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最速の女神たち   作者: YASSI
デビュー
3/398

苺騎士団とちょっと残念な女王様

 エレーナのチームの公式な名称は、シベリウス・スミホーイ・チェグノワレーシングである。シベリウスは、現在のメインスポンサーであるロシアの石油天然ガスを扱うエネルギー企業で、スミホーイはチームにマシンを供給し、活動をサポートしているバイクメーカーである。

 WGPに限らず、モータースポーツに参加するチームのエントリー名は、通常メインスポンサーと供給を受けるマシン、或はエンジンメーカーが表記されるのが一般的だ。


 モトミニモのチームには、これとは別に愛称で呼ばれる事が多い。

 『レッドオクトーバー』以来の慣習になっていた。自ら名乗り宣伝する事もあれば、ファンやライバルチームなどから自然と呼ばれるようになる場合もある。チェグノワレーシングは後者のケースだった。



 2006年に氷の女王エレーナは一度引退し、チェグノワレーシングを立ち上げた。その時、女王が自らの後継者としてデビューさせたのが、当時16歳のアナスタシアだった。

 デビュー戦から三戦続けてポールポジションを獲得し、まさに女王の後を継ぐ『皇女』と言われたが、決勝での成績にはなかなか結びつけられなかった。

 主にアシストとのコミュニケーション不足など、チーム態勢が整っていなかったのが原因であったが、アナスタシア自身も問題を抱えていた。


 アナスタシアは当時から既に身長が164センチあり、モトミニモのライダーとしてはかなりの長身であった。

 16歳という年齢は、身長の伸びはほぼ終えようとしていたが、女としての身体の成長は最盛期を迎えていた。

 モトミニモライダーの最大のライバルは自身の体重とも言われている。長身というこのクラスにとって不利な要素を背負いながら、少女から女へと成長過程のバストとヒップはまだまだ質量を増そうとしていた。

 決して太っている訳ではない。むしろモデルのようなスリムなプロポーションだった。多くの女性から見れば、羨まい限りの悩みであっても、モトミニモのライダーとしては、ボリュームある胸も女性らしい丸みあるお尻も、『重り』でしかない。


 厳しい食事制限によって体重は維持されていたが、アナスタシアも若いの女の子たちの例に洩れず、否、普通以上の、無類の甘いスイーツ好きだった。


 何も載ってない皿を前に、ひたすらフォークを口に運び、想像上のケーキを味わっているアナスタシアの姿に、エレーナは彼女が勝てない理由を見つけた。現在の彼女に、そこまで自分を追いこむ必要はない。むしろ好きなスイーツを我慢している事の方が、ディメリットは大きい。


「優勝したら好きなものを食べさせてやる。今のままで勝てるなら、無理にダイエットをする必要もない。体重が増えて勝てなければ、大好きなスイーツもお預けだ。スターシアの実力なら、無理に我慢する必要はない。優勝したら私がチーム全員に好きなケーキを奢ってやる」


 レース前日のチームミーティングで、みんなの前で宣言した。


 アナスタシアのリクエストは苺のケーキだった。

 そして翌日のレースで、アナスタシアはチームメイトの献身的なサポートもあり、見事初優勝を果たした。


 レース後、ライダーは勿論、メカニックやスタッフ全員に、苺ケーキが振る舞われた。以来、エレーナのチームでは、優勝した日はエレーナが苺のスイーツを奢るのが慣わしとなった。


 女王から賜る苺のスイーツのために戦う騎士たち。

 いつしか『ストロベリーナイツ(苺騎士団)』と呼ばれるようになっていた。





 エレーナとアナスタシアは広大な滑走路の端に立っていた。かん高いエンジン音が、風にのって聞こえている。


「彼女は本当にカーボンフレームは初めてなのか?」

「そのはずです。GPアカデミーではジュリエッタしか使っておりませんから。少なくとも一体成形のフルカーボンフレームのスミホーイsu-31は、私たちにしかまだ供給されていませんので、アイカさんが乗った事があるとは思えません」


