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ブラッド・ZERO  作者:
第3章 カルバナ帝国編
100/119

第100話  同盟

何となく始めた小説もいつの間にか100話になりました!

これからもよろしくお願いします!

 スコール達がバーに付いた頃、カルバナ城のとある部屋では大切な話し合いが行われていた。

 先のユータスの時とは全く違う真剣な表情でユーコリアスが口を開いた。


「今日来てもらったのは他でもない。今後の我々についての事だ」


 大きな部屋には4人の姿があった。いや、4人の姿しか無かったと言い換えたほうがいいだろう。

 テーブルについた女王ユーコリアスとその正面にディーク、そしてケビンとミシェルは各々の主人の後ろに立っている。

 何時も部屋の壁に等間隔に並んでいるメイド隊や警備兵の数々が今日は1人もいないのだ。

 ディークは部屋を見渡しながら、


「4人だけだと部屋の広さが目立つな」

「仕方なかろう。外部に漏れては困るからな」


 今日、集まっているのは魔王軍とカルバナ帝国の具体的な今後を決めるためだ。

 同盟の最大の利点は互いの足りない部分を補えることにある。

 しかし、そうなるとお互いに足りない部分、つまり弱点を教えることになる。

 だからこそ今日は情報が漏れない為に最小の人数での話し合いとなったのだ。


「では本題に入ろう」


ディークの言葉にユーコリアスも頷く。

そしてディークはさらに続け、


「まず同盟の目的として両国が国力を高める狙いがある。まずこちらが出せる案として、我が魔王軍はそちらの兵に魔法の教育を施そうじゃないか」


 カルバナ帝国と組む以上、戦力の均一化はある程度図らなければならないだろう。

 何よりもユーコリアスから国を奪おうと目論む革命軍に勝ってもらわなければ話にならない。

 そうなればチャンネに任せて側近を鍛え上げるのが一番早い。


 しかしディークとて、全てをみっちり教えるつもりは全くない。

 あくまで簡単な基礎だけだ。

 本当に大事な技術と言うものは独占しているからこそ輝くものなのだ。

 ディークの提案にユーコリアスは歓喜の声を上げる。


「それは有難い! 貴殿の魔法はテオバルト・アルフォードすらも大きく凌駕すると聞いておる。ならばこちらで側近の兵を判別しよう。ケビン!」

「承知しました姫様。すぐに選抜を始めましょう」


 選抜か……


 カルバナ帝国は革命軍と言った癌を抱えている。

 敵が暗躍している以上、ユーコリアスが本当に信用出来る者でなければ敵に技術を流すことになる。

 これは魔王軍やカルバナ帝国にとって絶対にあってはならないことだ。


「ところでその教育とやらは具体的にはどこでどうやるのだ?」

「我魔王城で行う」


 ユーコリアスは魔王城と言った単語に興味を示す。


「そういえば貴殿の魔王城とはどんな所なのだ? アビスにあると聞いてはいたが……」

「それについては見た方が早いだろう。近いうち我が魔王城に女王を招待しようと思っていた」

「それは楽しみだわ」

「だが、誰でも歓迎出来るわけではない。そちらの問題が解決しない限り人員の選別には慎重に願う」


 ディークの言う問題とは革命軍の事である。

 魔王城に敵を招き入れ情報を他国にでも流されたらたまったものではない。

 訪問客は確実にユーコリアス派と言うのが絶対条件だ。

 ユーコリアスもそれは重々承知の様子で、


「勿論、分かっている。そちらに迷惑はかけない。我の腹心の部下のみで行く。で……そちらの欲望は?」


 ディークは一気に緊張する。魔王城にほとんど“人”がいないことを話せばカルバナ帝国がどう出るか想像つかないからだ。

 下手をすればせっかくの同盟が破棄されることも十分有り得るだろう。

 ユーコリアスの表情を観察しながら意を決し。


