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第二十七話「蒼い軍団」

「探しにいかなくてもいいんですの?」

「いかなくても戻ってくるよ」


 ソラに対してラフィアンは楽観的にも聞こえるような口調で宿の廊下の端に置かれたソファーに腰を下ろした。


「どっちがですのよ?」

「さてね」

「戦えばリオン様をどうにか出来る奴なんている訳がありませんわ」

「それはゲームオーバーだって一緒さ、君は少しは闘ったんだろ? だったらこの議論が不毛に終わるのはわかるだろ?」

「……」


 それでもという反論は出来ない。

 自分はリオン・ルージュとは闘った事がなく、ミス・ゲームオーバーには完敗した身だ。

 そもそもが一方は騎士、もう一方はガンナーという二人の強さは議論の対象となりにくく、直接対決を観る方が早い。

 待っていれば結果は出るのだ。


「まぁ不毛を承知でいうなら……ボクはゲームオーバーが勝つと思うよ、強い弱いの関係ではなくね」

「強い弱いの関係でない?」

「ああ、あれで結構小ズルいからねゲームオーバーは」

「ズルい?」

「君のご主君はそういう所ないだろ? やっぱり最後はズルい奴が勝つのが現実さ」

「性格の違いでしょ? 私はリオン様のパーソナルというかプレイヤーのデータは全く知らないけどきっと育ちがいいんですわよ」

「どうかなぁ」


 クックックッとラフィアンは笑う。

 ソファーに脚を組み、どこかバカにしたような態度にソラはカチンときた。


「どういう意味ですのよ!?」

「この世界は所詮は嘘の世界だ、なんとでも嘘が通用する仮想世界だよ」

「言いたい事はわかりますわよ、リオン様とてもしかすればプレイヤーは男性かもしれませんしと言いたいのでしょ?」

「当たりさ、お姉様がオジサマだった……なんて事もあるのさ」


 頬杖をつくラフィアン。


「それでも良いんですのよ! わたくしはリオン様の現実にこだわってはいませんわ」


 一歩踏み出たソラが胸元に手を当てて口調を強くするとラフィアンの眉がピクリと動く。


「この世界が所詮は造り物である事は百も承知です、でもこの世界にいる時くらいは現実を忘れ心からこの世界を全てと思って自分を演じる、それがこのゲームを楽しむわたくしのイシュタル・オンラインのやり方ですの! 斜に構えて現実がどうのとは思いませんのよ、文句がありまして天才少年さん!?」

「……」

「違いまして!?」


 数秒間が空いた。

 その間に天才少年と皮肉られた少年は表情を変えた。

 優しい顔立ち。


「そうだね、文句なんてないよ……遊んでいる時くらいは現実を忘れてゲームのルールに乗っ取って全力で楽しむ、ゲームっていうのは元来そういう物だよね、そうだったね」

「……ええ、まぁわかってもらえたら」


 何処か物事を斜めから見ている様に見えたラフィアンの素直な切り返しに初めは肩透かしを喰らった様に頷くソラだったが、ふと表情を柔らかくすると彼の横に座り肩に手を置く。


「ゲーム……楽しんでます?」

「どうだろう、どうもボクはこっちの世界でも結局はあまり変われてないかも」


 ラフィアンは脚を組むのを止め俯く。

 さっきまでとはうって変わった。

 何か思い当たる節があったのかもしれないが、それはソラの知る由ではない。


「さっき結局は最後はズルい奴が勝つのが現実と言ったでしょ?」

「うん……」

「確かにそうかもしれませんが、この世界は現実ではありませんわ、お伽噺の世界くらい最後は正しい者が勝つ世界だと良いですわね」

「そうだね、あとさっきボクはゲームオーバーが小ズルいと言ったけど本当の彼女は違うと思うよ」

「かもしれませんわね」


 きっと現実では自分より歳上のよく頭の回る大学生くらいなのだろう。

 ラフィアンの態度からそう初めは考えたのだが実は違うかもしれない、頭が切れるのは確かだが年下かもしれない。

 そんな事を思いながらソラは少年に相づちを打つ。


「ソラ……」

「何?」


 見つめ合う少年と少女。


「困ったな」

「何が困ったんですの?」


 照れ臭そうに笑うラフィアンにソラは首をかしげた。


「言いにくいんだけど……」

「子供が遠慮するんじゃありませんの」

「じゃあ言うよ……」


 二人は身体を寄せ合う。


「仕留めそこなってたぁぁぁ!」

「ですわねぇぇぇっ!!」


 抱き合うように飛び退く。

 次の瞬間、座っていたソファーが真っ二つになり綿が大量に舞う。


「バリチェロっっっ!」

「よう、お二人さん」

 

