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最速の女神たち   作者: YASSI
最強のチーム
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才能と情熱

 まったくの初心者だった女子高生たちも、世界のトップライダーの指導と恵まれた練習環境のおかげで、僅か一日で目覚ましく上達していた。これはGPライダーたちの指導のおかげというより、初心者教習のノウハウを持っている鈴鹿の交通安全センター(一般の教習所は交通ルール中心のカリキュラムだが、ここではライディングを安全に「楽しむ」ことまで教えてくれる)の指導員の方々のおかげであり、何より生徒たちのモチベーションが高く保てた事が大きいだろう。


 ライディング教室初日の締めくくりとして、サーキット側から希望者に、本コースの体験走行が許された。

 勿論先導車付きだが、これには鈴鹿の交通安全センタースタッフから生徒たちの頑張りへのご褒美としての太鼓判とYRCのご好意、ヤマダ社長の伊藤氏からの協力要請があっての事なのは、言うまでもない。


 初めてオートバイに乗った初日に、F-1も開催される国際レーシングコースを走るのは、いくら世間の常識から離れているお嬢様たちでも緊張したが、それ以上に愛華たちの世界を、ほんの僅かでも垣間見られるワクワクが勝っているようだった。

 教習と試乗会に参加した全員が、体験走行を希望したため、その日はスポーツ走行の講習を受けた「うさぎさんチーム」と「かめさんチーム」の六人だけという事になった。他の生徒は、明日みっちり講習を受けた後に、時間を作ってもらえるそうだ。


 日の傾きかけた鈴鹿サーキットの本コースへと、先導車に続いて緊張した面持ちで、GPのトップライダーたちに混じってコースインして行く女子高生たち。GPライダーからアドバイスを受けられるだけでもラッキーなのに、同じサーキットを、一緒にコースインできるという体験は、たぶん世界中のバイク乗りが羨ましがるだろう。


 その中でも、愛華に憧れ、ずっとこの日を楽しみにしていた由加里の感動は、ほかの子たち以上に大きかった。

 愛華のGPデビュー以来、レースは欠かさず観て、愛華の記事が載ってる雑誌は全部読みあさり、インターネットもチェックしていた彼女は、今や相当なGPオタクだ。Motoミニモの知識だけなら、バイクに乗ってる人にも負けない自信がある。

 しかし、知識と実際とは違う。それも理解している由加里は、緊張してコースに出たが、その不安は、逆の方向にはずれた。

 

 

 サーキットは広い!そして、とにかく気持ちいい。

 

 

 レーシングコースというと、命懸けでスピードを競い合う者たちの戦場のようなイメージを抱く人もいるかも知れないが、おそらくドライバーやライダーにとって、世界で一番安全な道路ではなかろうか。それは、一度でもサーキットを走った事がある者ならわかるだろう。


 先導車が安全なペースを保っているとはいえ、そこは初心者にとっては程よいスリルと、広々としたコースを思いきり走れる自由。まるで羽根が生えて空まで飛んでいけそうな気がする。


(いつか愛華先輩と、ここを思いきり走りたい……)


 由加里の中でくすぶっていた本心を、はっきりと自覚した。

 夕日の眩しい鈴鹿サーキットで、憧れだった愛華の背中が、追いかける目標となった。



 走行前に(主にシャルロッタとフレデリカに対して)充分注意されていたのだが、当然のようにシャルロッタとフレデリカはそれを無視して、バトルを始めた。しかしそれは、本気で速さを競うというより、友人たちに凄さを見せつけ合っているかのように、車列の前や横、後ろに下がってはまた先頭に行ったりしながら、ウィリーやジャックナイフ(フロントブレーキを急激にかけて、リヤタイヤを浮かせる技)や白煙をあげるほどのドリフトの競演で、同じコース上という特等席の生徒たちを楽しませた。


(二人とも、あれほど追い越し禁止って言われてたのに~ぃ!)


