最終話「少女現実」
聖シルフェリーナ学園の制服を武田真愛は壁にかけた。
乱れ等があれば直ぐ様に注意される、教師だけではない上級生からもだ。
特に尊敬できる親しい上級生をお姉様の慕う校風まであるが、高校からの編入であり寮生活でないせいか真愛はそこまで毒されてはいない。
「これからは私の後をついて歩きなさい、護って上げるから」
そんな風な提案をされ、どうにか丁重にお断りした事も一度ではない。
今日もそんな事件があった。
「もう誰かに決めちゃった方がいいよ、真愛は可愛いから今はチヤホヤされるけど逆に苛められたら悲惨だよ」
そう助言してくれる同級生もいたが、正直ありがた迷惑である。
「さてと……あ……」
気軽な部屋着に着替えてベッドに寝転がり、スマホを確認するとメールが四件。
一件はカード会員になっているコンビニから、もう一件は高校の友人から今日の誘いを受けて付いていく上級生を決めた方が楽だよ、という更なる勧め。
「もう……」
ため息をついて次を確認するとラフィアンと最近はずっとパートナーとしてオンライン上で一緒にいるリオンからだった。
内容はどちらも今日のログインの有無の確認だった。
「えっとね……」
少し頭の中で予定を組み立てる。
明日も学校だ、あまり遅くまでのログインは出来ない。
「ご飯とお風呂、洗濯とか後の用事を済ませて……今日は九時からくらいかな」
そう決めてメールを打つと、疲れていても身体が動く。
用事を早く済ませればログイン出来る時間も増えていくのだ。
「リオンさんも最近はアイアリアの街に越してきちゃったからな」
例の事件後。
神聖騎士隊にいたスポンサーは忽然と消え去り、連絡役の騎士であったロンバルディアも姿をくらましてしまった。
蒼の軍団の残りにも話を聞いてみたが大半はシークレットレア欲しさに詳しい経緯は聞かずに参加していたらしく、ほとんどの者がその場で違反アイテムであるシークレットレアの使用状態になっているキャラクターの消去を約束したが、今では守られているかは微妙だった。
イシュタル・オンラインの世界は広い。
どこか別の地方で行動されていたら知る由もないのである。
中には育ててきたキャラクターが惜しい、そこまで言うならシークレットレアの使用後でもその効果を消せる方法を提示してくれと言われたがそれはなかった。
「要するにヤバイ薬だね、一度やったらその時の快楽ふくめて、後から影響なしにしてくれなんて虫がいい話だよ、元々非公式アイテムであるシークレットレアの使用禁止は基本ルールに提示してあるんだから開き直りは無視して反省はしてもらおう」
ラフィアンの提案はもっともだった。
リオンは躊躇としたがゲームオーバーはその場でキャラクターの消去を約束しなかったキャラクターには脳天に向かい強制的に三日間の休養をプレゼントしていった。
そしてリオン・ルージュは神聖騎士隊の解散を決め、これからは単独で行動することに決めたが魔術師のソラは熱烈に志願して彼女についてきている。
結果、最近はシークレットレアが絡むゲームオーバーの仕事はゲームオーバー、リオン、ソラ、ラフィアンの四人でやる事がほとんどだ。
仕事は順調にこなしているがロンバルディアやバリチェロ、そしてリオンのスポンサーすらも掌握していた相手の事は解らず終いだ。
「でもな……本当に何がしたかったんだろう、バリチェロさんが言ってたみたいに永久にゲームの世界で生きるなんて出来ないのに」
エプロン姿で夕食を造りながら真愛は思う。
植物状態と同じ状態になった自分を支えてくれる様々な状態が整っていればある程度は可能だろう。
現に身内に既に数ヵ月目を数えている者がいるのだ、現在はその状態になっているイシュタル・シンドロームの患者は相当数を数えているらしいがその中では残された家族の経済状態を含めて耐えられない者も居るだろう。
幸い武田家はかなり裕福で真愛を一流私立女子高に出しつつも兄のその状態を含めて支えられているがそんな家は一握りだろうし、全ては金銭だけではない。
確かに……確かにオンラインゲームの住民になるのは魅力的なのは認めざる得ない。
初めは兄を捜す為とシークレットレア撲滅に立ち上がり、ミス・ゲームオーバーの顔を持ったが今では友人も増えて仮想現実の世界も楽しいのが現実だ。
「……でも」
違う。
これはハッキリ解る。
ミス・ゲームオーバーのプレイヤーは武田真愛であるが、武田真愛はミス・ゲームオーバーでは決してないのだ。
イコールではないのだ。
武田真愛の人生はミス・ゲームオーバーには代われない。
「それなのに……」
兄は現実を棄て仮想現実に旅立った。
優秀で何事にも理解のある兄。
本当に仲が良かった。
いまだに兄以外の男子がどうしても慣れないのも兄と仲が良すぎたからかもとも思うくらいだ。
「私も現実と一緒に棄てられたの?」
溢れ出す自問自答。
ミス・ゲームオーバーになるのはなぜ?
