表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最速の女神たち   作者: YASSI
最強のチーム
214/398

愛華の知らない智佳の秘密?

 二本目はかめさんチームから先にスタートして行く。彼女たちは一本目と同じように、由美にはハンナが、紗季にはスターシア、亜理沙にはナオミがそれぞれマンツーマンで先導しながら、集団を形成していく。シャルロッタはバックアップ要員として、柔軟的かつ臨機応変に対処するらしい。要するに単なる賑やかしだ。それでもシャルロッタの派手なパフォーマンスのおかげで、紗季たちが過剰なプレッシャーから解放されている面もあるので、無用とは言い切れない。

 

 

 かめさんチームのいなくなったスターティンググリッドに、うさぎさんチームがバイクを並べた。ポールポジションのグリッドには智佳、その斜め後ろにフレデリカが位置する。


「智佳、無理してフレデリカさんについていかなくてもいいからね、絶対に無理しちゃダメだよ!」

「わかってるって。愛華こそ、璃子のこと、よろしく頼むよ」

 愛華の心配など、まったく気にしてないように智佳は答えた。


(無理するもなにも、バイクが走ってくれないんだから無理しようもないじゃん。愛華は自分はいつも無理するくせに、人のことだとホント心配性だなぁ)


 愛華は転倒とかより、なにかほかのことを心配しているような気がしないでもないが、もう一人、智佳を心配する者がいた。


「智佳先輩、わたしも心配です。やっぱりわたしも先輩と一緒に走ります!」

 バスケ部後輩の璃子だ。

「いや、璃子がわたしと走ったら意味ないでしょ!?」


(璃子にまで心配されるわたしの乗り方って、そんなに危なく見えるのかな?)


 璃子はまちがいなく、乗り方の心配をしているのではないと思う。


 そわそわと落ち着かなさそうな二人とちがって、由加里は比較的冷静なようだ。

「愛華先輩も璃子ちゃんも心配しすぎです。智佳先輩はきっとやってくれますから、もっと信じてあげましょうよ。智佳先輩!フレデリカさんと頑張ってくださいね」

「おーッ!任せろ。わたしに追いつかれないように、おまえたちも一生懸命走れよ」


(わたしのこと信じてくれるのは由加里だけか。でもなんか刺々しい言い方だったな)


 由加里の呼びかけからは、なんとなく愛華から遠ざけたい気持ちがこもってる気が、しないでもない気がする……。


 日本語での会話は、愛華もあえて通訳しなかったので、ラニーニやフレデリカにはどんなやり取りがされているのかわからない。

 ただ、その雰囲気は、シーズン中何度も経験してる、あのストロベリーナイツの雰囲気と似てる、とラニーニは思った。チームメイト同士、あまりまとまっていないように見えても、ライバルとしては決して油断ならない、あの雰囲気だ。しかし今日はラニーニも、同じチームの一員だ。


(なんか不思議な気持ちだけど、今日はわたしもチームメイト、すごく楽しみ)


「もうすぐスタートだよ。みんな準備はいい?」

 ラニーニの声と同時に、スタートのカウントダウンが始まった。


 本物のレーシングマシンと比べると迫力は欠けるものの、2サイクルエンジン特有のカン高い排気音を響かせて、七台のオートバイがスタートした。



─────   

 


「へぇ、自分から私と走りたいって言うだけあって、思ったより頑張るじゃん」

 フレデリカは、ダンロップを上りきり、緩やかに下るデグナーに差し掛かったところで後ろを振り返ると、智佳がぴったりついて来ているのを確かめた。

「前のお嬢ちゃんたちとの間隔もほどよく開いてるし、ちょっと気合い入れて行くわよ。ここで詰められないようなら、それまでだからね」


 もともと一つのコーナーだったものを、コース改修で複合コーナーとしたデグナーコーナーだが、実際には短い直線を挟んで明確に二つのコーナーに分かれている。

 デグナー最初のカーブは浅く折れている感じで、小排気量のマシンではフルスロットルで駆け抜ける。だが、その前のダンロップの上り勾配で、見通しの悪いブラインドとなっており、慣れないとライン取りが難しい。走り込んでるライダーと経験の浅いライダーとの差が意外と表れる区間だ。

 今回はフレデリカが先導してくれてるので、智佳はついて行けばいいのだが、そのラインが初心者を気づかったものとは到底思えない。


 イン側の縁石を掠めたらそのままアウトいっぱいまで膨らみ、外側のゼブラの上を平気で通っていく。

 そして直角に近く折れ込んだデグナーの二つめ、ここを如何にスピードを落とさず抜けられるかで、ヘヤピンまでの上りのスピードが大きく違ってしまう。フレデリカの言う通り、ここでスピードを落とすと致命的な遅れとなるだろう。


