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エッセイ・「パチンコの思い出」

作者: 夢野彼方
掲載日:2014/11/16

 小さな頃、よく父にパチンコに連れて行ってもらいました。

 自動ドアが開き、ワーッというけん騒に包まれると、そこはもう別世界。

 無限回廊のように並ぶパチンコ台、まくし立てるように点滅する色とりどりの光、顔を近づけてしゃべってもかき消されてしまう音の洪水、むせ返るほど充満するタバコの煙。ただいるだけで、なんだか酔ってしまいそうな、そんな不思議な空間です。


 父の打つ台はいつも、「飛行機」でした。真ん中の穴に玉が入ると、ふだんは閉じている翼が、かわいらしくパタパタはばたきます。

「のんびり楽しめるんだよ、この台は。おとうさんには性が合っているんだね」騒音に負けないくらいの大声で、父はわたしにそう言いました。

 隣のイスに座って足をぶらぶらさせながら、いつも夢中になって眺めていました。銀色の玉は、勢いよく飛び出していっては、あっちにコツン、こっちにコツンと跳ね返され、あらかたは一番下の「はずれ」の穴に飲み込まれてしまいます。


 何回かに一度、途中にある「アタリ」の穴に入ると、「ジャランッ」と楽しげな音をたてて、ざらざらと玉が出てきます。

 ごくまれに、真ん中の「大アタリ」の穴に入ると、とたんに愉快でにぎやかな音楽が始まって、翼がパタパタ動き出します。こうなるともう、なかなか止まらず、玉がジャンジャン出てくるのです。あっという間に受け皿いっぱいになり、それさえもあふれるので、備えつけの箱に移しかえなくてはなりません。

 玉が貯まっていくのを見ると、うれしくて仕方ありませんでした。なぜって、玉は景品と交換してもらえるからです。


「今日はなにが欲しい?」景品交換所の前で、父が聞きます。

「チョコレートっ!」わたしはきまってそう答えました。

 チョコレートはふだん、あまり買ってもらえません。

「食べすぎると鼻血を出すし、夜は眠れなくなるし、虫歯にはなるし、いいことなんて、ひとつもありゃしない」そう母が言うからです。

 

 あるとき、父はいつもと違う種類の台に座りました。数字が3つそろえば「大アタリ」というものです。

 正直なところ、わたしはこのパチンコが好きではありませんでした。翼も回転盤もない、見ていてもただ退屈なだけの台だったからです。

 打ち始めてほどなくすると、デジタルの数字がグルグルと回り出しました。3つある数字が、1つ止まります。「7--」です。そしてまた1つ止まって、「77-」。

 見上げる父の顔がへんにこわばるのが、子供ながらに見て取れました。「77[7]」。3つめも同じ数字、大アタリです!


「おーっ!」父は目をまん丸にしてそう叫びました。店員が、大きな箱をいくつも持ってきましたが、それでもぎりぎりいっぱい。景品交換所に持って行くときも、台車に積まなければ運べないほどでした。

「今日は何がほしい? なんでもいいよ」父がいつものように尋ねました。

「全部、チョコレートっ!」とわたし。

「ええっ?!」さっきの大アタリ以上にびっくり仰天した顔で聞き返します。

「チョコレートが欲しいっ!」わたしは繰り返し言いました。

「……よしっ、わかった!」わたしは無知でしたが、父は豪胆でした。


「すみません、これ全部チョコレートに」父は店員にそう告げます。

「ぜ、全部ですか?! これをっ?」そのときの店員の顔ときたらっ!

「そう、全部です。何か不都合でも?」

「いえ、そんなことは…。わかりました、詰め込むので少々お時間を……」

 同じく景品として置かれていたショッピング・バッグ3袋に、ぎっちりとチョコレートを詰めてもらい、大満足のわたし。棚にあったチョコレートはすべてなくなり、それでも余った玉の分はクッキーとキャラメルに換えてもらいましたっけ。


 家に帰って母に見せると、

「全部、チョコレートっ?!」そう言ったあとは絶句してしまい、どうやっても言葉が見つからないようなのです。

 次の日、外から帰ってみると、空っぽのショッピング・バッグが居間のテーブルの下に、畳んで置かれていました。

 台所で洗い物をしていた母に、わたしのチョコレートはどこにやったの? と詰め寄ると、

「うちだけであんなに食べられるわけないでしょ。ご近所にあらかたあげちゃったわよ」と、皿洗いの手を止めることなく返事が返ってきました。

 幸いにも、冷蔵庫の中には、大好きな「黄色い包み紙のチョコ」数枚が、積み重ねてありました。わたしが好きなのをちゃんと知っていて、あれだけの数の中から、わざわざ抜き出しておいてくれたんです。

 たった一晩だけですが、チョコレート長者になれたわたし。まるで夢のような出来事でした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 懐かしく思い出しましたよ、パチンコを。 もうすでに行かなくなって20年になりますが、よく行ったものです。 考えれば、長男の自転車も、任○堂のファミコンもパチンコでゲットしました。 大きなス…
[良い点] 私は今のギャンブル性の高いパチンコは大嫌いですが。 昭和の中ごろのパチンコのイメージは大好きです。 レバーを弾いて玉を打ち出す、家の祖父が大好きだったそうです、景品は煙草とチョコレート、父…
2014/11/20 06:30 退会済み
管理
[一言] チョコレート長者 いいですね。 なにか好きなものを子供の頃は、それだけ欲しがりますよね。 自分は子供の時風邪ひいたとき、何が食べたいときかれ玉子のお寿司だけ頼んだ事があります。
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