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第十三話「来訪少女」

「神聖騎士隊来たる」


 この報が街の酒場では旬の酒の肴として話されていた。

 リーダーのリオン・ルージュという美少女騎士に率いられた集団はモンスター討伐を普段はしているが、時としてイシュタルオンラインで能力を盾に好き勝手に行動する輩を粛清する義士団として有名だ。

 人数はPC、NPC合わせて数十人に過ぎない集団だが各々が40を越えるレベルの者達で編成されており、特に幹部クラスはプレイヤー全体でも数パーセントと言われる60レベルに近いという噂もある程で数倍の数の盗賊団を一夜で撃滅した事もあるという。


「その神聖騎士隊が何の用事でこの街に来たのかねぇ?」

「布教だろ?」

「そうかねぇ、だったらもっとデカイ街、南のアーリンバーグに行くんじゃね?」

「じゃあ誰かを討伐に来たか?」

「そんな大悪党いたか? モントレイの森のマイシュロスもメチャクチャにやられてからはスッカリ大人しくなったって話だろ」

「もしかして、そのマイシュロスを部下ごと全滅させて大人しくさせちまった奴の方に用事があるんじゃねぇか?」

「まさか……」


 酒場の者達の噂話がそこで止まる。

 ミス・ゲームオーバーと神聖騎士隊のリーダーのリオン・ルージュ。

 対等と言ってもいいビックネームの名前が相対した。 


「まさか闘わないよな?」

「しないよ、しない、したらお互い只じゃ済まないんだからな」

「それは周りもな」


 またもや止まる噂話。

 普段は客達の噂話には耳を傾ける様子をしない酒場のマスターまで手が止まった。


「しばらく街を出るか?」

「アハハハハ……まさか、ゲームオーバーとリオン・ルージュがいくら強いからって」


 冗談が冗談に聞こえず笑えない雰囲気に酒場娘のグレースが思わずため息をついたのと、入口の両開きの木戸が開いたのは同時だった。


「いらっしゃ……」


 三つ編み褐色肌の元気のよい酒場の看板娘の声が止まる、ドアを開けたのは一人の身長の小さな少女だった。

 胸と腰周りをガードする紅い鎧に紅いブーツ、腰から下げた剣。

 金髪のセミロングヘア。

 紅い鎧の下に着たインナーから身体は全体的に細いのが判る。

 深紫の瞳に白い肌、顔立ちは非常に高いレベルで整い、150㎝を少しだけ越えたくらいの小柄な彼女だが高貴な雰囲気があった。


「リオン……ルージュ!?」


 思わず呟いてしまってから口を塞ぐグレース。

 金髪の美少女は一旦、キョトンとした表情を浮かべたが、


「ああ……そうです、初めての店で名前を当てられた事はありますが入った途端に言われたのは初体験ですね」


 そう言ってフッと形の良い唇を緩めた。 




        ***



 リオン・ルージュは一緒に連れ添ってきたらしい大柄の騎士鎧を着た男と皮の軽装鎧にマントを羽織った少女と一緒にテーブル席につく。


「い、いらっしゃいませ」


 震えた声でメニュー表をテーブルに出すグレース、騒いでいた周りの者達も静かだ。

 先程まで酒の肴にして噂話をしていた相手がいきなり現れたのだ、不埒な行為には誅罰を辞さない神聖騎士隊の話もあり、恐れまでいかなくとも闘ってはまず勝てない強力な相手への強い警戒心は解けない。

 そんな雰囲気を知ってか知らずかリオン・ルージュは特段周りを気にする風はない。


「バリチェロ、ソラ、何を頼む? ここは私が出しますよ」

「じゃあ俺は酒だな、この辺りは久し振りなんでな、地の酒の味を忘れちまったぜ」

「私は葡萄のジュースでお願いしますわ」


 リオンに振られ部下らしき二人は机に置かれたメニューを見て答える。

 バリチェロと呼ばれた男は黄色系の肌に緑がかった髪を短く逆立てた大柄の筋肉質。

 ソラというのは銀髪を長いツインテールにしたつり目だが可愛らしい蒼い瞳の少女、身長は150半ばを越えるくらいでリオンより大きい。

 バリチェロは二十歳前後、ソラはリオンと同じ十五、六に見える。 

 

