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第二十六話「決着」

 初めの反応は沈黙だった。


「せっかく話したのに無反応かな?」

「いえ……すいません、貴女にそんな事情があったなんて」


 首をかしげたゲームオーバーにリオン・ルージュは慌てて謝罪する。


「そして……それを貴方を討伐に来た私に話してくれるのはどうしてですか?」

「リオン・ルージュになら話すのが無駄にならないと思った、たとえ」

「たとえ……?」

「この後であなたと決闘する事になったとしてもね」

「なるほど」


 笑みを浮かべ合う二人の間を草原の風が駆け抜けていく。

 揺れる黒髪と金髪。

 リオンの形の良い唇が先に動く。


「質問しても良いですか?」

「私が話しっぱなしになるけど構わないよ」

「なぜイシュタル・シンドロームの患者を帰還させる依頼を受けているんですか?」

「なぜって……まぁ他にも理由はあるんだけどね、一番は大切な人に自分のいる世界より仮想世界への旅立ちを選ばれてしまった人の気持ちが少しはわかるから、初めからいらっしゃいって依頼を受けていた訳じゃないけど、偶然知り合いになった情報屋のラフィアンに君ならと頼まれて一件受けてこなしたら口コミってヤツでね、それにシークレットレアを使用した相手を探していれば……いつかは」

「兄上に行き着く可能性もある、と」

「ええ、シークレットレアの売人や胴元から調べる事も出来るかもってね」


 リオンに向かいゲームオーバーは察しが良いねとばかりに口元を緩め頷く。


「そうですか……あなたがイシュタル・シンドロームの患者よりもその周囲の人々の為、抹殺の依頼を受けている事、そして兄上を探していられる事はわかりました……でもひとつ説明していない事があります、いや敢えて説明していない事があります」

「そう? なに?」


 人懐っこい笑みを浮かべたままのゲームオーバーよりも先にリオンは顔を引き締め、彼女を見つめた。


「決意したからといって貴女のキャラクターのレベルが勝手に上がる訳がない、貴女の強さは毎日頑張ってレベルを上げていたら数ヶ月でなれましたという強さでは無い、特にこの世界に公式には存在しないとされている銃器を具現できる魔法とそれを使いこなす能力、私にはどうにも府に落ちません」


 再び風が抜けた。

 ゲームオーバーの顔からはまだ笑みは失せない。


「私の強さに疑問を持つなら……私と同じくらい強い貴女の強さにも説明が必要だと思うのは不公平なのかしら?」

「なるほど……ね」


 フゥと息を吐くリオンにゲームオーバーは肩をすくめた。


「貴女がなぜ強いか聞いてもいい? 嘘でも良いから貴女が先に答えてくれたら私は本当の事を答えるよ」


 嘘でも良いから。

 ゲームオーバーの言い回しにリオン・ルージュは一瞬だけキョトンとした顔を見せた後、


「嘘なんてつきませんよ、良いでしょう、他人に話すのは初めてですが実は私の力は神から授かった物です」


 と、真顔で告白する。


「ホント?」

「嘘はつかないと言ったでしょう? 私はゲームを開始した時から自分でもステータスにブラインドがかかって確認できませんが、おそらく稀にみる高い能力値とこの世界に一振りしか存在しない天罰の剣ネメシスを神託と共に授かりました」

「ふぅん……」


 素直に聞けば衝撃の告白に違いないがついても良いと許可をした嘘だと決めたのかゲームオーバーは素っ気なく答え、膝を抱えて座りながらリオンを見つめる。


「レベル上げは?」

「してません、ここまでの闘いでレベルが上がった事がありません、もう上がらないまでレベルが高いのか、次のレベルまでの経験値が恐ろしいくらいまで遠いのか、これもまたブラインドがかかってわかりません」

「神様に金髪の女騎士になりたい、ってお願いしたの?」

「はい、昔プレイしたゲームのヒロインである女性騎士が私の理想像だったのと個人的に好きな朱をモチーフに……」

「案外にミーハーなんだ」

「すいません」


 話しすぎたとばかりにうつむき赤面するリオンはそれを誤魔化すかの様に顔を上げる。


「では私は話しましたよ、では今度は貴女がお話をしてください、貴女の能力の秘密を」

「うん、わかった」


 リオンの催促を嫌がる様子もなく今度は星の輝く夜空を見上げて数秒の間の後、ゲームオーバーは呟く。


「奇遇だね、実は私もそうなんだ……私もゲームを開始した時に神様に会ってこの能力を貰ったのよ」

「え!?」


 意味の理解できない難しい事を聞いた訳でもないのにリオンはその解説を促すような声を上げてしまう。


「もっとも私が望んだ容姿は兄が私のキャラクターを見たらすぐに気づくようにほぼ私と変わらない姿だけど、私もゲームを開始した直後から銃を具現化出来る魔法能力とレベル上げが必要のない能力があったわ」

「そ、そ……そんなっ」


 淡々と答えたゲームオーバーとは対称的にリオンはやや慌てた様子を見せた。

 そして冷静さを取り戻す様に意を決しゲームオーバーを見据える。

 もしかしたら自分の話に嘘をつかれたと思い、異種返しのつもりか?

