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第十話「永久連射」

 洋館のロビー。

 二階へと続く大階段の前に皮の軽装鎧に身を包んだ男は追い詰められていた。

 逃亡を諦めて振り返る太い腕は見てわかる位にプルプルと震え、手に持った蛮刀もそれにキチンと習っていた。

 

「や、奴等は、庭に詰めていた俺の部下達はどうした? 十五人もいたんだぞ!」


 腕のそれに負けないくらい震えた怒鳴り声を上げた虎髭の男。


「十五人ね……」


 前に立つ少女は男に少し同情の入り混じった笑みを見せる。

 少女は短いポニーテールにサングラス、Gジャン、ショートパンツ、スニーカー。

 右手にはオートマチック拳銃というイシュタルオンラインの比較的古典的ファンタジー世界には不似合いな格好。

 少女の名はゲームオーバー。

 イシュタルオンラインには様々な理由で有名PCキャラクターが存在するが彼女はその中でもかなりの有名キャラクターの一人だ。


「十人しかいなかったわよ、でもその人達ならPCだったら三日お休み、NPCだったらロストしたわ……足りない人は逃げちゃったのかも、まぁいてもあんまり変わらなかっただろうけどね」

「な……お、俺の虎狼速撃隊が!?」


 余裕のゲームオーバーに驚愕に言葉が出ない虎髭男。

 PCだったら三日お休み、NPCだったらロストという意味はイシュタルオンラインをプレイしていれば知らない者はいない。

 HPが無くなったという意味だ。

 サングラスの女は拳銃を彼に向ける。


「虎だか狼だか猫だかナメクジだが何の集まりか知らないけどリーダーさん、私はあなた達が護衛してるセシリアっていう女の子を仕留めたいだけなの、あなたも多分PCだろうけど三日お休みしたくなかったら邪魔しないで先に進ませて」

「……くっ」


 歯を食い縛る虎髭男。

 予想以上を遥かに越えた相手に虎髭男は混乱していた。

 素直に降伏する手もあったのだが闘った仲間達のリーダーである手前、そうもいかない等と考えてしまったのだ。

 蛮刀を持つ手に力が入った瞬間、ホールに銃声が轟き渡り虎髭男は大の字に倒れる。


「ちゃんと待たなくて悪いわね、私はどうも手が早いのよ」


 肩をすくめて大階段を二階に上がり、二階の正面にあったドアを開ける。

 広い部屋だった。

 そこには立派な天蓋付きの大きなベッドに高級そうな調度品が幾つもあり、大きな窓際の安楽椅子に十代半ば金髪で色白の美少女が座っていた。

 金髪の美少女は銃を持ったゲームオーバーを見ても驚かずに安楽椅子のひじ掛けに頬杖をついていたが、


「セシリアさん、いや丸田裕美子さん、あなたの夫と子供さん達の依頼で参りましたミス・ゲームオーバーといいます、要件はわかってると思うけど今すぐログアウトポイントに私と来て頂きたいのですが……」


 そうゲームオーバーが切り出すと一瞬にして険しい顔を浮かべて立ち上がる。


「丸田裕美子!? 誰よそれ!?」


 美少女はヒステリックに叫んだ。

 何件も仕事をこなしてきたゲームオーバーにはほら来た的な反応で驚く種類の物ではない。

 ゲームオーバーはフゥとため息をついてセシリアに再び向き直し銃を構えた。


「セシリアのプレイヤーである丸田裕美子さん三十八歳を迎えにきたの、すぐにログアウトポイントに来てもらえるかしら!」


 ゲームオーバーに躊躇と油断はない、今まで大抵のキャラクターが簡単には諦めず抵抗を試みてきたのだ。

 ラフィアンの報告によれば丸田裕美子のキャラクターであるセシリアはレベル10程度の初級だがシークレットレアを得た際に付与される特殊能力がある、何が出てくるかわからないのだ。


