片思いのままで
ずっと好きだった人......
僕には一人いる。
彼女は僕の気持ちは知らずに今日も話しかけてくれる。
それが嬉しくもあり、少し息苦しいと思ってしまうのは僕の悪い癖だ。
そして、こんな考えを学校の自転車置き場に着いて早々考えた自分がネガティブ思考に陥っているのに気付き、それらの考えを頭の中から払拭する。
「駿太君、おはよう」
「志歩、おはよう」
お互い呼び捨てで挨拶をして、自転車置き場から先に離れる。
僕らは多分だがそこそこ仲が良い方だろう。
その好きな人に声を掛けられても、勇気を持とうともせずにする僕はきっとダメな奴なんだろう。
それでも良かった。
だって明日に僕らは卒業して――
――会えなくなるのだから。
明日で最後か。
3年も通っていたのだ。感慨深い物はもちろんある。
......入るか。
「おっす、シュン」
「おはよ、和馬」
クラスに入るなり、いきなり声を掛け、僕の方へ走ってくる和馬はやけにテンションが高い。
まあ、いつも高いのだけど......
僕としては落ち着いて欲しいのだが、あえて口にしない。
「どしたシュン?いつもよりテンション低いぞ?」
コイツ、意外と人の事が分かってるのか?
まあ、だからと言ってさっきまでネガティブ思考だった自分の考えを打ち明けられるはずもなく......
「いつもと同じだ!ったく、朝からテンションなんか上げられるか!」
テンションを一気に上げる。
「そのテンションだよ。ツッコミ担当のお前に元気がないと俺が目立たないじゃねーかよ」
「はいはい、とりあえず準備ぐらいさせてよ」
「んだよー。卒業する前日ぐらい....あ!もしかして好きな人の事でも考えてた!?」
また正解かよ....どんだけ俺を困らせるんだっつの。
「ちげーよ!僕に好きな人はいないからな?とりあえず用意したら話してやるから」
「了解。んじゃ後で~」
手を振って和馬は自分の席の方に歩いていく。
そして僕も自分の席に着き、そのまま提出物などを整理する。
まぁ、言っても明日で卒業だから提出物なんて全然無いんだけど。
――今日の授業もけして授業っぽい内容でもなく、ひたすらあくびを我慢して話しに耳を傾けている......ふりをして昔の思い出に浸っていた。
――思い出していたのは中1の林間学校の班決めだった。
そういえば僕は人数が一人オーバーだったから「僕はいいよ、違う人と組むからさ」とか言って集団から抜けたんだよな。
その後に僕は一人休みだった和馬と一緒の班になることが確定したな。
男子は2人か3人のグループを組み、女子のグループと合併するのが基本スタンスだった。
だから、僕は余った女子グループと一緒の組になると思っていたっけ?
その時に志歩達のグループに「一緒に組まない?」って誘われたんだっけ。
余りにならずに済んだって喜んだのは今でも覚えてるから嬉しかったんだろうな~
まぁ、誘われた理由が「男子だけど男子っぽくないから」って言われたときは苦笑いを浮かべたな....
本当に、どうでもいい事を思い出してるな僕......
でも、何故だか林間学校の思い出に浸る気にならないのだ。
この思い出の他にも同じ班になって心の中で喜んだ思い出の方が鮮明に思い出せるがそれ以降の思い出に浸る気にならなかった。
そういえば、僕って結構いろんな事で関われたんじゃないのか?
クラスも3年連続で一緒で、班を組むときも同じが多かったような....
こんな事考えると少し後悔するな......
「はぁ~....」
隣の人がこっちを向くぐらい大きなため息を吐いたが気にしない....
そして右斜め前にいる志歩に視線を持っていってしまう。
「――はい、今日は終了。明日は卒業式、しっかりね~」
考え事をしていたら話しが終わっていたらしい。
――帰りの挨拶を終えて僕は教室を出る。
「駿太君」
早めに教室を出たのに声を掛けられただけで驚きだが、それより驚いたのは
「志歩、どうした?」
好きな人に声を掛けられた事だろう。
僕は声の調子を落ち着けて返事する。完全にいつも通りではなかったけど....
