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最速の女神たち   作者: YASSI
進化する世界
318/398

運命のギアがシフトアップする

第16戦マレーシアGP終了時点でのシリーズランキングと獲得ポイント


 1 ラニーニ・ルッキネリ(ITA)ブルーストライプス ジュリエッタ 254p


 2 アイカ・カワイ(JPN)ストロベリーナイツ スミホーイ 247p


 3 シャルロッタ・デ・フェリーニ(ITA)ストロベリーナイツ スミホーイ 245p


 4 バレンティーナ・マッキ(ITA)team VALE ヤマダ 221p


 5 アナスタシア・オゴロワ(RUS)ストロベリーナイツ スミホーイ 186p


 6 ナオミ・サントス(ESP)ブルーストライプス ジュリエッタ 183p


 7 フレデリカ・スペンスキー(USA)リヒターレーシング LMSヤマダ 152p


 8 コトネ・タナカ(JPN)リヒターレーシング LMSヤマダ 119p


 9 アンジェラ・ニエト(ESP) team VALE ヤマダ 118p


 10ケリー・ロバート(USA)team VALE ヤマダ 112p


 11 ハンナ・リヒター(GAR)リヒターレーシング LMSヤマダ 93p


 12 リンダ・アンダーソン(USA)ブルーストライプス ジュリエッタ 87p


 13 マリアローザ・アラゴネス(ITA)team VALE ヤマダ 77p


 14 エレーナ・チェグノワ (RUS)ストロベリーナイツ スミホーイ 50p


 15 エバァー・ドルフィンガー(GAR)アルテミス LMSジュリエッタ 34p


 16 クリスチーヌ・サロン(FRA)プリンセスキャット ジュリエッタ 24p


 17 アンナ・マンク(GAR)アルテミス LMSジュリエッタ 15p


 18 ドミニカ・サロン(FRA)プリンセスキャット ジュリエッタ 13p


 19 ソフィア・マルチネス (ESP) アフロデーテ ジュリエッタ 13p


 20 ジョセフィン・ロレンツォ(ESP)アルテミス LMSジュリエッタ 6p

  

 

  

 ストロベリーナイツのワンツースリーフィニッシュ。

 そしてラニーニはノーポイント。

 ラニーニは転倒の際、どこか怪我したらしく、メディカルの車両で運ばれたが、自分で歩いて乗り込んでいたので、それほど重症ではなさそうだった。

 ただ、彼女はこの転倒リタイアにより、ポイントの加算はなく254のまま。シャルロッタは25ポイント獲得して245、愛華は20ポイント獲得で247となった。

 ラニーニのノーポイントレースは、一昨年の日本GPでの転倒以来で、その後二年間続けていた連続完走&入賞記録も34で途絶えた。

 

 

─────

 

  

 ストロベリーナイツに占められた表彰台の頂点で、シャルロッタはいつも以上にはしゃいだ。

 無理もない。ストロベリーナイツファンの中でも、奇跡でも起きない限り不可能だろうと囁かれていた逆転タイトルが、現実のものとして見えてきたのだ。チームスタッフは勿論、ヨーロッパと比べてまだまだモータースポーツが浸透していないマレーシアの観客までもが、赤道直下の熱気をも上回る熱狂ぶりで盛り上がっている。


 歓喜の中心で歓びを爆発させ、シャンパン(炭酸水)を振り撒くシャルロッタ。そんな表彰台の一角で、愛華は一人だけ今一つ盛り上がりきれない様子で瓶を振っていた。


 ラニーニの転倒によって一気に詰めたポイント差を、純粋に歓べなかった。

 どんなに困難だろうと、少しでも可能性があるなら諦めない決意をして、それを実践してきた。同時にこれだけの大差を逆転するには、ラニーニにアクシデントかマシントラブルでも起きない限り不可能だと、心の中ではわかっていた。これはレースだと割り切っているはずなのに、言い知れない後味の悪さが、素直にチームの完全勝利を歓べなくさせていた。


 ラニーニのリタイアは、純粋なレーシングアクシデントだった。バレンティーナは確かに無理をしていたが、ペナルティを受けるほどの危険走行とは言えないし、ラニーニ側も抗議していない。

 愛華もレースをする以上、アクシデントもマシントラブルも覚悟している。巻き込まれることも巻き込むことだってある。それがレースだ。


 だけど、誰かが意図的にアクシデントが起きるよう仕向けたとしたら……


 愛華は、ラニーニとバレンティーナが転倒した場面、最終ラップの2コーナーで、シャルロッタのアクセルオンが一瞬遅れたことが、喉の奥で飲み込むことも吐き出すこともできない魚の小骨のように気になっていた。


