表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
88/398

カタロニアサーキットに潜む二つの謎

「ちょっと、あんた予選の度いちいち落ち込むの、いい加減にしなさいよね。どんだけ速いつもりでいんのよ?学習能力ないわね」

 予選でタイムの奮わなかった愛華に、一番学習能力のないアホが言った。

「おまえが言うか!」

 約束通りエレーナにどつかれた。

「痛っ、でもエレーナ様、あたしはミスしても、きっちりフロントローに列べてますけど、アイカなんて三列目スタートですよ。それより、そんなんで偉そうに落ち込んでるんですから」


 別に落ち込んでいる訳ではないが、上位との差を思い知らされたのは事実である。上位の顔ぶれを見れば、落ち込むほどの事はないだろう。チャンピオン経験者四人、GP史上最高にして最悪とも言われる天才児二人。そして現在最もチャンピオンに近いライダーとその司令塔にして愛華の元師匠である。


「アイカ本来の実力からすれば、順当なところよ。まああたしも本来の実力だったら、エレーナ様すらブッチギって最速タイムだったでしょうけどね」

 決して自惚れだけではない。シャルロッタは途中まで計測ミスではないかと思われるほどの好タイムを叩き出していた。

「だからおまえはバカだと言っている!毎度毎度、最後にぶち壊す。おまえが学習能力語るか!アホ」

 もう一度どつかれた。相変わらず暴力制裁を繰り返すエレーナも、学習能力を語っていいものだろうか。

「痛ぅ、ゴメンなさいエレーナ様。でも聞いてください。あたしはただアイカに決勝では頑張って欲しくて、元気づけようとしたんです。ほんとです」

「確かにアイカはよく落ち込むな。だがアイカ、私はそれほど心配していないぞ」

 エレーナも予選にムラのある愛華を気にはしていた。特に今季は、気負い過ぎて空回りするのが目立つ。

「いえ違うんです。別に落ち込んではいませんから。ただやっぱりわたしはまだまだだなって。こんなんで決勝をちゃんとサポート出来るか不安で」

「自信を失う事も、若いアイカにとって決して無駄ではない。自分の未熟さを知り、そこから這い上がるのが成長だ。何度でも這い上がればいい。その度におまえは強くなっている。高慢が革つなぎ着てバイク乗ってるそこのアホも、少しは落ち込め!」

「エレーナ様、ひどい」

 更にもう一度どつかれて、なぜ自分の発言がブーメランのように戻ってきて頭を直撃するのか、学習能力とは何かすらわかってないシャルロッタには不思議で仕方なかった。


「ありがとうございます……でもやっぱりわたし、ライダーとしてぜんぜんですよね。みなさんと一緒に走っている時は、ちゃんと付いていけるようになったと思ってたんです。でも、一人だと……目標がないと、ラインもペースもあやふやになって。頭ではわかっているんです。あそこでブレーキ、あの舗装の継ぎ目で切れ込んで、インの芝生の剥がれてるところを膝が掠めるように、って全部頭に入ってます。でも実際に走るとその通りに走れないっていうか、なんか加減がずれるんです」

 愛華は、悩んでいた事を思いきって言ってみた。

「あんた、そんなめんどくさいこと考えて走ってたの?」

 シャルロッタが呆れたように呟いた。そしてまたエレーナにポカリとされた。

「それは走り込んで自分の感覚を身につけるしかない。このアホは悩む前に感覚が身についていただけだ。否、悩む頭がなかっただけだ」

「あたしだって悩んだことぐらいあるもん!」

 シャルロッタはプイとむくれてから、ハッとして両手で頭を庇ってエレーナのパンチに備えた。多少学習したように見えるが、これは条件反射というものだ。


 しかし今回は、なにも起こらなかった。

「まあ物心つく前から走り込んでいるシャルロッタは別として、ライダーなら誰しも突き当たる壁だ。特にアイカの経験からすれば、トップライダーに付いていけるだけでも誇っていい。それどころか、時に競り勝つのだから、もっと自信を持て」


