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第十四話「賊騎対決」

 酒場のすぐ外。

 白い肌に金髪、紅い鎧の美少女リオン・ルージュと褐色の筋骨隆々の大男マイシュロスが数メートルの距離で向かい合う。

 知名度はリオン・ルージュが勝るがマイシュロスの強さも知っている地元の野次馬達は闘いに巻き込まれない様、酒場の中からや少し離れた場所で観戦を決め込む。


「腰の剣がお前の自慢なんだろ? 早く抜いて見せてくれよ?」


 マイシュロスはせせら笑う。

 リオン・ルージュの剣はイシュタルオンラインの世界でも一振りしか存在しない宝剣と噂されていたがその剣がどのような物かという話は聞こえてこない。


「自慢した事はないし、剣を抜くか抜かぬかは貴様次第だ、期待に沿えないのは申し訳ないが貴様程度では剣は抜かずに済むと思うぞ」


 マイシュロスの挑発にリオンは不敵に笑い、剣を抜かずに歩いて距離を詰める。

 周りの者達が沸き上がった。


「コイツ……」


 沸き上がる怒りに顔を歪めるマイシュロス。

 互いの体格差は一目瞭然、それでもリオンは剣を抜かずに接近戦を正面から歩み寄り挑んできたのだ。

 マイシュロスはファイティングポーズに構えるがリオンは相変わらず歩いてくるだけだ、ガードも上げていない。


「フンッ!」


 マイシュロスの鋭い右ストレートパンチが綺麗な鼻筋を狙うがリオンはギリギリで顔を背けてかわす。

 続く左フック。

 初めの右ストレートは囮だ、上体を傾かせてのこちらが本当の攻撃だが、リオンは傾いたままの上体をクルリと回転させそれをも見事に回避して

そのままマイシュロスの大きな身体の懐に入り込んだ。


「……なっ」


 まるで蝶の様に舞う。

 二発の攻撃を躱すだけで周囲の者が沸く。

 動きに華がある、魅せる。


「取った! いきます!」


 素早い展開に戸惑うマイシュロスにリオン・ルージュはニヤリと笑い……

 両手で圧すようにマイシュロスの胸を強く突く。


「うおぉぉっ!?」


 少女の力だというのにマイシュロスの巨体は弾かれた様に吹き飛び、大地に背中から叩きつけられた。


「出ましたわ、リオン様の接近戦の得意技、圧勁【あっけい】!」

「完璧に入った、あばら骨二、三本貰ったな、相変わらず滑らかに動くぜ、隊長は!」


 やったとばかりに拳を握るソラに腕を組みながら口笛を吹くバリチェロ。

 野次馬もあまりに見事な攻撃に歓声を上げる、しかし当のリオンは鋭い瞳のままで相手を突いた両手を険しい表情で見つめる。


「この感触!?」 

「効いてないぜぇ!」

「なっ!?」


 リオンは眼を見張る。  

 吹き飛んで倒れた筈のマイシュロスがまるでノーダメージで素早く立ち上がり、リオンの目の前に飛び込んできたのだ。


「そんな!? 圧勁はまともに入ったはずですのにっ!?」

「あばら骨ごと肺を強烈に圧されて、即座に反撃できるのかよ!?」


 マイシュロスの早すぎる復活にソラもバリチェロも驚愕する。


「そらよっ!」

「……くっ!」


 飛び込みながらのマイシュロスの右のフックがリオンの左頬を狙う、対してリオンは左のガードを素早く上げ直撃は避ける、しかし軽量の身体は派手に吹き飛ばされた。


「リオン様っ!?」


 ソラが悲鳴に近い声を上げるが、


「ちっ、反応のいいヤツだ」


 マイシュロスは舌打ちする。

 不意をついた攻撃にガードを間に合わせた上、リオンは吹き飛ばされはしたが受身をとって態勢を立て直し片膝をついて構えていた。


「堅い皮膚を持っているようだ、圧勁がまるで鉄の塊を押したかのような手応、それに……」

「攻撃を加えられた時だけ瞬時に硬化する自動防御、ちなみに殴る瞬間にも硬化できる、さっきのパンチを防いだのは流石だったが左腕はどうだい?」


 わずかに表情を歪め左腕を見るリオンをマイシュロスは嘲笑する。

 パンチを防いだ左腕が赤く腫れていた。


「シークレットレアの特殊能力か?」

「当たりだ、アンタも持ってるかい?」

「いや……持ってない」

「へぇ、天下のリオン・ルージュ様もシークレットレアは持ってないのか? これは自慢できるなぁ」


 嘲笑を続けるマイシュロス。

 片膝をついた態勢からリオンは立ち上がる。

 深紫の瞳は鋭い。


「この世界の理から外れた物による能力を得て何を自慢したいのか解らんが、貴様には少し恥という物を学んでもらう必要があるな」

「本気になったか? 自慢の剣を抜いてくれるかい?」

「いやいや理知らずの下衆に騎士の剣はもったいないよ」


 ふとリオンは薄笑いを浮かべると野次馬の中にいるソラに目配せした。


「リオン様! わたくしに何かご指示でございますかっ」


 野次馬をかき分け駆け寄るソラ。

 リオンは耳打ちする。


「済まないが店内に戻って……」

「え? わ、わかりましたわ」


 耳打ちされた彼女は一瞬理解に苦しむような顔を見せたが、すぐに頷くと店内に走っていって指示されたそれを持ってきてリオンに手渡す。


「なんだ? そりゃ」


 眉をしかめるマイシュロス。


「あれは!?」


 野次馬と一緒に見守るグレースも思わず声を上げてしまう。

 ソラが店内に戻りリオンに手渡したのは深皿に盛られたバターピーナッツとテーブルクロス。

 バターピーナッツはバリチェロの酒のつまみ、テーブルクロスはリオン達のテーブルに敷かれていた物だ。


「ああん? 俺と飲みたいのかい? アンタみたいな美人が酌してくれるなら悪くはねぇぞ、酒ももってこさせろよ」


 軽口を叩くマイシュロス。

 リオンはテーブルクロスをクルリと左手に軽く巻きつけるとその手で深皿を持ち、


「残念だが下衆と交わす酒はないし、下衆に振るうような剣も持ち合わせていない……このテーブルクロスとバターピーナッツで貴様の攻撃を全て防いで倒すつもりだ、なるべく無様にな」


 と、冷笑を浮かべるのだった。



                    続く 


 

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