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第十六話「戯終潜伏」

 ミス・ゲームオーバーVSリオン・ルージュ。

 この対決の実現という話はアイアリアの街を瞬く間に駆け巡った。

 あっという間にプレイヤー間でどちらが生き残るかが賭けの対象になり、オッズはリオン・ルージュが騎士団を率いているという点で有利は動かないという事で3:1.5という離れたオッズがつけられてはいたが、一人が騎士団相手だというのにこの倍率差で収まっているというのは地元の人間がゲームオーバーの強さを支持しているという事実とも言えた。

 結果は早く出るだろう。

 何せリオン・ルージュは既に街に来ていて、街の幾つかの酒場のうちゲームオーバー馴染みの酒場にも姿を現しているのだ。

 すぐに鉢合わせして闘いになる。

 これが大方の予想だったのにもかかわらず闘いはまだ起こっていなかった。

 キャラクターサーチは当然のように非検索設定なゲームオーバーをリオンの部下達はゲームオーバーの捜索は続けているが全く見当たらない。

 こうして三日の時間が経過し、リオン・ルージュを怖れてゲームオーバーのプレイヤーがログインしていないだけという憶測が大勢を締め始めていた。




「行ける場所が限られるのは辛いね」

「私のせいじゃないわ」


 カーテンを締め切った部屋。

 ラフィアンの苦笑いにゲームオーバーは頬杖をついた。

 リオン・ルージュが連れてきた騎士団は十数人で隠れ通すのは不可能ではないが、ログインとログアウト地点である酒場にいる他のキャラクターの眼が曲者である。

 神聖騎士隊に通じているとは限らないが賭けに参加している者達が闘いを始めさせる為に密告しかねない。

 だがログインとログアウトは酒場でしか出来ないのだ。


「なぜ私がリオン・ルージュに狙われているか調べた?」

「ああ、僕も君とつるんでいるのはバレてるから何かと大変だったんだけどね……どうやら神聖騎士隊の討伐目標に君はなってるんだよ」

「討伐目標!?」

「なってもおかしくないよ、なにせ君はPC、NPCを含めて殺している人数はこの世界でトップクラスだ、それに神聖騎士隊はリオン・ルージュの主義もあるけど非公式アイテムの存在を認めてない、君の銃なんかは向こうから観たら完全にアウト」

「……なるほど、理由はあるわけだ」


 ため息をつくゲームオーバー。

 そこにドアがノックされるとラフィアンは素早くベッドの影に隠れ、ゲームオーバーは瞬時に両手に銃を抜き放つ。


「入りますぅ」 


 その声にゲームオーバーは銃口を下げた。

 小さな声をかけた後、慎重にドアを開けてきたのは酒場の看板娘グレース。

 手には小さなバスケットを持っている。


「入りますなんて、ここはあなたの部屋なのに悪いわね」


 銃をしまい笑みを見せるゲームオーバー。

 ラフィアンも安堵したように姿を現す。


「ゲームオーバーさんは店の常連さんですからね、これくらいの協力は出来ますよ、それにここは私の部屋ですから滅多に人は来ませんしね」


 褐色の肌を持つ少女グレースはニッコリと笑顔を返す。

 ログインとログアウトの拠点がある酒場。

 それらのポイントは酒場のホールや店の前を指すのが常識だが実はそうではない。

 ログイン指定がある酒場ならば、その場所は実は厳密には問わないのだ。

 たとえ酒場の便所であろうと、酒場に住み込みしている娘の部屋であろうとも。

 ラフィアンとゲームオーバーはグレースに協力を仰ぎ、快諾を得て彼女の部屋をログイン、ログアウト時の潜伏場所に利用していたのである。


「でもゲームオーバーさん、皆がゲームオーバーさんが逃げ隠れしてるなんて噂してるんです、それが許せなくって! 確かにリオン・ルージュさんは立派な騎士ですけど」

「実際、逃げ隠れしてるから文句はないわ……実力どうこうではなくリオン・ルージュと闘うのはなるべく避けたいのがホンネ」


 噂に憤慨するグレースに肩をすくめるゲームオーバー。


「いっそのことログインしなければ見つからないんじゃないですか?」

「そうはいかないわ、私達も神聖騎士隊にかかわる依頼を受けているからね、ログアウトしたままじゃ調べられないし、それに……」

「それに?」

「噂ならまだしもホントにログアウトしたままじゃミス・ゲームオーバーの名が泣くじゃない?」


 グレースの提案に答え、ベッドの上に座るラフィアンをゲームオーバーは見た。


「私達が依頼を受けたのと討伐目標になったタイミングが良すぎるわ、きっと神聖騎士隊の中で私の討伐をリオン・ルージュに進言した人間がいるはずよ、隠れてる間に私とラフィアンでその人物を当てられれば良かったんだけど」

「なかなか調べは進まないよねぇ、俺達はハッキリ言って指名手配状態だから、現実で掲示板とかも流してみてるけど中々……捜査網がキツくて街では動きづらいんだよ」


 ラフィアンは申し訳なさげに腕を組む。

 普段なら情報担当の彼を冗談混じりに責める所だが今回はゲームオーバーもそういう気にはなれない。

 条件が悪すぎる。

 十数人とはいえ憲兵隊顔負けの様相で街を一斉捜索されては敵わない。

 二人での聞き込みなど自殺行為になってしまうし、グレースとは正反対のベクトルで自分達に関わってくる者だって出てくるに違いないのだ。 


「ふぅ、こうなったら正攻法じゃ神聖騎士隊から依頼された相手を探す事は出来そうにないわね、こっちから動くわ」

「どうするのさ? 名案がある?」


 何かを思い切った様子で立ち上がるゲームオーバーをグレースと見ながらラフィアンは訊く。


「かなりリスキーな方法なんだけど……これ以上はこっちの都合も悪くなっちゃうしね」

「まさか……」

「結局は一回はやらないとダメな気がするわ、仕方ないでしょ?」


 ゲームオーバーの返事に意図を悟ったのか、元々冴えてなかったラフィアンの顔に焦りの色が濃くなる。


「え~、マズイってば! 考え直しなよ、上手くいっても後が」

「後の事は後でどうにかしましょ……まずはこのうるさい捜査網を鎮める策が必要ね」


 ラフィアンの反対を軽くいなして、ゲームオーバーは二人のやり取りを見ていたグレースに手を合わせた。


「ゲームオーバーさん!?」

「ゴメン、もう迷惑かけないから最後に頼まれ事していいかな?」


 突然の振りに数秒驚いていたグレースだったがすぐに、


「水臭いですよ、部屋まで貸して匿ってるんだから私はゲームオーバーさん一家みたいな物です」


 と、満面の笑顔をして見せたのだった。



続く

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