 バイク乗りなら誰でも実感しているだろうが、レースに限らず、誰かの後ろを走るのは単独で走るよりずっと楽だ。風の抵抗などの物理的な面だけでなく、前のライダーに合わせて走ればいいので、いろいろ考えなくても済む。精神的に余裕ができ、その分速くも走れる。自分の限界より、少し速いライダーのあとを付いて走るのは、限界を引き揚げるのによい練習でもある。


 愛華は、エレーナ、スターシア、シャルロッタというタイプの異なるトップライダーたちに囲まれ、そしてその誰とでも合わせられる走りが持ち味だった。しかしそれは、自分の走りが確立されていない事でもある。

 固まっていないから柔軟に合わせられているのも事実である。だからといって、普通は経験の浅いライダーが簡単にトップレベルに付いていける事などない。愛華の並外れた運動神経とみっちり叩き込まれたライディングの基本、尊敬するライダーのようになりたいという強い憧れとその憧れのライダーたちといつも一緒に走れるという恵まれた環境が、彼女を異常とも言える早さでトップレベルに引き上げていた。

 本人も他のGPライダーと比べ、経験も技術も劣っている事は自覚している。しかし何故特別に難コースではないこのカタロニアサーキットで、リズムに乗る事が出来ず、これほどのタイム差が開いたのか、未熟な部分が露呈した理由がわからなかった。


「わたし、もっと速くなりたいんです。一人でも、三人に並べるようになりたいんです。生意気なのはわかってます。でもそうならないとチームの役に立てないから」

「もう、ホントめんどくさいコね。あんた前にもそんなこと言ってたわね。そん時も決勝じゃぁちゃんと仕事したんでしょ?つべこべ悩んでないで、今度も必死になってあたしのアシストすればいいのよ!」

 一番面倒くさい人間に言われた。しかしエレーナはどつかなかった。

 この二人、これはこれでいいコンビだと思った。


 高慢で飽きっぽいシャルロッタと真面目過ぎるほど真面目で我慢強いアイカ。

 シャルロッタの暴走を、アイカが抑える。

 アイカが落ち込めば、シャルロッタが励ます(煽る)。

 シャルロッタは、アイカと組んでから、ほとんどリタイヤしなくなった。

 愛華も、ただエレーナやスターシアに気に入られようとしていた新人から、チームの一員として自分だけの役割を見つけ出そうとしている。

 危うい部分もあるが、互いの能力を引き出すには欠かせない存在となっている。一見シャルロッタ主導に見えるが、意外と対等でバランスのいいコンビだ。


「アイカには、予選にムラもあるが、特に遅い訳ではない。今日の予選も、悲観するような順位ではない。スーパーポール方式の予選は、ある意味水モノだ。安定するには経験も必要だろう。だが決勝はまた別だ。本来決勝の方が高度なペース配分と駆け引きが要求され、経験がものを言うものだが、アイカはそれを上回るガッツがある。普通なら諦めてしまうレースを何度もひっくり返してきただろう。明日も頼りにさせてもらう」

「でも三列目スタートでは……」

「あらあら?アメリカのGPでは最後尾から一人でトップグループまで追い上げた人の言うセリフかしら?」

 スターシアも愛華を信頼していた。

「それにね、このサーキットはね、予選と決勝では全然違うコースになるのよ。予選の僅かなタイム差なんて、意味なんてないから」

 スターシアは何故か予選タイムに意味がない事を強調した。それをエレーナが少し補正する。

「予選には予選の意味はあるが、これだけのメンバーが上位に並んだ以上、決勝は混戦が必至だ。スターシアの言う通り、まるで別コースになるだろう。一列目も三列目も、始まってしまえば関係なくなる。ただポールポジションと二番手タイムの差は大きいぞ」

 予選と決勝では、違うコースになるというのが、愛華にはよくわからなかった。スタートが得意の愛華なら、スタート直後にエレーナさんたちのすぐ後ろぐらいまでジャンプアップ出来る可能性はある。しかし、スタートグリッドは関係ないと言っておきながら、ポールポジションと二番手との差は大きいというのがわからない。


