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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
397/398

想定外

 ラストラップに入っても、トップは相変わらずチームの異なる日本人3人がレースをリードしていた。決して日本人同士協力している訳ではなかったが、ストレートと高速区間ではフェリーニLMSの琴音が引っ張り、コーナーへの進入で愛華と由加理が前に出るという、それぞれが持ち味を発揮することで、混成集団にも関わらず、(最終盤としては)ペースは意外と落ちてない。愛華のアシストであるタチアナも加わろうとしてるが微妙にスピードが乗らず、入りきれないを繰り返していた。

 

 バレンティーナにとって、そのタチアナがどうにも邪魔な存在となっていた。

 前の4台より、自分たちの方が速いのは明らかだ。とは言っても楽に抜けるペースでもない。むしろ中途半端なペースがやり難い。1ミリのミスも許されないハイペースなら、強引に突っ込んで互いに失速、先に立て直した方が前に出られる。要は再加速に優位なポジションに突っ込んでやればいい。バレンティーナの得意とするパッシングだ。だがスピードが遅いと自由度がある分やり過ごされ、強引に入った自分だけ行き詰まってしまう。

 ストレートでは、LMSパワーが引っ張っているので届かない。コーナーもパッシングポイントは限られている。狙ったラインをタイミング合わせてスパーンと行くしかないのだが、バレンティーナの狙うポイントでは、必ず先にタチアナがいるのだ。しかも毎回前に行けず押し戻されていた。


「なにやってんだよ!おまえたち同じチームだろ!連係できてないのかよ?」

 愛華とタチアナの不仲は歓迎していたはずだった。むしろ煽っていたぐらいだが、思わぬところで苛つかされる。

 さらには日本人3人と嫌われ者のロシア人に手をこまねくバレンティーナに、後ろからラニーニとナオミが攻めてくる。

『ヤマダに割り込まれたわ。バレ、気をつけて』

 しんがりを務めていたエリーが、すでにチームの隊列に入り込まれた事を知らせてくる。

「なにしてんだ!?後ろに注意しろって言ってたろ!」

 バレンティーナはますます苛立ちを募らせる。前戦の反省から、チームの連係を重んじるよう努めていたつもりだが、せっかくのチャンスに思い通りいかない展開、おまけに不甲斐ないチームメイトときて、我慢も限界に達しようとしていた。


 バレンティーナは、エリーを含め、チームVALEメンバー全員、ライディングテクニックではラニーニやナオミより上と自負していた。エリーは、バレンティーナがヤマダ時代一度チームメイトとしてMotoミニモに参戦している。だがこの時はヤマダの開発が迷走していた時期もあって、目立った活躍を見せぬまま1シーズンでアメリカに帰らされた。その後アメリカのスーパーミニモシリーズで活躍していたところを、元々エリーの高い技術と安定性を評価していたバレンティーナが、ノエルマッキに再び呼び戻した。

「せっかくチャンスをあげたのに、マリアローザだってもっと粘ってたろ!?」

 思わず引退したかつてのチームメイトの名が口をつく。しかしその現チームメイトへの配慮に欠ける言葉は、アシストたちの連係をますます乱すものにしかならなかった。

 若手二人、焦るマリアメランドリはラニーニとナオミに翻弄され、呆気なく抜かれ、血がのぼったジョセフィンロレンツォは、無謀なラインでタチアナにかぶせて行くが自爆、つまり勝手な一人相撲で土俵から落ちた。

 バレンティーナは万全のチーム体制という優位性をあっという間に失った。

 無理もない。今の彼女たちに、長年バレンティーナのアシストを務めたマリアローザと同じ働きを要求するには無理がある。スターシアと比較されて低い評価を受けたこともあったマリアローザだが、エースを守るための先を見越した動き、ポジション取りは職人的巧みさで、トップチームのアシストとして常に一流であった。新人が数ヶ月で真似できるものではない。

 エリーにしても、アメリカ独自のスーパーミニモとMotoミニモでは、バイクのレギュレーションこそ似てるがレースの走らせ方、展開が異なる。アメリカではあまりチームでの集団走行は見られない。Motoミニモとスーパーミニモの違い、たとえ個々のライディングテクニックでは遜色なくても、チームとしての経験の差が露となった。


 バレンティーナはトップ3台を蹴落とすはずが、タチアナ、ラニーニとナオミの3人とバトルを強いられる。

 4台が押し合うように最終コーナーから立ち上がろうとした時、バレンティーナの目に入ったのは、ストレート先に見たのは、遠ざかる3台、鋭く加速する琴音と懸命に踏ん張る愛華と由加理たちの後ろ姿だった。

 

 


 

 イタリアGP決勝リザルト


1 田中琴音 チェンタウロ-フェリーニLMS


2 加藤由加理 ブルーストライプス-ヤマダ


3 河合愛華 ストロベリーナイツ-スミホーイ


4 ラニーニルッキネリ ブルーストライプス-ヤマダ


5 バレンティーナマッキ VALEノエルマッキ


6 ナオミサントス ブルーストライプス-ヤマダ


7 タチアナクルキナ ストロベリーナイツ


8 エリーローソン VALEノエルマッキ


9 カレンシュワンツ スザキ


10 マリアメランドリ VALEノエルマッキ

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― 新着の感想 ―
[良い点]  琴音が勝つのは相当印象深い  チェンタウロの天才(天災?)二人の陰に隠れてたけど、 じゃじゃ馬と称されるマシンとライダー二人に挟まれる中で常に安定した走りを見せていた琴音が、チーム戦術が…
[一言] え?愛華が一位では? なんだかよくわからない話になってきているような…
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