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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
347/398

由加理の挑戦

Motoミニモ チーム紹介⑤


アフロディーテ


マシン    ヤマダYD215


チーム監督  カル・ラザース(45)


ライダー   8 アンジェラ・ニエト(31)


       11ソフィア・マルチネス(30)


       64ローザ・カピロッシ(15)


ヤマダよりワークスマシンYC215と細部の仕様は異なるもののほぼ同性能と言われるYD215を供与されているセミワークス(サテライト)チーム。

エースアンジェラは、バレンティーナのアシストとしてヤマダワークスの経験もある。ソフィア・マルチネスとのミニモ職人コンビで、時にワークスを脅かす走りを見せる。

ヤマダよりYD215の供与によって、LMSに次ぐ第二のプライベーター勢力となった。

新人ローザ・カピロッシは、同世代のマリア・メランドリの影に隠れ、実績は劣るものの将来性は上との声もある。

四強のタイトル争いに影響を及ぼす今季のダークホース。

 今年GPにデビューする新人は五人もいる。中でも注目を集めているのが、チームVALEのマリア・メランドリとブルーストライプスヤマダの加藤由加理だ。


 予選出走順は昨シーズンランキングの逆順なので、新人は最初のグループから出走となる。今回はルーキー五人なので、その中からくじ引きで出走順が決められた。


 由加理が引いたのは、三番目の出走。一番はチームVALEのマリア・メランドリだ。


 マリアは、昨年ヨーロッパ選手権全勝優勝したVALEジュニアチーム出身の若干15歳。若さもあって、同じ全勝優勝でも全日本の由加理とは、欧米のファンの期待度がちがうらしい。

 今シーズンの始まりを全世界が注目する中、マリアは予選タイムアタックに出て行く。


 由加理はコースに出て行くマリアの背中を眺めながら、大きく深呼吸した。

 自分の番は、もうすぐだ。凄まじいカメラの集中砲火に、一番くじ引かなくてよかったと心から思った。


 昨年、ワイルドカードで出場した日本GPでは、一番初めに出走した。全日本とはちがう観客の数に、すごく緊張したが、開幕戦の注目度はそれを遥かに上回っている。


 マリアはバレンティーナの愛弟子らしく、陽気に声援に応えていたが、由加理には緊張の裏返しに思えた。

 あのシャルロッタさんでも、大事なレース前には集中して、余計なパフォーマンスはしなくなるという。

 走る前にファンサービスするのは、余程の自信があるか、陽気に振る舞って誤魔化さないと押し潰されてしまうからだ。彼女は意外と気が小さいのかもしれない。


 マリアが一周目のウォーミングアップランを終えて、ストレートを通過する。由加理の前のライダーが特設ステージを駆け下り、コースへと出て行く。


 このグループは、前のライダーが一周すると次のライダーがコースに入る。ウォーミングアップ二周、一周のタイムアタック、クールダウン一周で、順調に進めば常時四人のライダーがコース上にいることになる。トップ15からは二周おきになるので、コース上にいるのは二人となる。


 メカニックがタイヤウォマーを外す。いよいよ次は自分の番だ。マリアのアタックが見られないのは残念だが、どのみち人の走りを見てる余裕なんてない。特設ステージに上がり、もう一度頭の中でスーパーラップをイメージする。

 

 

 イメージの中で果敢に攻めていた由加理は、突然肩をぽんと叩かれ、現実に戻された。


「ゼッケン64が通過したらコースイン」


 係員が事務的に告げる。由加理はコクリと頷いた。


 64番のライダーがメインストレートを通過する。もう一度、肩を叩かれた。


「Good looking(カッコいいぜ、がんばれ)」


 機械的に競技を進めてた係員からの一言が、由加理の気持ちを楽にさせてくれた。


「サンキュー」


 とっさに返したありがとうは、発音はうまく言えなかったが、それだけ自然に出た。


(愛華先輩は、デビュー戦でポールポジションだった。わたしにはそんな真似できないけど、今できる最高の走りを見せよう!)


