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最速の女神たち   作者: YASSI
進化する世界
309/398

青春ブタ娘はコースマーシャル後輩の夢を見ない



第14戦日本GP終了時点でのシリーズランキングと獲得ポイント



1 ラニーニ・ルッキネリ(ITA)ブルーストライプス ジュリエッタ 234p


2 アイカ・カワイ(JPN)ストロベリーナイツ スミホーイ 214p


3 バレンティーナ・マッキ(ITA)team VALE ヤマダ 205p


4 シャルロッタ・デ・フェリーニ(ITA)ストロベリーナイツ スミホーイ 195p


5 アナスタシア・オゴロワ(RUS)ストロベリーナイツ スミホーイ 170p


6 ナオミ・サントス(ESP)ブルーストライプス ジュリエッタ 161p


7 フレデリカ・スペンスキー(USA)リヒターレーシング LMSヤマダ 136p


8 コトネ・タナカ(JPN)リヒターレーシング LMSヤマダ 105p


9 アンジェラ・ニエト(ESP) team VALE ヤマダ 99p


10ケリー・ロバート(USA)team VALE ヤマダ 95p


11 ハンナ・リヒター(GAR)リヒターレーシング LMSヤマダ 82p


12 リンダ・アンダーソン(USA)ブルーストライプス ジュリエッタ 70p


13 マリアローザ・アラゴネス(ITA)team VALE ヤマダ 65p


14 エレーナ・チェグノワ (RUS)ストロベリーナイツ スミホーイ 50p


15 エバァー・ドルフィンガー(GAR)アルテミス LMSジュリエッタ 26p


16 クリスチーヌ・サロン(FRA)プリンセスキャット ジュリエッタ 22p


17 アンナ・マンク(GAR)アルテミス LMSジュリエッタ 13p


18 ドミニカ・サロン(FRA)プリンセスキャット ジュリエッタ 11p


19 ソフィア・マルチネス (ESP) アフロデーテ ジュリエッタ 10p


20 ジョセフィン・ロレンツォ(ESP)アルテミス LMSジュリエッタ 6p



───────────────

  

 



 表彰式、記者会見のあと、ストロベリーナイツのテントでは、恒例の苺パーティーが開かれた。愛華の同級生や後輩の作ってくれた苺大福で盛り上がり、シャルロッタもご機嫌で、途中からラニーニたちやハンナたち今年の新春、鈴鹿のイベントで一緒したライダーたちまで招いて大いに盛り上がった。

 

 

 対するホーム必勝体制で挑んだものの、バレンティーナの5位がやっとという惨敗に終わったヤマダワークスは、お通夜のように重く沈んでいた。


 支援体制も完璧。マシンの仕上がりも申し分なく、バレンティーナも好調だった。最終ラップに入るまでは、ヤマダのスタッフたちもバレンティーナの勝利を確信していた。


 何がまずかったのか……?


 あっという間にアシストライダーたちが脱落していき、バレンティーナ独りきりになってしまった。


 それでもワークスマシンには勝てるだけのアドバンテージがあった。バレンティーナにはそれを活かせる技術も経験もある。


 バレンティーナに致命的なミスはなかった。ミスなら相手の方が多かったはずだ。勝利への執着が欠けていたわけでもない。小さな判断ミスの積み重なりが、結果を大きく変えた。


 結局、運がなかったと言うほかない。唯一救われているのは、チーム体制について上からあれこれ言って来てないことだろうか?それも今後はわからない。



 バレンティーナは、決策の見えない重苦しいテントを出て、外の空気を吸い込んだ。


 ほんの数年前には「バレンティーナの時代到来」ともてはやされたスーパースターも、来シーズンのシートすら危うい立場に追い込まれている。


 ため息をつき、テントの中にいた時から聞こえていた、にぎやかに騒ぐ声がする方に目をやった。


 そこはストロベリーナイツが陣取っているパドックの一角だった。今ではテントからはみ出して、ストロベリーナイツのスタッフだけでなく、ブルーストライプスやLMS、他のクラスのライダーやメカニックまで加わって、ちょっとしたイベントステージのようになっている。


