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循環の大樹と魔宝石の娘

作者: motto

 種族を越えた親子愛をテーマに書いてみました。ご一読いただけるとありがたいです。

濃い霧が立ち込める鬱蒼とした森の中を歩む一人の男がいる。

 

木々の根が蔓延り、苔むした岩が剥き出る道なき道を時折バランスを崩し、倒れそうになりながらもただ黙々と男は森の奥を目指して歩み続けている。


男をよく見ると、とても山に入るべくもない軽装で服は土に汚れ、腕や顔は擦れて血が滲んでいる。また足を取られ転び、呻きながらも、しっかりと男が抱え持つものを守りながら男は歩き続けていた。


「なぜだ・・・」


男が誰ともなく呟く。


男の名前はゴルド・イエロ・アムジという。

生まれながらにして莫大な魔力の証たる黄金の魔宝石をその身に持ち、幼いときより魔法に長けた上に研鑽に励んだ彼は数々の功績を挙げ平民の出ながら王から伯爵の位を与えられるほどの信を得ていた。

 

「俺が・・・俺達が誤っていたというのかっ!」


深き森の奥底へ続く闇に向かってゴルドは吠えた。


シャリン・・・


手元からペンダントが滑り落ちて鳴る。


「エリン・・・」


ゴルドにはエリンという妻がいる。

エリンと出会うまでゴルドは野心と傲慢さに憑りつかれ、社会を斜に見ていた。彼女の心の強さはゴルドに慈しみと思慕を教えてくれた。

やがて恋は愛になり、結婚を約束したが大きな問題があった。エリンは自分と同じく莫大な魔力を持つ白銀の魔宝石をその身に持っていたのだ。


「わかっていた・・・わかっていたんだ・・・俺は」


二人の結婚には誰もが反対した。それは王すらも例外ではなかった。


大きな魔力を持つもの同士が結婚しても子を成せないからと。


それが世界の常識、それが自然の流れ。


魔力持つ者は普通の者と婚姻すれば次世代・次々世代に魔宝石もちの子を成すといわれ、特に秀でた魔力を持つ者達には生まれながらにして次世代への期待がついて回っていたのだ。


だが俺は、いや俺達は諦めなかった。

それほどに俺達は愛し合っていたのだから。


伯爵の位を返上すると言い出した私についに王も折れ、二人は結ばれた。


幸せだった。


だが、実際に子を授かったときはつかの間の喜びと、言いえぬ不安が私達をおそったのだった。

強すぎる力が合わさったとき、力は変性し歪みを生む。

無事に生まれてくるのか?なにも身体に異常は出ないか?出たときの対処は?

二人で何度も話し合いどんな子が生まれてきても受け入れる覚悟はできた。

予想以上に母体に影響を及ぼした妊娠期間はあらゆる手段を駆使し、協力者を得て臨月を向かえることができた。


ここにきて私も妻もわずかな希望を感じていた。

きっと、元気な赤ちゃんが生まれてきてくれると・・・

だが、現実はあまりに厳しいものだった。


「すまない・・・エリン」


妻の名を呟きふらふらと再び歩み出た男の先に森の中心に聳え立つ巨木が聳え立っていた。


「ついた・・・これがそうなのか?」


ゴルドは巨木に寄ると大切に抱えていた包みを解いた。


中からは丁度赤子の体ほどある白く鈍色に輝く石が出てくる。


巨大な魔宝石


それが二人の間に生まれてきた子供のなれの果てだった。


ゴルドは大切そうに抱えなおすと大樹に語りかける。


「古より世界を巡る循環の大樹よ・・・お願い奉る・・・愚かな親によって歪められたわが子を摂理の循環に戻して欲しい」


おそらくは二人の魔力が子を介して凝縮した結果、子は体を成せず魔宝石だけが過剰に成長したのであろう。

こうなる可能性はわかってはいたのだ。

強力な魔宝石を持つ者同士では子は成さないことは運命、自然の理だった。

そして打ちのめされた私達をさらに追い討ちをかける出来事があった。

協力者だった者たちが二人の子が死産だったら引き渡すようにと王の書簡付で出産の翌日にのうのうとやってきたのだ。

書簡をもった手が怒りで震えた。

魔宝石は魔法の根源、その大きさによりすさまじいエネルギーを生み出し、禁忌の魔道具・魔装兵器の部品として扱われるかもしれない。

奴らは協力しようと甘く囁き、その実、巨大な魔宝石を手に入れる実験を行なっていたのだ。

それは私達の子への想いを踏みにじった行為だった。

 