 リオンは下唇を少しだけ噛む。

 

「その時に出てきた神は白髭の老人でしたか? それとも長い銀髪の女神でしたか!? 場所はキャラクターメイキングを行う生誕の神殿だったかゲームオーバー時に観る黄泉の泉だったかも答えてください」

「今度は嘘をつくんだね……相手は始めに神と名乗ったけど姿は見せなかった、成人の男性の声だけだったじゃない、それに場所はキャラクターメイキングを始める前、プレイヤー自身のパーソナルデータ入力後の真っ白な何もない自分の姿すら確認できない空間だった、そうでしょ?」

「そう……です」


 決して高度ではないが引っかけを躱された上に話してもいない真実を追加されリオン・ルージュは驚き頷く。

 合点がいった。

 リオンの告白にゲームオーバーが驚かなかったのは嘘と思ったからではなく、自身もまたそうだったからなのだ。


「バカな……貴女の特殊な能力はシークレットレアによる物だと噂になっていたし、討伐対象を決める時の神聖騎士隊会議でも貴女にシークレットレアを売り渡した売人の情報の裏付けも取れていると部下が……」

「私がシークレットレアを?」

「そういう確定情報が」

「その情報が嘘確定、いや嘘じゃなくて捏造情報であなたに私を誤解させようとしていたんじゃないのかな?」

「まさか……」


 確かにミス・ゲームオーバー討伐は隊の誰にも明かしていないスポンサーからのたっての希望だった。

 だがリオンとしてはミス・ゲームオーバーの仕事がイシュタル・シンドロームの患者やその協力者に限られている状態でゲームオーバーを討つのには乗り気にならなかったのだ。

 そこに飛び込んできたのがゲームオーバーがシークレットレアを使用しているという確定情報だった。

 その報せは渡りに船だった。

 大義名分も立つ上にスポンサーからの要求も果たせる。

 思い出せば自分で大した確認もなく確定情報と言われて信じてしまった。

 望んでいた情報だった事。

 調べてきた部下が一、二の信用の置ける者だった事が盲信の原因に違いない。

 情報の内容ではなく、それをもたらせた部下の信用をその情報の信用にもそっくり当て嵌めてしまったのだ。


「まさか……操られていた!?」


 嗚咽に近い後悔の感情を露にしつつ、リオンはその部下の顔を思い出す。

 その確定情報を自信満々に報告してきたのは……


『バリチェロ……!!』


 信頼している部下。  

 バリチェロはいつの間にか対象候補に上がったミス・ゲームオーバーの討伐をさりげなくも積極的に推し進めていた。

 公式にも存在しないオートマチック拳銃という武器はシークレットレアの様な非公式で常識はずれな物よる力でしか叶えられない。

 ネメシスによる誅罰に値すると。


「ゲーム開始時にすでに神様に能力を貰った事、私がなぜこの世界にやって来たかを考えれば、シークレットレアを使うなんて思う?」

「思わない……」


 話されたミス・ゲームオーバーの誕生の経緯を聞けば納得がいく。

 自分と同じように神を名乗る者からの力を得ていればシークレットレアを頼る必要はないし、兄が仮想世界に旅立つような一因を強く担った非公式アイテムのシークレットレアに良い感情を持っている訳がないのだ。


「あと、なぜ私とあなたが数千万以上と言われるプレイヤーの中で神と名乗る何者かに会えたも重要だね」

「ええ……」

「私はわかるわ」

「ぜひ……」


 リオンは瞳を鋭くした。

 なぜ自分にゲーム開始時からそのような能力が附随しているのか。

 解答が解らないからではない。

 その状態を受け入れつつも疑問に思い続けていた事だ。

 もちろんその推測はあるし、おそらくそうだろうと思う模範解答も用意してある、だがゲームオーバーの解答が聞きたかった。


「それは私達がゲームを始める前にある事を誓ったから……それで神様に目をつけられたんだよ」

「ある事?」

「パーソナルデータ入力時の問いかけ」

「……」


 ゲームオーバーの言葉に対するリオンの沈黙は肯定。

 そうだ。

 あった。

 パーソナルデータ入力時に……


「正直にお答えください、なぜあなたはこのイシュタル・オンラインの世界にやって来たのですか?」


 ゲームオーバーが口を開く。

 パーソナルデータ入力時の最後の質問。 

 必須記入となっているにもかかわらず非公開設定になっている一見、意味のないこの質問項目だった。

 必須記入であってもどうとでも答えられる。

 ネトゲ友達を増やしたい。

 話題のゲームをやりたい。

 非公開なら実は換金可能な裏ルートを使ってお金儲けがしたい、と書く者もいるかもしれない。

 とりとめなく友人に勧められたから、面白いと口コミや広告を見てと書くのも無難だろう。

 何とでも言えるこの非公開設定の問いに……



「シークレットレアと呼ばれている非公式アイテムを使い、人々のゲームの楽しみを踏みにじる卑怯なプレイヤー達や架空世界を良いことに安易に悪逆に走る者達をこの世界から打倒し、シークレットレアを根絶する」 

「兄を現実世界に取り戻し、災いに嘆く人達を産み出した忌まわしいシークレットレアを滅ぼす」



 月下。

 風が吹き抜ける草原。

 二人の少女は見つめ合う。

 そして……二人の間に何かが生まれようとしていた。




                    続く

 

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