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最速の女神たち   作者: YASSI
新時代
345/398

揺さぶり

Motoミニモ チーム紹介③


チェンタウロレーシング


マシン   フェリーニLMSヤマダHー07


チーム監督 ハンナ・リヒター(41)


ライダー  1 シャルロッタ・デ・フェリーニ(23)


      19フレデリカ・スぺンスキー(24)


      9 田中琴音(26)


今季より四年連続チャンピオンのシャルロッタを加え、チーム名もチェンタウロレーシングと新たに最強プライベートチームとしてワークスの牙城に挑む。

ヤマダYC214のエンジンを出力優先でチューン、ストレートではMotoミニモ最速を誇る。ハンドリングもシビアで、ライダーの曖昧な操作を許容しない極端な設定。かつての、スパルタンなレーシングマシンのイメージにぴったりマッチする、ヤマダのワークスマシンとは対極のマシン。稀代の天才二人がどこまでワークスを追いつめるか、これまでもマシン、ライダー共にレース後半までもたなくなる事が多かっただけに、チームワークとペース配分が鍵と思われる。


 チェンタウロレーシングのテントを出て、タチアナを連れて戻る途中も、愛華はタチアナに対してどう注意すればいいのか考えあぐねていた。

 今すぐ、一対一で注意しても、愛華の言うことを素直に聞くとは思えない。かと言って、エレーナさんやスターシアさんを交えて注意しても、話は聞いてくれるだろうが、今よりもっと心を閉ざしてしまう気がした。

 タチアナにとって、エレーナも スターシアも、愛華の味方だ。ますます孤立してると感じてしまうだろう。


(もう、どうしたらいいの?一つにまとまらなきゃならないのに……)


「やあ、浮かない顔してどうしたの?ストロベリーナイツの新エースさん」

 悩んで歩いていた愛華に声をかけたのは、ノエルマッキエースのバレンティーナだった。


(うわぁ……一番会いたくない人に会っちゃった)


 バレンティーナは心理的駆け引きが得意だ。たまに自分まで溺れてしまうこともあるが、今は掻き乱されたくない。


「さっそく魅せてくれたね。コトネをぶっ飛ばしたんだって?」


(さっそく揺さぶっりにきた。ここは適当に挨拶して離れよう)


「ちょっと逸りすぎたみたいです。今謝罪してきたところです」


 しかし、バレンティーナは愛華に構わず、タチアナに向かった。


「だけどLMS、あっ、今年からチェンタウロだったっけ、あの連中に追いつけるなんて凄いじゃん。スプリントならボクたちワークスより速いのに」


 やっぱり狙いはタチアナのようだ。


「それほどでもなかったです。去年まではマシンが遅かったからなかなか活躍できませんでしたけど、今年はみんな見直すと思いますよ、私のこと」


 バレンティーナの嫌味に対しても、タチアナもタチアナで相変わらずの強気で答える。


「たいした自信だね。でも言うだけのことあるみたいだ。アイカたちとあれだけのタイムで走れるんだから。もしかしたらタチアナちゃんが引っ張ってたのかな?だとしたら、これは要注意だね」


 今度は持ち上げてきた。バレンティーナのことだから、走行が終わったらすぐに、自分たちだけでなく、ライバルたちの走りも分析してるはずだ。わかった上で、タチアナを挑発してる。


「次は、もっと速く走れるところ、お見せしますから」


(褒めてるんじゃないから!踊らされないで!)


 愛華が必死で相手にしないでと合図しても、タチアナは見事にバレンティーナにのせられている。

 タチアナの性格を、愛華以上に調べているのかもしれない。褒めて潰すつもりだ。


「すみません、走り終わってすぐにコトネさんのところに行ったんで、メカニックとの打ち合わせもまだなんです。これで失礼します」


 愛華は慌ててタチアナの手を引っ張っり、バレンティーナに背を向けさせた。

 

 

 

 

 ──────

 

 

 

「バレンティーナさんにのせられないで!あの人、ああやって人を惑わすの得意なんだから」


 愛華はストロベリーナイツのパドックに戻ると、まっ先に着替えたりするトレーラーにタチアナを連れ込んだ。もう説教の手順なんてかまってられない。


「もしかして、バレンティーナさんに私が評価されて、嫉妬してるんですか?」


 呆れてため息が出る。

 確かにタチアナは思ってたより早くワークスの新型スミホーイを乗りこなしている。子供の頃からバイクに乗ってるだけあって、愛華より巧いところもあるのは認めよう。


 だけどそんなの、バレンティーナさんから見たら当たり前で、ぜんぶお見通しの上で挑発してるんだよ。どうしてわからないの?


