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第九話「妄推現実」

 聖シルフェリーナ学園。

 創立五十年を迎える幼稚舎から初等部、中等部、高等部、大学舎まである女子名門校。

 名前を出せば周辺の人間は大抵が知っている俗に言う御嬢様学校の高等部に武田真愛は通っていた、学年は二年生。

 生徒の半分以上は幼稚舎からシルフェリーナに通う純粋培養の御嬢様方だが真愛は高等部からの途中入学であり、奨励されている寮にも入らず学園の最寄りから二駅離れた駅前にある親戚の高級マンションを借りて通学していた。


『可愛がってくれる叔父さんのお陰で規律にうるさい寮に入らなくていいのは良かったけど、何かと目立つなぁ』


 朝の電車の中でつり革を掴む真愛は顔に出さないが周囲からの視線に多少辟易している。

 その原因は聖シルフェリーナ学園の制服だけでなく本人の平均を遥かに越えた容姿にもあるのだが真愛自身はそれを強く意識してはいない。


「!?」


 不意につり革に掴まりながら真愛はブルッと身体を震わせた。

 すわ痴漢かと思わせる仕草だがそれは違った、制服のスカートに入れたスマートフォンが振動したので反応してしまったのだ。

 振動はすぐに収まったのでメールだとわかる。

 でも右手はつり革、左手には学校指定の鞄を持っておりすぐには見れないし、例え席に座った状態でも電車内でスマートフォンを弄るような事はしない。

 推奨された寮生活を断った時、教師に通学帰宅中の行儀作法について間違えても聖シルフェリーナの生徒がスマートフォンや携帯を操作しながら街中や歩いていたり、制服姿のまま飲食店やその他の店に入った等と報告が入ってくる事が無いようにと指導されているからだ。

 約八割の生徒が寮住まいで味わう不自由感を少なからず通学の生徒も味わっているのだ。



 電車が駅についても真愛はスマートフォンを取り出す事はしない。

 然り気無く駅のトイレに入ると個室でそれを取り出す。

 学校についてからは見れない。

 緊急時の連絡を受ける為、所持は構わないが使用はその緊急時連絡以外は禁じられてるからである。

 人差し指でメールタイトル画面を呼び出し誰からの物かを確認する。


「ラフィアン……」


 ポツリと呟く。

 昨日に終わらせた仕事の処理報告かもしれないがほぼ毎日ログインしている者同士、メールでやり取りするよりいつもの酒場で話した方が手間でなく実際、これまでそうしてきた筈だ。

 何か変わった用件に違いない。

 まだ登校時間には余裕がある、真愛はタイトル画面からメール内容を確認した。 


「え……」


 メール内容は簡潔だった。

 しかし簡潔だからこそ直ぐに理解できた部分と全く理解できない部分が入り交じり真愛は声をあげてしまったのだ。

 そこにはこう書かれていた。


「昨日のターゲット尾形健三郎死亡 詳細は酒場にて」

   


         ***



「もちろん死因は直接君には関係ない、自殺らしいよ」 


 いつもの酒場。

 木製テーブルに置かれた皿のコーンスープをスプーンですくいながらラフィアンは言った。


「当たり前よ、私が殺したのはキャラクターのジェンス、彼はあくまでも尾形健三郎よ」

「まぁね、ジェンスは銃殺、尾形健三郎は君が現実に戻した後、病院から家族に引き取られ自宅で療養という事になったけど睡眠薬を大量に呑んだのが死因、君が殺したなんて思わない」


 やや強い口調のゲームオーバーにラフィアンは同意する。


「ネットニュースでは詳しくは何も書かれていなかったわ、都内の町工場社長自殺という程度だった」

「まぁね自殺だけど動機とかを警察が絞りかねているらしいよ、下手な発表は控えているのさ」

「会社が苦しいと言ってなかった?」

「明日にも操業が不可能になるようなレベルじゃないってさ、町工場ならこれくらい苦しいのはよくあるんだって、本人もそう言っていたらしいから直接の自殺の原因には警察も考えてないらしい……むしろ」


 ラフィアンはそこで意味深に言葉を切った。


「むしろ何よ?」

「ほら初めに依頼してきたあの社員、多村大輔さんに連絡を取ってみたんだけど睡眠薬と一緒に遺書があったらしいんだよ、内容は家族しか知らないらしいけど……」 

「遺書?」

「おかしいと思わないかい?」

「何が?」


 自殺なら遺書が残っていても不自然とは思わない、ゲームオーバーが首を傾げて見せるとラフィアンはニンマリと笑みを浮かべた。


「ゲームオーバーはこっちではクールを気取ってるけど現実ではきっと可愛い女の子だね、今時首を傾げて何が? なんて女の子は稀少だよ」

「な、何を言ってるのよ!? 早く何がおかしいか言いなさいよ!」


 茶化されたゲームオーバーは赤面して怒鳴る。

 

「アハハハ……ゴメン、ゴメン」


 ニンマリ笑いを絶やさずラフィアンは椅子の背もたれにもたれる。


「だってさ、尾形健三郎は一旦ジェンスというキャラクターに成り変わって大金払ってシークレットレアを手に入れてるんだ」

「そうだけど……だから?」

「わかんないかなぁ、尾形健三郎は既に仮想自殺を覚悟してログインしているんだ、その時は遺書なんて書いてないのになんで後で改めて自殺する時は遺書を書くのさ?」


 ゲームオーバーは顎に手を当てて数秒考える仕草をした。

 言われてみれはおかしいと言えばおかしいが反論はすぐに浮かぶ。


「確かにおかしい面もあるけど、一回目は仮想自殺、二回目は実際の自殺でしょ? 家族しか見てなから遺書の内容はわからないけど一回目の仮想自殺を止めた家族に対して恨み言くらいは書いてあるかもしれないわね、それなら家族が遺書を他に知らせない理由がわかるもの」

「そうだね、それに興味はあるけど……これから先はあくまでも現実の問題だからね、ミス・ゲームオーバーには関係がないといえばない」

「そう考えるのが妥当ね……とりあえずはこの件は終わりよ、私はジェンスをゲームオーバーさせているもの、仕事はしたわ」


 彼の仮想自殺を止める為、ジェンスをゲームオーバーさせたのは事実だとしても現実の自殺は止めようがないし、直接の関係もない。

 そう結論づけ蜂蜜とショウガ入り紅茶を飲み始めるゲームオーバーだったが、


「やっぱ念のため……二回目の自殺の時にだけ書かれた遺書の内容は気にはなるわね、一応だけど調べられるかしら?」


 と、ラフィアンに告げるのであった。



                    続く



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