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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
63/398

オープニング

 ゆっくりとフォーメンションラップを周りながら、愛華は前を行く三十数台のマシンを眺めた。

 先頭のラニーニから自分までの距離約百数十メートル。ラニーニが凄く集中しているのが、愛華の位置からでも感じる。

 そのラニーニに照準を合わせ、つけ回すようにマシンを左右に振りながら、シャルロッタがウォームアップをしている。その後ろを、スターシア、ハンナ、リンダ、ナオミ、エレーナの順で、お互いに視線を一切合わさず、まっすぐ正面だけを見つめてウォームアップ走行をこなして行く。


 物凄い緊張感。自分だけがあそこにいないのが悔しい。


 必ず追いついてみせる。


 レースがハイスピード勝負の展開にならなければ、届かない距離ではない。愛華と先頭の両チームの間にいるのは、スミホーイかジュリエッタのサテライトチーム、或は市販マシンをカスタムしたプライベーターたち、そしてまだマシンの開発が十分なレベルに達していないヤマダワークスだ。

 マシンの性能なら、スミホーイのワークスマシンに乗る愛華が優位。愛華の実力も合わせて、全部抜き去る事は可能だ。

 しかし、レースが始まれば、そこは一つでも順位を上げようと、歴戦の猛者たちが熾烈な火花を散らすバトルフィールドとなる。恵まれたチームにいる愛華に対抗心を燃やす者も少なくないだろう。バレンティーナやケリーのような、本来そんなポジションに甘んじる立場でないレース巧者もいる。否、ほとんどが愛華より経験豊富なベテランライダーである。

 そんな猛者がひしめく戦場を、たった一人で抜けて、自分のいるべき場所に辿り着かなければならない。


 マシンの性能とライダーの総合力を、客観的に比べて愛華が勝てない相手ではない。問題は時間だ。レースが終わるまでに後続集団を抜けて、トップを争っているであろうストロベリーナイツとブルーストライプスの競争に加われなければ意味がない。


 自分のフィニッシュ順位なんてどうでもいい。チームのためならリタイアでも構わないけど、何も出来ずに終わるのだけは耐えられない。


「新生ブルーストライプスと、初めてエースライダーになったラニーニちゃんやリヒター先生との本気対決に、自分だけ仲間はずれなんて嫌だ!絶対に追いついてみせる!」


 愛華は強く誓った。


 出走するマシン群が、メインストレートに戻ってきた。

 各々が自分のスターティンググリッドにマシンを停めていく。愛華は一番最後にグリッドに着いた。


 2サイクル特有の甲高いエンジン音がひときわ大きくなる。まるでスズメバチの巣の中に入り込んだような緊張感。


 スタートシグナルが点灯する。


 愛華はぴったりのタイミングでクラッチを繋ぐと、軽い体重とワークスマシンのパワーを活かして、動き出した蜂の群れに突っ込んで行った。



 先頭は、スタートを完璧に決めたラニーニとシャルロッタが並んで1コーナーに入る。スターシアもスタートは良かったが、その後の上り勾配で前二台からやや遅れる。その後ろを、エレーナとハンナ、リンダ、ナオミが、激しくポジションを争って雪崩れ込んで行った。



 愛華は、スタートから1コーナーまでの急な上り勾配で、前列の四台を抜き去った。スタートは得意だったが、彼女たちと自分との実力に、そこまで差がないのは愛華にもわかっている。体重とパワーの差だ。


 マシン性能のおかげと言われても構わない、使えるものは何でも使う。マシン的に恵まれていない人たちには悪いけど、今はトップグループに追いつくことしか見えない。


 スターシアさんが待っていてくれる。

 シャルロッタさんと一緒に走りたい。

 ラニーニちゃんとリヒター先生を驚かしたい。


 厳しいのはわかってる。でもエレーナさんが、『アイカなら出来る』と言ってくれた。だから出来る。やらなくちゃダメなんだ。


 1コーナーで更に三台を抜く。

 スタート直後に、少しでもポジションを上げ ておきたかった。

 予選のタイム順に並んでいた各ライダーたちが、レースが進むにつれ、チームごとに集まっていく。チームとしての形ができ上がると、ワークスのパワーを持ってしても、パスするのに手間取るのは避けられない。少なくとも、トップグループとのラップタイム差の大きい下位集団は、出来るだけ早く抜け出しておきたかった。


 S字では多くのマシンが密集してしまい、なかなか前に出られない。焦る気持ちを抑えて、パッシングポイントを待つ。

 そして鋭角の11コーナーに差し掛かると、イン側 で渋滞状態になっている一団には絡まず、アウトを大きく廻ってバックストレートにかけての加速に備えた。

 直線に入ると、外からスピードに乗せてきた愛華が、まとめて四台を抜き去った。これも上手く加速に繋げた愛華のライン取りが良かったのだが、マシンのパワー差があるからこそ採れるラインである。彼女に自惚れの気持ちはない。


 最初にメインストレートに戻ってきたのは、シャルロッタだった。しかし、すぐ背後にはラニーニがスリップストリームに入ってピタリと着いている。ピット前を通過する時には、スリップを抜け出し、シャルロッタの横まで並ぶが、1コーナー進入は無理せず、後ろに下がった。 その後ろでは、スターシア、ハンナ、エレーナ、リンダ、ナオミの順でピット前を通過していった。


 愛華はオープニングラップで13台をパスして、20位で最初のメインストレートを通過した。順調な滑り出しだが、順位を上げるほど前を行くライダーのレベルも高くなる。徐々に集団も形成され始めているので、この先も順調とはいかないだろう。


 愛華の孤独なレースは、まだ始まったばかりだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] いやでも萌える、いや燃える展開ですなあ〜
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