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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
87/398

新旧の明暗

第4戦イタリアGP終了時点のポイントランキング上位15傑

1 ラニーニ・ルッキネリ(ブルーストライプス)J

       85p

2 シャルロッタ・デ・フェリーニ(ストロベリーナイツ)S

       66p

3 ナオミ・サントス(ブルーストライプス)J 

       55p

4 ハンナ・リヒター(ブルーストライプス)J 

       46p

5 リンダ・アンダーソン(ブルーストライプス)J

       40p

6 バレンティ-ナ・マッキ(ユーロヤマダ)Y

       38p

7 エレーナ・チェグノワ(ストロベリーナイツ)S  

       33p

8 ケリー・ロバート(ヤマダインターナショナル)Y 

       30p

9 アナスタシア・オゴロワ(ストロベリーナイツ)S 

       27p

10アイカ・カワイ(ストロベリーナイツ)S

       26p

11アンジェラ・ニエト(アフロデーテ)J

       21p

12アルテア・マンドリコワ(アルテミス)LS

       18p

13フレデリカ・スペンスキー(USヤマダチームカネシロ)Y

       16p

13マリアローザ・アラゴネス(ユーロヤマダ)Y

       16p

15エリー・ロートン(ヤマダインターナショナル)Y

       13p

 イタリアGPを前代未聞の不祥事で、失格となったシャルロッタであったが、元々普段からゴスロリファッションに左右色の違うコンタクトという中二病拗らせた的イカレたキャラだったので、多少の奇行で離れるようなファンはいなかった。むしろスポーツチャンネル以外でも取り上げられ、彼女の境界線を越えた正義感に共鳴した新たな層のファンまで掴んでいた。

 子どもたちに悪影響が及ばないか心配である。


 一方、昨シーズン後半から人気に翳りが見えはじめていたバレンティーナは、母国イタリアGPでシーズン初の表彰台頂点に立ったものの、地元の観衆からブーイングを浴びせられる始末にまで堕ちた。

 こちらは陽気で爽やかなイメージで売っていただけに、同じイタリア人であるシャルロッタとラニーニからアンフェアな結末で奪った優勝は、殊更、人々の反感を増幅させていた。

 応援し続けていたファンからすれば、ドーピングの発覚した自転車レースの英雄に等しい裏切りである。


 これまでのバレンティーナだったら、レース後すぐに「ちょっと熱くなりすぎた」とラニーニに謝罪し、シャルロッタにはお互いおとな気なかったと和解、或いはよりシャルロッタの方がより暴力的だったことを印象付けられただろう。

 すぐ様そういった対応をとっていれば、多少のイメージダウンは避けられないにしろ、バレンティーナへの批判はここまで酷く為らなかった筈だ。今やTwitterもFacebookも、炎上して手が付けられなくなっている。


 彼女は、その余裕をなくすほど母国GPでの勝ち星が欲しかった。

 開幕から開発途上のマシンは不調続きで、まったく成績が残せていない。漸くまともに戦えるマシンになったところで、この騒ぎだ。


 “確かにラニーニに向かって腕を伸ばしたよ。だけど実際に触れてもいないじゃない。あのコが勝手に減速したんだ。あれくらいの威嚇なんて、お父さん(パパ)が走っていた頃のGPなら、誰でも当たり前にやっていた事だよ。あのコに根性がなかっただけじゃないか。審議員もそれを認めているんだ”


 自分が何故それほどまで非難されなければならないのかと苛立った。すべてが悪い方へと転がっているように思えた。


 “歯車が狂い始めたのは、あの疫病神が現れてからだ。いつもあいつが絡んでいる。だけどいいさ、アイカなんてボクに相応しい相手じゃない。どんな性悪な疫病神だろうと、実力で置き去ってみせるさ”


 バレンティーナにとって、自身の存在を示すのは文句ない勝利しかないと確信した。


 レーシングライダーにとって、速く走る事こそがすべてに優る。ツキやげん担ぎなんて、勝ったやつが言えば信心深いなんて言われて持て囃されるかも知れないけど、勝てないやつが言っても負け犬の遠吠えにすぎない。レースを司る神様がいるなら、その神様も誘惑してやる。邪魔をするなら実力でぶっちぎるまでさ。




 第5戦カタロニアGPが始まる頃には、Motoミニモのライダーにも世代交代が起こっていると囁かれていた。

 これまで四強と言われたエレーナ、スターシア、バレンティーナ、シャルロッタの四人で、一番若いシャルロッタ以外今季あまり際立った活躍をしていない。バレンティーナに至っては、悪い方向に目立ってしまっていた。


 彼女たちに替わって主役に躍り出たのが、昨シーズンまでバレンティーナのアシストだったラニーニで、現在ランキングトップを独走している。それを追う中二病のシャルロッタも、四強の一人と数えられてはいたが、年齢的にはラニーニと同じ世代である。そしてエースではないものの昨シーズン途中から彗星の如く登場して以来、数々の名シーンを演出してきたアイドル愛華。それに加え、今シーズンデビューのヤマダの異端児ファースト・フレデリカの四人を「新たな四強」或いは「ニュージェネレーション」と呼んで盛り上がった。


