女王への最短距離
Motoミニモ第四戦フランスGPの行われるル・マン、ブカッティサーキットは、予選から波乱の週末となった。
土曜日のスーパーポール方式の予選が始まる前から、断続的に小雨の降る空模様となっていた。雲は厚かったが雨はお湿り程度、天候の回復を待っていてはスケジュールが間に合わなくなると判断した競技委員は、予定通りの予選開始を決定した。
規定通り、ハーフウェットの路面をランキング下位のものからスタートして行く。そこまではよかったが、予選が進むにつれ雨足は次第に強くなり、半分ほど終わった頃には本格的な雨となっていった。
決勝と同じで、ウェットでの予選が宣言されている以上走るのが危険と判断されるほど降り出さない限り続行される。
その後のライダーはハードレインタイヤを装着してタイムアタックに挑んだが、前半に走ったランキング下位のライダー(大半が今季ポイント未獲得)の出したタイムを上回れなかった。
四強と呼ばれるチームのライダーでは、LMSのフレデリカの10番手三列目のスタートポジションが最高で、連続ポールポジション記録を12まで伸ばしていたシャルロッタは、同じく三列目12番ポジションからのスタートとなり、記録は12で止まってしまった。
他は、繊細なライディングでウェイト路面に強味があるとされるスターシアも、コントロール性に優れるYC214を駆るバレンティーナも、強くなった雨に苦戦して五列目に埋もれ、愛華は六列目スタートという、予選で転倒した昨年のアメリカズGPに次ぐ後方からのスタートとなっってしまった。現在ランキング二位のラニーニも愛華と同じ六列目スタートだ。因みにフレデリカと同じくじゃじゃ馬LMSに乗る琴音は、果敢なアタックを挑んだものの大きくコースアウトをして、トライアルタイムでは予選落ち、フリー走行タイムによる救済処置で最後尾からのスタートとなった。
こういったケースは、一人ずつタイムトライアルをするスーパーポール方式の予選では稀にある。配慮すべきという声もあるにはあるが、時間内に自由にタイムアタックする一般的な予選方式でも、クリアラップが取れなかったとか、渾身の一発に賭けたラップにコース上でアクシデントが発生してタイムアタックできなかったということもあるので、レースの神の気まぐれと割りきるしかない。
いずれにせよ、路面状況の悪くなる中、10番手タイムを出したフレデリカと、コース上にかなり水溜まりのできていた最後のトライで12番手のタイムを叩き出したシャルロッタは、驚異というほかない。
決勝も、直前まで降っていた雨はあがったものの路面はハーフウェット。いつ再び降りだしてもおかしくない空模様でスタート時間を迎えた。
波乱要素満載の中、スタートと同時に普段このポジションからスタートすることのないランキング下位のライダーたちが、千載一遇のチャンスをものにしようと決死の猛ダッシュをした。
ウェットの路面は、ワークスとプライベーターのマシン性能差は出にくい。世界に自分たちの存在を示すチャンスだ。総合力では敵わなくとも、上位の連中は、少なくとも体制が整うまではリスクを侵さず様子を見るはず、その間に少しでも中継画面に目立とうとリスクを顧みず、最初から全力でとばした。
しかし、滑り易い濡れたコーナーを浅い溝を掘っただけのカットスリックタイヤで、限界ぎりぎりで飛び込んで行く彼女たちが目の当たりにしたのは、フレデリカとシャルロッタの狂気とも言える走りだった。
ライン上の路面は乾き始めている部分もあるが、大半はまだ濡れている。場所によっては水溜まりも残っている。そんなところにカットスリックタイヤで乗れば、氷の上のように滑る。
だがフレデリカとシャルロッタの二人は、まるで滑るのを楽しんでいるかのように、常識的な走行ラインから外れて追い越して行く。
中には再び雨が降りだすことに賭けて、レインタイヤで挑んだライダーもいた。そんな彼女たちは、濡れた区間で二人について行こうとするが、乾いた路面に入るとたちまちブロックをもぎ取られ、すぐに脱落していった。
一方、シャルロッタたちより後方からスタートしたバレンティーナやラニーニは、中堅ライダーたちに随分手こずらされていた。
あとからのアタックほど悪条件となった予選の影響で、後ろに行くほど実力者がひしめいている。
愛華たちの前にいるのは、言わばワークス予備軍だ。四強チームにあと一歩という実力と、その実力を証明してトップチームにアピールしようとする意欲は、前方からスタートしたライダーたちを上回る。中には今季結果を残さなければあとがないベテランもいる。
そんな彼女たちにとって、またとないチャンスなのだ。なんとしても追いすがろうとする中堅ライダーにまとわりつかれ、思うように動けない。
そんな中にあっても愛華とスターシアは、他のチームに先駆けて合流すると、混沌とした集団を割って行く。
その二人を追うように、ラニーニ、ナオミ、リンダ、それにチームメイトと大きく離れたハンナが続いた。
当然バレンティーナも乗っかると思われたが、彼女は意外にも自分のチームが揃うまで待つような動きを見せた。
愛華たちが集団を脱け出た時には、路面はかなりの部分で乾いていたが、すでにシャルロッタとフレデリカは遥か彼方を先行していた。
変わり者同士、意外と相性がいいのかも知れない。ウェットパッチの残るコースを、レコードラップに近いペースで競い合っている。
こうなるといくらレースはなにが起こるかわからないと言っても、アクシデントかマシントラブルでも起こらない限り、さすがに愛華とスターシアでも追いつくのは難しい。勿論、ラニーニやバレンティーナにとっても同じだ。