 もしあそこで、シャルロッタさんがもうちょっとだけ早く開け始めてたら……、ラニーニちゃんは転ばなかったかもしれない。


 常識的にはシャルロッタに何の非もない。遅れたと言っても、ほんの一瞬で、普通の感覚ならむしろ早いぐらいだ。

 観客は勿論、モニター越しではエレーナさえも気づかないほど僅かな空白。だが、ずっとシャルロッタと一緒に走り、目の前でその瞬間を見た愛華には、明らかに間があったように思えた。


 もちろん、まだ怪我から完全に復調しておらず感覚が取り戻せていない、或いはレース終盤の疲労でミスが出たのかも知れない。マシンのレスポンスが一瞬だけ鈍くなることだってある。レース中にタイミングをずらして他のライダーの出鼻を挫くこともある。

 悪い偶然が重なっただけかも知れない。


 そうあってほしいと、愛華は願った。


 あの場面で、バレンティーナさんの動きまで予想してアクシデントを引き起こすなんて、常識的に考えてできるはずがない。

 でも、シャルロッタさんならもしかして……


 だが、確かめることができない。それをシャルロッタに問えば、自分とシャルロッタの関係が壊れてしまう気がした。


 そもそも"シャルロッタならもっと早く行けたはず"というレベルの話で、愛華があのポジションだったとしても結果は変わらなかったろう。それを誰が責めるられるか?

 シャルロッタにしたら言い掛かりでしかない。

 


 それにしても、もうチャンピオンになったような浮かれように、愛華はめずらしく苛立った。

 タイミングが遅れたのは、シャルロッタが一番わかっているはずだ。故意じゃなかったとしても、もう少し怪我をしたラニーニを気づかってもいいのではないか?

 それが愛華の中では、敵同士とはいえ命を預け合うバトルをする者同士の絆のはずだった。

 

 

 入賞者インタビューにおいても、記者の一人からラニーニが右手親指の骨折で全治一ヶ月の診断だと聞かされた時のシャルロッタの態度が、ますます愛華を苛立たせた。


「へぇ、それは残念ね。今シーズン一番の見せ場にするはずだったけど、スロットルも握れないようじゃ引き立て役にもならないじゃない」


 GPライダーは、指の一本ぐらい折れていても走る。だが、右手親指というのは特別だ。バイクはスロットルと前ブレーキという一番大事な操作を右手で行い、唯一親指だけが他の指とは反対から物を握る大切な指だ。


「怪我しなくても結果は同じでしょうけど、彼女についてた幸運の女神も、遂にあたしの魔力に屈したようね」


 言葉ほどの悪意がないのは、皆わかっている。いつものシャルロッタ流のカッコいい中二病セリフを決めたつもりなのだろう。今日もここで愛華が生真面目(きまじめ)にフォローしてくれるはずだ。

 愛華が健気(けなげ)にかばう姿を撮ろうと、会場中のカメラが愛華に向けられる。


 愛華の口から発せられた言葉は、記者たちが狙っていたものとは違ったが、それ以上に強烈なインパクトがあった。


「でも、まだ神様がシャルロッタさんの味方するとは、決まってませんよね?」


 会見の場は一瞬の静寂に包まれた。


 愛華の表情に、シャルロッタの毒気をなごませてくれる柔らかさがない。


 シャルロッタからも、先ほどまでの能天気に浮かれた表情が消え、驚きと突如目の前に現れた獲物を見つけたような不敵な笑みが浮かぶ。


 次の瞬間には、愛華とシャルロッタにフラッシュが雨が降り注いだ。 

 記者たちが愛華に真意を尋ねようと一斉に手をあげる。


 それはどういう意味かと尋ねられても、愛華にはその質問の意味が理解できない。


『チャンピオンはまだ確定していない』

 事実そのままを言っただけなのに、どうしてみんな目の色を変えているのか? 

 少し苛立っていたのは事実だが、決してシャルロッタにケンカを売ったつもりなどない。浮かれるのはもう少しあとにして欲しいという意味で言っただけだ。


 要領を得ない愛華に変わって、スターシアがマイクを握った。

「まだ今シーズンが終わった訳ではありません。ラニーニさんはまだランキングトップであり、私たちは最後まで全力で戦うだけです。厳しいレースで私たちはとても疲れています。会見はこれで終わります」

 スターシアは穏やかに、しかし有無を言わさせない強引さで、会見の幕を降ろした。




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[一言] うわっ、やっちゃった‼︎‼︎!
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