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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
79/398

波乱の予感

 フロントローの四人が綺麗にスタートを決めて、レースは始まった。


 最初に1コーナーに飛び込んだのは、ポールボジションスタートのシャルロッタだ。それをフレデリカが、マシンを横に振るほどのハードブレーキングで煽る。天才二人による激しいトップ争いに、早くも観客の興奮も全開で、盛大にホーンと鐘を鳴らしまくってコーナーに雪崩れ込むライダーたちを迎えた。


 ラニーニも軽い体重とジュリエッタの加速性能を生かし、バレンティーナの前のポジションで1コーナーを抜ける。


 バレンティーナは、ラニーニの後ろにピタリと着けているが、強引に抜きにでるような動きは見せない。現時点では無理にラニーニの前に出るより、利用した方が得策と判断していた。

 しかしいつまでも留まってはいられない。背後からストロベリーナイツのエレーナ、スターシア、愛華の三人と、ブルーストライプスのハンナ、リンダ、ナオミの三人という二つの最強アシスト集団が、できるだけ早くエースと合流しようと隊列を整えようとしている。

 さすがに、彼女たちとまともにやり合う気はない。適当なタイミングで前に出て、フレデリカとシャルロッタを焚き付けて三台の争いに持ち込む作戦だった。


 ヤマダYC214は、既にスミホーイやジュリエッタと互角には戦えるレベルまで進化していた。絶対パワーではまだ及ばないが、コーナーリングでの旋回力と安定性のバランスは素晴らしい。特にクリップからのトラクションは、昨年まで乗っていたジュリエッタとは異次元だ。


 ケリーの言う『太い筋肉より、繊細な神経』というのは認めるしかないね。まったく彼女の経験に裏うちされた思想とそれを具現化する理論、それに日本人技術者たちのオタク的追究心には脱帽するよ。力任せのフレデリカにはわからないだろうけどね。

 このサーキットでアシストなしは酷しいけど、あのバカ二人だけが相手なら勝算はある。


 バレンティーナは、ストレートでの劣性をコーナーで巻き返す、というライダーにとって最高のステイタスを満喫しながら、仕掛けるタイミングを待った。コースの外でも、黄色く染め上げられた観客席が激しく揺れているのが、走りながらでもわかった。


 フレデリカは、お馴染みとなった減速しながらのブレーキングドリフトからパワースライドに移行して立ち上がるという独特のライディングを駆使して、シャルロッタを挑発していた。

 彼女は、スペインGPでのシャルロッタとのトップ争いで、初めてバトルの興奮を知った。同時に人生最大の悔しさも味わった。負けたからではない。途中でエンジンが壊れて一番いい所でリタイヤした事にだ。

 原因はわかっている。自分がエンジンを酷使し過ぎた。

 フレデリカは、彼女の最大の理解者であるデーブ・カネシロに「最後までイきたいの。どうしたらエンジンを壊さない乗り方が出来るの?」と相談した。しかしデーブの答えは意外だった。

「乗り方を変える必要はない。フレデリカのライディングは最高だ。私が最後までイけるマシンに仕上げる」

 デーブを信用した。フランスGPでは、最後にはダレてしまったものの、前よりずっとよくなった。


 今日のセッティングは期待出来る。レスポンスのミクロ単位での遅れを感じるけど、エンジンもストレスなく回って、無理がかかってないのがわかる。レスポンスの遅れも、慣れてしまえば気にするほどでもない。

 今日こそあのツンツンしたシャルロッタを泣かして、私も最後までイク。



 フレデリカのいつもと違う雰囲気を、誰よりも感じたのはトップを走るシャルロッタであった。

 フレデリカの走り方はいつもと変わらない。コーナーの度に鼻を突き出して来る。長いストレートでは、スリップストリームを使わずに横にマシンを並べて来ていた。直線スピードではYC213の方が上のようだが、パスするには至らない。スリップを利用しようとせず、並べてはコーナー進入のブレーキング争いを挑んでくる。

 まったくいつもと同じなのだが、半人半馬(チェンタウロ)の直感が警鐘を鳴らしていた。


 こいつ、レースを掻き回すだけじゃなくて、今日は勝つつもりでいるわ!