愛華にできることは一つしかない。スターシアと二人で、三位四位のポジションを守ること。
守ると言っても、シャルロッタが追いつかれないようにブロックしたり時間稼ぎをするのではなく、難しい条件の中、自分たちがラニーニやバレンティーナより先にチェッカーを受けなければならない。バレンティーナたちも現実を理解しており、無理にシャルロッタとフレデリカを追うのではなく、目標をこの集団のトップでゴールすることにしたようだ。シャルロッタもフレデリカも、速さは飛び抜けているが安定性の無さもトップクラスだ。二人揃って飛んでくことも十分あり得る。
シャルロッタとフレデリカを別枠としたセカンドグループのレースが繰り広げられた。
愛華はスターシアと連係して、集団トップを懸命に守った。スターシアもフィジカルトレーニング(プリキュラごっこ?)の甲斐あってか、終盤になってもペース落とすことなく、ライバルたちを抑え続けた。
ラスト二周にイエローフラッグを目にした時、一瞬シャルロッタが調子に乗りすぎた悪夢が浮かんだが、コースサイドに止まっているのがフレデリカだけなのを確認して、彼女には悪いが心からほっとする。
そのままシャルロッタの姿を見ることなく、集団のトップを守ったまま、二人揃ってチェッカーフラッグを受けた。
波乱のスタートをしたフランスGPは、優勝シャルロッタ、二位愛華、三位スターシアという、今季初のストロベリーナイツ表彰台独占で幕を閉じた。
フランスGPの翌々週、開幕から四連勝とストロベリーナイツの表彰台独占という形でフランスGPを飾った勢いのまま、シャルロッタの地元イタリアGPに乗り込んだ。
イタリアはシャルロッタだけでなく、ラニーニ、バレンティーナの母国でもある。奇しくもフレデリカを除く四強のチーム、即ちワークスチームのエースはすべてイタリア出身なので、地元ファンは嫌でも盛り上がる。
なんとしてもシャルロッタの連勝を阻止したい彼女たちとそのファン、このまま全戦優勝の絶対女王の誕生を期待するシャルロッタファンが詰め掛け、予選前の木曜日からサーキットは異様な熱気に包まれていた。
そして予選の行われる土曜には、サッカーの試合などで見かけるようなデモ鎮圧部隊まで出動して、物々しい雰囲気の中、予選が始まった。
天候に振り回された前回と違い、完全ドライコンディションの中、各ライダー全開でタイムアタックに挑んで行く。お祭り騒ぎの観客以上に熱いタイムアタックが繰り広げられた。
フレデリカのタイムをバレンティーナが僅かに上回り、そのタイムにラニーニが挑む。ラニーニは中間計測までファステストを記録していたが、最終コーナーの立ち上がりで急ぐあまり大きくタイムロス、結果コンマ02秒届かず暫定二位に終わる。スターシアや愛華も好タイムを記録するが、バレンティーナに届かない。
そして最後に登場したシャルロッタが、サーキット中の注目する中、それまでトップのバレンティーナを1秒近く引き離すタイムを叩き出し、余裕でポールポジションを奪って締め括った。
ホームの強味を差し引いても、現在シャルロッタがMotoミニモ最速のライダーだと見せ付けるには十分だった。
ル・マンの天候の悪戯により、前戦で連続ポールポジション記録は途絶えていたが、今回も順当にシャルロッタのグランプリになる、そして彼女の宣言した全戦優勝も戯言ではなくなってきたと多くの人に思わせた。
スクリーンに表示された断トツのタイムを見て、さぞ派手なパフォーマンスを魅せてくれると期待した観客だが、大人しくクールダウン走行を終えるとあっさりとピットに引っ込んだシャルロッタに拍子抜けしてしまった。
それだけシャルロッタが決勝に集中しているとも言える。ただ愛華やエレーナには、あまりに調子の良すぎる展開とシャルロッタの真面目な態度に、言いようのない不安を感じたのも事実だった。
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第4戦終了時点でのシリーズランキングと獲得ポイント
1シャルロッタ・デ・フェリーニ(ITA)ストロベリーナイツ スミホーイ 100p
2 アイカ・カワイ(JPN)ストロベリーナイツ スミホーイ 66p
3 ラニーニ・ルッキネリ(ITA)ブルーストライプス ジュリエッタ 63p
4 バレンティーナ・マッキ(ITA)team VALE ヤマダ 47p
5 ナオミ・サントス(ESP)ブルーストライプス ジュリエッタ 45p
6 アナスタシア・オゴロワ(RUS)ストロベリーナイツ スミホーイ 43p
7 コトネ・タナカ(JPN)リヒターレーシング LMSヤマダ 29p
8 フレデリカ・スペンスキー(USA) リヒターレーシング LMSヤマダ 29p
9 ハンナ・リヒター(GAR)リヒターレーシング LMSヤマダ 26p
10 リンダ・アンダーソン(USA)ブルーストライプス ジュリエッタ 25p
11 アンジェラ・ニエト(ESP) team VALE ヤマダ 24p
12 ケリー・ロバート(USA)team VALE ヤマダ 24p
13 マリアローザ・アラゴネス(ITA)team VALE ヤマダ 16p
14 エバァー・ドルフィンガー(GAR)アルテミス LMSジュリエッタ 10p
15 アンナ・マンク(GAR)アルテミス LMSジュリエッタ 4p
16 クリスチーヌ・サロン(FRA)プリンセスキャット ジュリエッタ 3p
17 ドミニカ・サロン(FRA)プリンセスキャット ジュリエッタ 2p
18 ジョセフィン・ロレンツォ(ESP)アルテミス LMSジュリエッタ 2p
19 ソフィア・マルチネス (ESP) アフロデーテ ジュリエッタ 1p