 ジュリエッタとは、イタリア製の市販競技車両ジュリエッタRS80の事である。従来からのアルミ製モノコックフレームは基本設計こそ古いが、それだけに信頼性は高く、現在最も広く使用されているマシンである。

 対してスミホーイsu-31は、メインフレームからシートレールまで一体のフルカーボンで製造されており、しかもカウルの一部がメインフレームを兼ねるという新世代のマシンだ。複雑な形状を、すべて炭素繊維を織り込んで一体形成する技術は、航空機開発から生まれたスミホーイ独自の技術で、高い剛性と軽量化を実現しているとされている。

 難点は整備性が悪く、調整幅が少ないために製造段階からライダーに合わせなくてはならず、コストも非常に掛かる。またセッティングが極めてシビアで、タイヤの接地感もアルミフレームとはかなりフィーリングが異なる。


 それらの理由から、su-31は現在、エレーナのチームにしか供給されてない。




 二本の滑走路だった路面に、青と白のゼブララインで描かれたコースを、思い切りよく疾走する愛華が近づいてくる。


「去年の終わりに、私が初めてあのカーボンフレームに乗った時は、どうにも不安で、寝かし込むのが怖かったのだがな」

「あの頃は、まだ問題が多くありましたから」

「改良されたとはいえ、アルミフレームとカーボンでは特性がまったく違う」

「そうですね。なまじ身体に染みついているより、経験が浅い方が違和感なく乗れるのかも知れませんね。シャルロッタさんも私たちより早く順応しましたから」


 エレーナは、愛華が目の前を通過する瞬間に合わせて腕時計のストップウォッチ機能を止めた。

「アカデミー生がはじめてのコース、はじめてのマシンで私のベストより二秒遅いだけだ」

 アナスタシアもエレーナの腕時計を覗き込んだ。

「そこからの二秒をつめるのが、とても大変なんです」

「精一杯で走っているのなら……な」

「彼女は本気じゃないと?」

「そうじゃない。彼女なりに真面目に走ってるさ。現時点では精一杯の走りだろうな。しかし、教科書通りのライディングだ。おそらくそれしか知らないのだろう」


 愛華が本気で走っているのは間違いない。初めてのコースなのもあるが、基本通りのライン取りしかしていない。基本に忠実な走りと最速の走りは違う。タイムを詰めようとすれば、タイヤや車体に無理を強いる事も必要になる。複合コーナーへの進入やシケインでの切り返しなど、リスクは伴うがライダーのバランス感覚に依存する事でタイムを大きく縮められる。愛華の身体能力には、まだ余裕がある。だがそれを使えていない事がエレーナは逆に気に入っていた。


「上手なライディングとは言い難いが、基本には忠実だ。馬鹿に限って、無謀とテクニックの区別がつかない。下手な奴ほどそういう部分からタイムを詰めたがる」

「シャルロッタさんが聴いたら、反論するでしょうね」

「ああいうのがいるから、馬鹿が真似するんだ」


 怪我で欠場を余儀なくされているシャルロッタは紛れもなく天才だ。しかし天才故に、時にあり得ないマシン操作をする。それが並外れた反射神経とバランス感覚によってのみ可能だということに気づかず、凡人が真似をすれば、必ず痛い目をみる。

 それにどんなに才能があろうと、人間の反射神経などたかが知れている。人類は誕生以来、自分の身体で移動出来る速度にしか対応して来なかった。人類進化の歴史から見れば馬に乗る事を覚えたのも、つい最近の出来事である。

 時速100キロ以上のスピードで移動するには、本来無理が伴うのだ。培われてきたモーターサイクルの理論によって、かろうじてバランスがとれているにすぎない。

 近年のバイクの進化は素晴らしく、乗り手の無理をかなりのところまで補ってくれる。しかし、やはり理論上の限界はある。理屈を越えれば、如何に天才とて痛い目をみる。

 運と小手先だけのテクニックでバイクの設計理論を越えた領域で走れば、いつか選手生命を縮める結果になるだろう。

 ライディングの基本をしっかりと身につけ、どこまでが限界かを探る能力を身につけなければ、才能を開花させる以前にサーキットを去らねばならなくなる。

 下手に変な癖などついていると、かえって厄介だ。


 エレーナにとって、現役で走れる時間はそれほど多くは残されていない。自分がまともに走れるうちにすべてを伝えたかった。アナスタシアもシャルロッタも才能溢れるライダーだ。しかしエレーナとはタイプが違う。愛華なら自分の磨きあげた技術を受け継ぐ事ができるかも知れない。それだけのポテンシャルを実際に走りを観て、すぐに感じた。