それを確かめる為。
いや確かめてどうするの?
連れ戻すに決まってる。
嫌がられたら?
引き戻す。
どうやって?
撃つ。
撃てるの?
撃てる。
なぜ?
だってミス・ゲームオーバーだから。
彼女は何かと情に脆く決断力のない武田真愛とか違うから。
涙が溢れ出す。
いつもだ。
こんな時はもう放っといてしばらく泣きたいだけ泣く事に彼女はしていた。
「よし! 全部終わり」
食事や風呂、洗濯、学校の勉強の復習まで終えて後は寝るだけの状態。
ログインするのはやはりこの状態がベストかと思う。
強制ログインされないようにトイレも済ましてある。
ベッドの下に隠されたイシュタル・オンライン専用のヘッドギアを取り出す。
兄の状態を考えれば妹がこれを使っていると知ったら両親は怒り狂うだろう、だから別居にも関わらずに隠している。
高性能でかなり高額の為、買うのは貯めてきたお年玉や貯金をはたいた物だ。
「では……あれ?」
ベッドギアを着ける寸前に気づく。
まだ済ましていない事があった。
お姉様云々で貰ったメールに返事をしていなかった。
ありがた迷惑でも表向き感謝の返答はしておかないと悪い、
「えっと……」
スマホを取り出してしばし考えてから人差し指でフリックし、
「お兄ちゃん娘なんで……お姉様はいらないです」
それだけで送信してしまうと、改めてヘッドギアを着けベッドに寝転がりスイッチを入れた。
いざなわれる白き世界。
何を見つけてきたかはまだ解らない。
何を得てきたかも解らない。
自分を選んだ神という存在。
シークレットレアの力をそれほど求め、新たな世界を造ろうとしている者達。
シークレットレアそのもの。
愛する兄の行方。
まだ何も解っていない。
その全ての答えが見つけられるか保証など有りはしない。
だがこの世界には答えがある筈。
明るく色づいていく仮想現実の世界。
まだ視界も開けてこない中で彼女はジャンパーの胸元にいつも指しているサングラスを探り、それをかけた。
同じ世界に行く。
そこに愛しい人がいきなり居てもミス・ゲームオーバーでいられるように。
終わり
最後まで読んで頂きありがとうございます。
作者の天羽八島です。
ミス・ゲームオーバーはこれで終わりです。
かなり強引な幕引きですが評価、アクセスを考えたら引き際かなと。
続編はありません。
作品としては個人的には好きですが続きをかけるような支持は得られてません。
ここまで読んでくれた方だから申しますと私はこれが初連載ではありません。
かなり前から合わせると十万文字以上の長編だけで数作を一応完結させたりやってましたが、あまりの不甲斐なさに一度なろうを引退したロートルなんです。
一作でも知ってる人がいたら奇跡なくらいに長いだけのマイナー作品書いてましたので多分にこの件は皆さんに関係ありませんが。
まぁ未熟なので初連載に見えます、今回は復帰作なんです。
初めはリハビリで軽い話を、と思ってたんですが何だか膨らみました。
膨らみましたが回収出来るまでは評価とユニークがキツかったというのが本音です。
MMOチート物にマイナー野郎が挑戦するとこうなっちゃうの巻です。
普通にそれが書けないんです。
これからも何だか斜めというより変な方向からのアプローチになると思いますが、執筆のペースを上げるつもりなので気が向いたら覗いて見てください。
愚痴みたいになりましたが最後に読んで頂き本当に感謝です、ありがとうございました!