 しかし、そんな話題作りも、予選を終えてみれば消し飛んでしまう結果となった。

 フロントロー(グリッド一列目)を占めたのは、旧四強であった。


 ポールポジションを獲得したのは、ディフェンディングチャンピオンの女王エレーナ。

 限界説も囁かれていた生きる伝説がコースレコードを更新した時、サーキットは驚愕と歓喜に包まれた。

 もっとも同じクラスを走る多くのライダーたちにとっては、さして驚きはしていない。コース上で出くわせば、その圧倒的威圧感が健在なのは身に凍みている。そしてストロベリーナイツのチームメイトにとっても、エレーナのライディングが未だ衰えていないのは、十分承知していた。

 昨シーズン、劇的逆転劇によってタイトル獲得以来、個人だけでなく、チームとしてのメーカーやスポンサーとの契約やイベント、取材などに追われて、開幕直前までトレーニングと走り込みが合同練習以外ほとんど出来ていなかった。合同練習も、アホのシャルロッタの面倒とチームリーダーとしての仕事に追われ、新しいマシンに慣れるのが精一杯のまま、開幕を迎えていた。

 此処に来て、漸く調子を取り戻し、本領を発揮したに過ぎない。


 コンマ03秒遅れの二番手タイムを記録したのも、ストロベリーナイツの誇るGPナンバー1美女ライダー、スターシアだった。

 彼女が久々に本気の走りを見せた理由は、あまり大きな声で言えない実に下らない事情があった。

 その辺りの事情はともかく、シンプルなコーナーが多く、走り易いがコース幅も狭く、誤魔化しの効かないコースで、スターシアの完璧な走りと高次元の集中力は「こうして走るのよ」と言わんばかりに観る者を魅了した。

 スターシアの場合、普段からその集中力を発揮して欲しいものだが、「大切なものを守りたい」という強い気持ちが高まらないと発動しないらしい。シャルロッタと違い、問題を起こす事もないので忘れがちだが、彼女も立派なアニオタなのだ。



 スターシアからコンマ2秒遅れて、三番手グリッドに並んで実力を誇示したのが、前戦疑惑の覇者バレンティーナである。

 予選を終えた彼女は、いつもの軽快なジョークを交えたサービストークは口にせず、「決勝での成績を求めるなら、ヤマダの総力を挙げた支援が必要だ。今のボクにはマリアローザしかいない。まともなバックアップ体制を整えてくれるなら、ヤマダにタイトルをもたらせてみせる」と語り、チーム体制への不満をぶちまけた。

 これまでバレンティーナは、本心はともかくマシンやチーム、スポンサーに対して公然と批判する事はなかっただけに、彼女が如何に実力に見合う評価を望んでいるかが窺えた。



 シャルロッタは、一列目末席になんとか留まったという感じだった。

 彼女はタイムアタック途中まで、エレーナをコンマ5秒以上上回る快走を魅せたが、最終コーナーでブレーキングミスをしでかし、ストレートへの加速が伸びきらなかった。それでもトップとコンマ3秒遅れのタイム差で四番手タイムを記録したのは、流石と言える。

 ミスがなければ、驚異的なコースレコードが記録されていたであろうが、それが一発勝負予選の厳しさだ。



 二列目五番手タイムを記録したのは、意外にもエレーナに次ぐベテラン、ヤマダインターナショナルのケリーであった。

 彼女の予選結果は、ニュージェネレーションの時代と騒いでいた一部マスコミの面目を潰すと同時に、ヤマダのマシンが既にスミホーイやジュリエッタと対等に戦えるまで進化している事実を示した。


 6番手にも同じヤマダのフレデリカが入っていた。

 ここまでがトップからコンマ5秒以内でひしめくという実力伯仲の中、バレンティーナの発言とケリー、フレデリカのヤマダ勢が決勝をどう挑むかが新たな噂となって飛び交った。


 ランキング首位のラニーニは、少し遅れて七番タイム。愛華はハンナにも及ばず、エレーナから遅れること1秒差の九番手タイム、三列目スタートという結果に終わった。


 経験の浅い愛華にとって、カタロニアのコースは特別に難しい区間もなく走り易かったが、それだけにタイム短縮のポイントの掴めないシビアな予選となった。

 アタック中も、バレンティーナには絶対負けないという強い気持ちが仇となり、前半から小さなミスを重ね、途中から冷静さを取り戻し愛華らしい走りも見せたが、挽回出来ないままアタックラップを終えてしまった。

 短い時間で冷静さを取り戻したのは成長の証しとも言えたが、まだまだ未熟である事を思い知らされた予選であった。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱり小排気量クラスはメンタルが占めるウェイトが大きいですね。
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