 ライダーとしての終わりに近い今、託せる逸材にめぐり合わせてくれた友人に感謝した。


「楽しそうですね」

「アイカはバイクにのるのが楽しくて仕方ないようだな」

「エレーナさんの事ですよ。まるで探し求めていた愛しい人に出逢ったみたいな顔してます」

 アナスタシアが少し拗ねたような口調で言ったが、エレーナの横顔はクールさを装っていた。

「スターシアが言った通り、アイカはダイヤの原石だ。下手なカットもされず、素の良さを削り出しただけのダイヤモンドだ」


 そう、これから眩しく輝くように細かくカットし、研いていく。


「彼女もエレーナさんと同じ器械体操をしていたんでしたね。 足の怪我で諦めたそうですけど、エレーナさんがそこまで惚れる才能でしたら、きっといい選手だったんでしょうね」

「怪我がなければ、我が国のナショナルチームにとっても強敵になっていたかもな。優秀な指導者につけば、メダルも夢じゃなかっただろう。体操で叶えられなかった夢を、ロードレースの世界で私が叶えさせてやるさ」

「随分な入れ込みようですね。少し妬けますわ」

「それはもういいと言ってるだろ」

「いえ、エレーナさんにだけアイカちゃんを独り占めにはさせません。私にもお手伝いさせてもらいますから」

 どこまで真面目に言っているのか、エレーナには解らなかった。こういう誤解を招く言動がなければ、いい女なのに。

「好きにしろ」


 愛華が再び二人の前を通過した時、ピット(滑走路脇の格納庫なのだが)に戻るように、腕を回して合図した。



 愛華は格納庫に戻り、バイクをメカニックに預けた。エレーナが愛華の乗っていたバイクを一通りチェックしながら、担当のメカニックと何か話し込んでいた。


 ヘルメットと革ツナギの上半身を脱ぐと、髪もアンダーウェアも汗でぐっしょり濡れている。アナスタシアがタイミングよく、タオルを手渡してくれた。


 エレーナがメカニックとの話を終えて、近づいてくる。愛華は緊張した。果たして自分の走りはどう評価されたのか心配だ。エレーナを失望させて帰らされるかも知れない。


「コースは覚えたな?」

「だあっ!」


「セッティングは変えるか?」

「だあっ!」


「午後からは我々も走る」

「だあっ!」


「おまえふざけてるのか?」

「にぇーと」


 愛華は顔をぶるぶると横に振った。


「『だあ』ってのはなんだ?」

「えっ?ロシア語なんですけど……。なんか間違ってますか?」


「ひょっとして『Да(da・露語=はい)』と言っているのか?」

「だあっ!」


「ロシア語なら『だあっ』じゃない、『Да』と言え。ふざけてるとしか聞こえんぞ」

「だあっ!」


「違う、Даだ!」

「だぁだ?」


「もういい!馬鹿にされているようで腹が立つからやめろ」


 エレーナが苛立って言い棄てると、愛華の不安は急速に膨らんでいく。せっかくのチャンスをこんな事で失いたくない。それにこんな聞いた事もないロシアの平原で放り出されたら生きて帰れるかどうか。


