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第六話「抹殺開始」

「ターゲットの社長の名前は尾形健二郎、今は都内の病院に入院しているよ、キャラクターネームはジェンス、職業はレベル3ファイター、キャラクターGPS検索は当たり前に切られてるから場所は不明だったんだけど、モントレイの森に入ったみたいだ」

「モントレイね……妥当だわ」


 翌日。

 酒場でラフィアンの調べてきた情報を聞きながらゲームオーバーはそう答える。

 モントレイ地区はゲーム開始時にキャラクターがイシュタルオンラインに現れるアイアリアの街から比較的近い森林地帯だ。

 初期レベルから入れる地区としてはモンスターのレベルはそれなりだが森は深く地形は案外に複雑な上、山賊がいて冒険者を悩ませる始めの難関とされる。


「マイシュロスという男が頭をしている山賊に仲間入りしたみたいだ」

「ほとんど初期レベルで? 彼等に相手にされるの?」


 ゲームオーバーはラフィアンに眉をしかめて見せた。

 山賊という職業は正式には存在しないがNPCにしろPCがやっているにしろそれをやる山賊はなりにレベルが高い。

 冒険者達や旅人、商人から物資や金銭を強奪する立場だ、弱くては話にならない。


「金銭じゃないかな? 会社の人間に話を聞けばどうやら会社のお金を相当持ち出したみたいだからね」

「保護を求めたと?」

「じゃないかな?」

「マイシュロスって?」

「モントレイじゃ最大の勢力の山賊の頭だよ、手下は二、三百くらい、もちろんキャラクター検索にも引っ掛からない悪党だ、レベルは最後に確認されたのが21らしいけど上がってるだろうね、NPCかPCかは不明だよ、こんな感じでどうかな?」

「わかったわ、それで十分よ」

「そっちは何かわかった?」


 早速行動を起こそう椅子から立ち上がるゲームオーバーにラフィアンは少しイヤらしい笑みを浮かべた。


「何が!?」

「そっちも調べたんでしょ?」

「……雑多な話が多すぎてね、有益な情報は得られなかったわ」

「情報は収集だけじゃない、分析と取捨が大切でね、コツがいるんだ」

「そういうのは敵わないわ」


 昨日はゲームオーバーも情報収集を試みたがとてもラフィアンの調べたような内容は得られなかった、やはり餅は餅屋というべきでその辺りは目の前の少年には敵わないと素直に認める。


「今回も取り分は貰えるね? 後はそっちのお仕事さ」

「ええ、そうね……私の仕事だからね、これからはしっかり殺させてもらうわ」


 にやけ続けるラフィアンに対して踵を返し軽く左手を振るとゲームオーバーは歩き出した。



         ***



 昼間でも森は何処か薄暗かった。

 シャツの上に羽織った紫のジャンパー、ショートパンツにロングブーツの黒髪ポニーテールの少女が木々の間の道を歩く。 

 まだ道のある深い場所ではないとはいえ森を歩くには少女の格好は軽装で見た目に武器も見えないし、何よりも一人だ。

 これを逃すようでは森を支配する山賊は名乗れないだろう。


「待ちなよ」


 男の声に少女は慌てる様子なく言う通り足を止める。


「逃げるなよ!」

「可愛い女の子じゃん」


 少女の目の前に茂みから現れたのは不敵に笑う二人の男だ。

 破れたシャツに粗末なズボンに靴、手にはそれぞれハンドアックスとショートソードを手にしている。 


「いかにも山賊の手下ね、待ってたわ」

「なっ……!?」


 薄暗い森の中で少女の目は冷たかった。

 予想外の相手の反応に二人の山賊は思わずその場で身構えたが……

 響く銃声。

 徒手空拳だった筈の少女の手に握られていたのはオートマチック拳銃。

 ハンドアックスの男は声も上げられずに脳天から血を流して後方に倒れた。


「拳銃……そ、その格好……ミス……」

「ゲームオーバー」


 残ったショートソードを持つ男に向けられるゲームオーバーからの銃口。

 震えるターゲットとは対照的に銃の握られた左腕は彼を正確に指向したままの制止。


「お、俺はちゃんとログアウトしてるぜ、それにシークレットレアなんて使ってない」

「でも他のプレイヤーからアイテムや通貨を強奪する山賊でしょ? あなたを撃つのに私が躊躇する理由は全くないわ」

「ゲームの楽しみ方は自由だろ?」

「だったら山賊狩りだって自由でしょ?」

「ううっ……」


 男は言葉に詰まる。

 闘いが無駄なのは判る。

 ミス・ゲームオーバーの名前はイシュタルオンラインでは超のつく有名人。

 地道な冒険ではなく山賊稼業を選んだレベル8のシーフの戦える相手ではない。

 相手の能力や詳細はもちろんウィンドウがかけられてわからないが、天地がひっくり返ってもレベル8ではどうにもならないが…… 


「あなた……マイシュロスの部下?」

「あ、そうだ、そうだ、いくらアンタでもボスを敵に回したら面倒臭いぜ、噂じゃボスはもう30レベルを越えてるんだぜ!」


 相手から出たマイシュロスという自分を庇護者の名前に男はすがった。

 しかし……


「レベル30なんて関係ないわ……でもあなたはお陰で助かったわね」


 ゲームオーバーはマイシュロスの名前にもレベルにも全く動じずに銃口を男の額に更に近づける。

 

「な、何が助かっただよ!?」

「これからアジトの方向に向かって大声で助けを求めながら歩いたら助けてあげる、さぁ助かりたかったらアジトに向かって歩き出しなさい、大声で泣き叫びながらボスに助けを求めなさい」

「どういう……」 


 意味が判らず狼狽する男、しかし銃口とゲームオーバーの自分を見る瞳の前に質問の続きをするのを諦めアジトに向かって歩き出すしか道はなかった。




                    続く



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