「ううっ……嫌よ、もう私は大金持ちのセシリアなの! あんなローンが何年も残ったような小さい家には戻りたくないの! 私はセシリアなのっ!」


 セシリアはそう怒鳴り散らすと手の平をゲームオーバーに向けた。

 三発の銃声。

  相手の能力の発動を待つつもりはない……が弾丸はセシリアには届かず彼女の目の前に突如として現れたクリアイエローの壁に弾かれた。


「……防御壁?」

「シールドオブアイアス! シークレットレアで得た無敵のシールドよ、少しの精神力消費でどんな攻撃も跳ね返すわ、私に銃なんて効かないわよ!!」


 眉をしかめるゲームオーバー、セシリアは額に汗を浮かべながらもニヤリと不敵に笑う。

 シールドは消える。


「……」


 ゲームオーバーは無言のまま今度は両手に銃を持ち連射する。

 両手で八連射。

 その全ては再び現れたシールドオブアイアスに弾かれる。


「あっはっは……」


 高笑いのセシリアの声を遮るように九発目はタイミングをずらして右手の銃だけから発射したが

、シールドは瞬時に現れてセシリアを護る。


「自動発動か」

「そうよっ、ちなみに後ろや横から撃たれても平気なんだからね! アッハッハッハ!」


 ポツリと呟くゲームオーバーにセシリアは先程遮られた高笑いを再開するが、


「なかなか立派な能力ね、それじゃ本格的に始めましょうか?」


 ゲームオーバーはニッコリと微笑んで両手撃ちに構え連射を始めた。


「バカバカ、バカなんでしょ!? ミス・ゲームオーバーなんて言っても銃を封じられたら怖くもないわ! 本格的によっ、アンタの攻撃は通用しないの、通用しないのよっ!」


 怒鳴り散らすセシリア。

 だが連射は止まない。


「通用しないのは今でしょ?」


 ゲームオーバーの黒い瞳が鋭く輝いた。



        ***



「う……はぁはぁ……嘘っ、そんな……嘘だわっ、嘘でしょ」


 少女の息は乱れていた。

 目の前に現れるシールドオブアイアスはまだ銃弾を弾き、セシリア自身は無傷だが酷く狼狽していた。

 銃弾はすでに彼女に十分間以上降り注いでいた、その間ゲームオーバーは一切の無駄な動作なくセシリアに銃弾を撃ち続けているのだ。


「あなた言ったでしょ? 少しの精神力消費でどんな攻撃も跳ね返すって、少しでも精神力消費するのよね? だったら精神力をシールドを張れなくなるまで消費させればいいの、あなたが勝手に話した弱点よ」

「はぁはぁ……そ、そんな……あ、あなたの銃はなんでそんなに撃ち続け……」


 そこで何か弾ける音が響く。

 彼女を護り続けたクリアイエローの無敵のシールドは遂に破られはしなかったが消え去る。


「ひ……いやぁぁぁぁぁっ!」

「精神力が切れたわね、もうあなたのこの世界はゲームオーバー、死ぬのよ、そして現実で生きなさい……家族が待っているわ」


 美少女の顔を歪め背中を向けて窓から逃げ出そうとするセシリアの後頭部を狙いゲームオーバーは引き金を引く、銃弾は正確に彼女の後頭部を居抜きセシリアは窓に引かれた純白のカーテンを血で濡らし引き千切りながら床に崩れ落ちた。




         ***



「丸田裕美子のキャラクター、セシリアは家族からの申し出もあってボクが現実界で消去しておいたよ、彼女は一旦病院に入院させて様子を見ながら家族がもう仮想自殺なんてしないように諭していくそうだよ、まぁキャラクターを消去したからまたキャラクターを造ってシークレットレアを手に入れるなんて難しいだろうけどね、相手の能力は手強かった?」

「そうでもないわ、辛抱強くが勝因ね」

「そうか、とにかく無事でよかったよ」


 翌日の酒場。

 ラフィアンの事後承諾の後の問いにゲームオーバーはサラリと答えて蜂蜜とショウガ入り紅茶が入ったカップを口に運ぶ。

 依頼の調査、事後処理と実行戦闘。

 ラフィアンとゲームオーバーはそれぞれ報告はしあうが詳細は余程の事が無ければあまり話さないし聞かない。

 取り決めた訳ではないが自然となっている慣習みたいな物だ。  

 特にラフィアンの現実までに及ぶ行動は相手の現実を知ってしまう畏れがあるとゲームオーバーは考え、ラフィアンの話すままにしている。


「家族からはやっとお母さんが家庭に戻ってきてくれるかもと感謝されたよ」

「そう」


 ゲームオーバーは依頼者のその後を知る事に基本興味はない。

 仮想世界から現実世界に引き戻す仕事はしたのだし、後は現実の本人と周囲の問題だと思うからだ。


「報酬は……」


 そこで弾んでいたラフィアンの声が止まる、もしかしたら報酬面で問題があったのかとも誤解されかねない態度だがゲームオーバーには彼が話を止めた理由がわかった。


「あの……すいません」 


 どう入ったのか、十歳程度の男の子がテーブルに近づいて来たからだ。


「なんだい君? 僕らに何か用事かい?」


 ラフィアンが尋ねると、男の子は少しの躊躇を見せた後に思いっ切った様に、


「僕はカズヤと言います、お願いしますゲームオーバーさん、お父さんが、お父さんがこの世界に来たまま帰ってこないんです……どうか帰らせてください!」


 と、頭を下げてきたのである。


「あなた……」


 ポツリと口を開くゲームオーバー。


「はい?」

「アバター小さいけど本当は幾つ?」

「え、十歳です、ネットゲームはあまりやった事なくてそのままの年齢でキャラクターを造りました」

「そう……」


 カズヤの答えにゲームオーバーは席を立ち、


「またこんなの……親が子供を残してなんて……ラフィアン、話を聞いておいて……報酬額は問わないから」


 と、苦しげに言い残し酒場を立ち去るのだった。



                    続く


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