「すみません!あの、チェグノワさんたちに少しでも馴染めるよう一生懸命覚えたんですけど……。発音が変なら練習して直します。だから追い出さないで下さい!」

 愛華の不安は加速して、勝手に追い出されると思い込んでいる。

「そうです!そんな事でアイカさんを追い出すなんて、エレーナさんを見損ないました。どうしても追い出すというなら、私も辞めさせてもらいます」

 愛華の勝手な勘違いにアナスタシアまでのってきた。


「誰が追い出すと言ったぁ!?」


「じゃあ、いてもいいんですか?」

 愛華の妄想はようやく減速したが、アナスタシアの悪乗りは加速し続けていた。

「エレーナさんがなんと言おうと、アイカちゃんは私が守ってあげますからね」


 なんだかエレーナひとり、悪役になっている空気だ。やけくそ気味に愛華に向かって言った。

「なんでもいいが、ふざけた『だあっ』はやめろ。『Yes』でも『 Si 』でも『ハイ』でも構わん。『だあっ』だけはやめてくれ」

「だっ…、はい……」


「酷いですわ、エレーナさん。アイカちゃんが一生懸命勉強してるのに。アイカさんったら、なんて健気で可愛いんでしょう。それに比べ、エレーナさんはなんて冷酷なんでしょうか。やはり氷の魔女ですわ」


「誰が氷の魔女だっ!?」


「アイカちゃん、実はエレーナさんは今時のロシア語がわからないんです。 大丈夫ですよ、ロシア語は私が教えてあげますからね」

 エレーナの反論をスルーして、アナスタシアは愛華の持っているタオルの端を手にして、優しく顔の汗を拭いてあげていた。

 無視されたエレーナが、立て直しを図る。

「やめた方がいい。日本のアニメばかり観てるスターシアから習っても、私に通じるロシア語が話せるとは思えん。それから、私の事はエレーナと呼んでかまわん。『(ミス)チェグノワさん』と呼ばれるのは、何か他意を感じる」

「もうエレーナさんったら、ツンデレなんですから。まあ、アラフォー女に『ミス』は嫌味ですよね。あっ、私の事もスターシアと呼んでくださいね。アイカちゃんと仲良くなりたいですから、ね」

「だぁ……はい……」


 もはやアナスタシアの一方的な勝利だった。愛華憧れのエレーナ様が打ちのめされていく姿を見るのがつらい。

 それにしても、愛華の中の氷の女王と皇女のイメージとは全然違う。これが本当の姿なのだろうか。意外な面も知ったが、少し近づけた気がする。なにしろ、二日前には、話を出来る事だけでも夢のように感じていたのに、ファーストネームで呼ぶ事まで許されたのだから。こうなったら絶対、苺の騎士になってみせると心に誓った。


 午後から愛華は、エレーナとアナスタシアの二人がかりでしごかれた。バイクに跨がると、二人とも先ほどのくだけた調子は微塵も感じさせない。本物のGPライダーの走りを目の当たりにし、改めてそのレベルの高さに驚かされた。


 シャルロッタ仕様の二台のバイクを交互に乗り換え、日が沈む直前まで走った。緯度の高いその地は、夏場の日没までたっぷり時間がある。体はくたくたに疲れていたが、愛華の心はやる気に満たされていた。なにしろ、世界最高の二人のライダーが付きっきりで走ってくれるのだから疲れたなんて言ってられない。


 それからは、毎日練習漬けの日々だった。

 一日のうち、指定された何時間かは外に出る事も、窓から外を覗く事も禁じられた。その時間、休養か室内ジムで基礎体力トレーニングをしていると、外から轟音が響いてくる。その音に、此処が航空機の、それも機密性の高い軍用機の開発工場なんだと思い知らされた。その時間以外は、別に監視されてる事もなく、割と自由に行動出来た。


 遅い夕食後にはアナスタシアからロシア語を習ったが、途中から日本文化の講義になり、最後はアニメのDVDを観ながら眠ってしまうというパターンが定着していた。


 ある朝、アナスタシアの部屋から出たところでエレーナに出くわした。


「個人的な趣味に口出しする程野暮ではないが、走りに影響がでるようなら慎んでもらうぞ」

「すいません。スターシアさんとDVDを観ていて眠ってしまいました。わたし、日本にいた頃からアニメとかあまり観なかったんであまりよくわからなくて。だからロシア語吹き替えだと、もう全然わからなくて、疲れてるのもあって、つい眠ってしまっちゃいました。せっかくスターシアさんが勉強のために用意してくれたのに」

