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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
377/398

ライバルと後輩とチームメイト

「やったね!やっぱりアイカは計算できない子だったよ」


 バレンティーナは、愛華とシャルロッタがトップを争ってバトルを演じるという狙いが的中したことに、思わず左手をグッと握りしめ、ガッツポーズする。


 シャルロッタを先頭に、前を行く三台は協力態勢はないにしろ、チームで追い上げてもチェッカーまでに追いつくのは難しいほど離されてしまっていた。可能性があるとすれば、優勝を争ってペースを落としてくれることぐらいしかない。

 由加理もいるが、彼女にはそれだけの力も経験もない。昨シーズンまでシャルロッタとコンビを組んでいた愛華なら、勝てないまでも苦しめる事ぐらいできるだろう。愛華が計算できるライダーなら、無用な混戦に陥るような勝負を挑まず、確実な二位を選んだろう。自分ならそうする。

 だがバレンティーナには確信があった。今より順位を落とすリスクの方が高くても、愛華なら必ず挑むと。

 これまで何度もその勝算を無視した諦めの悪さに、苦杯を味あわされてきたバレンティーナだ。今はその諦めの悪さが頼りだ。


「もし奇跡が起こって、アイカがシャルロッタに競り勝ったとしても、残念だけど彼女がトップでチェッカーを受けることはないよ。優勝はボクがいただくから!」


 可能性が見えたことで、チーム全体の士気も高まる。全体の士気は個の力を超えるストリームとなって加速させる。熾烈なトップ争いを始めたシャルロッタ、愛華、由加理との差が、見ててわかるほどの早さで詰まって行く。


 当然、勢いづいたのはバレンティーナたちだけではない。


「ユカリちゃんが頑張ってるんだから、わたしたちも行かなくっちゃ!」

「バレンティーナに横取りさせない」

 ラニーニとナオミも、モチベーションのギアを一段上げる。

 牽制してる暇はない。とにかく追いつくことだけに集中する。


 トップチームの捨て身のラストスパートに、さすがのフレデリカもついて行くのがやっととなっていた。琴音は徐々に遅れ始める。

 

 

 

 先にコーナーへ入ろうとブレーキングをぎりぎりまで遅らせたシャルロッタと愛華は、揃ってコーナー奥で詰まり、大きく失速する。立ち上がろうとスロットルを開けたところへ、由加理が飛びだしてくる。由加理もオーバースピードのため、ラインを外れている。


「あたしの鼻先に飛び込んでくるとは、いい根性してるじゃない。でもそんなんじゃあたしを止められないわよ!」

 言うほどシャルロッタに余裕はなかった。連携のない相手にここまで手こずらされるのは初めてだ。案外苛立ちはない。新人に邪魔されることを、むしろ楽しんでいるようだ。


 シャルロッタはパワースライドを使い強引にねじ曲げ、由加理の内側から加速した。愛華も続こうとするが、LMSのパワーに引き離されそうになる。少し遅れながらも由加理のスリップに入って追いかける。

 

 

 トップ三人は、三者三様のマシンとテクニックを駆使し、激しいバトルを繰り広げていた。それはMotoミニモのトップを争うに相応しい見応えあるものにちがいなかったが、ペース的にはぐんと落ち、セカンドグループに分かれるまで引き離していた後続がすぐ背後まで迫ろうとしていた。

 

 

「あいつらバカでしょ?夢中になっちゃって、後ろのこと本当に気にしてないよ」

 バレンティーナは、バックストレートへと続く鋭角の11コーナーで突っ込み過ぎ、大きくスピードロスした前の三台を見て笑いたくなった。愛華と由加理が予想以上に頑張ってくれてる。最終コーナーからフィニッシュラインまでのぎりぎりの勝負を覚悟してたが、ここで彼女たちをぶち抜こう。

「このストレートでいただくよ」

 バレンティーナは、才能溢れるアシストたちを率いて、このサーキット最長のストレートに備える。いくらシャルロッタが人間離れしていても、ストレートではどうしようもない。


 バレンティーナは、丁重に11コーナーに入って行った。ラインを大きく外したシャルロッタたちは、まだスピードに乗りきれていない。あそこまで失速したら、Motoミニモ最大のパワーを誇るLMSチューンのヤマダエンジンであっても、チームで引っ張るノエルマッキの敵ではない。ストレートエンドまでにまとめて引き離せるだろう。バレンティーナは勝利を確信した。ラニーニたちは追いすがるだろうが、態勢は圧倒的だ。


 コーナーリングスピードを最大限活かし、トップスピードに向けてフル加速する。更に先頭交代しながら一気に前との差を詰めて行く……はずが、前に出て引っ張るはずのチームメイトが来ない……!?


 前との差は縮まっているが、チームで引っ張ってもらうのとバレンティーナ一人ではスピードの伸びがちがう。おまけに三人は立ち上がりで遅れた分、別々のチームなのに息のあったスリップストリームで挽回している。


 真後ろに感じるはずのチームメイトの気配がないのに気づいて、後ろを振り返ったバレンティーナの目には、スターシアとタチアナがVALEのアシストたちを抑えているのが見えた。バレンティーナだけでは、このストレートで勝負を決められそうにない。


(まったく、もっと真剣に走れよ!いつも肝心な時に役立たずなんだから……でもまあ、真剣な役立たずよりマシかな?)




 バレンティーナを逃したものの、アシストとの分断に成功したスターシアは、取り敢えず自分の仕事を果たしたことに安堵した。

 もちろんこのまま愛華を追いかけ援護することも考えたが、自分にどこまで余力が残っているか?追いついたとしても、それは今抑えているチームVALEのアシストライダー、それにラニーニとナオミ、フレデリカまで連れて行くことになり、ゴール直前の混戦を膨らませる結果になりかねないと判断した。愛華を信じて、これ以上邪魔者を近づけさせないのが最善だ。


 しかし、ここまで協力して上がってきたタチアナは、ここでレースを終える気はなかった。後続に構わず、長身バレンティーナのスリップストリーム有効範囲になんとか入り込み、その背中を追いかけ続けている。


 スターシアが後続を抑え、タチアナが愛華のサポートに向かうというのも、策としてあり得る。むしろ理想的と言える。

 しかしバレンティーナの後ろに入ったタチアナからは、嫌な予感しかしない。


(あの子、なに狙ってるの!?)


 ゴールまで残り四分の一周。されどその残り少ない区間に、シャルロッタ、愛華、由加理、バレンティーナが全力でぶつかり合うのだ。そのような混戦において、不足の事態でアシストがエースより先にゴールすることもあり得た。


 タチアナもシャルロッタに勝てるとは思ってないはず。彼女ではバレンティーナにだって翻弄される。


(でももし、本気で勝てると思ってるとしたら、それこそバレンティーナの手玉に取られかねないわ……)


「タチアナさん!後続を抑えることに専念してください!」

   

 スターシアの呼び掛けが聞こえないのか、聞く気がないのか、タチアナはバレンティーナと共にトップ三台に迫って行った。

 

 

 


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― 新着の感想 ―
[一言] 気の迷いは誰にでもあるけど、チョット調子に乗っちゃったかな?
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