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第十二話「喧騒会議」

「十歳の男の子が依頼者だけど、もしかしたら依頼内容は少し面倒くさいかもよ」


 神妙なラフィアン。

 木製テーブルの上の大皿にはバーベキュー串に刺さった大振りの肉。

 いつもは酒場でやる打ち合わせがラフィアンに今回は気分を変えて外に出ようと促され、街の中央広場にある焼き物を出す屋台のテーブルで行われていた。

 街の中央広場は広く出店も多い、冒険者パーティ等の待ち合わせにも頻繁に使われておりなかなかの喧騒だ。

 出店のテーブルに座っている男女の会話など気にする者もなく、周囲が騒がしく少なくともゲームオーバーに気づかれない距離での聞き耳は難しい状況だ。


「面倒くさいかもって、早い話がヤバい相手が関わってるって事でしょ?」

「まぁね、そういう事」


 ゲームオーバーの探りに抵抗せずアッサリと白状するラフィアン。


「いやぁ……だからカズヤ君、二日前に依頼をくれた子供のお父さんをこっちからと現実から調べてみたんだけどさ」

「カズヤ君のお父さんが実はヤバい職業とか? 嫌よ、そういうのは」

「違う、違う、ヤバくはない、ただ……現実界のカズヤ君のお父さんはある会社の社長さんなんだよ」

「なるほどね、その社長さんが何か嫌な事があってシークレットレアを手に家族や社長としての責務を棄ててイシュタルオンラインの世界に旅に出た訳?」

「ん~」


 ラフィアンは少し唸ってからテーブルに手をつき身を乗り出してゲームオーバーに顔を近づける。 


「な……何よ!?」

「いいから聞いてよ、実はカズヤ君のお父さんは大金を払って病院に世話を頼んでから入院してログインしてる」

「それは……」

「しばらく帰るつもりはないけど仮想自殺じゃないって事だよ」

「目的がある?」

「永遠にログインしたいとかいうゲーム狂でも無ければね」


 ラフィアンは頷く。

 仮想自殺なら病院に入院して世話を頼んでからログインなどしない。

 ラフィアンのいう通りゲーム狂でも無ければ何か目的があり、それを果たしたら帰るつもりというのが自然だろう。


「それをカズヤ君に話して、仮想自殺じゃなくていつか帰ってくるからと説得してみる?」

「してみた、けどどうやら普段から家庭を省みないお父さんだったらしくて、今回の事も奥さんにも話さないでログインしっぱなしだからどうしても、って言われた」

「なるほどね……でも普段から家庭を省みないお父さんがゲームにログインしっぱなしというのも不自然じゃない?」

「流石はゲームオーバー、いい質問だ」


 ゲームオーバーは素直な疑問を口にするとラフィアンはそういう質問はわかってましたよ、といった風に口元を緩めて、乗り出した身を引いてテーブルに座り直す。


「カズヤ君のお父さん、笠原総一は実はゲーム開発会社の社長なんだ、もちろんこのゲームの開発管理会社であるイシュタルコーポレーションのじゃない」

「どういう事?」

「さぁ? だから言ったろ、面倒くさいかもよってさ」


 肩を竦めて見せてくるラフィアンに対してゲームオーバーは椅子の背もたれに腕をかけた。


「そうでもないわよ、彼が何をしようとしているかは関係ないわ、依頼は単純、彼のキャラクターを抹殺するだけ」

「それがそこもそうはいかない」

「なによ?」

「ゲーム開発会社の社長が相手でね、ガードが堅くてキャラクターの事がほとんどわからなかった、容姿もキャラクター名もね」

「それじゃあ……」


 始めての事だ。

 大抵、ラフィアンは相手の情報を丸裸にしてくるのである。

 キャラクター名、容姿、シークレットレアで得た特殊能力以外のステータス、仲間の有無、拠点としている場所。

 それらが揃わない方が珍しいラフィアンの情報収集力でもキャラクター名すら探らせなかった相手はそういう意味では既に手強い。


「確かに面倒くさいわね、でも全く何もわからなかったんじゃないでしょ?」

「そりゃあ、もちろん……相手が何処にいるかはわかるよ」

「場所がわかってるのに相手がわからない?」


 眉をしかめるゲームオーバー。

 ラフィアンは苦笑い。


「正確に言えば所属している組織がわかったって事だよ、その組織に属しているのは判明しているんだけど誰だかはわからない」

「なるほどね、どこのギルド?」

「う~ん、何と説明しようか、どう説明したら君に怒られないか……」

「ハッキリ組織名を言いなさいよ、面倒くさい要因はそこにもあるんでしょ? 怒らないから」


 苦笑いのまま悩み出すラフィアンにゲームオーバーは薄目になる。


「じゃあ……白状するよ、彼が所属している組織は神聖騎士隊だよ」

「リオン・ルージュ」

「詳しいねぇ、まぁ君に並ぶか並ばないかの有名人だから彼女は」


 神聖騎士隊という単語にゲームオーバーはつい反応してしまう、ラフィアンはホゥといった顔を見せた。


「確かに面倒くさいわね、それも誰かも不明なんだからね」

「でもいい話もある」

「期待してないけど言ってもいいわ」

「神聖騎士隊がこの街に近くやって来る、目的は布教か宣伝かよくわからないけど」

「それは良いわね、遠くまで調べにいく手間が省けたわ、来たらメール頂戴、あと神聖騎士隊への調査は続行しておいて、今日は帰るわ」

「りょうか~い、今回は情報もないから君がやらないとか言い出さないか不安だったよ」


 席を立つゲームオーバーに少しだけホッとした愛想笑いで手をふるラフィアン。

 

「ちなみに来るまでに相手の名前が判明しなかったらあなたも私について神聖騎士隊を調べるのよ、これじゃ情報収集の責任を果たしたとはいえないから」

「ええっ?」

「果たしたつもりなの?」


 ゲームオーバーの立ち去り際の言葉に驚くラフィアンだったが、キッと睨まれてしまうと、


「相手が来るまでに頑張ります、もしダメでも来てから頑張ります」


 そう諦め顔で答えるのだった。 

  



                    続く 

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