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最速の女神たち   作者: YASSI
進化する世界
295/398

日本へ

「もしかしたらサキたち、空港に出迎え来てくれてるかも!?」


 愛華はビジネスクラスのシートで、ようやくウトウトと夢の世界に入りかけたところを、よく通るシャルロッタのかん高い声に再び呼び戻された。


 アラゴンGPのあと、一旦チームの本拠地ツェツィーリアに入り、アジア-オセアニア三連戦に向けてみっちり走り込んだ。

 これから向かう日本GPからオーストラリア、マレーシアまで三週に渡ってレースと移動が続く。飛行機の中で休むことも体調管理にとって必要となってくる。

 シャルロッタもアラゴンでの復帰戦の反省から、ツェツィーリアではヘトヘトになるまで走らされたはずなのに、愛華もうんざりするほど元気がいい。この質問もこれでもう三度目だ。


「シャルロッタさんにも、サキからメッセージ届いてますよね?大学の講義あるから、茂木には土曜日にしか行けないって」

 ちなみに本日は火曜日である。


「でも早く終わってサプライズで来てるかも!?」

「来てませんよ」

「だって大学の講義なんてよく休講とかあるんでしょ?」

「大学行ったことないんでよくわかりませんけど、もしあったとしても、わたしたちが向かっているのは成田空港ですよ。ちょっと時間空いたからって名古屋から簡単に来られません」

「でも日本にはシンカンセンっていうスーパーエキスプレスがあるじゃない!あれならすぐだわ」

「そうですね、もしかしたら来てるかも知れませんね。とにかく今は休みましょう。着いたらまた移動と取材とかで忙しくなりますよ」

 新幹線で名古屋から東京まで一時間半としても、大学から名古屋駅までの時間、東京駅から成田までの時間、そして明日の大学の講義に間に合うように帰ることとか、いろいろ突っ込みたいところはあったが、説明するのも面倒になった。

「早く会いたいわね。楽しみだわ」

 あまりに楽しそうにするので、期待させてしまって悪い気がしてくる。


「そういえばミホは東京の学校だったわね。彼女も来てるかな?」

 美穂は東京にいるが、音楽大学は課題がとてもハードで、少しでも時間があれば自主練習しないとついていけないと言っていたので、仮に休講があったとしてもおそらく来れないと思う。そんな中でもレースには必ず行くと言ってくれたのは、とてもうれしくはあった。

 それよりシャルロッタが美穂の大学まで知っていたのはちょっと驚いた。

 そこまで気にしてるなら、彼女たちの事情も少しは想像してあげて、と思わなくはないけど。


「トモカはどうしてるの?サキからアメリカに留学してるって聞いたけど、あんたの友だちでしょ?」

「一応、サキとミホもわたしの友だちなんですけど……」

 確かに智佳は、中学に入ってなかなかクラスに馴染めなかった愛華に最初に声をかけてくた親友で、競技は違っても同じ運動部同士、ベストカップルと冷やかされるほど仲良かった。

「アメリカの大学は、やっぱりバスケのレベルすごく高くて大変みたいです。でも向こうでも一年生の中では注目されてるらしく、ガンガンやってるようです。日本にはなかなか帰れないみたいですけど」

 智佳とは、紗季ほどではないが時々メールのやり取りはしている。もともとメールより直接会って話しをするタイプなのであまり気にしてなかったが、シャルロッタに言われて思い出すと気になった。


(すべてが新しい環境で、まわりはレベルの高い人ばかり、言葉もちがうからきっと苦労してるだろうなぁ……)


 愛華は、自分がGPアカデミーに入った時の不安とさみしさを重ねた。あの頃は苦労した。だからこそ、話聞いてあげられることがあると思っていたのに、そんな相談は一度もない。


(智佳のことだから、どこに行っても気後れしないで、誰とでもすぐに仲良くなっちゃってるんだろうね)


 それはそれで、ちょっと妬ける。

 嫉妬と言えば智佳に憧れていたバスケ部の後輩の子も、さぞさみしい思いしてるにちがいない。

 それに体操部の自分の後輩、由加理も。高校生最後のインターハイの跳馬で3位に入ったという話は聞いた。総合では前半の段違い平行棒での落下が響いて8位という成績に終わったそうだが、落下があってその順位に捩じ込めたのは立派だと思う。前半に落下なんて大きな失敗をすると、なかなか立て直せないものだ。


(由加理の根性は、わたしより上かな?)

 

 

 子どものようにワクワクしているシャルロッタに眠らせてもらえず、適当に返事をしながら、愛華は日本の友人や後輩に想いを巡らせた。

 

 

 

 ───────


 予想通り成田空港に到着した愛華たちを、多くのマスコミと熱心なファン、その騒ぎに気づいた居合わせた空港利用者が出迎えてくれた。残念ながら紗季たちはいなかったが、オフシーズンにお世話になったルーシーさんが迎えに来てくれていた。


 愛華とシャルロッタとスターシアの三人は、カメラとマイクを向けてくるマスコミを適当にスルーして、ルーシーさんに導かれ用意されていたバンに乗り込んだ。今日は水戸のホテルに泊まることになっている。


 エレーナは、チームスタッフの人たちとマシンやパーツ、工具と機械類で満載のカーゴを受け取ってから合流する予定だが、半端ない量の荷物を税関通すだけでも大変な時間がかかるだろう。その上、到着時間が遅れたため、おそらくそのままサーキットに入ることになると言っていた。メカニックの人たちは最初からホテルに泊まる予定はない。

 

 

 愛華たちの向かった水戸のホテルは、ごく普通のビジネスホテルだった。ただ、外国人、それもいつもサーキットで見掛けてるレーススタッフの人や二輪メーカーのロゴの入ったウェアを着た関係者とおぼしき人が目につく。顔見知りの人もいた。もしかしたらGP関係者御用達なのかと思ってしまう。

 まあ、おしゃれな雰囲気や豪華な装飾の高そうなホテルより、パドックにいるような家庭的(?)な雰囲気のこのホテルの方が落ち着く。

 愛華もすっかりGP生活に染まってしまったらしい。


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― 新着の感想 ―
[一言] アメリカに出張した時に、何の間違いが凄い高級ホテルに案内された。聞けば、他にホテルが空いてなかったとか。 緊張してなかなか寝付けなかったなあ。
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