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第十五話「対峙宣言」

「どうするんだよ?」

「あれでマイシュロスを倒す!?」


 唖然とする野次馬達。

 紅い鎧の美少女騎士リオンは自信満々の顔をマイシュロスに向けている。

 決闘の中で彼女が手にしているのはテーブルクロスと深皿に盛られたバターピーナッツ。 

 一見正気を疑ってしまうがそれが冗談でも錯乱している訳でもないのはその毅然とした態度が示していた。

 それだけに……


「てめぇ……」


 顔を紅潮させるマイシュロス。

 決闘を愚弄されたと怒っている訳ではない、ただ自分がバカにされたと思っているだけだ。


「怒りましたか?」

「当たり前だっ」

「ならかかってくるのが常道ではないでしょうか?」

「言わんでもいくぜっ!」


 雄叫びを上げてマイシュロス突進する。

 目標のリオンは深紫の瞳を鋭くはさせるがその場を動かない。


「喰らえぇぇぇっ!」


 飛び込みの右のフック。

 走り込んだ勢いも加わった右拳がリオンの顔面の寸前で……制止した。


「な……!?」


 何が起こったか理解できない野次馬達。

 どうみてもリオンは避けていない、マイシュロスの方からパンチを止めたようにしか見えなかったのだ。


「こ、これは……」 


 状況を理解できていないのは当のマイシュロスも一緒であった。

 当然、パンチを止める気は無かった。

 美少女だからといって顔面への攻撃を躊躇するつもりも無かった。

 ポカンとしてしまう周囲をよそにリオン・ルージュだけが不敵に笑う。


「貴方の攻撃を全て防ぐ、そう言ったでしょう?」 

「この野郎っ!!」


 一度の不可解な失敗で諦めるようなマイシュロスではない。

 距離は目の前だ。

 右ストレートを振るおうとするが……


「無駄ですよ」


 リオンの声と共に右腕が止まってしまう。


「うおっ……ま、まさかっ?」

「そのまさかです」


 何をされたかようやく悟ったマイシュロスにリオンは告げ、右手の親指で弾くようにしたピーナッツを見せた。


「これは私の攻撃です、奇襲に対応するように本人の意思に関係なく攻撃に対してはシークレットレアの能力である皮膚の強力硬質化は発動するんでしょ? パンチの旋回軌道の始点は肩からです、パンチの瞬間にそこを攻撃すれば硬質化しますよね? 皮膚の硬質化という事は動かなくなる事、肩が止まればパンチも止まります」

「なるほど! 奇襲に対しても完璧に対応する自動発動の能力は確かに便利だけど、当たった打撃の大小にかかわらず攻撃と見なせば硬質化してしまうんですのよ、マイシュロスの意思とは無関係に!」

「なるほどなぁ、指で弾いたピーナッツを当てる事でその部分を硬直させられるのか、たとえ一瞬の硬直でも筋肉の動きの流れが止まってしまえばパンチなんて意味がねぇな」


 リオンの説明に手を叩くソラとニヤリと笑うバリチェロ。


「バカな、そんな」

「シークレットレア……私はそんな物、要りませんよ」


 意外すぎる弱点に狼狽えたマイシュロスに向かってリオンは連続して両腿にピーナッツを放つ。


「グワッ」


 攻撃に反応して硬質化する。

 ほんの一瞬、しかしリオンにとってはそれは長すぎるくらいだ。


「やっ!!」


 鋭い掛け声と右のローキックがマイシュロスを襲う。

 ふくらはぎ辺りに命中したローキックに対しても皮膚の硬質化はもちろん反応する、それ自体がダメージになることは有り得ない。

 だがそんな事はリオンは承知だ、あくまでも両足を刈る様に放たれたそれの目的はダメージではない、バランスを崩させる事にあった。


「ぬわぁぁっ!?」

「その自慢の能力もバランス感覚までは補ってはくれないようですね」


 転倒して仰向けになるマイシュロス。

 素早く起き上がろうとするが、リオンの右手から鷲掴みにされた無数のピーナッツが叩きつけられると身体の何ヵ所もが硬質化をしてしまい動かなくなる。


「があぁぁぁぁぁっ!」


 叫ぼうが止めようはない、自答的に発動してしまう能力なのだ。


「寝かしつけて上げますよ」

「ぐもももっっっ!!」


 叫んだ瞬間に口に詰められたのは丸めたテーブルクロス。

 ようやくリオンの狙いを悟ったマイシュロスは両手でそれを取ろうとするが再びぶつけられるピーナッツに身体はまたもや動かない。


「ぐむむむむっっ」

「肺の空気は殆どありませんね? では、そこです」


 見下ろすリオンは紅いブーツでマイシュロスの喉を踏みつけた。

 無論、喉回りの皮膚が硬質化する。


「喉の皮膚を動かさずに……呼吸してみてくださいな」


 冷たく見下ろす深紫の瞳。


「んんんっっっっっ!!」


 涙目でバタバタと暴れまわるマイシュロスだがリオンの踏みつけは解けず、ほんの十数秒で白目を向いてグッタリとなった。


「予告通り、賊らしい無様な負け方でしたね」


 リオンはマイシュロスの喉にかけていた脚を降ろす。

 窒息したマイシュロスは動かない。

 決着である。



「マジかよ!?」

「ホントにピーナッツとテーブルクロスでマイシュロスを倒しちまった」

「つえぇ」


 どよめく野次馬達。 


「リオン様、御苦労様です、見事でした!」

「さてと……下衆の退治は済みましたし、食事の続きをしましょうか?」


 リオンは駆け寄るソラに少しだけピーナッツが残った深皿を渡すと金髪の後ろ髪をサッとなびかせる。

 その姿に……


「シークレットレア持ちのマイシュロスが全く相手になってねぇ」

「もしかしたら……」

「ゲームオーバーより強いかもしんねぇぞ!?」

「どうかな? ゲームオーバーは銃を持ってるんだぜ、それも持っているだけじゃねぇからな」


 興奮気味に語り合う野次馬達。 

 その横を通り過ぎようとしたリオンは歩みを止め顔を向ける。

 視線を向けられた中年の男は気圧された様子で彼女を見返す。


「な、なんだい?」

「今……ゲームオーバーと言いましたよね? それはミス・ゲームオーバーの事ですか?」

「あ、ああ……アンタも強いがミス・ゲームオーバーも強いぜ」

「そうですか」


 再び歩みを始めリオンは高らかに言った。


「ミス・ゲームオーバーか私リオン・ルージュか、どちらがより強いかはすぐにわかります、私達は彼女を討伐する為にここに来たのですからね」



                    続く  


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