たとえどんな形でも私達の間に授かった子の、その安息を破る事は絶対にできなかった。


白くほのかに光る魔宝石に雫が落ちる。


「一緒にいられなくてすまない・・・」


大樹の根元を素手で掘り返して魔宝石をそっと入れる。


「これはエリン・・・お母さんとお前の為に作ったペンダントだ」


エリンの故郷の風習で、生まれてくる子の幸せと健康を祈ってペンダントを作ったのだ。それを一緒に入れると土をかけていく。


「・・・・・・・・・循環の大樹は魂の循環をも司るという。きっとお前を正しい循環に導いてくれるだろう」


ゴルドは頬を伝う涙を気にすることもなく、そっと最後の土を小さな墓にかけた。

そして名残惜しそうに見つめるゴルドを置いて、循環の大樹はその身に小さな魔法石を抱えて消え去るのであった。



 数年の後・・・



膝下の草を掻き分け駆け回り、足をとられ幼女が転ぶ。

広い平原は地平線の彼方に続き、青い空は何処までも澄み渡っていた。


『空がすご~くでっかい!』

『このビロ高原の周りに大きな山脈はありませんからね。高度が高くて木は生えないけれどね・・・』


寝たままそう語りかける幼女になにかが答えた。

声は少女から少し離れた場所に生えた巨木からした。

樹高は70mを越え、その枝葉の横幅は200mはあり、それを支える幹回りは30mを越える。その樹皮には苔が張り付き、幾百年・・・いや幾万年の時を経た荘厳さと風格がその樹にはあった。


『独特な進化をとげてきた植物とそれを糧にする多くの動物や魔物、少数ながら人が暮らしているんですよ』

『へ~、あっ、いいこと考えた♪』


なにを考えてのことかそのままゴロゴロ草だらけになりながら転がる幼女


『なにをしているのですか?』

『転ばないで移動する方法見つけた~』

『・・・目を回しますよ』

『世界がぐるぐるする~』


白銀の細やかな髪と白いワンピースに草葉がつき、金色の瞳を回す幼女に呼ばれた存在は呆れたように嘆息する。


『アハッ』


幼女は急に起き上がると嬉しそうに声を出して笑った。

幼女の周りに風がおき、その背中の中空に白く鈍く輝く白銀の結晶がまるで羽のように広がる。

周囲に風の精霊が集まりだし幼女は彼らを伴って空高く舞い上がった。


『あなたが生まれて、もう少しで4年・・・・姿かたちは人に似て、その本質は精霊に似ている。精霊の言葉を用い、魔法でも精霊術でもない超常の力を自在に扱う。どちらであって、どちらでもない・・・異なる者、理をはずれし者・・・・この世界の一員として認められるか・・それとも排斥されるのか・・・・』


見守る巨木は自分の周囲を精霊たちと遊び舞う幼い少女の未来を案じる。


『さて、そろそろ次の場所へ向いますよ』

『はーい』


幼女はそう答えると巨木の根で覆われた大きく黒い石の元に降り立ち、勢いそのままにその石へ飛び込む。石はなんの抵抗もなく幼女を受け入れ、まるで水のように波紋を広げると白く鈍く輝きだした。


『ねえ、ねえ!今度はどこいくの~?』

『今度は空に昇リます。東の大洋の上に広がる雲海領域です』

『ウンカイ?』

『ええ、ここよりもずっと広いところですよ。その次は北の極限にある氷晶山、その次は西の大洋の光の深海に行きましょう』

『楽しいところがいいなぁ』

『大丈夫ですよ、きっとどこも精霊たちが歓迎してくれます』

『ヒトはいないの?』

『人は住む事ができない領域ですからね。・・・人に興味がありますか?』

『別にないよ、ただよくヒトがいるとかいないとか気にしているから』

『人は世界における要のような存在ですから・・・・そうですねそろそろあなたにも人というものを見せなければいけませんかね、どこかヒトの生活圏に近いところを巡ろうかしら』

