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第十九話「強行襲撃」

「チェスですか?」


 応接間のテーブルで向かい合うバリチェロにリオンはやや抜けた声を出した。


「知りません?」

「すいません、わかりません」

「いやいや謝る程じゃないです、ログインしてもここで相手の動きを待つなんて暇だなと思うからゲームを用意したんですけど……ならカードを借りてこようかな?」


 ペコリと金髪頭を下げるリオンにバリチェロは後ろ頭を掻く。

 月曜日の夜。

 もちろん宿は常時七人から八人の班長クラスの騎士による厳重な警備に護られ、いつもリオンに付き従うソラが警備の指揮を取り別室に控えているが会議室に使っている部屋にはバリチェロとリオンだけがいた。

 

「バリチェロは将棋、わかりますか?」

「将棋? 大丈夫ですよ」

「ではやりましょう」

「いや……駒が無いなぁ、宿屋にはチェスはよくあるんだけど将棋盤がないのはファンタジーの世界観を壊さない為ですかね?」

「駒は要らないですよ」


 姿勢正しくソファーに座っていたリオンはおもむろに瞳を閉じる。


「頭の中に盤を思い浮かべて……」

「いやぁ、無理無理!」

「そうですか、残念です」

「すいませんねぇ、今度は将棋盤を用意させましょう、でも隊長強そうだから飛車角落ちで頼みますよ」

「了解です、バリチェロと将棋が出来る日を楽しみにしています」


 まったく……

 笑顔のリオンを見ながらバリチェロは胸の内で思う。

 リオン・ルージュという隊長はあまり冗談は言わないキャラクターだが天然な所がある。

 戦闘中や作戦会議の場では流石に無いがリラックスした場面では度々それを覗かせる事があるのだ。

  

「バリチェロ」

「なんです?」

「ところでミス・ゲームオーバーは来ると思いますか?」


 リオンからの問いにバリチェロは数秒間を置いて口を開く。


「今日は平気でしょう」

「あなたもそう思いますか? 私も今日までは平気だと思ってます」

「隊長も来るなら明日だと?」

「はい」

「ならソラにもそう言えば良かったのに、土曜日から根を詰めてます、疲れて肝心な所でミスをするかもしれませんよ」

「ええ……かもしれませんね」


 同意するとリオンはテーブルに上のカップの紅茶を一口飲んでから微笑む。


「でもソラはよくやっています、それにもしかしたら私やバリチェロが間違えていて今日襲撃があるかもしれませんしね、遣り甲斐を感じてよくやっている者を正確か判らない考えで縛るのはよくありませんよ、それに何が起ころうとも全ては隊長の私の不徳、あの娘に責任は一切ありませんから」


 その口調には十二分な優しさを感じる。

 ソラからリオンへの敬愛は言わずともだがリオンからもソラへの想いも感じ、


「失礼な言い方に聞こえたら謝りますが、お二人はまるで姉妹ですね」


 と、バリチェロは口元を緩めた。




         ***


 火曜日。

 街に夜の帳が降りた。

 まだ情報収集先からラフィアンは帰らない。

 時間までに有力な情報を持ち帰ってくれればとも思っていたが現実はそうは甘くないし、それを当てに動くつもりは無かった。


「さて行きますか」


 眼を見開くゲームオーバー。

 寝転がっていたのは裏路地の安宿のベッド。

 安価の宿は居心地はログイン登録をしていない場所が多くが見つかりにくい。

 今日は夕方にグレースの部屋にログインするとここに来ていた。 

 出発寸前にログインしてくれば良いのは理屈で解るが現実世界の真愛からゲームオーバーになるのは多少の時間がいる。

 依頼をこなす時などは数時間前にはログインしていた。


「もう隠す必要はないわね」

 

