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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
68/398

サーバントの務め

 シャルロッタは、何度もブルーストライプスのブロックを突破しようとアタックを仕掛けたが、すべてハンナに読まれて切り崩せないでいた。

「エレーナ様の元チームメイトとは聞いていたけど、まさかあたしの魔力を跳ね返すほどの防御魔法を展開出来るとは……」


 シャルロッタの妄想に合わせるつもりはないが、まるで後ろに眼があるようなブロックに、さすがのエレーナも打つ手がなくなっていた。

 ハンナはかつて、エレーナのアシストとして一緒に走っていただけに、エレーナの走りも知り尽くしていた。当然シャルロッタとスターシアに対しても、研究していただろうし、合同テストで何度も手を合わしていた。

『女王の守護天使』と呼ばれ、エレーナ自身最も信頼したパートナーを相手にして、如何に自分が助けられていたかを改めて知る。しかし今は感謝している時ではない。このままでは、我らがエースは表彰台にも近づけない。

 残り一周を切り、最速ストロベリーナイツの三人にも焦りの色が浮かんでいた。

 その時、三人のヘルメットの中に、頼れる小さなチームメイトの声が響いた。


「エレーナさぁーん、スターシアさぁーん、遅くなりましたぁ!」


 愛華は、エレーナとスターシアの間にマシンを並べて到着を報告した。

「あんた!遅いわよ!三秒以内って言ったはずでしょ!あんたが来るの待ってたから、もうぎりぎりじゃないの!」

 諦めモードに入りかけていたシャルロッタが、文句垂れながらも急に活気づく。

「よく頑張ったな。しかし状況は厳しい。私たちは手詰まりだ。早速で悪いが時間がない。アイカが頼りだ」

 愛華がセカンドグループを抜け出して、自分たちに迫っている事は、ピットからのサインボードでハンナたちにも知っているはずである。だが先ほどのメインストレートを通過した時、ブルーストライプスのピットからサインボードは何も出されていなかった。おそらく現時点で追いついているとは気づいていない筈だ。エレーナすら間に合わないだろうと思っていたのだから。


「あたしはあんたを待っていたんだからね!あんたは下僕なんだから、さっさとあたしのために道を拓きなさい」

 とことん上から口調だが、嬉しさが溢れている。

 しかしそう言われても、この三人が手詰まりになっているブロックを、自分が抉じ開けられるとは思えない。

「ハンナって、あんたをシゴいてた先生なんでしょ?仕返しのチャンスをあげるわ。さあやるのよ、我が下僕(サーバント)

 愛華に一からバイクの乗り方を教えてくれた先生だからこそ、愛華の癖も欠点も知っている。だからこそ難しいと言おうとしたところで、愛華にアイディアが閃いた。


 わたしの乗り方を一番よく知っている……。きっとシャルロッタさんの走りも研究しているはず。だったら上手くいくかも知れない!今のわたしは、リヒター先生も知らない武器があるんだから!


「エレーナさん、スターシアさん!次の11コーナー入り口でリンダさんとナオミさんを惹き付けてくださいっ!」

 愛華は自信を持った声で尊敬する二人にお願いした。

「任せてアイカちゃん。なにを見せてくれるのかしら?楽しみだわ」

「何か知らないが、おもいっきりやってみろ。アイカなら出来る」

 愛華が突然チームを指揮した事より、その自信溢れる口調にエレーナもスターシアも期待が高まった。11コーナーは、愛華が予選でオーバーランしたあのコーナーだ。上手くいかなくても、愛華を責めるつもりなど毛頭ない。

「シャルロッタさんの後ろから、わたしが先に飛び込みます。わたしがハンナさんの気を牽くから、シャルロッタさんは普通のラインで曲がってください」

「あんた、あたしの真似をするつもり!?出来ると思ってるの?」

「上手くいくかわかりませんけど、やってみせます!わたし、シャルロッタさんのサーバントですから」

 シャルロッタも愛華の覚悟を感じた。

「いいわ、本気でぶつけるつもりで行くのよ。中途半端な突っ込みじゃ見抜かれるから」

「だあっ!わたしの『龍虎真眼』見ててくださいっ!」



 ハンナは最終ラップに入ってストロベリーナイツの動きが停まったのに違和感を覚えた。エレーナたちが諦める筈はない。

「次の11コーナーで勝負を仕掛けるはずよ。リンダはアウト側を、ナオミはイン側をしっかり塞いで!ラニーニは速く走る事だけに集中して」

 先頭のラニーニをフィニッシュまでに捉えるには、バックストレートでブロックを突破するしかない。最後のチャンスに賭けて来るのは間違いなかった。

 リンダとナオミはパスされるだろうと予測していた。二人はここまでよくやってくれていたが、もう限界だ。エレーナたちの最後のアタックを防ぎ切れなくても責められない。

 ハンナ自身もそろそろ限界だ。復帰後最初のレースにも関わらず、チャンピオンチーム相手によく奮闘してきたと言える。そして最後の仕事として、11コーナーを抑え、バックストレートまでは自分がエースを守り抜く覚悟を決めていた。そこからならいくらシャルロッタでも、ラニーニをかわす事は出来ないだろう。



 エレーナとスターシアが襲い掛かる。リンダとナオミも必死にラインを塞ごうとする。ハンナは待ち構えた。


 ハンナがクリップポイントに到達する前に、そのライン上目指して突っ込んで来る車影を捉えた。

「やっぱりそう来たわね!残念だけど予想通りよ」

 それは、昨シーズンの最終戦、シャルロッタがエレーナと争ったバレンシアの最終コーナーで見せた突っ込みだ。あの時は、コース端に溜まったゴムカスに乗ってホイルスピンしたが、このコーナーにはない。

 最もシャルロッタらしく、シャルロッタしか出来ないコーナーリング。最後は必ずこの走りで来ると予想していた。


 ハンナは狙うラインをアウトに修正して、相手の立ち上がりの加速ポイントを目指した。

 間近に迫って来る闘志は、わかっていても怯みそうになる威圧感。ビデオで観るより数段迫力がある。だが対処は出来ている。怯んではダメ、立ち上がりで真横を譲らなければ抑えられる。


「えっ、アイカ!?」


 ハンナは、鼻先に飛び込んで来たライダーに愕然とする。インをシャルロッタが抜けていくのが見えた。




 愛華はアウトいっぱいまで膨らみながら、必死でバイクを旋回させようと足掻いていた。

 バレンシアの波打ちゴムカスまで浮いたあのコーナーで立て直したシャルロッタの凄さを思い知る。

「新設されたキレイなコースなのに、曲がれないよぉ!」

 愛華はフルバンクさせたまま、コースとエスケープを仕切るゼブラに乗った。そして段差にタイヤが跳ねた瞬間、愛華の身体は路面に叩きつけられた。




 エスケープを転がりながら、シャルロッタさんとラニーニちゃんの競争が観れないのを残念に思った。


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― 新着の感想 ―
[一言] まさに「肉を切らせて骨を断つ。」ですなあ。
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