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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
379/398

インタビュー巧者

 Motoミニモ第2戦アメリカGPは、誰にとっても不満の残る形で幕を下ろした。

 レース結果は、最終コーナーでのシャルロッタとタチアナの接触事故をすり抜けたバレンティーナがそのままトップでチェッカーを受け優勝。ラニーニ2位、由加理はラニーニの後ろでゴールし、ニ戦連続表彰台とブルーストトライプスのアシストとしての役目を果たした。4位ナオミ、シャルロッタが5位愛華が6位でゴールラインを越えた。


 ベテランバレンティーナ久々の優勝であったが、表彰台で歓喜に溢れる光景はなく、ブーイングこそないが、盛り上がりに欠けるものとなった。


 当然、インタビューもラストラップ最終コーナーの出来事に集中した。


「ボクにとっては久しぶりの優勝だけど、素直に歓べるような形じゃなかったのは残念だ。ただ一つ、言っておきたいのは、タチアナがミスしたのは間違いないけど、故意にぶつかったんじゃないのは確かだ。あれはまったくのレーシングアクシデントということだよ。シャルにしたらおさまらないだろうけど、一番よく見える位置にいたボクが言うんだから間違いないよ。勝ちを拾ったから言うんじゃない。最終コーナーはボクも狙っていた。勘違いしないでよ。ボクならもっと上手くやれたって言いたいんじゃないんだ。もしかしたらボクがシャルにぶつかっていたかもしれないってこと。ライダーはみんな、その瞬間瞬間を全力で走ってる。限界ぎりぎりで走っているのだから、すべてコントロールできるわけじゃない。その結果を無責任に責めるのは、ボクは控えたい。それがレースなんだから」


「ユカリさんもその場面を目撃してたと思いますが、どう感じましたか?」


 バレンティーナと同じようにすぐ後ろにいた由加理にも、同じ質問がされる。


「え……っと……」


 新人でまだ世界の舞台に慣れてない由加理には、デリケートで答え難い質問だ。下手なことは言えない。多少見解が違っても、バレンティーナの言ってることは概ね事実である。由加理が言葉を選んでる間に、バレンティーナが再びマイクを握った。

「ボクもユカリも、ストロベリーナイツが勝つためにシャルにぶつけたなんて、絶対にないと信じてるよ。その証拠にアイカは責任感じて、シャルの後ろでゴールしたんだから。ユカリもそう思うよね?」

「それはわたしも思います。アイカセンパイもぶつかるぎりぎりのところだったんですから!」

 とっさに由加理は同意していた。

 

 

 

 ───────


「さすがバレンティーナだな。抜け目ない」

 エレーナは、パドックで中継される入賞者会見の様子を観ていた。

「でも今回はバレンティーナに否はありませんから。うちのタチアナが全面的に悪いのに、なんか庇ってくれてるみたいですよ」

 ニコライは回収車に載せられ運ばれてきたタチアナのバイクを眺めながら答えた。さすがにタチアナも今回は落ち込んでいる様子だ。

「ニコはお人好しだな」

 エレーナはそれだけ言うとモニターから離れた。 

 

 

 

 

「さすがバレンティーナさんね。完璧な受け答えだわ」

 チェンタウロレーシングのホスピタルリティーブースでも、由美がエレーナと同じような感想を述べていた。

「今回は誰もバレンティーナの勝ちは批判できないよね。本当ならもっと堂々としていいのに、意外といい奴かも?」

 智佳もバレンティーナの控えめなコメントに好感を持ったらしい。

「あら智佳さん、NCAAで揉まれてると思ってましたけど、意外とチョロいですね」

「どういうことだよ?そりゃあ、あの瞬間は優勝を盗られたみたいで頭来たけど、バレンティーナはなにも悪くないじゃん。悪いのはぜんぶタチアナだろ?」

「そうですね、バレンティーナさんには何の責任もありません。嘘も言っていないでしょう」

「だったらもっと偉そうにしてもいいんじゃない?それを棚ぼた勝利で申し訳ないなんて、案外カッコイイとこあるじゃん」

 智佳にとって(バレンティーナファン以外にとって)、バレンティーナと言えば小狡いイメージだが、意図せず優勝してしまった今回、実力で勝ったなどと言わないところにスポーツマン的フェアプレー精神を感じていた。

