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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
391/398

追う者

 得意のスタートで三列目から、これもスタートが得意と言われる愛華、ラニーニの後ろに飛び込んだ由加理は、さらに二人と共に1コーナーでノエルマッキVALEのライダーを一人かわし、6番手でシケインをめざす。

 ストロベリーナイツエースとブルーストライプスエースがスタートから激しく争っている。見る者にとっては、トップのシャルロッタとフレデリカ、単独で追うバレンティーナ以上に熱い視線が集まっている。まして由加理にとっては憧れの先輩と自チームのエースライダーでもある。由加理のテンションは嫌でも跳ね上がる。


 沸き立つ興奮を抑え、並んでブレーキングする二人を冷静に観察する。どちらが前に出るにせよ、由加理のすべきは愛華の徹底マーク。もちろんエースであるラニーニにチャンスがあればアシストもするが、この状況で由加理にできることは愛華にへばりつくことしかなく、それが役割だ。


 愛華が先に減速、ラニーニが一瞬前に出る。が、明らかにブレーキングポイントを越えている。インに寄せられず、外側へと膨らんで行くラニーニを視界の片隅に捉えながら、愛華のあとを追い続ける。


(ラニーニさんがブレーキミス?)


 確実性が持ち味のラニーニさんにしては珍しいミスだ。それほど序盤のポジションどりに賭けていたということか。

 切り返しで素早く後ろを確認すると、幸いコースアウトまでは至っていないようだ。それでもかなり失速しており、立て直してもワークス勢最後尾あたりがやっとだろう。


 由加理は迷った。彼女の役割である愛華の徹底マークというのは、それがラニーニの道を開くことに繋がるからだ。前提であるラニーニが下がった以上、愛華についているより、ラニーニを引っ張るために下がった方が有意義なのでは?その一瞬の隙をついて、スターシアにかわされてしまう。そこへラニーニの声が飛び込んでくる。


『ユカリちゃん!アイカちゃんを追って!わたしは大丈夫。ナオミさんと必ず追いつくから、それまで絶対に離されないで』


 一瞬で本来の仕事に集中する。やるべきことに変更はない。明確な目標があるなら、それに全力で集中するだけだ。しかしスターシアに入られたのは痛い。愛華一人ならなんとかついて行くことができても、Motoミニモ最高のアシストのサポートを受けた愛華に、どこまで食らいつけるか。普段優しい愛華先輩だけど、試合はいつも真剣勝負だ。


(自信なんてないけど、やるしかないよ、由加理!)


 由加理は自分を鼓舞する。


 愛華先輩だって、実力を超える目標を追いかけ、成し遂げることで速くなったんだ。わたしだってやらなくちゃダメだ。愛華先輩に追いつくんだから!

 

 



 レースは相変わらずシャルロッタとフレデリカがリードし、少し離れてバレンティーナ、愛華、スターシア、由加理と続く展開で進んだ。ラニーニとナオミも順位を上げてきてるが、スタート直後の混乱から、徐々に体勢が整いつつあるトップ集団の中、爆発的なダッシュ力を持たない二人は、地道にパスして行くしかない。


 そんな中、由加理の背後に、愛華とスターシアに追いつこうと盛んにアタックしているライダーが、もう一人いた。ストロベリーナイツ第3のライダー、タチアナである。


「邪魔よ!あなたの相手してる暇なんかないんだから!」

 間に入られたイラつきをあらわに、由加理に聞こえない罵声を浴びせ煽り続けている。


 チーム内に不協和音をもたらし、一時は解雇も噂されていたタチアナだが、前戦スペインGPでの愛華優勝の一翼を担い、再評価されてきている。タチアナ自身は、直接愛華をアシストしていないし、本人にそのつもりもなかったが、結果的に彼女が後続集団でシャルロッタ、琴音らと共に大バトルを繰り広げてなければ愛華の優勝はなかったし、世間ではタチアナの活躍を好意的に受けとめてくれている。

 エースの(シート)から引き摺り降ろすべき日本人の優勝は気に入らなかったが、愛華優勝のおかげで自分が評価されたのも事実である。とにかく今は、自分がチーム内でも評価されることが重要だと理解している。エースが勝てない理由をアシストのせいにされたらかなわない。日本人を引き摺り降ろしても、自分が解雇されたら本末転倒だ。自分の能力を認めさせなくてはならない。


(それにしてもよく粘るわね。あなたのエースは後ろよ。さっさとサポートに行きなさいよ)


 タチアナから見ても由加理は、愛華とスターシアのコンビによくついて行ってる。本来なら到底敵う相手ではないはずだ。


(ユカリはアイカと同じスタイルね。言うならば劣化コピーってところかしら。経験とテクニックの未熟さを、野生猿みたいな身体能力でカバーしてるだけ。それプラスヤマダの電子制御のおかげでアイカにはなんとかついて行けても、スターシアにアシストされてたら、私だってまともに相手したくないわ。それともヤマダのエースシートでも狙ってるの?)


 自分のことを棚上げして、由加理の本心を疑う。確かに由加理は現在ポイントランキング4位でヤマダエースのラニーニを1ポイント上回っている。まだ3戦終わった時点でのランキングであり、シーズン通せば地味にポイントを積み上げてくるラニーニが優勢なのは明白だが、ヤマダは日本のメーカーだ。あり得ない話ではない。


(アイカも、スミホーイ首になったらヤマダに行けばいいのよ。似た者同士、いいコンビになるんじゃない?)


 そこでタチアナは気づいた。

 スターシアはアイカが走りやすいようにアシストしているはず。それならアイカのコピーであるユカリにとっても走りやすいのでは?と。


(とんだトリックに引っかかるところだったわ。こいつらつるんでるのね。後輩がそんなにかわいい?情なんてなんのメリットないじゃない…………あっ!そういうこと……。アイカこそ裏切り者じゃない!?)


 愛華コピーの由加理は、ラニーニやナオミよりヤマダマシンに順応している。ならば愛華もすぐに順応できる可能性が高い。

 愛華のヤマダ移籍の噂は、毎年のようにあがっていた。ヤマダは愛華に、シャルロッタ以上の契約金を提示したという話は、レース界で知らない者はいない。ユカリを振り払おうともせず、後ろを好きにつかせてるのも辻褄が合う。

 

 あなたがどこに移籍しようと私には関係ないわ。むしろ出て行くってなら歓んで送り出してあげるけど、変なゴタゴタに巻き込まないでほしいところね。私よりユカリの方が将来性あるなんて言われたらたまらないし。とりあえず目障りな後輩ちゃんは潰しておいた方がいいみたいね。私のためにも、ストロベリーナイツのためにも。


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― 新着の感想 ―
[一言] 正直、このゴミ以下の精神性のやつが出てきてから全く面白くない。しばらくためてから読むことにします。こいつについて何考えているかとか書く必要あるのかなとも思います。書くにしても総集編で後で一話…
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