 姿を隠していたボロ切れを安宿のベッドに置き去りにして部屋を出る。

 紫のジャンパーとショートパンツにブーツ、黒髪の短いポニーテール。

 街の人間ならば知らないのが少数というミス・ゲームオーバーが久方ぶりに街に繰り出した。



         ***



 三階建ての建物を護る立場の人間がまず気を使わなければいけないのは当然、一階からの襲撃だが同じくらい気を付けるのが屋上の防御であろう。

 三階に護るべき者を置いていた時、屋上から襲撃されれば一階と二階の防御が無効化されてしまい直接護るべき者が危険に晒されるからだ。

 この火曜日の夜、警護を任されていたソラは今までよりも人数を増やし屋上にまで二人の騎士を隠して配置していた。


「まさか今日も来ないつもりではないでしょうに!? 今日が一番危険なのはこちらもわかってますわよ」


 軽装鎧に紅いマント姿のソラは魔法仕掛けの壁時計を見つめた。

 三階のリオンの元にはバリチェロ、一階のロビーにはソラが各々数人の騎士と共に詰め、二階には二人がどちらにも援護に回れるように配置してある。

 ゲームオーバーのレベルやステータスはまったく明かされていないが、神聖騎士隊の騎士でここにいる班長クラスともなれば街のチンピラや山賊風情とは話が違う。

 そのレベルの十数人の中に飛び込んでくるのは自殺行為に近いと自分は思うが、ゲームオーバーはやって来るとソラは確信し、そしてやって来ればリオンの手をわずらわせる事なく捕らえようと決心もしていたのだ。


「屋上に異常はないかしら」

「あれば三階の連中が気づくでしょう」

「そうね」


 一階に控えながらも屋上も気になる、ならば自らそこを護れば良かったのかもしれないが、もしかしたら真っ正面から一階にやって来るゲームオーバーもソラは想像できてしまい結局はここにいるのだ。


『あの銃弾は魔法の詠唱よりも早い、ならば遅れないようにするのみ』


 マントの裏に隠した小さなポーチ。

 中には十数個の魔法石。

 魔法を使えない者が魔法で攻撃したい時に使う場合がほとんどの物で魔法を入れ込めておけば、使いたい時に解除の詠唱一言で投げつけて入れ込めていた魔法を発動させる石である。

 魔法を入れ込めるにも高い魔力と精製技術が必要な上に媒体に宝石を使う為に高価だ。

 ソラのように高いレベルで魔法が使えるなら自ら魔法を唱えれば同じ効果なのだから魔法石を使うのはただコストがかかるだけになるのだが、今回は事情が違う。

 遠距離からでも瞬時に相手を撃ち殺すゲームオーバーが相手だ、魔術師にとっては天敵とも言える、呑気に魔法を詠唱などしていたら数秒も持たずに銃殺刑だ。

 それに対抗するのにスピードアップだけは確実に計れる魔法石を大枚はたいてソラは用意したのである。



『さぁ、いつでもかかってきなさいよ、ミス・ゲームオー……』



 突然の銃声が響き渡った。

 ソラは一瞬背筋が伸びかけたがマントの裏のポーチに手をかけて身構える。


「屋上から?」

「いや銃声は外からじゃない!」

「三階か、もう屋上は殺られたんじゃないだろうな!?」


 慌てる騎士達。

 違う。

 ソラは瞬時に考察する。

 屋上に二人位置したのは三階に敵襲を報せる間もなくやられるのを防ぐ為だ。

 何も報せられず二人がやられるとは思えない、そして三階にしては銃声は近かった。


「二階よっ!」


 予想外だった。

 まさか二階から?

 不意はつかれたが訓練された素早さで駆け出す騎士達。

 魔術師が本業のソラは敵わない、かなり後に続く。

 もちろん行き先は決まっている。

 二階への階段だ。

 だがそこには既に灰色の煙が二階からゆっくりと視界を塞ぎながら降りて来ていた。


「ゲームオーバーめ、火をつけたか?」

「外れよ……発煙筒、簡単な物ならこの世界にある物で造れるわよ」

「え?」


 騎士達は立ち止まる。

 答えは階段の上の煙の向こうから。 


「並んじゃダメっ!」

「遅いわ」


 後ろから続くソラが叫ぶがゲームオーバーの声は冷静だった。

 六連発の銃声が鳴り響くと階段に並んだ四人の騎士達とソラはその場に揉んどりうって倒れ込んだ。



                    続く 

    

  

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