 不敵な笑みを浮かべたバリチェロがいた。

 身体の所々に氷結魔法による氷がまだ張り付いたままだったが、身体にダメージが残っている様子はない。


「ソラさん、魔法石に込めてた魔法の威力が足りなかったんじゃないの?」

「そんな馬鹿な、わたくしはちゃんと最高レベルに近い三段階目の氷結魔法を! 貴方こそ発動のタイミングが早すぎたとか」

「どっちでもねぇよ!」


 仕留め損ねの責任を擦り付け合うラフィアンとソラにバリチェロは怒鳴る。


「俺にはHPがゼロになっても完全復活する特殊能力があるからだ! 何を喰らっても関係がないんだよ!」

「そんなっ……」

「シークレットレア!!」


 驚きに声が詰まるソラ、ラフィアンはその能力の原因を口にした。


「その通りだ、俺のバックに気づいたお前らにもう隠す必要はないよな! 俺はシークレットレアの使用者さ!」

「だからなんだって言いますのよっ」


 筋骨粒々の身体に大剣を手にするバリチェロ、舌打ちしたソラはラフィアンを庇うように前に踏み出た。


「だからと言って随分に余裕ですわね、宜しいですわ、今度は魔法石などという間接的ではなくわたくしの唱える直接の魔法を受けるといいですわ、四段階目の氷結魔法を見せてあげます、HPゼロから身体が復活しても氷づけなら動けませんでしょ?」

「確かにな……」


 バリチェロは脚を止めた。


「ソラ、お前は優秀な魔術師だし頭もいい、だからチャンスをやるぜ、今のうちに俺たちの側に付けばこの世界で美味しい汁を吸えるぜ!」

「おだまり外道」

「へへへっ、言うねソラさん、悪党に言ってみたい言葉のトップ100に入るね、今の」


 あまりにも単刀直入なソラの返答に笑うラフィアン、バリチェロはケッとそれを流すと廊下の隅に唾を吐いた。


「ならお前らは片付けるしかないか、いや一応は二対一だし逃げられでもしてゲームオーバーかリオン・ルージュの元にでも駆け込まれたら面倒くさいな、万が一の為に呼んでおいた仲間たちに緊急出動してもらうか」

「緊急出動!?」


 ソラが怪訝な表情をすると、緊張した場面だというのにバリチェロは勝ち誇った顔で剣を鞘に戻し両手を腰に当てる。


「ああ、お前ら平民ににとってもうこの世界は終わりを迎える、これからこの世界は選ばれた者達の為の第一世界に変わるんだよ! シークレットレアとその使用者を排除しようとするリオン・ルージュとミス・ゲームオーバーの抹殺は俺達にとって最重要事項だ!」

「第一世界!?」


 初めて聞く言葉。

 嫌な予感に唇を噛むソラの耳には外から行進のような足音が聞こえてきた。


「あ……あれはっ」


 近くの窓から外を見るラフィアン。

 窓から見えるアイアリアの街の中央公園。

 月明かりに照らされ彼等はいた。

 統一した蒼の軍服に身を包む数百の者達。

 仲間とかいう規模ではない。

 もう軍隊だ。


「な、な……な、なんですの?」

「なんだって軍隊だ、この世界を現実とかいう下らない世界と同等、いやそれ以上の世界として暮らしていこうという思いを現実にする為、結成された革命軍だよ、そして……」


 武装換装の短い魔法詠唱をするとバリチェロの鎧は光と共に外にいる軍団と同じ蒼い軍服に換わり、


「数百の同志全員が、シークレットレアの力を持つのだぁぁっ、これからはつまらん現実が第二世界に下がり落ち! この世界が我々の第一の世界として全てが成り立つのだ!」


 彼は拳を振り上げ愕然とするソラに勝利を確信した叫びを上げたのだった。



                    続く


 

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