「勘違いしないでください。私はバレンティーナさんを批判してるのではなく、褒めてるのです。こういうところは、シャルロッタさんにも見習ってもらいたいですわね」

「なんだよ、それ?」

「えっと智佳、わたしもバレンティーナさんの受け答えは、よく計算されたものだと思うわ」

 由美の言いたいことがわからず、釈然としない智佳との間に、紗季が割って入る。

「どういうこと?」

 高校時代から由美(優等生)とはなにかと対立してきた智佳だが、紗季とは素直に接しられた。

「智佳もバレンティーナさんの優勝が決まった時は腹立ったって言ってたでしょう?同じように感じた人はいっぱいいると思うの。たぶん観てた人の多くは、本当の勝利者と認めたくなかったと思う」

「でも、それは仕方ないじゃん、一番でゴールしたんだから。そりゃわたしだって愛華とシャルちゃんが最後まで優勝争うのを見たかったけど……バレンティーナもそれは認めてるし、言ってみれば彼女も被害者だよ」

「そう、そこが彼女の巧いところ。智佳も最初は狡いと思ってたのに、いつの間にかバレンティーナさんにいい印象持ってる」

「だけど……バレンティーナが愛華と同じようにシャルちゃん待たなきゃいけない理由ないし、冷静に考えれば、やっぱりバレンティーナの優勝は正当なものだよ」

「そう、バレンティーナさんの優勝は正当なもの。たぶん嘘も言ってないと思う。でも本心も言ってない」

「いやいや、本心なんて誰もわからないし、勝負してる人ならみんな勝ちたいと思うのは当然だよ。そこまで責めたら可哀想でしょ。由加理だってエースを待ってただけで、シャルちゃんや愛華に気を使ったわけじゃない。みんな勝つためにやってるんだから」

「由美が『さすが』って言ってるのは、そこだと思う。何も悪いことしてないんだから堂々と一番だと誇っていいんだけど、シャルちゃんや愛華に配慮したコメントをした。智佳だけじゃなくて、シャルロッタさんや愛華を応援してた人たちは、みんなバレンティーナさんの優勝は仕方ないと認めても、また上手くやったと思ってた。だけどあのコメントで、バレンティーナも被害者だって、見方が変わったわ」

「なるほど……言われてみれば」


 智佳はようやく由美がバレンティーナを褒めた意味を理解した。

 プロスポーツというのは、勝てばいいというものではない。ファンがいて、ファンを取り込みたい用具やバイクのメーカー、スポンサーが資金を出して成り立っている。プロレスの悪役(ヒール)のように、憎まれることを仕事としてる人もいるが、一般にプロスポーツ選手は人気商売だ。良くも悪くもエンターテイメントであり、人気があるほど条件のいいチームへ、チャンスと高い収入が得られる。それは「スポーツ選手は子どもたちの手本となる行動をしなければならない」という考えとも通じる。チェンタウロレーシングの実質的スポンサーである由美としては、派手さと奇行ばかり目立つシャルロッタにも是非見習ってもらいたいところだろう。


(ある意味、競輪ボートオートレースなどのギャンブルレースこそ、公平で純粋なスポーツ競技といえるかも知れない)


 紗季の説明でそこまで納得した智佳に、由美はさらにバレンティーナのコメントの解説をつけ加えた。


「バレンティーナさんが巧いのは、それだけではありません。張本人であるタチアナさんを庇っているようでいて、その実、彼女が愛華を勝たせるためにシャルロッタさんにぶつかった可能性を示唆してます」

「まさか……あ、でも確かに……」

 インタビューを思い返すと、確かに不自然なところがあった。

「由加理への質問に割り込んでまで、わざわざ指示でぶつけたんじゃないと信じてるなんて言うのは不自然な気がする。由加理も同意するしかないよね、って思っただけだったけど、考えてみたらわたしたちは愛華も由加理もシャルちゃんのことも、ストロベリーナイツや他のチームの人たちもよく知ってるから思いもしなかったけど、あんな言い方したら、一般の人たちは逆に疑っちゃう可能性もあるかも?」

