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最速の女神たち   作者: YASSI
進化する世界
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ベストフレンズ、ベストライバル

 愛華は、独断でスパートを仕掛けたことに、急に不安を感じ始めていた。


 期待した通り、ラニーニちゃんとナオミさんものってくれた。

 スターシアさんとエレーナさん、たぶんリンダさんのおかげで、後続はついて来てない。

 この調子なら狙い通り、レース半ばにはバレンティーナさんやフレデリカさんたちが追いつくのを諦めるまで引き離せるかも知れない。

 そうなればエレーナさんも無理しなくても済む。


 しかしその先は、愛華が一人でラニーニとナオミを相手に競い合い、勝たなくてはならない。

 今は後続集団を引き離すことを優先して、互いに利用しあっていても、最終的には勝つか負けるかの関係だ。


 狙いが嵌まるに従い、愛華に掛かる重圧が増していくのを感じずにはいられない。


 もともとは、スターシアと一緒にスパートする作戦だった。

 あくまでもレース前の作戦であり、状況に応じて柔軟に対応するのが作戦の基本だ。

 スターシアとの合流を待っていては、四チームがひしめく大混戦になっていたのは必至だった。あの場の判断は間違っていなかったはず。

 ラニーニとナオミには、去年の最終戦で負けているが、ごく僅差だった。得意なコースで勝算はある。


 しかし、実際三人だけで走ってみると、二人の上手さが気になってくる。


 ラニーニちゃんもナオミさんも、子どもの頃からレースやってるから、経験も細かなテクニックも、わたしよりずっと上だ。わたし一人で勝てるなんて、とんでもない間違いしてたかも?


 実は、愛華と同じような不安を、ラニーニも抱いていた。


 アイカちゃんには、ラニーニさんと二人で前は勝てたけど、もう少しゴールが先だったら負けてたかも知れない。

 ほとんど経験ないのにエレーナさんに認められた才能は、わたしなんかよりずっと上だし、走る毎に上手くなってる。また勝てるなんて思ってたら……


 実力のない者ほど、自分を過大評価し他人を見下すものだ。その点で言えば、二人とも健全な判断力を持ち合わせていると言える。自信が伴わないのは、自身の急激な進化を客観的に見られていないからだろう。

 因みにシャルロッタは、他人の実力は正確に読み取れるが、自分が認めない者はとことん見下す。これは実力がないからでなく、人間性の問題であろう。それでも最近は、少し大人になってきた。


 シャルロッタの話はさておき、三人に共通する不安はまだある。

 後続を引き離したとして、どこで勝負を仕掛けるか。


 互いの実力を知る者同士だからこそ、全力で挑まなければ勝てないことは承知している。

 勝負に勝つにしろ負けるにしろ、激しいものとなるだろう。体力もタイヤも一気に消耗するのは間違いない。


 引き離しているとは言え、バレンティーナやフレデリカが脅威でなくなった訳ではない。彼女たちが集団を脱け出して来ない保証というはない。バトルの最中、或いはそのあとで追いつかれたら、対抗する力が残っているか。

 後続集団そのものが追いつく可能性もある。集団が追いつけば、愛華にとってはスターシアとエレーナ(エレーナに関しては、あまり負担を掛けたくないのだが)、ラニーニとナオミにとってはリンダという心強い味方を得るが、争う相手もより強力になるという紛れもない事実。それを考えると、迂闊に勝負を仕掛けられない。


 できるだけこの状態で、後続との差を維持したい。


 共通する正直な気持ちだ。

 しかし、過去の対戦からも、愛華とラニーニの競い合いが短期で決着するとは思えない。どちらも明確な形で決着をつけたい。

 だからといって、急いで勝負に出れば、後続に追いつかれる恐怖と背中合わせで戦わなくてはならない。



 このままずっと一緒に走っていたい……


 愛華とラニーニの頭に、同じ考えがよぎった。

 親友三人で、互いに高め合いながら走るのは、幸せな時間だった。

 それでも、レーシングライダーとして、決着をつけなくてはならないのは理解している。

 友情も馴れ合いもない純然たる真剣勝負だ。

 互いにわかっているからこそ、かけがえのない時間だと感じる。


 つけなくてはならない勝負の時は迫っている。


 仕掛けるタイミングを見誤れば、負ける。


 相手のスパートに反応が遅れたら、それで終わり。


 知り尽くしているライディングの癖はもちろん、つなぎの下の筋肉の動きから息づかいの変化までも見逃さないほどの緊張感で、互いをさぐる。


 傍から見れば、マナーを守り先頭交代をしながら走っているように見える三人だが、彼女たちを結ぶ糸は、限界まで張りつめていた。




「ラニーニ、アイカ相手にゴール間際の勝負は危険。こちらは二人だから、先に仕掛けるべき」

 三人の中で、最も客観的に状況を見ていたナオミが、残り6周でラニーニに提言した。


 残り6周……わかってる。

 二対一の優位性をもってしても、アイカちゃんを完全に突き離すには是非とも欲しい距離。

 だけどバトルとなってペースが落ちた時、後続集団が追いつくにも十分な距離……。


 ラニーニは迷った。追いつかれないためには、もう少し先送りしたい。でも、ゴールまでの距離が短かくなるほど、一瞬の僅かなミスや路面に落ちてる一片のタイヤ屑さえも、明暗を分ける要因となる。


 ラニーニが弱気だと決めつけるのは酷だ。

 ここでの判断ミスは致命的となる。ラニーニは、愛華との決着をずっと楽しみにしてた。それ故に、完全な形で勝ちたいとこだわり過ぎてしまっていた。思いの強すぎる者が陥る落とし穴だ。


 ラニーニが慎重になりすぎているのを感じたナオミは、もう一度声をかけた。

「リンダさんも頑張ってる。それにわたしも、絶対にラニーニを守る」


 その一言で、ラニーニはハッとした。


 完璧な条件なんて、一度もなかった。そんなの待ってたら、勝負なんてできない。わたしには、みんながついててくれる。わたしがアイカちゃんに勝つと信じて。バレンティーナさんにもフレデリカさんにも負けない。エレーナさんにも邪魔させない!


「ナオミさん、小細工はしません。全力でスパートします!二人でアイカちゃんを突き離しましょう」


「りょうかい」

 自分が愛華を封じるつもりでいたナオミだが、スピード勝負を宣言したラニーニと共に、愛華のスリップから飛び出した。


 タイヤも体力も消耗しているレース後半でスーパーラップを刻むのはリスクが高い。それを最後まで維持するのは、おそらく不可能だろう。が、それに賭けるのもいいかも知れないとナオミは思った。


 ラニーニとアイカの決着に、ブロックなんて相応しくないから、

 わたしは、アイカがついて来れない高い所へ、ラニーニを連れて行く


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