 エレーナは何故かほっとした顔をした。愛華はアナスタシアがアニメオタクなのもレズ疑惑があるのも知らない。

「やはりスターシアにロシア語講師は無理だったようだ。むしろ彼女が正しい日本語を習うべきだろう。アイカもそう思わないか?」

 そう振られても困ってしまう。確かにスターシアさんがいろいろ尋ねてくる日本語は、愛華も理解し難いいわゆるオタク用語というもので、それでもそれはそれでスターシアさんほどの金髪碧眼完璧美女なら、アニメキャラの美少女コスプレしてもめちゃめちゃ似合う気がしてきた。


「まあ私もロシア語については、アイカにきつく言い過ぎたと反省している。発音は無理しなくても自然に覚えるだろうから、夜は体を休めろ」

「だあっ!でも平気です。練習の妨げにならないようにがんばります!」

 許可した途端の早速の「だあっ」にエレーナは戸惑うように横を向いてしまった。

「まあ……どうしてもと言うのなら、その……私が教えてやってもいい……ぞ。スターシアでは問題があるようだし……、仕方なくだ。何か間違いがあってからでは遅いからな」


「ツンデレ……?」


 昨夜、スターシアさんから教えられた日本語(?)を思わず口にしていた。


「間違いとは、どういう意味でしようか?」

 いつの間にかスターシアも廊下に出てきていた。挑むような視線をエレーナに向けている。

「アイカちゃんにロシア語を教えると言ったのは私が先です。今さら教えたいとは、どういうつもりですか?だいたいエレーナさんは、アイカちゃんにロシア語を禁じた癖に、卑怯ではありませんか?」

「卑怯だと!?私は、ただ、アイカが迷惑しているようだったから、仕方なくだな……、本当は忙しいのに仕方なくだぞ」

「ええっ?わたし迷惑だなんて、そんな」

 ツンデレは周りにとばっちりを撒き散らすものらしい。

「エレーナさんはチームの勝利だけを考えていて下さい。アイカちゃんの生活上のお世話は、私がいたしますから」

「スターシアが教えたのでは、アイカのロシア語がますますわからなくなるから言っているのだ。ロシアの文化が穢されるのを見過ごす事は出来ない」

「日露文化交流です。私はロシア語を、アイカちゃんは日本のアニメを、お互い教えあってチームの結束を高めているんです。ソ連時代に育ったエレーナさんには理解できないでしょうけど」

「あの…ぉ、わたしもアニメとかあまり知らないんですけど」

「そらみろ、アイカは迷惑だと言っている」

「えっ?言ってません、言ってません。ネコ耳付けたスターシアさんは本当に可愛いですし、楽しいです」

「そんな事してるのか?まともに教えられないのを、コスプレで惑わすとは、どっちが卑怯だ!」

「楽しく学んだ方が覚えも早いですわ。堅苦しいクレムリン言葉しか話せないエレーナさんから習っても、同世代のコたちと打ち解けられません」

「あっ、でもエレーナさんの毅然とした話し方も憧れます」


「どっちから習いたいのだ?」

「どっちから習いたいのですか?」

 いきなり息のぴったり合った二人の攻撃が愛華に向けられた。

「えっ……と、その……、出来ればお二人から教えて頂けたら幸せかな?って、思ったりしてます……」




 密度の濃い集中的なトレーニングは、愛華の潜在能力を短期間で開花させた(ライディングに関してのみ)。エレーナの期待通り、愛華は一週間もせずに二人と同じペースで走れるようになっていた。

 日本は勿論、世界中どこのサーキットであっても、これほど豊富な走行時間と最高の手本のある環境などありはしない。仮にあったとしても、並みの者なら体力的にも精神的にもついていけなかっただろう。愛華の体力と集中力にスターシアは感心したが、エレーナは自分の眼に間違いがなかったと自分を褒めた。

 二人のバイクに跨がった時と降りた時の性格の落差に戸惑いながらも、一旦コースに出れば、車間数センチのテール トゥ ノーズで命を預け合うような息の合ったトレインに必死について行く。


 そしてドイツGPに向かう頃には、愛華もそのトレインに加わっていた。


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