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最速の女神たち   作者: YASSI
進化する世界
305/398

誤算

 先頭を走るヤマダワークスを、シャルロッタとフレデリカが引っ張る後続がベストを上回るスピードで追い上げるも、バレンティーナたちも逃げに逃げ、ようやく追いついたのは、残り二周を切っていた。 

 

 

 愛華はここまで、タイヤやマシンに無理をさせるようなバトルは、ほとんどしていない。

 スターシアと協力して、シャルロッタとフレデリカから引き離されないように且つ終盤勝負に備え、出来る限り温存してきた。

 だがヤマダワークスは、終盤に入ってもペースが落ちていない。それより驚くのは、シャルロッタとフレデリカが、ペース配分など考えていないような走りでそのヤマダを追い込み、おそらくはかなりダメージを受けているはずのタイヤで、ラップタイムが落ちるどころかファーステストを更新してきたことだ。

 協力どころか、激しく競り合っている二人が、愛華がついて行くのも一杯のペースで、コンピューター制御とチーム全員態勢で負担を分散させているバレンティーナたちを、終盤になっても勢いを衰えさせず追いつめた。


 常識ではあり得ない。これが天才というものだろう。

 

(それでも、なんとしてでもついて行かなくちゃ!わたしじゃ役に立たないかも知れないけど、ここで遅れたら、わたしのいる意味がないから!)

 

 

 愛華は必死にシャルロッタとフレデリカの背中を追った。

 

 

 

 ───────

 

 

 

 

「なんでフレデーがシャルとつるんでいるんだよ!」


 バレンティーナは、背後にまで迫ってきた二人の異端児を、忌々しく罵っていた。

 彼女にすれば、マシンの優位性とホームコースの強み、チーム全員五人揃っていることで、勝利は確実なはずだった。チームメイトに動揺を見せないために、なにより自分自身に冷静さを保つように、不安を一切封じ込めていたが、粘り強さとは最も縁遠い、しかも一番噛み合うはずのない二人に追いつかれたことに、苛立ちを隠せなかった。


 一見、ヤマダワークスで先頭を堅めるという完璧な形でトップを固めているが、スタートから思い通りのレース運びではなかった。


 故意なのかスタートミスなのか知らないが、シャルロッタの出遅れたおかげで、ストロベリーナイツを分断し、孤立したシャルロッタを追い込むと同時にサポートに向かおうとするスターシアと愛華を消耗させる作戦は、いきなり崩れた。


 それはそれでいい。今回ヤマダワークスは、チーム全員が予選でスターシアと愛華より速いタイムを出している。勿論、レースがベストタイムの積み重ねでないのはわかっているが、ワークスヤマダはそのペースで走り続けられる。シャルロッタとてそのペースでは走り続けられないから、ハイペースを維持すれば逃げ切れる。


 シャルロッタが無理に仕掛けて来ても、つきあう必要はない。最初の予定通り、孤立して勝手に自滅させればいい。

 スターシアと愛華には、ラニーニたちと同じように弾き返すだけだ。スターシアが如何に鋭いアタックを仕掛けても、愛華がいくらしつこくても、所詮ライディング理論の範疇だ。うちのアシストたちだって無能じゃない。これだけ性能差があれば、おいそれとは崩されない。


 だが、今後ろでは、理論を無視したバカが二人つるんでいる。

 どっちも集団走行できるやつらではないから、ヤマダチームの脅威となる存在ではないはずだった。現に協力というより、張り合ってるうちに追いついただけだ。


 しかし、だからこそ尚更たちが悪い。作戦も理論もないくせに、ライダーとしてのスピードだけはやたら速い。予測できないやつらのバトルに巻き込まれると、こちらが崩される。その隙を、スターシアと愛華は絶対見逃さないだろう。チームの態勢が乱れれば、スターシアと愛華だけでなく、ハンナやラニーニたちにまでつけ入られる。


 いっそレースより自分たちのバトルに熱くなってる二人を先に行かせるか?


 いや、レースは残り一周とちょっとしかない。そのまま逃げられてしまう可能性が高い。それにシャルロッタは独走してれば勝手に自滅してくれるが、逆に熱くなってると信じられないぐらいの集中力を見せる。自分には鬱陶しだけのチームメイトだったフレデリカも、シャルロッタには愛華とは違う形で息が合うらしい。


(変人同士、波長が合うってことか……?)


 とにかく、この二人を前に行かせてはいけない。


「一度でもオーバーテイクさせたらおしまいだから。全員で二人をブロック!」


 ケリーとマリアローザだけでは、時間稼ぎにもならないだろう。バレンティーナはチーム全員で封じる道を選んだ。

 

 

 

 

 ──────

 

 


 シャルロッタとフレデリカを振りきれないと見たヤマダワークスが守りの走りに切り替えたのは、愛華にもわかった。それでもラップタイムはそれほど落ちていないのは、完璧にコースに合わせたセッティングとライダー一人一人のレベルの高さだろう。すぐに愛華が仕掛けられるペースではない。

 

 

 ケリーとマリアローザが、しっかりとインを塞ぐラインでコーナーに進入する。

 そこをシャルロッタが鋭い突っ込みで、さらにインにこじ入る。同時にフレデリカは、外側からブレーキングをぎりぎりまで遅らせたラインでかぶせて行く。

 決してケリーとマリアローザのラインが甘かったわけではない。常識なら二人もぎりぎりのラインで塞いでいる。シャルロッタとフレデリカが常識はずれ過ぎるのだ。


 とは言え、強引にインに寄せたシャルロッタはクリップ手前で膨らみはじめ、フレデリカはブレーキングポイントを奥にとったため、インに寄せ切れていない。

 普通なら二人ともコースからはみ出すか失速してしまうしかない状況だが、まるで物理法則に逆らうかのような動きでコーナーリングを続ける。


 シャルロッタとフレデリカが常識ではあり得ないアタックで突破してくることは、バレンティーナもわかっていた。

 予想通り、強引とも言えるラインでケリーとマリアローザをパスし、コーナー出口にマシンを向けている。それも対策済みだ。


「甘いね!いつも出し抜けると思ったら大間違いだよ」


 アンジェラは予めの指示通り、シャルロッタの立ち上がりラインに入っており、バレンティーナもフレデリカをコース外側に押し出すように寄せた。


 前と横を抑えられ、シャルロッタとフレデリカは加速することもできず、ラインを変えることもできない。

 如何に天才といえど、既に本来ならコースアウトかスリップダウンしているほど限界近くまで詰まった状態なので、どうしようもない。


 バイクはトラクションを掛けることで旋回力が高まる。特にシャルロッタとフレデリカは、電子制御に頼らず駆動力を旋回力に変えることに飛び抜けたセンスを持っているので、それを完全に封じたのは大きい。


 アウトいっぱいに追いやられた二台は、アクセルを開けられないままずるずるとスピードを殺していく。絶対パワーの小さいMotoミニモのマシンは、一度失速してしまうと再び加速するのに時間が掛かる。


「これでシャルとフレデーはおしまいだね。あとは精々ラニーニの前でゴールできるように頑張りなよ。ボクの逆転タイトルのためにね」


 グリップに余裕のあるバレンティーナは、シャルロッタとフレデリカを置き去りに加速態勢に入る。

 スターシアと愛華はシャルロッタのサポートに向かうだろう。あとはヤマダの余裕の上位独占しかない。


 が、しかし……


 突然バレンティーナの視界の内側に、ヤマダカラーとはちがう車影がとび込んできた。


「アイカが!?」


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[一言] チーム戦は難しい。
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