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第十七話「疑心騎士」

 日が変わる直前の夜。

 宿屋の三階の十部屋ばかりあるフロアは全て神聖騎士隊の名前で貸し切りだ。

 その中で一番広めの会議室として利用している部屋、リオンは長机の上座で呟く。


「これで五日か……」

「リオン様を恐れているんです、ゲームオーバーと言っても所詮は賊徒です、騎士を相手には逃げ回るしか無いのですわ」


 ソラが椅子から立ち即座に答える。

 彼女の位置はリオンのすぐ隣。

 騎士の名は冠してはいるが、正式な職業は魔術師。

 副官的な役割を担う彼女はリオンの紅い鎧に倣い、紅い軽装鎧に紅いマントに身を包む。


「相手が相手だけに十数名と選りすぐったが他にも呼ぶか」

「人数を増やしてもゲームオーバーがログインしてこないなら意味がなかろう」

「挑発文章を表明するか? リオン様の名前で掲示板にも記せば」

「無視されたらそれこそ意味がないし、リオン様の名前でそんなゲスな事できるか」

「しかし……選りすぐったはいいが、各班長クラスをいつまでもここに張りつけたままには出来ないぞ」


 集まった十数人が様々な意見を言い出す。

 言い合いではないが統率がやや欠けた感もするのは各人が焦っているからだ。

 噂の暗殺者ミス・ゲームオーバーの討伐と喜び勇み、到着直後に既にゲームオーバーに倒されていたとはいえ、地元で強さが名高い山賊マイシュロスを隊長のリオンが圧倒、それで士気も高まった彼等だったが、目標の本命であるゲームオーバーが見つからないのでは仕方がない。

 そんな中で部下の一人が立ち上がり丁寧に頭を下げる。

 

「そろそろ夜も遅い、ログアウトします」

「私もすいません」

「ああ……御苦労様です」


 その者を皮切りに断りを入れてログアウトしていく者達にリオンは頷く。

 兼業しているスタイルが多いが登録された酒場の他に宿屋もログイン、ログアウトは可能である。

 きちんと登録がしてあればこの世界で購入した自宅などもそれは出来る。

 その地点の多さも捜索を困難にしている。


「明日は休みです、私はまだ平気ですわ、ログアウトアラームも付きませんし」

「自分もです」

「俺も」


 現実世界でも今も夜半だが、明日は日曜日であった。

 土曜夜のゲーマーには寝るには早いとまだソラに同意する者が多数いたが、


「私はそろそろ……」


 リオン自身ががそう口を開きかけた時、


「リオン様、宜しいでしょうか?」


 二人でフロア入口を見張らせていた部下のうちの一人が現れた。

 二人はNPC、ログアウトを希望してくる事はない。


「どうしました?」

「はい、実はゲームオーバーの情報を教えたいという娘が訪ねてきています」


 部下の言葉にメンバーの様子が変わる。

 ログアウトを希望した者も全員が緊張感を取り戻し、それを止めた。



         ***



「あなたは噴水公園沿いの酒場の娘ですね」

「はい、グレースといいます」


 部屋に通されたグレースはソファーに座りコーヒーを出され、リオンとソラに相対する。

 周りの者達はグレースに気を使ったリオンの命令で他の部屋か廊下に下がった。


「グレースさん、あなたの働いている酒場がゲームオーバーのログインホームであるのは調べがついてますわ、そんなあなたが私達に情報をくださるのかしら?」

「はい」


 ソラの探りにグレースは緊張気味ながらも首を縦に振る。


「でも……あの人達、ゲームオーバーとラフィアンはログイン出来る私の部屋に隠れて居座ってるんです、断ると何をされるか不安だし怖いし、でも……でも」

「落ち着いて、もう貴女は安全ですから、でもどうしたんですか?」


 顔を伏せるグレースにリオンは優しく訊く。

 主と仰ぐ者がそうならソラも強い態度は取らずに対応はリオンに任せ大人しく聞き手に回る事を決めた。


「実はゲームオーバーがパートナーのラフィアンとリオンさんを襲撃しようと計画しているのを聞いてしまったんです、だから彼女達がログインしてない間に何とかリオンさんに伝えないといけないと思って」

「リオン様を襲撃!?」


 聞き手に回ると決めた癖にグレースの口から出た事柄に叫んでしまうソラ。


「攻めてくるか、なるほど二百の山賊を逆に襲撃してしまったという彼女らしい」

「リオン様っ!」


 面白いとでも言いたげに笑みすら見せてしまうリオンをソラは睨む。


「相手はゲームオーバーですよ! 負けるとは思えませんが襲撃してくるなら備えないといけませんわ、なんならこちらから先手を打ってグレースさんの部屋を急襲してしまいましょう! 奇襲にもなりましょうし袋のネズミでしょう!?」

「緊急事態に笑ってしまったのは謝りますが、それは出来ません」


 リオンは笑みを見せてしまった事は謝りつつ、ソラの提案は即座に却下する。


「グレースさんの部屋を急襲すればゲームオーバーはグレースさんが私達に密告したと考えるでしょう? 上手く行っても後にグレースさんに迷惑がかかります」

「……ですね」


 ソラはリオンの意見にすぐに納得する。

 現実ならばゲームオーバーを確実に仕留めれば問題ないという意見は通るだろう。

 しかし、この世界での死はキャラクターのロストには繋がらない。

 三日後には復活を果たすのだ。

 ゲームオーバーを討ち果たし、自分達が立ち去った後でもグレースがゲームオーバーに仕返しを受けてしまう畏れがあるのである。  



 たった三日限定の誅罰。


 

 あまりにも半端な罰だ。

 神聖騎士隊が今まで討伐をしてきた者の中でそれを受けてもまた同じ事を繰り返す者はたくさんいる。

 でも改心してイシュタルオンラインを他人に迷惑をかけずに楽しむ事にして、正道に立ち返った者もたくさんいるのだ。

 それを導き先頭に立ちながらも今回のグレースに対する様に心遣いも行き渡るリオン・ルージュにソラは心から心酔していた。


「あの……まだ話には続きが」


 グレースは顔を上げた。


「なんですの? 他に困った事があれば遠慮なく……」

「いえ、実はゲームオーバーは火曜日までに決着をつけるって言ってたんです」

「火曜日までに? 火曜日までにって言ったんですの?」

「ええ、はい、廊下から聞いたんですけど確かに火曜日です」


 言葉を確認するソラに素直な様子で頷くグレース。

 リオンとソラは一瞬、互いの瞳を合わせるのだった。




「全面的に信じるんですの?」

「まさか……半々ですよ、まず証拠がありませんし、下手に下見をさせたら気づかれる可能性がありますから確認できませんけど」


 三階の窓から夜の街に消えていくグレースを見送りながらソラに訊かれたリオンは肩をすくめて答えた。


「わたくしも半々ですけれど、半端な備えでは対応出来ません、火曜日まではそういう対策を取りますわ」

「任せます、皆にもあなたから説明しておいて下さい……でも今日は平気ですよ」

「え?」

「実はもうネムネムなんです、彼女の話を聞いてる間は我慢しましたがもうログアウトしますから後はお願いします」

「寝落ちですの!? まだ明日は休日ですのに」


 急に眠さを顔に出した主人にソラは不満げに言ったが、


「失礼します」


 と、挨拶するとリオンは姿を半透明にさせていくのだった。 



続く

  

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