 天才はシャルロッタさんとフレデリカさんだけじゃない。バレンティーナさんだって凄い才能持ってる。ラニーニちゃんもナオミさんも琴音さんも、本当に巧いライダーだ。トップグループを走ってるのは、みんな超人なんだから。上手なのは当たり前なんだから!


 愛華は、トップチームと下のチームの差を感じた。それが何かは、わからないないが、隔てるものがあると感じた。

 それはタチアナというたった一人をサンプリングしただけの偏見かも知れない。たぶん、下位のライダーにも、マシンとチームに恵まれれば、テクニック的にはすぐにトップグループを走れる人もいるだろう。実際タチアナは、テクニックだけなら遜色ない。むしろ愛華がGPデビューした時より、はるかに巧い。だったら……


「あなたはわたしより、いいもの持ってるんだから、もっと素直になって」


 タチアナに足りてないのは取り組む姿勢だ。それを改めればトップライダーの仲間入りできるはず。

 しかし、素直じゃない人間に「素直になれ」と言うほど無益なことはない。


「アイカさんよりいいものってなんですか?」


「えっと、それは……」


 テクニック、経験、才能……


 本心から、自分よりタチアナが劣っているとは思ってないが、今それを言っても嫌味としか受け取らないだろう。


「私になかったのは、チャンスです。ようやく掴んだんですから、このチャンスを使って、私は頂点をめざします」


 思わぬ主張に、気を使っていた愛華はイラっとした。だがぐっとこらえる。

 頂点をめざすのは悪いことではない。愛華だってめざしてきた。


「それなら、一歩一歩、目の前の階段を踏みしめて上がっていかないと。近道なんてないんだから。まずはチームの人たちと協力して、自分の役割を果たすことが大事でしょ?わからないの?」


「アイカさんはいいですね。黙っててもチャンスが扉開けて入れてくれるんですから」


「わたしがどれだけ努力してきたか、あなた知らないでしょ!」


 愛華の苛々は、遂に爆発した。自分は確かに恵まれていた。だがそれは、弛まぬ努力してきた結果だ。誰よりも努力してきた自信はあるし、それを努力もせずに結果だけ欲しがる人に言われたくない。苛つきは怒りに達し、つい声を荒げてしまった。シャルロッタのお馬鹿に振り回された時でもこんなに大きな声で怒ったことはない。


「…………」


 いきなりの愛華の大声に気押されたのか、タチアナがおし黙った。反論がないので愛華も少し落ち着きを取り戻す。


 こういう人は、エレーナさんみたいに厳しくした方がいいのかな?でもわたしじゃ、エレーナさんみたいに格好よく叱れないよね……


 普段おとなしいからインパクトあっただけで、エレーナのような迫力がないのは、愛華もよくわかっている。たぶん慣れてしまったら恐くないだろう。


「とにかく、認めてもらいたかったら、チームに貢献すること。ほかのチームの人にも敬意を払って。互いに信頼し合えないと走れないから」


 なんとか毅然とした態度で言えた。


「…………」


 理解しているのか、ふて腐れてるのかわからないが、大人しく聞いてる。


「バレンティーナさんは踊らせたり萎縮させたりしてくるから、惑わされないこと。あの人にはそれもレースのうちだから」


「そんなのわかってます。私、それほど初心(うぶ)じゃありませんから」


「そ……そうならいいけど……」


 黙って聞いてたのに、突然答えが返ってきて少し戸惑う。逆らうわけではないが、一瞬、ニヤリと笑ったのが気になった。なにか意味ありげな微笑みだ。しかし、すぐに元の仏頂面に戻っていた。


「それからメカニックの人とも信頼関係が大事ですから。不満がある時もあると思うけど、互いに理解し合えるよう努力してください」


 なんとなく調子が狂わされた気がする。


「メカニックとも仲良く、理解し合える関係ですか?」


「そうです。わたしたちが寝てる時間でも、メカニックの人たちはわたしたちのために作業してくれてるんです。そしてわたしたちは、彼らの整備したマシンに命を預けているんですから、信頼関係が一番大事です」


「でもアイカさん、担当メカニックのこと、本当はわかってなかったみたいですね」


 愛華は、タチアナの返答にドキリとした。

 今度は、はっきりと薄笑いを浮かべてる。


「どういうこと!?」


「べつに、思いあたることないなら、なんでもないです。これくらいでいいですか?メカニックと打ち合わせがあるので」


 タチアナは微笑みを浮かべたまま、トレーラーを出て行った。


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― 新着の感想 ―
[一言] こう言う手合いは痛い目に遭っても気付かないたいぷ⁈
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