「我が軍はハッキリ言うと人手不足だ」

「人手不足?」


 ユーコリアスは驚きの表情を見せる。

 当たり前だろう。聖剣保有国となった魔王軍が人手不足など想像出来るわけはないからだ。


「我が軍は魔王軍だ。人外はそれなりにいるが人は多くはない。しかし軍事力はエルドナ出の戦争で分かってもらえていると思う」


 ディークは慎重に言葉を選ぶ。

 今までユーコリアスに嘘など言ってはいないが、相手の想像と現実の魔王軍が違うことは分かっていた。

 むしろそうなるように話を進めてきたのだ。

 最初から現状を打ち明けて同盟を組んでくれる国などあるはずはない事も又、分かっていた為である。

 それだけに後ろめたさはあったのだ。


「それは分かっている。貴殿の神殿での戦いも正に魔王と名乗るに相応しいものだった」


 思い出したのかユーコリアスは拳を強く握り声が弾む。


「我々はアビスを拠点としてからまだ浅い。だから人員や物資の協力を頼みたい」

「具体的にはどの程度?」

「そうだな。こちらのメイドが今取り込み中で、20人ほど用意してもらいたい」

「それは結構だが、選別に何か要望はあるの? 何もなければこちらで最高のメイドを用意するわ」


 ディークは軽く手を挙げ、それを拒否する。


「奴隷がいい。経験ゼロでも構わない。それはこちらで教育する」


 カルバナ城の者であれば敵と繋がっていない保証がない限り危険である。

 恐らく革命軍というのは政治的に帝国を乗っ取りたい者達だ。

 反乱を起こして国を手に入れるなら市民を味方につけなければ不可能である。


 しかし革命軍の主だった行動は女王の命だ。

 これは、内戦と言った手段を取らなくても女王さえ亡き者にすれば後の覇権を取る手段があるからに他ならない。

 だからこそ、革命軍がはびこっているのは城の上層部の可能性が高いと言える。

 ならば一掃、全く関係のないその辺の奴隷であれば敵の可能性は皆無。

 しかし、ユーコリアスはそんなディークの考えとは裏腹に何か表情は硬い。


「魔王城は“人”は少ないのでな。育ちの悪い方が馴染みやすい」


 ディークは顔にこそ出さないが内心は焦っていた。

 ユーコリアスは同盟を組んだのにも関わらずに信用されていないと不満いだいているのだ。

 一連の流れからすればそう思われても仕方がない。


 しまった……これはまずい……


 内心そう思いながらもユーコリアスの反応を伺う。


「人が少ないか……我には想像ができんな」

「それにもう一つ、特殊専攻部隊を魔王軍管理下にしてもらえないか?」


「――――」


 ユーコリアスは黙ったまま俯く。

 表情からはあまりいい返事は期待できそうにない。

 しかし、ディークは秘策があった。


「これだけのことだ。それ相応の対価も用意している。まず、我が国で取れる鉱石と教育を行った兵士全員分の魔法武器を用意する」

「魔王城で取れた鉱石?」


 ユーコリアスは首をかしげる。

 しかし、ディークは自身満々に答える。


「我が国はアビスにあるのだぞ? アビスの鉱石と言えばアビスダイトしかあるまい」

「しかし、それほどの魔法武器を用意出来るのか? それなりの魔法武器であれば武器産業が盛んな我が国にも沢山あるわ」


 ユーコリアス疑問は当然であると言える。

 世界に名だたるカルバナ帝国全体の武器保有量は他国と比べても頭一つ抜けている。

 そんなカルバナ帝国の兵士が満足に値する魔法武器を揃えることは至難と言えるだろう。

 しかし予想された答えすぎたためにディークは思わず笑みがこぼれた。


「俺だって伊達に魔王は名乗っていない。ミシェル、あれを」


 ディークの声に後ろに立っていたミシェルは小さく頭を下げると、目の前の空間に手をかざし時空の書を取り出した。

 慣れた手つきで書を開くとミシェルは書の中から何かを取り出す。