『ヒトかぁ、会えるのが楽しみ』


白く鈍色に輝く宝玉石は心音にも似た規則的な輝きを放っている。その石を巨木の根が優しく絡み付いていく。


『ふぁ~眠くなっちゃった。寝ていい~?』

『ええ、おやすみなさい』

『おやすみ~』


寝てしまった小さな存在に声をかけると巨木は次の地へ向う準備を始める。


『「人を気にしている」・・・か、そうかもしれませんね。人間が私に託したあの小石だった貴方は私の力を得て孵った。そうして生まれた貴方の成長を見守って、私は今、幸せを感じている・・・・・ですが貴方は人の愛で出でたもの・・・人の世界へいつかは送り出さなければならないのでしょうか・・・でも今は、今だけは・・・』


白く鈍く輝く小さな存在を包み込むと空間和歪曲する力を行使する。

次の瞬間には平原に佇む巨大な樹はまるで霞がかかるように姿を消していき、そこには周囲と変わらぬ野原の大地があるだけとなる。

 

世界のいたる所を廻り、ふと現れては霞のように消える古の木の精霊「循環の大樹」の名の由縁である。




コーン コーン コーン・・・


切り立った山々に音は響く。


山の中腹のわずかに傾斜がゆるくなった斜面で老人が斧を振るう。

白髪の髪に髭、眉は太く険しく細められた瞳はただ一心に削られていく木の幹を見つめていた。老年といはいえ筋肉質な体格で斧を扱う身体捌きも無駄がない。


コーン コーン コーーン


不意によせた風が男の手を止めた。


「フム・・・なにか来よるか」


男は周囲を警戒する。この周辺は本来、人を寄せ付けない厳しい自然とそこに適応した魔物が跋扈する場所だ。老人はある能力を活用して大きな魔物からは上手く逃れ、時には小物を討つ事で生きながらえてきた。 いつものように近くの藪に隠れてそっと耳を澄ませる。

