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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
86/398

もっと理不尽なペナルティ

 オフィシャルには、当然バレンティーナとラニーニも呼ばれていた。

 そこでライダーの立場から最終コーナーで起こった一部始終を、ビデオを見ながら訊かれた。愛華は自分の見たままを話し、シャルロッタは感情を込めて話した。ラニーニも事実をそのまま話したが、バレンティーナは予想通り、ただ牽制しただけだと訴えた。

 その後、エレーナとブルーストライプスのアレクセイ監督、ヤマダからはケリーも呼ばれ、公式な裁定が下された。


 ストロベリーナイツ全員の順位外とバレンティーナへの厳重注意。

 つまりシャルロッタだけでなく、愛華とスターシアまで失格とされた。対するバレンティーナには、今度から気をつけるようにと注意しただけに終わった。


 最終結果は、一、二番手でゴールしたシャルロッタと愛華が失格となり、繰り上げでバレンティーナの優勝、ラニーニが二位。ラニーニの次にゴールしたスターシアも入賞を取り消され、ナオミが三位に繰り上がった。


 シャルロッタの失格は仕方ないが、愛華とスターシアまで成績が取り消されるのは、どうにも納得がいかない。それに対してバレンティーナのペナルティが、厳重注意だけとは絶対に間違っている。

 

 愛華は猛烈に抗議しようとしたが、エレーナに止められた。

「なんでわたしとスターシアさんが失格なんですか!?別にわたしの優勝取り消されても構いませんけど、バレンティーナさんが厳重注意だけなんて、おかしすぎます!」

「GPを主催する側としては、最小限のダメージ、且つ今後の運営上の利益まで考えて苦肉の選択をしたということだ」

「意味わかりません」

「本来なら、シャルロッタのライセンスまで剥奪されてもおかしくないところだ。普通に次レースは出場停止ってところだろう。しかしそれでは興行的に拙い。シャルロッタが出場しないレースでは、ファンの注目も半減する。そこでチームの責任という形で、今回限りの事で終わらせたのさ。ついでにアイカの失格によって、バレンティーナが久々に優勝できて、これからの展開が面白くなる。やつはシャルロッタに蹴られて既に制裁を受けたということで、『次から気をつけます』でこの件は終わりだ。勿論納得出来るものではないし、アイカには申し訳ないとは思っている」

「わたしのことなんていいんです!でもバレンティーナさんは許せません。だったらラニーニちゃんの優勝にすべきです」


 チーム戦術が浸透したMotoミニモでは、一人の違反行為で、チームとしてペナルティを受ける事は珍しくない。エースを勝たせようと、アシストがライバルに危険な妨害した場合などに、そのエースも失格とされるケースが稀にある。今回のように、その適用が多少強引であっても、チームの責任として愛華が失格になるのは構わない。目的はエースのタイトル獲得なのだから、自分の成績なんてなんとも思わない。しかし、バレンティーナに対して事実上ペナルティ無しとか、絶対納得出来ない。


「不服か?アイカ」

「納得出来ません」

「そうだな。それなら次のレースをボイコットでもするか?アイカがそうしたいなら、来週のカタロニアGPには、苺騎士団は全員出場しない」

「そこまでは……」

「私もそこまではしたくない。カタロニアのファンをがっかりさせたくはないからな。多くのレースファンは、シャルロッタやアイカの走る姿を観たいだろう。ラニーニたちとのバトルも、楽しみにしているはずだ」

 エレーナの言わんとする事が、なんとなく愛華にもわかってきた。やるせない悔しさを噛み締めながらも、従うしかない。楽しみにしてくれているファンを失望させたくはなかった。

「すまんな、アイカ。あんな奴でも、主催者やスポンサーの中には必要としている者もいる」

 エレーナが謝意を伝えた。申し分けないのは、愛華の方だった。エレーナは愛華を気づかってくれている。

 これまでエレーナは、何度もこんな悔しい気持ちを味わってきたんだと、愛華は悟った。

 安易に妥協したなどとは言える筈がない。

 口先だけの理想でなく、目的の為に血が滲むほど唇を嚙み締めて耐え忍んできた真の強さを、エレーナから感じた。

 エレーナとて完璧ではない。子どもたちの憧れであれと語りながら、暴力による制裁を肯定するのは、やはり違和感がある。矛盾もいっぱいある。それでもエレーナは、今でも愛華の憧れの女性だった。


「連中を恨まないでくれ。GP開催には、大変な資金が掛かる。我々とファンだけでは成り立たない。支えているのは、スポンサーとTV局だ」

 愛華もいつまでも理想ばかり言っていられない。自分たちのやり方で、少しでもよくしていこうと決めた。

「わたしたちで、バレンティーナなんてお払い箱にしてやりましょう。もちろん正々堂々とコース上でコケにして」 


「まあ今回でバレンティーナは悪役ルートまっしぐらだし、だいたいあいつは小者のくせに、これまでやりすぎたのよ。正義のヒロインには、卑劣なヒールが付き物だから、ちょうどいいキャラ設定が定着したわね。次からは文句なしで叩きのめしてやるから、安心しなさい。あたしのチャンピオンロードを飾るには、ちょっと役者が足りてないけど」


 そもそもシャルロッタが蹴りを入れたからややこしくなったのに、なに偉そうに威張ってるの、この人?叩きのめすとか、もう暴力行為はやめて。


 もっとも今の愛華には、少しだけシャルロッタのした行為も理解出来た。


 ペナルティに関して、バレンティーナのことなんかどうでもいい。あの人は絶対に苺騎士団には勝てないのだから、もう関係ない。


 そこで愛華たちの傍で、黙って会話を聞いていたラニーニが、急にシャルロッタの正面に歩み出てきた。

「シャルロッタさんの前には、私がいますから」

 ラニーニは、きっぱりと言った。どちらかと言えば控えめな彼女にしては、驚くほど強気な宣言だった。

「あんた、本気であたしに勝てると思っているの?」

 エレーナとスターシア以外に、負けるとは想像もしていないシャルロッタは、ワザとらしく呆れたように訊き返した。

「私の実力ではシャルロッタさんに勝てません。でもブルーストライプス全員の力で、チャンピオンロードは譲りませんから」

 ラニーニは、紛れもなくトップチームのエースとしての顔をしていた。シャルロッタはその顔を数秒間見つめた。

「おもしろいわね。あんたたちとならガチで遣り合えそうね。あたしにだってエレーナ様とスターシアお姉様、それにアイカもいるから覚悟しなさい」

 シャルロッタが拳を突きだすと、ラニーニもそれに自分の拳を当てた。


 レースは後味の悪い幕引きで終わったが、この光景のお陰で愛華の気持ちは、次のカタロニアGPへと向かっていた。



 



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― 新着の感想 ―
[一言] 雨が降ると固まるものが…。
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