 智佳はぴったりとフレデリカの後ろについて、デグナー2を曲がった。外側縁石の上いっぱいまで膨らむが、なんとか踏み留まって、スピードを保ったまま立体交差をくぐる。


 上りに差し掛かっても、前を行くチームメイトたちの差が詰まっていく。それまでのスピードが生きている。

「よ~し、このままヘヤピンでパスしてやるぞぉ」

 智佳の気合いが、ますます高まった。

 しかし、一旦ラニーニの後ろ数メートルまで近づいたものの、ヘヤピンが近づくにつれ加速が鈍くなって、再び離される。やはり全開の上りでは体重差がモロに出る。それでも智佳のモチベーションは下がらない。フレデリカも決して軽いライダーではない。コーナーで挽回できることはわかった。彼女について行けば、必ずみんなのところへ連れていってくれるはずだ。


 フレデリカのブレーキランプが一瞬点灯するが、ほとんど減速しないままバイクをカクッと曲げた。思わず唸りたくなるくらい鋭くインに切れ込んでいくが、フレデリカにすればゆっくり丁寧に曲がったつもりで、ここまでついて来た智佳にも決して曲がれない速度ではない。

 智佳も同じところで一瞬だけブレーキレバーを握り、バイクを寝かせた。


 鈴鹿で一番鋭角なコーナー。智佳もフレデリカのようにとはいかなくても、教わった基本通りバイクは気持ちよく曲がっていく。これまでで一番深くバンクさせているのに、まったく恐怖心はない。

 しかし智佳は、フレデリカのラインより少し外側に膨らんでいるのが気になった。


(もっとインに寄せなきゃ)


 必死について行こうという思いで、左側のハンドルを引いた。


 オートバイの操作に強引さは禁物だ。レース中の熾烈なバトルの最中にはそうも言ってられないが、ハンドルをこじるような動きは、本来バイクの持っている旋回力を損うものでしかない。

 バランスよく旋回状態に入っていたのを、ハンドルをこじるような動きで、フロントに大きな力が加わった。


 フロントタイヤがズルッ、と滑るのを感じて智佳は慌てた。瞬間的にアクセルを戻し、バンクしていたバイクを慌てて起こす。

 実際にフロントが滑ったのは、ほんの数センチほどだった。しかし、端から見ればほとんど気づかないほどのスリップでも、乗ってる本人、特に経験のない智佳には、転倒のイメージが浮かぶには充分なハプニングだった。


「うわーっ、転ぶかと思った……って、せっかくいいとこまで追いついてたのに、遅れちゃったよ!早く追わないと」

「トモカ、落ちついて。焦らなくても大丈夫。ここからは勾配も弛くなるから」

 ヘヤピンの中程でジタバタしている智佳に、フレデリカが振り返って呼びかけた。

「でもせっかくフレデリカさんが上手く引っ張ってくれたのに、わたしのミスで台無しにしちゃったから」

「バスケの試合でも、ポイント獲られたからっていちいち焦ってたら敗けでしょっ!頭切り替えなさい。この先の二輪シケインは、みんなも速度落とすから、すぐ取り戻せるわ」

 フレデリカは、智佳の得意なバスケに例えて励ました。バスケにはあまり詳しくないが、アメリカ人にとって身近なスポーツなので、ゲームは知っている。


 バスケの試合にパーフェクトゲームなどあり得ない。シュートが必ず入るとは限らないし、完璧なディフェンスもない。ポイント獲られるのは当たり前だ。獲られたら、すぐに攻撃に移る。こちらが決めたらすぐに相手もまた攻撃してくる。シュート決めてもミスしても、すぐに次のプレーに集中しなければならない。その繰り返しだ。


(そうだよね、試合終了の瞬間まで自分のプレーに集中しなきゃ)


 智佳は失敗を振り払い、攻撃モードに切り替えた。

「フレデリカさん!まだまだ行けますよね!ガンガン攻めて行ってください!」

「その意気よ。でも気持ちだけでつッ走ったらたらダメよ。自分だけでなくて、バイクを気持ちよくさせるつもりで走りなさい」

 フレデリカに言われて、きのう彼女の教えてくれたバイクの極意を思い出した。

 

 

 エンジンが気持ちよく回る回転域に入れてアクセルを捻ると、それに反応してジュリエッタはかん高い排気音(あえぎ声)をあげてくれる。


 前でフレデリカが、二輪専用シケインにカットインしていく。智佳もそれに続く。ただ真似するだけでなくバイクの反応を意識しながら。


 タンクを挟み込んだ太ももで、ジュリエッタをぐっとインに向けると、彼女(ジュリエッタ)はその身をくねらせる。

 智佳は上に股がったまま、今度は反対側に捩らせる。それに合わせて彼女(ジュリエッタ)も敏感に身をくねらせた。


(この子、わたしの動きに合わせて、気持ちよくなってくれてる……)


 リズミカルに右、左、右、とシケインをクリアしていく。


「さぁ、調子取り戻したところで、本気でみんなを追い上げるわよ。この先はスプーンコーナーまで下りよ」

 フレデリカは智佳に声をかけながら確信していた。


(初めてだって言ってたけど、この子、絶対経験あるわね)


 フレデリカが、智佳に何の経験あると思ったのかは知らぬが、二人の視界は、広く開けたスプーンコーナーを曲がって行くうさぎさんチーム本隊を捉えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ウサギさんとカメさんのお話にしてはちょっとだけ色っぽいかなぁ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