 エレーナとスターシアの差は、100分の3秒。風の具合やコース上の塵などのコンディションで変わってしまうほどの僅かな差だ。ほとんど同じスピードと言っていい。


「初めて走ってみて、このサーキットの印象をどう思った?」

 愛華の疑問に応えるようにエレーナが尋ねた。

「えっと、予選の前だったら走りやすいコースだな、って感じてました。大体きれいなRのコーナーとコーナーを直線で繋いだ感じで、複合コーナーはあっても、奥へいくほどRが大きくなっているんで、アクセルを開けて回れるから気持ちよく走れます」

「そうだな、初めてのアイカでも走りやすいという事は、誰にとっても走りやすいという事だ。勘違いするな、おまえが下手だと言っているのではない」

 エレーナはホローしてくれたが、愛華は自身でもわかっているので気にならなかった。

「誰でも走れるというより、向き不向きがないという事だ。つまりどんなライディングスタイルのライダーでも思いきり走れる。それ故に予選は実力者が僅差で並んだ。どのライダーも、現状のマシンとタイヤ性能ではこれ以上速く走れないというレベルまで詰めている証だ」


 上位に僅差で並んだライダーたちに、レベルの差はほとんどない。それぞれが持ち味を存分に発揮し、最先端の工業技術の結晶であるGPマシンを限界近くまで追い込んだ結果とも言えた。

「つまり走りやすいという事は、思い切り攻められるという事だ。そしてそれが決勝となれば、あらゆるコーナーがパッシングポイントとなる。アタックする側もブロックする側も、予選のようなラインは走れない。抜きつ抜かれつのバトルの中、何台ものマシンが重なってコーナーになだれ込む。予選と違うどころか、毎周違うラインを走る事もある。そんな中ではベストタイムなど意味がなくなる」

 そこまでの説明で、ようやく予選と決勝の違いが半分理解出来た。しかしエレーナとスターシアの差の大きさが、まだわからない。


 それにしても、最終コーナーでミスしたシャルロッタの中間ラップの速さが、改めて彼女が特殊なライダーである事を証明していた。(同時に才能をずいぶん無駄にしている間抜けさも)

 当然エレーナもそれを認めており、最も有利なレース展開として、エレーナ、スターシア、愛華で後続とバトルしている間に、シャルロッタを独走で逃げきるのがベストであろう。しかしおそらく相手もそれを警戒しており、間違いなくスタートでエレーナとスターシアの前へ飛び出そうとする。スタートダッシュの旨いバレンティーナか、エンジンパワーに優るフレデリカ、或いはその両方を取り逃がすと厄介になる。スミホーイのパワーは燃費とトレードオフなので、体重の軽い愛華とシャルロッタはともかく、エレーナとスターシアは、レースをフルバトルで走り切るには、燃費に不安があった。シャルロッタの性格も不安要因である。


「今回も、レース後半はアイカ頼みになるかも知れん。そうなる前に勝負をつけたいが、やつらも楽に勝たせてはくれないだろうな」

 愛華は責任の重さと、それを上回るエレーナから頼られる歓びに、身震いした。


「エレーナさん亡きあとも、必ずシャルロッタさんを守ってみせます!」

「いや、私を勝手に亡き者にするな」

「あっ!すいません、ちがうんです、ちがいました。申し訳ありません!エレーナさんが倒れたあとも、って言おうとしたんです」

「いや、一緒だろ、それ?」


 愛華は興奮の余り、テンパってしまった。シャルロッタが言ったのなら、即亡き者にされていただろうが、愛華には軽くツッコミを入れただけだった。


 愛華がどつかれるのを期待したシャルロッタは、ぶう垂れたかったが、何か言えば必ず自分に戻ってくるのを確信していたので、ぷーと頬を膨らませて抗議した。

 差別ではない。常日頃の行いの差である。スターシアもまた愛華に優しく励ます。

「頼もしいわ、アイカちゃん。エレーナさんがいなくっても、全然大丈夫って言いたかったんでしょ?そうね、アイカちゃんならエレーナさんいなくても、全然大丈夫。でも無理しちゃダメよ。私はエレーナさんみたいに怒ったりしないから、危なかったらシャルロッタさんはほっといていいのよ。アイカちゃんの安全が第一だからね」