「疑う人がどれくらいいるかわかりませんけど、バレンティーナさんが言わなければ、ほとんどの人はその可能性すら気づかなかったでしょう。愛華さんがシャルロッタさんを待ってくれたので、愛華さんの指示と疑う人はいないでしょうけど、タチアナさんとスムーズな連係ができてない可能性は、チームとしてあまりいい印象ではないでしょう。バレンティーナさんには、前戦で課せられた故意でない違反へのペナルティーに対する批判もあったでしょうけど」

「なんか汚ねえぞ、バレンティーナ!」

「だから彼女はなにも悪いことしてません。智佳さんもプロ選手をめざすなら、コメントもよく考えてするようにしてください」

「わたしはシャルちゃんといっしょで、華麗なプレーで魅力するからいいの!」

「勘弁してください」

「別に由美に迷惑かけないし」

 再び智佳と由美の言い争いが始まろうとする。本当に仲良しなんだと思いつつ、紗季は二人に水を差した。

「ねえねえ、それより由加理ちゃん、今日の3位でシャルロッタさんと同ポイントになって、ランキングも同率首位に並んだよ!」

「本当だ!すごい」

「まだ2戦終わったところです。これからが大変でしょうね。由加理さんにとってもヤマダにとっても」

「ああもう!いちいちケチつけるなぁ、由美は」

「そうでした、こんなところで駄弁ってる場合じゃありませんでした。紗季さん来てください!」

「ちょっと、まだ終わってないぞ!なにが『そうでした』だよ、コラ逃げんな、どこ行くんだよ!?」

「用があるならチェンタウロのパドックに来てください!」

 それだけ言い残し、由美は紗季の手を引っ張り走り去ってしまった。

「なんだよ、べつに用なんてないし。愛華とこでも行こ」



 由美にとって、冷静なつもりでもフェリーニLMS二連勝が目前で消えたのは、かなりショックだったかも知れない。それとも久しぶりに智佳とやり合うのが楽しかったのか?どっちにしても由美らしくないうっかりだ。最近仕事を増やし過ぎている。


(シャルロッタさん、まだ暴れてないといいんですけど……)


今のシャルロッタに一番必要なのは、親友を連れて行くことだった。



 

 

 

───────

 

 

Motoミニモ第2戦USGP終了時点ポイントランキング


1 1シャルロッタ・デ・フェリーニ(チェンタウロ)36P


1 91ユカリ・カトウ(ブルーストトライプス)36P


3 3ラニーニ・ルッキネリ(ブルーストトライプス)33P


4 2アイカ・カワイ(ストロベリーナイツ)26P


5 46バレンティーナ・マッキ(チームVALE)25P


6 4ナオミ・サントス(ブルーストトライプス)24P


7 6アナスタシア・オゴロワ(ストロベリーナイツ)20P


8 21エリー・ローソン(チームVALE)16P


9 9コトネ・タナカ(チェンタウロ)14P


10 8アンジェラ・ニエト(アフロディーテ)10P


10 33マリア・メランドリ(チームVALE)10P


10 99ジョセフィン・ロレンツォ(チームVALE)10P


13 19フレデリカ・スペンスキー(チェンタウロ)9P


13 34カレン・シュワンツ(スザキニレ)9P


15 11ソフィア・マルチネス(アフロディーテ)6P


16 10カーリー・ロバート(スザキニレ)2P


16 64ローザ・カピロッシ(スザキニレ)2P


16 17アンナ・マンク(アルテミス)2P





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― 新着の感想 ―
[一言] 見えないモノを匂わせるテクニック。 現代では全てにおいて有効なモノと思います。
[気になる点] 脱字?報告です > バレンティーナの久の優勝→久々?久しぶり? [一言] 更新お疲れ様です 自分の言いたいことは三人娘が代弁してくれたので割愛 今年のF1でも、某新人君の発言が問題に…
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