 愛華の友人や後輩たちが、日本のアイドルグループの曲をキーボードの伴奏で歌いながら踊り、取り囲んだ人だかりもリズムに合わせて揺れている。


 スパナをマイクのように持って真ん中に乱入したのが、シャルロッタだと遠目にもすぐにわかった。

 日本語で歌えないシャルロッタは、リズムに合わせて大きな声を張り上げてるだけだが、みんな愉しそうに盛り上がっている。


 愛華やラニーニ、ナオミたちも、友人たちに引っ張り出されて一緒に踊りだした。


「いい気なものだね……」


 バレンティーナは、一人つぶやいた。翌週にはオーストラリアGPが続けて行われる。ライダーはともかく、本来ならメカニックたちは移動の準備に追われているはずだ。こんなところにも流れに乗れてるチームと乗れないチームの差が出るのかも知れない。


(ヤマダの連中はいろいろ言ってるけど、今日は確かにボクの敗けさ。でもこれで終わりじゃない。ポイントじゃ、まだボクの方がシャルより上なんだから)


 もし愛華が勝っていたら、本当に終わっていた。

 おそらくエレーナも、シャルロッタが負けていれば、本人たちの意思にかかわらず愛華をエースとしただろう。


 しかし今日、シャルロッタは勝った。愛華が譲ったのではなく、シャルロッタでなければできない勝ち方で勝利をもぎ取った。あの勝ち方を見せつけられたら、エレーナとて簡単にエース交代はできなくなったはずだ。


 今、即席ステージでセンターを譲らず暴れてる娘と、土壇場で優勝をさらっていった怪物が同一人物とは信じられないが、レースでは速いだけの馬鹿でなくなったのは感じていた。それでも、シャルロッタがチャンピオンになるには、大きな代償を支払なければならない。


(知ってるかい?ダブルエースが上手くいったことなんてないんだ)


 バレンティーナは、自分自身の苦い経験を振り返った。


「そこにボクのチャンスもあるんだけどね」

 

 

 


────────────

 

 

 

 

「そういえば、アイカちゃんのこと一番憧れていた後輩の子、今日は来てないの?」

 一緒にダンスを踊ったばかりのラニーニが、うっすらと浮かんだ汗を拭いて愛華に尋ねた。


「あっ……」

 愛華は、なにか足りないのは感じていたけど、ここに由加理がいなかったんだと初めて気づいた。正直、彼女のことは今の今まで忘れていた。それだけレースに集中していた証でもあるが、後輩の中でも一番愛華を慕ってくれている由加理のことを、ラニーニに訊かれるまで忘れてたなんて、申し訳なさと恥ずかしさが込み上げてくる。


 先ほどまで愛華たちが踊っていたところに、MotoGPクラスのスペイン人ライダーが女装で登場し、情熱的なフラメンコを踊りはじめた。取り囲んだ輪が大爆笑とやんやの歓声に包まれる。


「ユカリはね、スズカレーシングスクール候補生に受かったの!すごい難関だったんだよ。それで今日はコース整備に駆り出されたみたい。たぶんコースのどこかで見てたはずだよ」

 忘れていたなんて悟られないように、愛華はまわりが盛り上がった勢いにのせて、一息に話した。

「そうなんだ。ユカリちゃんも頑張ってるんだね」

 ラニーニはなんの疑いもない笑顔を見せる。自分を尊敬してくれる後輩に対しても、自分よりよほど由加理のことを気にかけてくれてるラニーニに対しても、ますます申し訳なくなってくる。


(でも由加理って、ラニーニちゃんのこと、あまり好きじゃないみたいな気がする……こんなにいい子なのに)


 愛華には、由加理がなぜラニーニを敵視するのか、理由がわからない。


「いつか本当にGPの舞台で、一緒に走れるといいね。でもそしたら、わたしには今よりもっと強力なライバルになっちゃうのかな?」

「ユカリならきっと上がって来るよ。わたしと同じチームになるかわからないけど」


 スズカレーシングスクールに修了後の縛りはないが、ヤマダの全面的支援、将来のヤマダライダー育成が目的の一つである事は誰でも知っている。当然、デビューできるとしてもヤマダからの可能性が高い。実際これまで他のクラスでも、出身者の多くがヤマダ系チームと契約している。それにスミホーイにしてもジュリエッタしても、ライダーを増員するほどチーム体制に余裕がないのが現実だ。


 それでも、同じGPを走る仲間として由加理と一緒に走れたら素敵だと思った。チームが違っても、ラニーニたちやハンナたちのように親友でいられるし、本気で競い合えるライバルは、かけがえのない宝物だと思えた。

 

 

「わたしもここにいられるように頑張るから、絶対に上がって来て」


 愛華のひとり言を隣で聞いたラニーニも、やはり同じ思いだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 勢いがあるチームはみんな馬鹿野郎ばっかり(笑)
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