 優しいというか、完全な甘やかしである。

「あの、わたし、そこまで言ってませんけど……っていうか、ちょっと言い間違えただけで、一緒にエレーナさんとスターシアさんともゴールまで走りたいです、本当です」

「心配するな。アイカの本心はわかっている」

「気を使わなくてもいいのよ。優しいのね、アイカちゃんは。でもいつまでもエレーナさんべったりじゃダメよ」

 たぶんスターシアさんべったりだと、もっとダメになりそうだった。


「ちょっと!なんかおかしくない?どうしてアイカばっかり大事にしてんの、二人とも。エースはあたしなんだから、もっとあたしのことを大事にしな……してください」

 とうとうシャルロッタが不満を口にした。最後はエレーナと視線が合ったのでお願いになった。

「おまえ、大事にして欲しいのか?」

「まあそりゃあ……その……、エースなんだし、あたしを中心に、って言うか、いえ、予選でミスしたのは反省してますけど、アイカだってもっといっぱいミスしてるし、別にあたしはアイカを責めてないけど、下僕として働いてもらえればいいんだけど……、別に頼りにしてるんじゃないんだからね、勘違いしないでよね!あんたなんか、ただの下僕なんだから、主人公はあたしよ!最近執事とか召し使いが主人公のアニメが流行っているからって、いい気にならないでよね!」


 ……………?


「アイカ、こいつ何言っているか、わかるか?」

「えっと……アニメとかの話ならスターシアさんの方が詳しいと思いますけど」

「さあ?最近のアニメはサーバントとか流行っているらしいですけど、私の趣味とはジャンルが違いますから。でもそれ以前に、本人も自分で何言っているのかわかっていないんじゃないでしょうか?」


「そうやってみんなでバカにして……いいわよ!あたし独りで逃げ切ってやるから……アイカなんていなくても勝ってやるから!あんたなんて、ただのアシストじゃない。エースの役に立たないんなら、走る意味ないんだからね。平伏してお願いするんなら、下僕として使ってやってもいいわ。あたしのことマスターと呼びなさい」


 やはり一番面倒くさい人であった。


「ところで、予選一位と二位のタイム差に、どんな意味があるんですか?」

 愛華はさりげなくシャルロッタを無視して、トップタイムの謎を尋ねた。シャルロッタには少し気の毒かな?とも思ったが、相手になるともっと面倒なので、エレーナもおバカはほっといて愛華に答えようとする。

「それはだな、」

「アイカちゃん、さっきも言ったように、予選のタイムなんて全然意味ありませんから」

 どうやらエレーナとスターシアでは、見解が違うようだ。

「いや、最初に言い出したのはスターシアの方だろ?」

「なんの事ですか?私はスタートグリッドが良いに越した事はないと言っただけです」

「それは私のセリフだ。最初に『賭け』を持ち掛けてきたのはスターシアだろ」


「「え、賭け……?」」


 愛華とシャルロッタは、同時にきょとんと呟く。

「まあ!神聖なレースで『賭け』をするなんて。やはりアイカちゃんを近づけられません!」

「それはスターシアだろ!」


「ちょっと二人とも、どういうことか訊かせて欲しいわ」

 いつも行いを叱られているシャルロッタは、ムッとして問いつめてきた。

「わたしにもちゃんと説明してください。すごく大事な理由があると思って、ずいぶん悩みましたから」

 愛華もけっこう恐い顔をしていた。


「実はスターシアがわがままを言って」

「ニェート!エレーナさんが最初に酷い事を」

 エレーナとスターシアは、それぞれの言い分を主張しながら、事のあらましを説明し始めた。


 それぞれ勝手な言い分でらちが明かないので、大体まとめると、本日予選当日の朝、エレーナがいつも通り愛華とランニングを終えて部屋に戻ると、これもいつも通り、スターシアはぬいぐるみの『カティーちゃん』を抱いてまだ眠っていた。