 書からゆっくり引き抜かれる手は手首のところでピタリと止まる。

 するとミシェルは静かに口を開いた。


「これこそ魔王ディーク様がお作りになられた我が国にしかない魔力結晶よ」

「――――!」


 ミシェルの手が時空の書から引き抜かれる。

 魔力結晶は凄まじいオーラを放ち周りの空間を歪めるほどの禍々しさを放っている。

 これはレヴァノンや高魔結晶の杖に使われた魔力結晶と同じものだ。いわゆる魔王米である。


 次の瞬間、2つの驚きに満ちた声が上がった。

 1人は目の前の女王ユーコリアスの声である。

 そしてもう1人は聖剣使いのケビンの声であった。


 ケビンは命令されてもいないのに声を出したのが不味いと思ったのか、直ぐに手で口を開けて塞いだ。

 声は一瞬だけの微かなものだったが、確実に2人の度肝を抜いたのが分かる。

 ディークのとっておきが十分な効果を発揮したことを確信した。


 ディークはミシェルから魔力結晶を受け取るとユーコリアスの前に持って見せた。

 ユーコリアスとケビンの視線は魔力結晶に釘付けだ。

 ディークは魔力を持った腕を小さく左右に揺らすとユーコリアス達の視線も同じように動く。そしてゆっくりと机の上に置いた。

 ディークはユーコリアスに手の平を向けながら、


「手にとって見たければどうぞ」


 ユーコリアスはその言葉をまっていたかの様な反応を示し恐る恐る魔力結晶を手にとった。

 食い入る様に見つめあらゆる角度から魔力結晶を観察している。

 ディークその姿を見ながら内心では思い通りの反応に笑っていた。

 わざわざ自国の最高レベルの魔力結晶を見せたのも絶対的な自信によるもの。

 そして、それ程の物を他国に見せると言う行為こそが、絶対的信頼の証明だからだ。


「素晴らしいわ……」


 ユーコリアスがため息を吐く様に口を開いた。

 その言葉はディークに向けて発したものではなかった。

 思わず見惚れて漏れた言葉である。


 ユーコリアスは後ろに立っているケビユに目配せすると、ケビンはユーコリアスの横に立った。

 そして、無言のままディークに視線を投げかける。

 その視線はケビンに見せてもいいのか? を問うものだと直ぐに分かったディークは笑いながら了承の意味を込めて軽く手を挙げる。


 当たり前だがユーコリアスは女王である。

 多少の知識はあってもこういった物は戦闘のプロに見てもらうのがより専門的な意見が聞けると言うものだ。

 ユーコリアスは魔力結晶をケビンに渡すと興奮じみた声を放った。


「ケビン、この魔力結晶をどう見る? 率直な感想を述べよ」


 ケビンは先のユーコリアス同様にあらゆる角度から観察した後に口を開く。


「一言で言うのであれば正に奇跡、それ以外の言葉が見つかりません」

「それほどなの!?」

「はい、神が創造したと言われれば誰もが信じるでしょう。この世界にこれ以上の物は無いと断言出来ます!」

「我が国の最高レベルのあの魔力結晶と比べればどれ程違う?」


 その質問にケビンは失笑する。

 女王の質問を鼻で笑うなど、普段ではありえない行為である。

 本来であれば厳しい処分も十分ありうる無礼だ。

 しかし、ケビンは笑わずにはいられなかった。

 そしてユーコリアスすらもその笑いに疑問を抱かなかったのだ。


「この魔力結晶に比べればもはや只の石です」

「あれは我が国の賢者10人が作った最高傑作だぞ!」

「仮にこの魔力結晶からエネルギーを取り出せばあらゆる分野で大きな期待が持てるでしょう」


 ケビンはそう言うと魔力結晶ユーコリアスに渡す。


「ディーク様は、この魔力結晶をいくらでも作れるのですか?」

「まぁ、そう言うことだ」


 実際この魔力結晶は米を作る段階で偶々出来たものであるが、馬鹿正直に言う必要はない。

 実際、真剣に魔力結晶を作った事はないが少なくともカルバナ帝国の賢者供よりもマシなものは作れる自信はあった。