集中すると声が聞こえてきた。


『クルヨ、クルヨ』

『アノ子ガクルヨ』

『良クモナク、悪クモナク、人デモナク、動物デモナク、魔物デモナク、精霊デモナク』

『アノ子ガクルヨ』


風と大地の精霊がそわそわと落ち着かず語る声、老人はこの世界でも数少ない精霊語を話し理解する事が出来る人間であった。

精霊達は話しながら山の山頂方向へ進んでいく。


「・・・・・」


老人は山頂方向を見上げ、斧を背負い脇差の短剣を確認するとその後を静かに追った。


「これは・・・「循環の大樹」か」


山頂を目指した男がわずかに目を見開き、声がこぼれる。山頂付近におよそふさわしくない巨大な樹が見えた、突然現れる類をみない巨木といえば彼の木以外にない。


わらわらと周囲の精霊が木の元に集まるのが見える。精霊も彼の樹をもって世界を循環するといわれており、老人の興味を沸き立たせた。


「ほお、これは・・・」


山頂にたどり着いた彼を待っていたのは無数の精霊たちが輝き光る神秘の光景であった。

しばらく見上げて感動していた老人の視界に白く鈍く輝く石が目に入る。

老人の身長ほどある石には根が張り、石に触ると大きな魔力を帯びている事がわかる。


「これは魔宝石なのか?・・・しかし精霊たる循環の大樹が魔宝石を持つとは聞いた事がない・・・それにこの波動は人に近いがいったい?」


ぺたぺたと興味深く触れる老人と鏡合せの様にしていた幼女ははしゃいでいた。


『変わった動物がいるよ♪』

『変わった動物ではありません、人ですよそれは』

『へ~ヒトか~、思っていたよりもしわくちゃのボサボサだね、でも服も着てるし手足も二本ずつで私みたいなところもあるね』

『あなたの両親も人なんですから似てて当たり前です』

『えっ、そうだっけ?』

『何度も言っていますよ・・・あなたがうまれてこのかた8年間でのべ107回は言ってます』

『あはは~私って忘れやすいから。ゴメンね』

『まあ、いいです。しかし極限領域にいるなんて変わった個体ですね』

『ねぇねぇ、外でて話してもいい?行ってくるね!!』

『へ・・・あ、って、待ちなさいバカ娘っ!許可してなぁーい!!!』


外へ飛び出す少女を慌てて止めに入るがすでに人の目の前にでてしまっていた。


「ぬおっ!!」


老人は思わず仰け反り、勢いをころせず尻餅をついた。

触っていた石が輝きを増したと思えば、突如としてその石から少女の上半身が這い出てきたからだ。


「なんだお前はっ!?」


尻餅をついた姿勢からすばやく立ち直ると腰の短剣の柄に手をやる。

出てきた少女は手を石に置くと残りの下半身を引き出すように石から出し。ふわりと地に足をついた。


『よいしょっと、わ~これがヒトか~!』

「人・・・だと、いや人型の精霊なのか!?そんな存在が・・・」

『はれ?困った、なに言ってるかわかんないよ』

『バカ娘、人と精霊は言語体系が異なっているからあなたの言葉がわかる者はほとんどいないのよ、それよりその者から離れなさいっ!』

『なんで?』

『人は危険だって言ったでしょ、武器も持っているのだから早く石に戻りなさい』

『はーい』


ばつが悪そうに戻ろうとする少女を呼び止める声があった。


『待て、わしはそなた達を害そうとは思っておらん』

『言葉!精霊語だね!精霊語は嘘はつけないって言ってたよね・・・害は加えないって言ってるよ!』

『精霊語を操るとは、これはまた珍しいですね・・・ここは人の挨拶を真似てみましょうか。はじめまして、私は「循環の大樹」といいます』

『わたしは・・・えーと、わたしだよ、はじめましてヒトさん』

『これはご丁寧に、わしはポロ・ダングステンという。稀有な精霊の方々』


ポロと名乗った老人は恭しく胸に手をあて頭を垂れる。


『ポロ・ダン・・・グ・・テン?』

『ポロとよんでもらってかまわんですよ』

『ポロさん?人さん?どっち?』

『人はそれぞれ固有の名を持っているのよ、私の「循環の大樹」も元はどこだかの人が名をつけたのよ。』

『ジュン・・・カン・・ノタイジュ、ジュンカンノタイジュ、うん、長くて呼びずらい!「タイジュ」でいい?』

『別にあなたと私ならそう無理に呼称することはないのですが、まあいいでしょう』

『いいの♪タイジュにポロ!でもいいな~私も名前が欲しい!』

『名を欲しいとは姿も変わっているが、中身も変わった精霊様ですな』

『・・・この子は精霊ではないのですよ、ポロ殿』

『なんと!それでは人なのか?』

『人でもありません・・・・この世の何者でもない存在です。しいて言えば人でも精霊でもないが、その特徴を持っているものです』

『・・・・なにか事情がおありのようですな、深くは聞きますまい。』

『ありがとうございますポロ殿。あなたは信頼を置ける方のようだ』


ポロの発言から度量の大きさを感じたタイジュは素直に礼を述べる。そんな話の中心人物は別の考えで忙しいようだった。


『ねー、名前なにかいいのないかなぁ?』

『そうですね、ここは丁度良い所に名づけ名人の人たるポロ殿が居るのだから、名を戴いたらどう?』

『うん、ポロ、名前頂戴!』

『わしがですか、いやしかし名は親が子に贈る物、わしなんかがつけて良いものでは・・・』

『それは困りました・・・・しかし親が子に送るものですか・・・・・そういえばあのペンダントになにか書いてあったような気が・・・ポロ殿に見せてみなさい』

『え、これのこと?』


少女は襟を少し引いて小さなペンダントを出すとポロに渡した。

コイン状のそれには表裏に彫り細工が施されていた。


『これは?』

『この子のものです、人の字が書いてあるのだけど私には人の字を読み解く術がないので』

『ふむ「幸運と健やかな成長を願う」と彫ってありますな。裏面にはレンギョウの花ですかたしか花言葉は「希望」』


『へ~花言葉なんてものがあるのですか・・・』

『レンギョウの花からとりレンというのはどうですじゃ?』

『「レン」かぁ・・・・・うん、言いやすくていいかも、私は今日からレン!』

『よかったですな、レンどの』

『よかったわね、レン』

『タイジュ、ポロ、ありがとう!』


笑顔を振りまくレンに、ポロも目じりが下がりつい頭を撫でた。


『ポロ殿、本当にありがとうございます。私に出来ることがあれば礼をさせてください』

『いえ、人の世を捨てたしがない年寄りにはこのような出会いがなによりの宝ですからな、気にせんで下さい。むしろ精霊様の役に立てたことは、わしの方が感謝したいくらいですじゃ』

