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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
393/398

忘れていたもの

 多くの人にとってフランスGPの結果は、意外なものとなった。意外と感じたのは、客観性を欠いた思い違いをしていたのかもしれない。実力も実績も、現役では抜きん出ているシャルロッタが、ほぼ完璧なレースで優勝したのだから勝つべき者が勝ったと言えるだろう。



 フランスGP決勝レース結果


1 シャルロッタ・デ・フェリーニ(チェンタウロ)


2 フレデリカ・スペンスキー(チェンタウロ)


3 バレンティーナ・マッキ(チームVALE)


4 アイカ・カワイ(ストロベリーナイツ)


5 アナスタシア・オゴロワ(ストロベリーナイツ)


6 コトネ・タナカ(チェンタウロ)


7 タチアナ・クルキナ(ストロベリーナイツ)


8 ラニーニ・ルッキネリ(ブルーストライプス)


9 ユカリ・カトウ(ブルーストライプス)


10 ナオミ・サントス(ブルーストライプス)


11 カレン・シュワンツ(スザキニレ)


12 エリー・ローソン(チームVALE)


13 マリア・メランドリ(チームVALE)


14 アンジェラ・ニエト(アフロディーテ)


15 ローザ・カピロッシ(アフロディーテ)


16 カーリー・ロバート(スザキニレ)


17 アンナ・マンク(アルテミス)


 ストロベリーナイツで四年連続チャンピオンを達成し、当面シャルロッタ時代が続くと思われたが、今季突然のLMSへ移籍した。祖父の興したかつての名門チェンタウロフェリーニの名を冠したマシンは、決して遅くはなく、シャルロッタと並ぶ天才と言われるフレデリカをチームメイトとしていたが、マシンの耐久性と信頼性に欠け、何より悪い意味でフレデリカとのライバル関係が目立っていた。

 ストロベリーナイツ時代は勝って当然、シーズン全戦全勝をも達成した事もあるシャルロッタだが、ここまで予選とレース序盤は抜群の速さを見せつけるものの後半失速、やっとゴールまで辿り着くというレースを繰り返していた。今季ランキング首位に立ってはいるが危ういレースが多く、ワークス勢が調子を上げてくれば苦戦を強いられるのは必至と言われていた。

 しかしこのフランスGPでのチェンタウロフェリーニの二人の天才は、いつも通り最前列スタートから飛ばしに飛ばし、そのままゴールまで走り切った。出遅れたバレンティーナ、愛華、ラニーニらが絡む暇も与えず、トップはフェリーニの三色(トリコロール)が一度も色を変える事なく、チェッカーフラッグを受けた。

 これがフェリーニLMSの躍進、チェンタウロ伝説復活の始りか、単なるラッキーで最後まで走り切れただけなのかは、意見の分かれるところではある。主に熱いドラマを期待するファンは前者を、冷静な分析対処を求められるライバルチーム、関係者やレース通を自称するファンは、願望が含まれた後者の見解を述べる者が多かった。フェリーニLMSのマシンもシャルロッタ並びにフレデリカにも、これまでと大きな変化は見られない。




 勿論今回の結果が、決して偶然じゃないと肌身で感じてライバルもいる。シャルロッタの才能を幼い頃から思い知らされているバレンティーナも、その一人だ。


「あれはラッキーなんかじゃない。ああなったらもうボク一人じゃシャルたちに対抗できない。チームの体制をもう一度見直す必要がある」

 フランスGPを3位入賞という、神が贔屓した二人を除けば勝ちに等しい好成績で終えたものの、バレンティーナはチームのディレクターであるジジ・パッジーニに強く訴えていた。

 ジジも、彼女の言いたいことはわかっている。今回、バレンティーナは称賛すべき走りを見せた。レースに「たら」「れば」はないと承知していても、「もしシャルロッタとフレデリカが失速して入れば、」と思わずにいられない。

 異次元の速さで疾走するフェリーニの二人を、バレンティーナはたった一人で、もう一歩というところまで迫った。捉えることは叶わなかったが追随する愛華とスターシアのコンビに競り勝ち、表彰台をもぎ取った。

 それは人気実力ともに絶頂期のバレンティーナを思い起こさせる走りであり、もしいつも通りフレデリカがリタイア、シャルロッタは息切れしていたら、完璧な勝利を手に入れてたろう。或いはもしバレンティーナにスターシアやナオミのようなアシストがいれば或いは……と。


 しかし、現実は現実として受け入れなければ前に進めない。

「見直すと言っても、今さらチームを再編するのは難しいだろうな。ジョセフィンは生意気だが速さだけならおまえさんと同レベルだ。エリーも数年前とは比べものにならない適応力を身につけている。あの安定感は特筆すべきものだ。マリアメランドリの経験不足は否めないが、きっかけさえあれば大変身するだろう。彼女たちを使えないのは、お」