 ユーコリアスは名残惜しそうに魔力結晶をディークの前に置く。

 ディークは、それを手にとって手で軽くポンポン投げながら、


「これで、俺達がそちらの満足出来るレベルの技術を持っている証明が出来た訳だが? そちらの答えは?」


 お役御免と言わんばかりに魔力結晶をミシェルに渡すと魔力結晶は時空の書の中へと消えて行く。

 ディークは取引が成立する事を確信した。

 魔導においてかなりの差がある以上、これを応じない手はない。

 しかしユーコリアスは難しい顔をしながら考え込む。


「個人としてはその条件はありがたい。だが、特殊専攻部隊は我の管理下には無いのだ。出来ないこともないのだが……色々な手続き上、直ぐの話にはならないわ」


 ハーフで構成された特殊専攻部隊、これらを管理下に収めれば戦闘面での人出不足の解消も解決すると考えていた。

 ある種の洗脳に近い教育を施されているのも実に良かった。

 一度洗脳されているなら魔王軍の都合の良い様に洗脳するのも容易いだろう。

 都合のいい部隊を手に入れれば活動の幅も大きく広がり良い事尽くめだ。

 しかし、現実はそう上手くはいかないようである。


 ユーコリアスはやんわりとした表現で話してはいるが、早い話が無理であると言う事だ。

 ディークはまさか断られるとは思いもよらずに落胆の表情を隠せない。


「うーむ……そうなのか……」


 しかし、ユーコリアスはディークの表情から事の重要性を悟る。

 ディークはカルバナ帝国に求めた要求は種類が違えど全て人の手配である。

 だからこそユーコリアスは気づいたのだ。

 魔王城の人手不足は大袈裟に言っているものではなく深刻な問題であると……


「では、カルバナ帝都内の一部の領土を任せると言う事ではどう?」


 直ぐ様、ユーコリアスは代案を出し様子うかがう。


「領土の一部か……ん?」


 この瞬間、ディークは閃いた。

 それを皮切りに次から次へと想像が膨らんで行く。


「それなら、カルバナ帝国領土にある村を一つくれないか? どんな村でもいい。何なら貧民街でも――」


 そう……か帝都内の領土など興味はない。

 いつ何処で見られているかも分かったもんじゃないし純血が多い帝都内ではまとめるのも大変だ。


 しかし村ならいい。特に貧民街。

 貧困者というものはその殆どが群れて生活し人数だけは多い。


 どんなボロボロな村でも要塞化させて自分で発展させてしまえばいいだけの事。

 落ちる所まで落ちた者はあとは上がるしか無い。

 そうすれば、魔王軍に対する村の信頼は絶大なものとなりその村人を教育し軍を作れば最高の部隊が作れるだろう。

 その中で優秀な者をコロシアムに参加させ、宣伝させれば更に効率的だ。


 そして村人や隊の募集をすれば人などいくらでも集められる。

 魔王城の人員の選別は慎重を要するが、他の村ならその辺はある程度適当でもいい。

 軍は村に、本拠地はアビスと使い分ければ全てにおいての問題は解決したも同然と言えるだろう。


「しかし、アビスダイトや魔法武器の対価となるほどのものとなれば……どれほどのものか……」

「そんなに考えなくていい。村であればどんなところでもね。貧民街の様な場所が好ましい」


 村人に恩を売るなら困っている場所ほどいいだろう。

 それに変に良い村だと多種族やハーフによる偏見や差別がまとめるには邪魔である。

 落ちに落ちた村であれば変な偏見もない。


「そんなのであればいくつかあるとは思うが……」

「では! 契約成立だ! 早速その対象となる村の選別をしようではないか」


 ディークは立ち上がるとユーコリアスの手を取り握手を交わした。

 ディークは今後の期待に胸が高鳴る。


 これから忙しくなりそうだ!

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