食いちぎられるところだった。


 スコールは深いため息を吐く。

 タンスからタオルを一つ取り出しアイの頭に乗せると強引に頭をくしゃくしゃにした。


「とりあえずしっかり目を覚ましてこい」

「う――」


 アイはベッドから這い出ると何か不明な声を上げながら顔を洗いに行く。

 そしてスコールのベッドの上にはモグローンのぬいぐるみだけが転がっている。

 スコールはそのぬいぐるみを眺めながら一言。


「かんべんしてくれ……」


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