 今日のタイムスケジュールは、朝一番からMotoミニモのフリー走行があったので、なかなか起きないスターシアを、コーヒーカップ片手にエレーナは起こそうとした。

 エレーナがスターシアの肩を揺すると、寝起きの悪いスターシアはむずかるように寝返りをした。その時『カティーちゃん』の前足(手?)が、コーヒーカップを持ったエレーナの腕に当たった。

 溢れたコーヒーは少量であり、火傷するほど熱くもなかったが、エレーナはすぐにスターシアに謝り、身体を気づかった。

 スターシアの体には、ほとんどコーヒーは掛かっていなかったが、目を覚ましたスターシアは、あまりのショックに卒倒しそうになった。


 純白の『カティーちゃん』の体に、点々と黒い染みが出来ていたのだ!


「スターシアに掛からなくて良かった。予選前に火傷でもしたら大変だ(火傷するほど熱くないけどな)」

「よくありません!カティーちゃんが大変なことになってるじゃないですか!」

「いや悪かった。でも斑模様もなかなか可愛いじゃないか、映画とかあっただろ?」

「ダルメシアンじゃありませんから!カティーちゃんはネコです」

「(ネコだったの?)ならオレンジジュースも溢したら、三毛猫になるかな?」

 エレーナは、少しだけ申し訳ないと思っていたが、ぬいぐるみを抱いて寝るスターシアをちょっとからかって誤魔化そうとした。

「もう我慢出来ません。カティーちゃんをぬいぐるみ扱いするエレーナさんと同じ部屋には、もううんざりです」

「ぬいぐるみだろう?それ」

「私、今日からカティーちゃんの可愛いらしさのわかるアイカちゃんの部屋に移らせてもらいます」

「部屋替えは構わんが、スターシアがアイカの部屋に転がり込んだら、シャルロッタはどうなる?」

「この部屋に移ってもらうしかありませんね」

「それは不味い。部屋まであいつと一緒じゃ、イラついて私の休まる時がない」

「シャルロッタさんをどついてストレス発散すればよろしいのでは?」

「あいつの顔見る度にストレス溜まるわ!だいたいおまえとアイカを同じ部屋にしたらなにするかわからん。アイカを誤った道に踏み込ませる訳にはいかん」

「まあっ、なんてイヤらしい妄想を。エレーナさんこそ、アイカちゃんと二人きりになったら無理矢理力づくで」

「するかい!」

「エレーナさんの美少女(ロリータ)趣味は有名ですから」

「おまえだろ!アホらしい」



 そんな感じで、どちらも愛華との同室を譲らず、結局予選タイムで決める事となったらしい。

 僅差とは言え、敗れたスターシアはそんな賭けなどなかった事にしようとしたが、エレーナはあくまで自分が勝者である事を誇示した。


 要するにレースとはなんの関係もない話だ。愛華はあきれてバカバカしくなったが、この緩さがけっこう心地良かった。初めて二人に出逢った時も、緊張でガチガチになっている愛華をこの緩さがリラックスさせてくれた。レース前の気負い過ぎてる時も、ちょっと大丈夫ですか?と疑いたくなる緩さに、結果的に何度も救われた。


 結局、シャルロッタとの同室は遠慮したいスターシアと、元々部屋割りに不満などなかったエレーナと愛華の意見がまとまって、これまで通りの部屋割りに落ち着く事となった。


 もしかすると、固くなっている自分に気づいたエレーナさんとスターシアさんが、ひと芝居打ったのかな?とも思った愛華だが、それは考え過ぎだろう。


 シャルロッタだけが、「エレーナ様もスターシアお姉様も、そんなにあたしと同じ部屋が嫌なの?」とショックを受け、落ち込んでいた。


 シャルロッタでも落ち込む事はあったのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] う〜ん、それは致し方ないな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