「ジョセフィンは口だけ、エリィはセコい安定志向。マリメラは、ボクも目をかけてきたけど、世界にはまだ早すぎた。彼女たちは今のボクが必要としてるレベルにない」

 予想通りの反論で言葉を遮ったバレンティーナに、ジジは大きくため息をついた。バレンティーナ不振の最大の理由を感じているようでもある。

「彼女たち以上のライダーを、今からどうやって連れてくるというんだい?見直す必要があるのは、おまえさん自身だよ。それを変えない限り、シャルロッタは勿論、アイカにも、ラニーニにも勝てないだろうな」

「言ってる意味がわからないんだけど?レースを見てなかったのかな?ボクは、実際にスターシアにアシストされたアイカに勝ってるんだよ。実力じゃボクの方が断然上なのは、誰の目にも明らかだったはずだ。ボクにスターシアほどのアシストがいれば、誰にも負ける気がしないね」

 バレンティーナは、余裕ある口ぶりで言い返したが、それが逆に彼女の余裕のなさを物語っているようにも思えた。

「スターシアほどのアシストをどこから連れてくる?まあ確かに、全盛期のおまえさんなら今のアイカと正面から勝負できたろう」

「今日だって勝った!それもスターシアのアシストされてるアイカを、たった一人で抑えてみせたろ?見てなかったのか!」

 もはやバレンティーナの表情からは、余裕どころか怒りの色が浮かんでいる。それをジジは軽く受け流す。

「認めるよ。今日のおまえさんは、全盛期のバレンティーナ・マッキを思わせる走りだった」

「今でも全盛期だ」

「だからこそ惜しいのさ。まっすぐにレースに向き合えば、今でもタイトルを狙えると思ってる」

「ボクははじめからそのつもりだ。だからチームの再編成が必要なんだ!」

「間違ってるのは、その意識さ。わからないか?ストロベリーナイツだって完璧な体制じゃない。スミホーイは、我々やヤマダと比べたら一世代前のエンジンだ。パワーを絞り出そうとすれば、極端に燃費が悪くなる。スターシアはいつも燃費と戦っている。本来ならもっとアイカを速く走らせられるはずだ。今日のラストラップなんざ、アイカについて行くのが精一杯だった。おまえさんだって、本当はわかっているんだろ、本気で二人に勝ったとは思っていないじゃないか?不満はあるだろうが、望めばキリがない。今できることに全力を尽くすしかないのはみんな同じだ」

「勝てる環境を整えるのもトップライダーの条件だろ?その点、アイカは甘い」

「それは一理あるかもしれん。だが甘いのはおまえさんだよ。理想の環境で走れてる奴なんて誰もいない。シャルロッタなんざ、チームの形すら整ってない状態でも勝ちにくる。無理を承知で、力づくで挑んでくる。アイカも絶対諦めない。それに比べたらおまえさんは?いつもないものねだりばかり、満たされなければチーム移籍を繰り返してきた。いつまで逃げるつもりだ?」

 ストロベリーナイツのセルゲイおじさんに並ぶMotoミニモの古参メカニックの言葉に、バレンティーナは言い返さなかった。


 彼の言ってる事は正しい。バレンティーナもその事に気づいていた。ただ認めたくなかっただけだ。それを指摘されるのが怖かった。

 だが、いざズバリ指摘されてみると、案外すっきりするものだった。





第4戦フランスGP終了時点ポイントランキング


1 1シャルロッタ・デ・フェリーニ(チェンタウロ)77p


2 2アイカ・カワイ(ストロベリーナイツ)64p


3 46バレンティーナ・マッキ(チームVALE)61p


4 91ユカリ・カトウ(ブルーストライプス)52p


5 3ラニーニ・ルッキネリ(ブルーストライプス)52p


6 4ナオミ・サントス(ブルーストライプス)40p


7 6アナスタシア・オゴロワ(ストロベリーナイツ)31p


8 9コトネ・タナカ(チェンタウロ)31p


9 19フレデリカ・スペンスキー(チェンタウロ)29p


10 21エリー・ローソン(チームVALE)28p


11 86タチアナ・クルキナ(ストロベリーナイツ)22p


12 8アンジェラ・ニエト(アフロディーテ)17p


13 33マリア・メランドリ(チームVALE)17p


14 99ジョセフィン・ロレンツォ(チームVALE)16p


15 34カレン・シュワンツ(スザキニレ)16p


16 11ソフィア・マルチネス(アフロディーテ)6p


17 10カーリー・ロバート(スザキニレ)5p


18 64ローザ・カピロッシ(アフロディーテ)3p


19 17アンナ・マンク(アルテミス)2p


20 39ノブコ・アオキ(スザキニレ)1p



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