「えっとさ、明日は駿太君は自転車で来るの?」
「え?あ、うん」
「そっか~」
何を考えてるのか分からない僕は少し首をひねってしまう。
対する志歩は少し考え事をしる素振りを見せ、また直ぐにいつもの落ち着いた雰囲気を出す。
「駿太君は林間学校のメンバー決めの事って覚えてる?」
「え?さっき考えてた事だけど?」
そういえば、たまに僕の考えてた事を当てる事があるんだよな。
「そうなの?」
うん、毎回まぐれなんだけど。
「その時さ、一緒の班になってくれてありがとう」
「え!?いや、こっちこそありがと」
急に『ありがとう』なんて言われて僕も少し早口になって返す。
「その他にも班になってくれてありがとう。誘いに乗ってくれてありがとう。覚えてないかも知れないけど、いろいろ手伝ってくれてありがとう」
忘れるも何も僕が感謝している事なのに....
「それは僕の方からもありがとな。んじゃ、帰るな」
これ以上感謝されても僕はただ、志歩と話しがしたかったから同じ班になったのに。下心があったから何度も同じ班になれたのだから、感謝されるのは胸が苦しくなる。
だから僕は
「じゃあ、明日が最後だし頑張ろうな」
「うん、じゃーね」
志歩から距離を取るために自転車置き場の方へ歩く。
そうして、卒業前の1日が静かに終わる。
――卒業式当日
っといっても、今は卒業式の途中なのだが......うん、僕は今とても眠い。
先生の話しなんか去年に似たような事しか言わないし、卒業証書を貰ったら直ぐ終わりにした方が絶対にいい終わり方になると思うんだけどな。
......また、ひねくれた考えをしてるな僕。
志歩はやっぱり話しを聞いているんだろうか。
男子と女子は見事に左右に別れているので見えないが確実に聞いてるな。
僕とは違って完璧主義者だしな。
――卒業式を終えて自転車置き場に一人歩く。
結局、志歩に別れの挨拶をすることも出来なかったが良いのかも知れない。
だって、告白せずにこの恋をなかった事に出来るかも知れないのだから。
......あれ?自転車置き場に誰かいる?
いや、一目で誰かは断定出来た。
「....志歩?」
声を掛けられた志歩を静かにこっちを向く。
そしていつも通りに落ち着いた動きで僕の方に歩み寄る。
「駿太君?」
「ん?」
いつも通りの口調で話し掛けられたので僕もいつも通りで返す。
片思いがバレないように卒業するためにも心を落ち着かせる。
「駿太君ってケータイ持ってる?」
「え?あ、うん持ってるよ」
っていうか、志歩ってケータイ持ってないのかと思ってた。
だって、僕の友達は誰もメアド持ってないって言っていたから。
それに、どうして自転車置き場にいるのかも分からない。
「じゃあさ、私のメアド上げるからメル友にならない?あ、言ってもこれからも友達でいたいからなんだけどね」
スカートのポケットから白い紙にメアドが書かれた紙を手渡す。
僕はそれを自分のポケットに入れる。
受け取らずに帰ればこの先片思いを忘れることが出来るのに......
「んじゃ、後でメール送るな」
でも、きっと断れないだろう。
だって、好きな人のメアドを貰えるのだから。
「あとさ、ありがとうね」
志歩に上目遣いで感謝された。
何に対して言われたのかは分からないけど僕は涙が出そうになって、無理やりそれを止める。
泣き顔なんて見られたくないから。
「駿太、大丈夫?」
「いや、大丈夫。なんでもない」
心配そうな顔で僕を見るので意地を張って嘘を言う。
そして、同じ事を返す。
「志歩、僕からもありがとう」
「うん、あと一緒に帰ろう?」
「はい!?」
予想外の一言に声が裏返る。今の声を聞いた志歩は笑いを堪えきれずに笑っていた。
「笑い事じゃないって。ほら、帰るよ」
「うん」
自転車を手で押して志歩の隣を歩く。
親はどうした?どうしてここにいる?って聞こうと思ったが完璧主義者の事だ、先に帰らせたのだろう。きっと、昨日に自転車で来るのか聞いた理由は僕を気遣ってくれたからだろう。
「駿太の鈍感....」
「ん?」
「何でもないよ。絶対にメールしてね?」
「はいよ」
頬を膨らませて拗ねたようだが、何が気にいらないのか分からないので適当に返事を返す。
僕としては、今の言葉をそのまま返したいんだけどな......
いや、僕は話しさえ出来ればこのままでいいのかも知れないな。
そう、ぼくが一人、志歩を思うだけで。
――片思いのままで
今回は駿太の心中を書き綴ってみました。
勇気が持てずに告白を出来ずに別れるものの、後悔をする訳でもなくハッピーエンドになる訳でもない。だからこそ現実的な話になるのだと思います。
この後の二人はどうなるのかは、読者の勘を頼って頂きたいと思います。
読んで頂きありがとうございました。