 論理的な説明は出来ないが、フレデリカの乗るヤマダYC213の鼻息がそう嘶いていた。

 エレーナから、フレデリカと不必要に競り合う事を禁止され、チームと合流するまで大人しくしているようにきつく言われていたが、本気で押さえておかないと、すごく面倒なことになると感じた。


 結論からすればシャルロッタの直感は正しかったのだが、『辛抱のできない子たちの巻き起こした大バトル』と称される事となる。まあこれにはシャルロッタ自身の日頃の行いとレース後に「読心魔法を発動した」とか「使い魔が知らせた」などと意味不明な言い訳をしたからである。

 野性の直感とか言った方が格好いいのに、と思う愛華であったが、シャルロッタの中二病的こだわりも、ちょっとだけカッコいいと思ってしまう愛華でもあった。



 シャルロッタとフレデリカのペースが上がったのに合わせて、バレンティーナにも動きがみられた。


「ラニーニさん、二人のバトルに混じる必要はないけど、離されないように気をつけて!」

 バレンティーナの動きを逸早く察したハンナは、ラニーニに指示する。彼女も二人から引き離されるのは不味いと感じた。


「シャルロッタの前に出たい。アイカ、道を開けれるか?」

「だあっ!やってみます」

 エレーナは、何度もシャルロッタに一端ペースを落とすように呼び掛けたが、声が届かないのか無視しているのかわからないが、自分が先頭に出てコントロールするしかないと判断した。


 愛華はアラビアータと呼ばれる連続して大きく右に回り込む8~9コーナーの入り口で、早めにインに寄せてラニーニの内側にマシンを潜り込ませた。奥に行くときつくなり、自分は抜き返されるが、エレーナのラインを確保するフォーメンションだ。

 完全にインに入り込まれたラニーニは、出来るだけ減速しないように愛華の外側から9コーナーに備えた。無理なラインの愛華は、9コーナー手前で減速せざる得ない。本命が後ろのエレーナであるのはわかっている。

 愛華が膨らんでゼブラとの間に隙間が出来たピッタリのタイミングで、エレーナが滑り込んで来る。

 しかし、愛華のインをさしたのはエレーナだけではなかった。なんとバレンティーナが愛華とエレーナの僅かな隙間に割り込んで来た。少し待てば楽に抜けるのに、エレーナに遅れず、ラニーニまで確実にパスしたいのだろう。

「わっ、むちゃすぎです!」

 愛華は押し出されまいと懸命に堪えた。外側はラニーニのラインだ。これ以上ラニーニの邪魔はしたくない。

 それでもバレンティーナは構わず強引に愛華のインをすり抜けようとする。


 バレンティーナの左ステップが、愛華の右肘に当たった。

 愛華のマシンが外側に振られる。

 咄嗟にラニーニはアクセルを弛め、マシンを起こす……。

 溢れる人に埋め尽くされた観客席から、どよめいきが起こった。


 愛華はマシンを立て直すと振り返ってラニーニを探した。

「ラニーニちゃん、ごめん!」

 幸い二人とも転倒もコースアウトも免れたが、大きく失速してしまっていた。ラニーニは愛華に向かって「大丈夫」と合図し、追いついたハンナたちと合流する。

 愛華もスターシアと合流し、もう一度振り返ると、ハンナが「早くエレーナさんを追いなさい」と身振りで示した。

 後ろから一部始終を見ていたので、愛華に非がないのはわかっていた。


「バレンティーナさん!めちくちゃすぎです。わたしだけでなく、ラニーニちゃんまで危険なのわかっててあんな強引な抜き方するなんて、絶対許しませんから!」

「まあ!アイカちゃんやる気まんまんね。私も最近、出番少なかったから萌えてきました」

 スターシアも、ゆるい言葉とは裏腹に、思いきりヤル気になっていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりレースは勝ちにいかないと‼︎
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