「葡萄のジュースか、私もそれに……いや檸檬のジュースにしましょう、あと酒飲みがいるので適当にツマミを見繕って下さい、お願いします」

「わ、わかりました」


 丁寧な口調でリオンに注文をされるとグレースはその温和な態度にだいぶ緊張から解放された様子でニッコリ微笑む。

 それを受けて周囲の者達も段々と互いに酒や食事を楽しみ始める雰囲気を取り戻す。

 その様子にリオンは優しげな笑みを見せた。


「お待たせしました!」


 グレースが注文された品をリオン達のテーブルに並べる。


「来ました、来ました!」

「おつまみは私も頂きますわよ」

「そうですね」


 三人は周りの客たちと同じように飲み物を飲み、ツマミを食べ始めた。

 周りも噂のリオン・ルージュが気になりはするが警戒心のような物は無くなりかけていたが……


「アンタが神聖騎士隊のリーダーとやらのリオン・ルージュさんかい?」


 いつの間にか来店していた一人の男が三人のテーブルの前に立ち、明らかに友好的でないトーンで口を開いたのだ。



 途端に凍りつく空気。



 相手も友好的に酒場にやって来ただけなのに。

 何を突っかかってるんだ?

 周囲はそう言いたげだ。


「いかにも……訊いたのならそちらも名乗られたらどうですか?」


 リオンはジュースを置いて立ち上がる。

 美しい深紫の瞳が何か鋭さを帯びるが、身長は目の前に立つ男の胸元にも届かない。


「チビだな」

「あなた……っ!」

「身長の事で女子を見下ろしても男子の自慢にはならんだろう? ご立派な体躯の貴方の御尊名をさっさと名乗ったらどうですか?」


 ニヤついた男に座っていたソラが目つきを変えるが、リオンがそれを手で制して名を訊ねる。


「俺の名はマイシュロス、お前の騎士隊が俺の獲物に手を出そうとしていると聞いて止めさせようと来たんだぜ」


 男の返事に周囲がざわついた。

 つい最近まで街の近くのモントレイの森の支配者として君臨していた山賊だ。


「獲物?」

「聞いてるんだぜ、お前がゲームオーバーを討伐に来たって話をな? もし本当なら力づくでも遠慮願いに来たって訳だ、アイツには俺がリベンジすると決めてるんでな」


 マイシュロスはリオンを上から睨み付ける。

 それで周囲もマイシュロスがなぜここに来たかを悟った。

 神聖騎士隊がゲームオーバーを討伐に来るのではという話を聞いて、ゲームオーバーには直接自分で手を下して復讐を果たさないと気が済まないマイシュロスが隊長のリオンに突っかかっているのである。


「リベンジ……では貴方はミス・ゲームオーバーに一度負けているのですね?」

「あれは奴に隙をつかれただけだ! 実力では勝っていた! 俺はアイツにたくさんの部下と森の縄張り、そして面子をメチャクチャにされたんだ、他の奴に手を出させるかっ」


 負けている。

 リオンの発した言葉にマイシュロスは敏感に反応してテーブルを強く叩く。

 酒やジュースがこぼれ、ツマミがいくつか皿から落ちる。


「おいっ……このっ」

「バリチェロ、待ちなさい」


 ソラに続き立ち上がりかけるバリチェロ、それも手をかざして制するとリオンはマイシュロスに向き直る。


「森の縄張りとは何ですか? 貴方は行政官か軍人だったのですか?」

「んな訳ねぇだろ!? モントレイのマイシュロスと言ってもわかんねぇのか! モントレイの森で怖れられた男だ!」

「なるほど……」


 怒鳴ったマイシュロスにリオンは顎に手を当てつつ頷くと踵を返し、酒場の入り口に立つ。


「な、なんだ? 帰るのかよ?」


 意図が見えないマイシュロスの問いに対して、リオンは深紫の瞳を鋭く差し向け、


「帰るわけがない、モントレイの森で怖れられた男と貴様は名乗ったが、所詮はただの賊だろう? 貴様と私はこれから表で決闘だ」


 と、言い放った。



                    続く

  

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