 クラッチレバーを少しだけ弛め、ゆっくりと特設ステージを下って行った。


  

 ヤマダの最新マシンは、「コンピューター制御が極度に進化して、ほとんど自動運転のようになってる」などと言う知ったかぶりもいるが、当然そんな事はない。一時期、急速に電子化が進んだが、MotoGPクラスとちがって、Motoミニモは卓越したライダーなら扱い切れないほどのパワーじゃない。今は必要以上のコンピューターの介在を抑え、ライダーの操作を重視しながらも負担を軽減する方向で進化している。無論これには、シャルロッタの縦横無尽なライディングに翻弄された経験がある。

 

 

 新人ながらヤマダのワークスマシンYC215に乗り慣れている由加理は、イメージ通りのライディングをトレースした。

 途中マリアのマシンが緩衝材の後ろに運ばれていたのだが、走りに集中している由加理の目には入らない。


 由加理が計測ラインを通過し、タイムがトップの位置に表示された。他のライダーのタイムは表示されていない。

 ピットに戻って初めて、マリアが転倒し、由加理の前に走ったライダーは、再アタックとなったことを知った。


 マリアの後ろでなくてよかった。今の走りをもう一度やれと言われても、たぶん無理だ。


 途中大きなミスをしてたなら再アタックはラッキーだろうが、一度折られた集中力をもう一度高めるのは難しい。しかも上位ライダーの間に割り込まれるので、新人にとってはきついだろう。


 ほっとしたのもつかの間、目安としていたマリアの記録がないので、自分がどれくらいなのかわからない。自分では実力を出し切れたつもりだし、フリー走行のタイムと比べても、けっこういいところいけてるはずなのだが、GPの猛者たちの一発にかけるアタックがどれほどか、新人の由加理には不安で仕方ない。上位ライダーがアタックに入る(たび)に、心臓のドキドキが収まらないでいた。


 

 

 

 ──────

 

 

「なにやってんだよ、マリメラは!」

 バレンティーナは、モニターを見ながら毒づいた。

「あいつ、速いくせに肝心な場面になるとビビりが出る癖、治ってないのか!?」

 愛弟子の失態に、苛立ちが隠せない。


 マリアの才能に、まだ子供の頃から目をつけ、自分のアシストとなるべく育ててきたバレンティーナだが、彼女の勝負度胸の弱さだけが気がかりだった。


 それが見事に的中した。開幕戦で華々しくデビューさせ、ライバルたちにチームVALEの厚みを印象づけようとした目論見は、出鼻から転けた。フリー走行のタイムはよかったので、救済処置により決勝には走れるだろうが、最後尾スタートとなる。これでマリアは、決勝では役に立たなくなった。


「まあいいさ、あいつのビビりは想定内だから。うちにはまだエリーとジョセフィンがいる」


 エリーは間違いないだろう。ヤマダ時代に一度、一緒だった。その時はMotoミニモスタイルに慣れておらず、ぱっとした成績も挙げられずに終わったが、アメリカのスーパーミニモで経験を積み、今では速さと安定感を兼ね備えたライダーになっている。

 ジョセフィンは今一信用できないところがあるが、速さはピカ一だ。シャルを潰すぐらいはやってくれるだろう。

 もちろんマリメラにも、今後はしっかり働いてもらわないと困るんだけどね……

 

 

 

 ──────


 一番スタートのマリア・メランドリの転倒以外、大きな波乱もなく予選は順調に進み、残すはTOP15のみとなった。


 ここまで由加理はトップを維持している。ほとんどがプライベートかワークスのサテライトチーム、或いは新参ワークスなので、当然といえば当然なのだが、由加理にとって心臓が縮む時間だった。とりあえずヤマダワークスの面目は保っている。


 ここからが本番だ。ピットの空気も観客の熱気も、一段レベルアップした気がする。目をつぶって祈りたくなる。


「しっかり見なさい、わたし!次からはわたしもここで走るんだから!」


 由加理の挑戦は始まったばかりだ。目標は決勝でエースラニーニを勝たせること。そして自分もトップライダーに名を列ねることだ。


 そう、愛華先輩と同じところに……


 由加理は、トップシードの走りを目に焼きつけるように見つめた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 憧れとは似て非なる状況かと。
[気になる点] スーパーミニモ.......アメリカにもミニモクラスあったんですね カウル無し+ネイキッドなイメージをしてしまった その方が何かアメリカンな感じがしてw [一言] 更新お疲れ様です …
[一言] マリメラは緊張に押し潰されちゃったか… 予想以上の歓声で走りに集中しきれなかった感じなのかな? ジュニアカテゴリーとはいえ欧州全勝優勝してるわけだしメンタル面さえなんとかなれば早い段階で戦力…
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