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第四話「孤独現実」

 完全に意識が仮想空間から戻ってからでないとログインヘッドギアを脱ぐのは危険とどのタイプのヘッドギアの説明書でも記されている。

 基本的にはケーブルから電源を取る形でも別に数時間は持つバッテリーが組み込まれているのも停電などによる急な通信遮断を防ぐ為だ。

 しかしログイン中に外部からなどからヘッドギアを取られてもキャラクターはフリーズするが、プレイヤーは意識を強引に引き戻され少し不快な気分がする以外は大きな事故が起こったという話は聞かない。

 突発的な遮断の禁止はあくまでも万が一の事故予防の喚起に過ぎないのだがある例外が存在する。



 シークレットレアを使用したプレイヤーだ。

 意識を現実世界に戻そうとシークレットレアを使用しているプレイヤーからヘッドギアを強引に取ってしまうと……

 プレイヤーは意識を全く失い、それっきり植物人間の様になってしまう事例が幾つも報告されている。

 つまりシークレットレアを使用したプレイヤーをマトモな状態で現実に戻すには本人からログアウトを宣言させるか、キャラクターとしての死を与えるしか方法が無い。

 そしてイシュタルオンラインには特殊で重要なルールが存在する。



 一度ゲームオーバーになったプレイヤーは如何なる方法でもヘッドギアから登録された脳波データで判別され三日間は再ログインが不可能になるのである。

 


 つまりキャラクターがやられてしまうと再びゲームに挑戦できるのは三日間の間が空いてしまうという事だ。

 もちろんこの仕様には批判があるが、イシュタルオンラインがあまりにも精神をゲーム世界に入り込ませる為、様々な状況のゲームオーバー時の精神的ショックを時を置いて回復させる意味があると開発会社は説明している。

 このルールはシークレットレアを持つ者も逃れられなく、先日ゲームオーバーが仕事をした佐橋佑介も現実に戻されすぐに仮想空間への逃亡を謀ろうとしても不可能で、三日間の間に周囲の者から予防措置(それには個人差がある)が施されるだろう。

 少なくとも暫くはVRヘッドギアを使うゲームは彼に手に入らない状況を周りが構成するのは容易に予測できる。

 ちなみにゲームオーバーしたキャラクターのアイテム等の再ログイン後の状態はゲームオーバー時の状況で判断される、例えるなら不注意から川に墜ちてゲームオーバーになればアイテムの一つや二つ川に落としてしまっているかも知れないし、盗賊に敗れれば身ぐるみ剥がされているかも知れないのである。

 そして特殊な場合を除いては復活は基本的には最期に立ち寄った酒場からになる。 

 




「ふぅ……」


 薄暗い部屋で少女は横たわっていたベッドから上半身を起こしてヘッドギアを外し息を吐く。

 少女は制服姿のまま。

 マンションの窓の外はずいぶんと暗くなっていた。


「結構な時間、向こうだったな」


 壁のスイッチを押して明かりをつけると窓際に立つ。

 反射して窓に映る少女の制服は都内有名女子高の黒のセーラーに黒髪のセミロング。

 体つきは気にならない程にややふっくらとしていて、顔立ちは整い美人というよりは可愛らしいという表現の合う絶世とまではいかないが十二分に魅力的な美少女。

 武田真愛【たけだ まな】。

 それが少女の名。

 ある時期から真愛の余暇は可能な限りイシュタルオンラインにつぎ込まれていた。

 幸いこちらに進学する際に親戚の経営するマンションを借りて親元を離れての一人暮らしの為、没頭する事も出来るが、極端に成績を落とす等は親への報告の対象となるような学風なので授業の復習はする様にしている。

 学校から報告などを受けて、もし心配した親がマンションにやって来てヘッドギアを見つけよう物なら……


「きっとヒステリーを起こすね……」


 ポツリと呟きヘッドギアを胸元に抱く。

 イシュタルオンラインになど関わらない優等生な娘を演じなければいけない。

 ログインヘッドギアを何も書かれていない段ボール箱にしまいベッドの下に滑り込ませると真愛は机に向かう。

 小一時間があっという間に経過した。

 集中すると周りが見えなくなり、幼い頃はよく本やテレビに没頭してしまう真愛に一歳上の兄が戸惑う事も多かったらしい。

 今日の授業の復習を終えるとコンビニで買ってきたサラダとパンをサッと食べ、バスルームに向かい短い入浴を終えてからパジャマに着替えベッドの傍らのテーブルに鏡を置く。

 それを見ながら髪を乾かし数十秒で軽い顔回りの肌のケアを済ませると、


「よし……」


 真愛はベッドの下にしまい込んだヘッドギアを再び取り出し、瞳を鋭くさせそれを被るのであった。


                    続く





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