『そうですか・・・・・・・ところでポロ殿は運命を信じますか』

『運命ですか?』

『レンは精霊でも人でもない・・・ですがどちらでもあるといえばどちらでもあるのです』

『わしに人の世界への架け橋をせよ・・・ということですかな?』

『はい、人の言葉と社会について教えていただきたい・・・・・あの子がどちらの世界でも生きていけるように』

『・・・・・・・・わしはそんな人の社会を捨てた世捨て人です』

『・・・・』

『ですが、本来親子もない精霊のあなたが見せた親心に人の側に立つわしが察しないわけにはいきますまい』

『それでは』

『不肖ながらわしが教えましょう・・・・・これでも過去に教鞭を持っていたものです。再びそれを振るうは確かに運命といえましょう』


こうして一本と一人と一個と?の共同生活は始まった。





「うぅ・・・ポロ先生、これまでありがとう」

「泣きなさるな、レン嬢。この5年、よく学びよく習った。別れもまた学ばねばの」

『もうしわけないですポロ殿、私も本来ひとところに長く居られないもので・・・』

「わかっております・・・老い先短い人生でこれ程の幸運に出会えて私は満足しております」


まだ頭を撫でられるがポロの腰ほどの背丈であった少女は今は顎ほどまで成長し、将来が楽しみな器量の片燐をみせていた。


「ポロ先生、ほんとうに一緒に来ないの?」

「うむ、わしも世捨て人を辞めて人の社会に戻ると決めた・・・おぬし達と暮らしていたら家族が恋しくなってしまっての。何も言わずに出てきたわしを許してくれるかわからんが一目元気でやっているか見たいと思うのだ」

「ポロ先生の家族!?私も会いたい!!」

「巡る運命が合わさればいずれ出会う事もあろうですじゃ」

「うん!絶対だよ!」

『・・・・それでは、いきますよレン』

「それじゃ先生、行ってきます!」

「おお、達者でな。レン嬢の未来に幸あれ!」


手を振るレンを黒耀の石が取り込み白く鈍く光だす。

巨木はまた世界を巡る旅に出る。

しばらくその場で名残を惜しんだポロは踵を返した。


「むっ・・・・」


いく手の方向から人影が見え、ポロは身構える。限界領域と呼ばれるこんな場所に来るまともな人間は限られているからだ。

 


「間に・・・合わなかったな」

「そのようですね」


藪から出てきたのは旅装を纏った二人だった。観察してみれば二人とも高位といってよい魔力を持つなかなかの術者なのが見て取れた。


(魔術師が循環の大樹を探していた?もしやレン嬢の事を知り、利用しようというものたちか?)


「おぬし達は何者じゃ」

「!?・・・ああ、これは失礼、私はゴルド・イエロ・アムジ、こちらは妻のエリンです」

「おぬしら二人は魔術師じゃろ、夫婦じゃと?」

「疑うのは勝手だが私達が夫婦であるのは本当だ・・・ご老人、ここにおられるということはあなたも循環の大樹を見にきたのですか?」

「わしはポロというこの山にかれこれ十年ほどいる。循環の大樹は5年ほど前から先ほどまでここにあった。しかし、魔術師たるおぬしたちが精霊たる循環の大樹に何のようじゃ」