 愛華はさすがに注意しようと思ったが、ハンナもスターシアも大目に見ているようなので敢えて見過ごす事にした。というより、愛華自身、二人のものすごいパフォーマンスをもっと見たかった。豪快なウィリーやドリフトの裏に、彼女たちの類稀な感覚が溢れている。


 二人とも天才と言われる才能に間違いないが、その感性の違いがよくわかる。


 いつものようにシャルロッタさんは、本当にバイクが身体の一部のように、自由気ままに踊っている。


 フレデリカさんは、彼女の言葉を思い出すと、まるで本当にバイクと恋人同士のように、愛を交わし合っているみたいに見える。意識してしまうと、ウブな愛華には恥ずかしくなるくらい刺激的だ。


 どちらがすごいなんて言えるレベルじゃない。どちらも、本当に自由自在に楽しんでいる。


 最近流行りのエクストリームバイクというジャンルがある。GPの会場でも、エキシビションなどでやる事もあるので、愛華も目にした事がある。

 確かに観せる為に研かれたテクニックは、シャルロッタやフレデリカたちが楽しんでやってるより派手だ。バイクも大きいので迫力もある。

 ハンドルの上に座ってウィリーしたり、後ろ向きに座ってバーンアウトしたりは、愛華にはとても真似出来ない気がする。

 でも、シャルロッタやフレデリカがやってるウィリーやジャックナイフぐらいは、たぶんレースやってる人なら誰でも出来ると思う。ただ技のキレというか、あれほど無駄なく、自然(ナチュラル)な動きで出来る人なんて、たぶん他にいないだろう。


 例えば、体操の倒立(逆立ち)なんかなら、少し運動が得意な人なら出来る人は大勢いる。子どもなら、それほど過酷な練習しなくても出来るようになるだろう。それでも、単純な逆立ちを見るだけで、その子に体操選手としての才能があるかないか、大体わかる。それと同じように、何気なくやってるウィリーやジャックナイフからも、彼女たちのずば抜けた才能を伺い知ることができた。


 愛華を含めて、ここに参加しているライダーたち、ラニーニもナオミも琴音もスターシアもハンナも、他のスポーツでいえば皆オリンピックレベルの選手たちだ。その彼女たちから見ても、シャルロッタとフレデリカのセンスは抜きん出ていた。彼女たち自身のレベルが高いからこそ、何気ないアクションの中に才能の差を感じるのかも知れない。


 それでも愛華は、絶対に敵わないと諦めたりはしなかった。むしろもっと頑張ろうと闘志に火がついたくらいだ。


(才能の差はわかりきってるけど、逆立ちだって一生懸命練習すれば、だんだん無駄な動きなくなってビシッと出来るようになるんだから!それに、才能が絶対じゃないのは、ラニーニちゃんが証明してる。足りない分は、努力で埋めて、必ず追いついてみせるから!)


 レースの時でなく、オフシーズンの和気あいあいとしたイベント中に、そんな事を考えるのは少し意外ではあるが、このクラスのライダーなら当然だろう。

 よく「レースの時以外は、レースの事は考えないようにしてる」と言うライダーもいる。果たして真に受けていいのだろうか?

 レース前やレース中にモチベーションが高くなるのは当たり前の事だ。それで勝てるなら苦労しない。学校の試験を思い出して欲しい。試験が始まってから頑張っても、答案は書けない。頭にないものは、いくら頑張っても出てくるはずがない。

 良い点数をとる連中は、大抵普段から勉強している。そういう連中に限って、「全然勉強していない」と言っていただろう。

 体調や集中力の欠如などでのミスや多少のイレギュラーはあるにしても、試験の前には、すでに結果は出ていると言って過言ではない。レースでも同じだ。他の要因がより多く絡みあって複雑ではあるが、結果はいつも勝つべき者が勝つ。

 実力のある者が敗れることはあっても、実力のない者が勝つことは、決してない。


 愛華も、レースから離れたオフシーズンであっても四六時中競争心を抱いてる訳ではない。ただ常日頃から、上昇しようという気持ちが頭から離れないのは、愛華が本当にライディングが好きな証拠であり、おそらくラニーニやナオミたちも同じ気持ちだろう。シャルロッタも苺大福を作りながらライディングと結びつけていた事から見ても、「好き」というのが最も重要な適正なのかも知れない。


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