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最速の女神たち   作者: YASSI
進化する世界
222/398

予感

 番組制作会社は、食事会の場としてサーキット近くの海辺のコテージを用意してくれた。招待されたのは鈴鹿での収録に協力した八人とエレーナとリンダの十人。セルゲイおじさんやミーシャくんたち日本に駆けつけて協力してくれた各チームのメカニックの人たちも招待されたが、テスト終了したばかりなので彼らは忙しく、残念ながら来れなかった。ミーシャくんをカッコいいなんて言ってたクラスメイトもちょっと残念そうだ。


 当然この模様も番組として使う予定で、お世話になった女子高生たちがお礼として企画したという設定になっている。実際、ほとんど取り仕切っているのは元生徒会長の由美で、すでに愛華の友だちというよりみんなの友だちになっている彼女たちの、手作り感のある温かいホームパーティーという感じが、今年最初の合同テストを終えたばかりのGPライダーたちにも心地よかった。


 コテージのテラスを舞台に見立て、美穂のピアノとバンドやってる子たちの演奏、紗季の歌声に聴き惚れたり、由美と智佳の漫才コンビに大笑いした。

 シャルロッタは念願の白百合女学院制服を着て、愛華(魔法少女)とスターシア(女児向けアニメの変身ヒロイン)によるストーリーのよくわからない寸劇に、みんな大いに楽しんだ。ナオミの忍術にはハンナがカラテの型で対抗する。二人とも日本人より日本の伝統(?)に詳しい。ラニーニとリンダのデュエットは、ラニーニがあまりに恥ずかしそうなので愛華も一緒に声を合わせ、いつの間にか全員の大合唱になっていた。

 フレデリカがミュージシャン顔負けのリズム感でドラムを叩き、琴音が凄くダンスが上手かったのはちょっと驚いた。床の振動でリズムを感じるそうだ。そんな鋭い感覚がライディング中のバイクから情報を読み取っているのかも?なんて考えるのは、やはりレーサーの習性か。


 やっぱりみんなライダーで、レースが好きなんだと思ったのは、鈴鹿で行われたうさぎさんチーム対かめさんチームの対抗レースの模様、特に放送されなかった秘蔵のドリームレースの映像が上映された時だ。


「ハンナさんは、本当によく全体を見てますね」

「アイカさんのフレデリカさんとの連係も見事ですよ」

「ラニーニちゃんがフォローしてくれたからだよ」

「わたしはコトネさんがバックアップしてくれてたから」

「スターシアさんと初めて一緒のチームで走って、いっぱい課題見つけた」

「シャルロッタさんのアシストは、想像以上にくたびれました。スターシアさんもナオミさんも、本当にタフですね」

「シャルロッタさんはめんどうな人だけど、敵になるともっとめんどうだってわかりました」

「ちっこいの三人に邪魔されて、あたしは走り難くて仕方なかったわよ!」


 いつもと違うチームでの走りを改めて見ながら、それぞれが自分の未熟なところ、チームメイトの優れてるところ、ライバルのすごいところなどを口にする。

 リンダはそこにいなかったのを本当に残念に思いながらも、今まで気づかなかった各々の長所と短所を見つけようと、画面に見入っている。


「このレースを先に見てたら、YRCはバレンティーナでなく、フレデリカとワークス契約を結んでいただろうな」

 エレーナは、伊藤社長が後悔してる顔が浮かんだ。

 完成に近づいたYC214を駆使し、三日間の合同テストをトップタイムで終えたバレンティーナではあったが、マシンの性能差以上のものは見せられなかった。どこまで本気を見せていたかは計りかねるが、昨年までのバレンティーナのレベルなら、シャルロッタやラニーニは勿論、ナオミや琴音すら追い越しているだろう……。


 未公開映像を含め、上映されたビデオを見終えたエレーナは、この連中が急に速くなった理由がわかった気がする。

 愛華の休息と、あわよくば愛華の友人たちがシャルロッタに社会性を教えてくれることを期待して日本に送ったが、自分のチームの二人だけでなく、ラニーニやナオミ、フレデリカや琴音まで成長させるきっかけを作ってしまったようだ。


 ───いずれにせよ、マシンの性能的には圧倒的にヤマダにアドバンテージがある。マシンについてはニコライたちに頑張ってもらうしかないが、若い選手にとって強力なライバルがまわりにいる事は望ましい環境といえるだろう。

 

  

 

*****

 

 フリップアイランドでの合同テストを無事終えて、各チーム次の合同テストまでやることは山ほどある。テストで問題となった箇所の修正や更なる競争力強化を図らなければならない。もちろんマシンだけでなく、ライダーもより速くなるための努力を怠らない。

 マシンがよくなれば、乗り手はさらに速く走ることを要求される。乗り手のレベルが高くなれば、マシンに求めるレベルも高くなる。完成はない。絶えず進化し続けることを迫られる世界だ。


 そんな中、愛華はチームから離れ、日本に帰らなければならなかった。白百合女学院高等部の卒業式に出席するためだ。

 今年はエンジンの使用台数制限が昨シーズンより緩和されたとは言うものの、やはりシーズン中の大きな変更にはリスクが伴う。完璧には至らないにしても、この期間に少しでもテストをこなしておきたい。愛華も少しでも役に立ちたいとはりきっていたが、エレーナから「アイカもバイクについて、少しはわかるようになったが、これから新しいエンジンのテストが中心となる。アイカがいてもあまり役に立たない」と言われてしまった。

 開発には、寸分の狂いもない正確なライディングが要求される。毎周同じペースで走り、セッティングを変えてはまた繰り返し僅かな違いを読み取り、改善すべき点を洗い出していく能力が求められる。愛華よりむしろ、テスト専門のライダーの方が役に立つだろう。


「余計な心配をするより、学校生活を締めくくって、充実したモチベーションで戻って来い」

 フリップアイランドで、必ずしもサーキットを走り込むだけが上達の道じゃないと身をもって経験した愛華だけに、反論出来なかった。

「ただし、アイカなら心配ないと思うがフィジカルトレーニングは忘れるな」

 その言葉に、エレーナの愛華に寄せる期待と思いやりが感じられた。


 諦めていた高校生活を、短い期間とはいえ送ることができ、卒業式にまで出席できたことは、エレーナはじめチームの人たち、学校関係者や友だちみんなにどんなに感謝してもしきれない。おじいちゃんとおばあちゃんもすごくよろこんでくれて、マレーシアの合同テストには参加出来なかったが、エレーナの言った通り、愛華にとって確実にプラスとなったのは間違いない。


 それを証明するように、開幕前最後の合同テストとなるバレンシアでは、単独でもバレンティーナ、ケリー、アンジェラ、ラニーニ、ナオミ、リンダ、フレデリカ、琴音、ハンナ、シャルロッタ、スターシアらのトップクラスのライダーたちと並ぶタイムで走れた。


 と同時に、4チーム12人以上のライダーが横一線に並ぶという、これまで以上の激しいシーズンの予感に、胸の昂りを抑えることができなかった。


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