「5年もここにいたのか・・・・・・・・・私達は大樹に大切なものを預けているのです。」

「あなた、大丈夫よ、また探しにいきましょう。」


踵を返す二人の横顔にポロの頭になにかがよぎる。


「まて!お主らレンギョウの花を知っているか?」

「ご老人・・・なぜ、それを知っていらっしゃる。ペンダントはあの子の墓に備えたはず」


夫婦は驚き、ポロがあえて言わなかったペンダントの事も返した。その顔は確かにレン嬢の面影を思い浮かばせるものがあった。


「ふはははははは!なるほど、これで合点がいった。たしかにお主ら二人はあの子によう似ておる」

「なにを言っているのだ?」

「わからぬか?お主が捧げた赤子は循環の大樹の精霊に育てられ立派に育っているという事だ」

「「!!」」


ポロの発言に怪訝そうな二人の表情は驚愕に染まった。


「まさか、あの子が生きているというのですか!?」

「そ、それはまことですか?」

「生きているとも、元気も元気じゃ、わしはあの子の名づけ親でな。名はペンダントの花レンギョウからレンとつけた。詳しい話もあるだろうからわしの住処に招待しよう」


ポロはそういうと二人を、崖の淵に在った洞窟を利用した住居へと案内した。


「これは?」

「む、ああ、それはあの子が以前描いた絵じゃよ、わしと大樹とレン自身を描いたものだ。銀と金の色はなかなか見つからなくてな、出来上がりに半年かかった大作じゃ」


洞窟の壁に描かれた絵の中には元気いっぱいに微笑む娘の姿があった。まだ半信半疑の二人の心はその絵を見たときから信じるにいたった。


「本当にあの子は生きているのですね」

「うむ、おぬしに似て銀の髪をしておったぞ、そして父親譲りの金の瞳・・・うっかり者なのはどちら似なのかな」

「・・・それは私だな」

「ええ・・・元気なところも笑顔がステキなところもね」


二人は感慨深く壁画を見つめてそう語った。


「これも運命じゃな・・・しかし、おぬしらはあても無くレン嬢ちゃんを探すのじゃろ?」

「「はい」」


 二人の瞳には強い覚悟が見て取れた。


「ふむ、わしは循環の大樹からこれから先の循環の経路をおおよそ聞いている。ひとところにどのくらいいるかも知っているから、いまからならば幾つか先の循環地に追いつくことが出来るじゃろう。」

「本当ですか!?」

「じゃから、運命といったのじゃ。ただし、いずれも秘境にして生命の限界領域じゃぞ、たどり着くのは容易じゃない」

「・・・それでも」

「「必ず行きます」」

「ふむ、よい覚悟じゃ・・・・ならばわしが導こう」

「ご老人が?」

「わしはこう見えて精霊語をあつかい、大樹の加護を得ているからの。少しはお主らの助けになるだろう。・・・こうなると全てはお主らをレン嬢の元に送り届けるためであったとも思えるよ」


 こうして3人は一路、次なる人類未踏の限界領域を目指して旅立つのであった。




『ポロ殿の元で生きるという選択肢もあったのよ』


極限の地へと渡る道すがら大樹はレンへ話しかけた。


『ポロ先生が言ってた・・・レンくらいの子どもは親と一緒にいるのが普通なんだって。だからタイジュと一緒にいるよ。』

『レン・・私は・・・』


(あなたの親にはなれない)


循環の大樹のその思いは不思議と言葉に出せなかった。

循環の大樹、世界樹ともいう存在は枝葉は広げられるが子は成さないし、母性や父性という感情を本来持たない。

この世界のありとあらゆる存在の生と死を司るもの。

自然の循環を管理するもの。

自己の感情よりも循環の導きこそが大事である。

では、5年という期間を一所で過ごせた自分はなんなのか、自分の中でなにかが変容していたことを大樹は初めて自覚した。

この感情を端的に表すと「愛情」と呼ぶにふさわしい感情だ。

その感情を自覚したとき大樹は震えた。


『大樹、大丈夫?』


循環の大樹から発せられる戸惑いの波動にレンは大樹に意識を向ける。


『・・・・レン、私はレンと一緒にこれからも旅を続けたいのです。』

『そんなの決まっているよ、どんな出会いやどんな事があっても私達二人はいつも一緒だからね。約束だよタイジュ』

『わかったわ、約束ねレン・・・さて次の場所へ行きましょうか!』

『うん、行こう!』


 世界を巡る循環の大樹と精霊の少女の旅は様々な出会いや別れを経験して、なお続くのであった。


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