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第一話「架空処刑」

 酒場の喧騒。

 冒険者クロウ・ハヤトはそれを気にせず、大皿に山盛りにされた鳥の唐揚げを箸で口に運ぶ。

 彼と同じ木製丸テーブルには魔法使いのサキ・ミリアリス、戦士のダイアス、弓使いのアイシャの三人。


「あんたねぇ、仮にもレディと同席してるんだから食べ方とか気にしなさいよ! なんでそんなにがっつくのよ!?」


 唐揚げを乱雑に咀嚼するクロウ、それにサキが口を尖らせて注意してくる。

 魔法使いとしては良くある黒のローブ。

 黒のロングヘアにややキツめの瞳が印象的で、かなりの高い身分の家に生まれたらしいが、様々な理由から冒険者となる事を選んだ。

 まだ十四歳だが、クロウも十六歳でそうは離れていない。


「サキ、食べる時くらい生真面目はしまって置いてくれよ、なぁダイアス?」

「……」


 クロウはダイアスに話を振るが返答はない。

 身長二メートル近い偉丈夫だが滅多に口を聞かない、今回も黙って食べている。

 パーティを組んで暫く経つが、彼は自分の事は喋らず年齢が二十二歳という以外はクロウも経歴などはわからない。


「すかさず……いただきっ!」


 クロウやサキの手が止まったの隙に、唐揚げに手を伸ばしたのは弓使いのアイシャ。

 まだ十二歳という少女は色白に肌に緑がかったショートカット、耳がわずかに尖っているのが出自を物語る。


「もらった、って皆の物でしょうが!? 貴女はいつもそうやって人と競争しようとするんだから」


 ため息をつくサキ。


「だってさぁ、何をするにしても張り合いがアタシは大切だと思うんだよ」

「お前はそういうヤツだよ」

「まったく……」


 歯を見せて笑みを浮かべるアイシャにクロウとサキは互いに小首を傾げ合うと、アイシャは更に笑みをイヤらしい物に変えた。


「それにしても最近お二人さんは仲がいいね、ダイアス、そろそろアタシ達はお払い箱かもしれないよ」

「な、何言ってんだよ!?」

「そうよ、私達は何も……」


 赤面してしまうクロウとサキ。


「……そうなった時は言ってくれ、なんとやらは馬に蹴られてしまうからな」


 珍しく口を聞いたダイアス。

 残る三人は滅多に口を開かない最年長者が、それもまったく似合わない色恋の事で発言したので暫し唖然としたが……


「そ、ダイアスまで何言っているのよ!? バッカじゃないの!?」

「そうだ、お前こそ早く嫁さん見つけろっ!」

「お二人とも耳まで真っ赤ですぞぉ」


 パーティはドタバタ騒がしくなる。



 良くある冒険者の光景。

 でもクロウにはそれが何よりも愛しい。

 この世界で見つけた冒険と仲間たち。

 素晴らしい体験とおぞましい恐怖。

 謎と困難。

 全てがクロウには愛しかった。


(そう……俺はこの世界で生きていく、みんなと一緒に……サキと一緒に)


 ソッとテーブルの影でサキの手を握る。


「……」


 返ってきたのは、一瞬の優しい笑顔。


(サキ……)




「捜したわよ、佐橋佑介くん」



 しかし、突如として耳に聞こえた声は愛しい人ではなく、背後からの聞き覚えのない女の声だった。


「!?」


 パーティに緊張が走る。

 黒髪の短めのポニーテールの女が、いつの間にかクロウの座る椅子の真後ろにいた。

 いや、女というよりは少女に見える。

 かけているサングラスが年齢を高く見せていた。

 

