伏竜鳳雛ーフクリョウホウスウー
広い広い魔王城
その中の一室 魔王様の部屋は主の部屋にしては、こじんまりとした小部屋である
私はエリスと申します。
幼いころに、魔王様に拾われて以来ずっとお世話になっております。
「魔王様、一つ報告が…」
ふとシュトラ様の声が響き、振り返れば、いつの間にやら…
瞬間移動でもされたかのようです。
いつの間にか姿を現したシュトラ様は深刻そうな表情ではありますが、何故か右手に鶏が…コケコケ鳴いております。
「はい、何かありましたか?って、鶏!?」
かしこまって跪くシュトラ様を前にキョトンとした顔の魔王様は鶏に釘付けのご様子。
本日もボケボケし・・・ほのぼのなさっておられます。
「何かじゃありません。「こけーっこけーーっ」本日「こっこっこっこ」人に化けて鶏を買っていたところ…「こけこけっこー」何やら奇妙な話を聞きまして…うるせぇな、この鶏め!!!「こっけー!!!!!」」
「「奇妙・・・?」」
魔王様とかぶって、声が出てしまいました。
…シュトラ様、何といいますか、グッと掴まれた鶏の苦しそうな表情…ああ、話に集中できません・・・。
「ええ…何やら人間達の間では「肝試し」とやらが流行っておられる様子でして…。この魔王城に数人が集まって侵入する計画があるとかないとか」
「わー、お客さんだね!」
「こっこー!!
」
パチパチと手を叩く魔王様には呆れたものです・・・
ゴホンとシュトラ様が咳払いをした後、チラリと私に目を向けます。
何でしょう。
決して心地のいい目ではありません・・・。
「魔王様・・・まずいんじゃないですか?この魔王城に人間が住みついているとばれれば、人間が騒ぎ出すに違いないでしょう」
「さ、騒ぐって・・・そ、そりゃエリスはとても綺麗だし、騒ぎたくなる気持ちも分からなくはないけれど・・・」
「違います、貴方がそういう人だという事は理解したつもりですが、いい加減にしてください。気持ち悪い、死ね・・・貴方が人間を捕虜として捕らえているなどと誤解する可能性も十分にあります。非力なくせに数でもって押し寄せるのが人間ですからね…いちいち相手するのも面倒な話です。」
「今、死ねって言ったでしょ、シュトラ君」
「まあ、ある意味、魔王様の本当の恐ろしさというものを人間に分からせてやるいい機会かもしれませんが…」
「どこまでもスルーなんだね。うーん、できれば傷つけたくないですねー。結界張っちゃえ!」
魔王様が人差し指を数回振りますと静電気のようなものが微かに視界に入った瞬間「こけっこっこー!!!」と盛大な泣き声。
鶏がタイミングよく鳴いたところで、あっという間に魔王城は結界により守られたようです。
人間の目ではよく分かりませんが、この結界内に入れるのは魔王様の許可がなければ入れない・・・ということのようです。
「魔王様・・・いつまでもこのように平和に保たれるかどうかは分からないお話です」
「シュトラ。君は少し心配のしすぎだよ。・・・大丈夫。君たち二人はちゃんと守るよ」
「・・・」
黙り込むシュトラ様は少し寂しげな表情をされた後、一歩後退しスッと姿を消しました。
「魔王様、シュトラ様は魔王様を心配されているのです」
私の一言に魔王様は優しく微笑む
「うんうん、分かっています。とても嬉しい。だから、大事な友達を無くしたくないんだ。君もシュトラも。私にとって宝物なんだ」
魔王様とはじめて出会ったときを思い出す
あの頃世界は、人間の生活の下にいろんなものが成り立っていた。
便利な車や、インターネット。
今も残されているけれど、それも古い歴史の一部として。
懐かしい昔の記憶
もう忘れてしまったことのほうが多い
私は日本人で、優しい母とちょっとだらしない父がいました
名前もエリスではなく、日本人特有の漢字であったと思います
ですが、残念なことに覚えていないのです。
ただ、見たこともない人と警察を名乗る人が家に来たのです
そこで私は両親と離れ離れになりました
何もない真っ白な部屋に閉じ込められ、何も聞こえない部屋でただ一人
両親が迎えに来るのをひたすら待っていたのです
その部屋はベッドとトイレ
防音も完璧で、何も聞こえない部屋が寂しくて、連れてこられた時に着せられた真っ白なワンピースを自分でくしゃくしゃと擦り合わせていたのを覚えています
まさに監獄というものでしょうか
たまに来る女性と男性は、私にこういいました
「ごめんね。可哀想だけど、貴女は病気なの。ちゃーんと病気を治さないとパパとママに会えないのよ。だから。しっかり病気を治しましょうね!」
一日5回も注射と点滴、そして薬がありました
何の病気なのかを尋ねても、「難しい病気なのよ」だけでした
普通に暮らしていたあの頃とは打って変わって、薬の影響で私の身体は少しずつ変わっていきました
ピリピリとした皮膚の痛み、黒かった髪はいつからか白髪に代わり
日が経つと、味覚がなくなった
言葉がうまく話せなくなる
呂律がうまく回らない
視界も定まらない
正常だった思考が鈍くなり、感情も分からなくなった頃、私の生命を維持するために点滴が増えて、暫く投薬がなくなった
投薬がなくなって、どのくらいぶりなのか、その部屋から出ることがあった
その時、ふとピカピカ光る自分の髪に気が付いた
私の髪は黒だったのに、いつのまにか金色になっていた
「・・・髪・・・」
「その髪はね、病気の進行だよ。可哀想に。もうちょっとだからね。頑張ろうね」
誰かがそういっていたけれど、覚えている事柄が、自分の髪が黒から金に変わってしまったということに絞られてしまって、その発言をした人が男か女かも分からなかった
毎日自分の両親に会うためだけに頑張ってきたものも
いつからかそれも変わっていた
ここから出れないことが分かってしまったから
意識が朦朧とする中、聞いてしまったの
パパとママが、もうなくなっていること。
そして、私は何かの研究をされていて、実験に失敗して処分されること
でも、悲しいと思わなかった
ここで死ねば、きっとパパとママに会えるから。
「わー、君、魔法使えるの?」
そうして、にっこり微笑む彼はまる天使様だった
「・・・迎えに来てくれたの?」
「ん?」
細々とした声で私は彼の裾を握り、そして微笑んだ
「ああ、天使様。私を早く殺してね」
その後の記憶はなく、どうやってその部屋から出たのかも分かりません。
ですが、今私の目の前にいる彼に助けられたということだけは分かります。
目が覚めた私は真新しい服を着て、今まで見たこともないようなふかふかなベッドで寝かされていました。
「君の名前はエリスだよ。エリス・フィエルと名付けよう」
「・・・・?」
「あれっ!気に入らないかな?んー・・・じゃあねー・・・」
あれこれ考える彼をよそに、私はかすれた声で繰り返した
「・・・・・エリス・・・フィエル・・・・」
私の名前は彼と出会ったその日からエリス・フィエルとなりました。
「君は特別な子だよ、エリス。私の傍にいなさい。君の命は白い部屋でなくなってしまったのだから。」
そう言って、優しく頭を撫でてくださったのは
別れてしまった両親以来で
どうにも涙が溢れて、みっともなく泣いた
シュトラ様がいった「いつまでも平和」の言葉が胸にささる
シュトラ様は私ときっと同じ気持ちなんでしょう
私たちだけじゃなく、魔王と呼ばれる彼も、私たちにとって、とても大事であるということ。