「サバシ……ユウスケ? 誰?」


 呆気にとられるサキ。


「……」


 クロウは愛しい人の疑問の答えを知りつつも、絶対に答えられなかった。

 クロウ以外のパーティの誰も知らない名前。

 当たり前だ。

 名乗った事も名乗ろうと思った事もない、これからも名乗る気もなかった。

 それどころか、もう捨てた名前。


「な、なんだ!? お前」


 動揺を隠せないクロウはそこに来てようやく気づく。

 紫のジャケット、赤いTシャツ、ショートパンツにロングブーツにサングラス。

 それが突然の来訪者の姿。

 このイシュタルオンライン内ではなかなか見ない服装だ。

 中世ファンタジー基本のこの世界でも遊びはあり、それらしい服装が無くはないが、彼女のそれは明らかに周囲とは違った。

 簡単に言えば現代的だ。


「……まさか」


 息を呑み込み、佐橋佑介の現実を思い出す。


「い、嫌だっ! 俺は帰らない、この世界で生きていくんだ! みんなっ、コイツを……」

「クロウ!」


 クロウの沸き上がった恐怖の叫び。

 異常事態を察した仲間達が戦闘を覚悟して立ち上が……れなかった。

 銃声。

 サキ、ダイアス、アイシャは一言も発する事もなく、揃って揉んどり打って倒れる。


「な……」


 速すぎた。

 一連の銃撃がクロウには全く反応に捉えられなかった。

 黒い髪の少女は両手にそれぞれ銃口から硝煙を上げる黒いオートマチック拳銃が握られていた。

 2丁拳銃。

  

「け、拳銃!? いつ抜いた?」


 速さもだが、持っている拳銃自体にも驚愕を禁じ得ない。

 このイシュタルオンラインで拳銃!?

 そんな事よりもみんなは!?

 クロウ、いや佐橋佑介は驚きよりも一緒に苦楽を過ごしてきた仲間達、そして愛した人の安否を……確認するまでも無かった。


「あ、あ、あああ……」


 クロウの震える声。

 背中から床に大の字に倒れたダイアス、アイシャ……そしてサキは天井を驚きの表情で見上げたままで額のど真ん中からドス黒い血を流していた。  


「帰りたくないって言ったわよね? でも最期通告よ、自分からログアウトしなさい! 現実世界の貴方の側で両親や家族、お医者様が待ってるわ」


 向けられる二つの銃口。

 抵抗は赦さない威力がそこにはある。


「い、嫌だ、俺はもうあんな所に帰りたくないんだ! 一生この世界に居るってサキに誓ったんだ、それをこんな……助けてくれ!」


 クロウ……佐橋佑介は首を振り、拒絶しながら静まり返った酒場を見渡す。

 周りには何人もの冒険者パーティがいる、何組かは知り合いでもある。

 だが酒場の周囲の者は複雑な感情の視線は向けてくるが、敢えて関わろうとはしてこない。


「無駄よ、周囲のPC達は貴方と違ってキチンと現実とこの世界を両立させている人達よ、私はそういう人には邪魔をしてこない限り危害は一切加えない、でもね、邪魔をしてきたら容赦はしないわ、迷わず撃ちまくる」


 少女は口を開く。

 サングラスの向こうの視線の様子は伺えないが銃口は微かなブレも見せずに真っ直ぐにクロウを指向している。

 

「お、お前は一体何者なんだよぉぉ!?」


 クロウの叫びを無視。

 彼女は全くの躊躇なく無情に引き金を引く。

 叫びを掻き消す銃声。

 クロウは脳天に被弾して倒れ、その身体は段々と薄くなり消えていく。

 それを見届け二丁の拳銃を上着のジャケットにしまうと、


「佐橋佑介くん、もう楽しくて冒険があって自由で嘘な世界とはしばらくお別れよ、これからしばらくは苦しくて下らない不自由な現実を生きなさい……私はあなたみたいな人達をこの世界で抹殺する殺し屋、ゲームオーバーと呼ばれてるわ」


 そうポツリと呟き、少女は騒然とする周囲を軽く見渡してから、フゥとため息をついて酒場を後にした。




続く

 

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