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最速の女神たち   作者: YASSI
最強のチーム
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うさぎさんチームとかめさんチーム

 智佳の運動神経の良さは前から知っていたが、バイクに乗ってもその身体能力の高さを如何なく発揮して、並み居るGPライダーたちを驚かせた。

 愛華自身、身体能力の高さでトップライダーまで上り詰めたのだが、智佳がもう少し小柄だったら、強力なライバルになったかも知れないと本気で思ってしまった。

 実際、友だちの贔屓目でなく、YRCの海老沢すら、「彼女は本当に初めてなのか?本格的にレースに打ち込んだら、MotoGP初の女性ライダーになれるかも」と高橋に真顔で語ったそうだ。


 愛華と同じ体操をしている由加里も非凡な才能を感じさせるのだが、憧れの先輩にいいとこ見せようと、力が入り過ぎてるようだ。


 二人と比べると地味だが、璃子も普通の女の子と比べると、ぜんぜん上達が早い。


「これなら対抗レース、わたしたちがいただきだね」

 紗季ちゃんたちには悪いけど、やっぱりライディングはスポーツだ。

 普段から運動してる体育会系には敵わないと、愛華は親友と後輩をラニーニたちに自慢した。


「でも、向こうにはハンナさんとスターシアさんが教えてるから、油断大敵だよ」

 ラニーニは、愛華が浮かれているのを初めて見た気がする。自分では決して自惚れたりしないのに、友だちが上手くバイクに乗るのが余程嬉しいんだと、ちょっと妬ける。


「個人の能力はこちらが上回っても、ハンナさんはそれを覆す策があります。スターシアさんの理にかなったライディングも、優等生の生徒には、すばらしい手本となるでしょう」

 英語が読み取れない琴音も、愛華の雰囲気を察して、注意を促した。

 二人とも、普段大人しいがやはりレーサーだ。お遊びのゲームとはいえ、勝負する以上勝ちにこだわっている。


「そうだね。紗季ちゃんはスキーとテニスが得意だって言ってたし、由美さんはああ見えて合気道の達人みたいだから。それに二人とも子供の頃から乗馬とかもやってそう。亜理沙ちゃんは……実家がすごい有名なチューナーだって噂だもんね」

 実家が有名なチューナーというのはあまり関係なさそうだが、もしかしたら、若い頃レースやってた可能性も否定できない。

 愛華は日本語でつぶやいてから、ラニーニとフレデリカにもわかるように英語で説明した。


「教えるのはあまりしたことないけど、がんばって絶対勝とうね!」


 愛華の掛け声に、智佳と由加里と璃子が「だあっ!」という返事で応えた。ラニーニと琴音も、グッと力を込めた握り拳を示す。ただ、フレデリカはまだ、溶け込めなさそうにしているのが、愛華は気になった。

 

 

 

 


 スターシアはメンバーを見て、まず亜理沙ちゃんに期待した。最初に合った時から、あまり運動能力は高くないと思っていたが、あのヤマザキの娘だから、バイクに乗った経験ぐらいはあるはず。もしかしたらレースもやってたかも知れない。彼女にチームを引っ張ってもらおうと思った。


 しかし、亜理沙ちゃんのレベルは、おそらくバイクに乗ったことはあるだろうけど、典型的な女性ビギナーライダーのレベルだった。


 少しだけ落胆したが、そこは決して顔には表さないスターシアであった。


 しかし、意外な事に紗季さんと由美さんの筋が思いの外いい。ハンナさんの教え方が上手いのもあるが、素直で、言われた事をすぐに理解する能力とそれを真面目にこなそうとする姿勢は、愛華にも通じ気がする。

 ペースはゆっくりだが、確実に上達している。



 ハンナにとっても、紗季と由美の素性の良さは、楽しみな誤算だった。

 バイクに乗った事のない人のイメージする、ライディングにおけるバランス感覚というと普通左右のバランスを思い浮かべる。つまり、横に倒れないように、という事だけに意識がいってしまう。しかし、紗季も由美も、体で前後のバランスも自然にとれている。

 オートバイというのは、加速や減速で変化するGに合わせて、前後のバランスもとらなくてはならない。ハンドルにのし掛かったり、引っ張ったりしないように、絶えず重心を移動させながら乗るのが基本だ。

 言うのは簡単だが、実は、これがなかなか教えるのが難しい。自分の脚で移動するのではなく、動くものに乗ってバランスをとるという場面が、日常生活ではなかなかあるようで少ない。車や電車は、腰掛けるか何かに掴まれば、自分でバランスをとらなくても済んでしまう。正直、それほどスポーツを熱心に取り組んできたとは思っていなかった二人が、自然に体を対応させているのには、少し驚いた。


「二人ともバランス感覚が凄くいい。なにかスポーツしていた?」

 ナオミもそれに気づいたのだろう。二人に尋ねた。

「お褒め頂きありがとうございます。私は幼い頃から合気道をしておりました。あとは乗馬は今でも毎週しています。たぶん、そのおかげかと思います」


 ハンナはなるほどと思った。ハンナにも多少日本の武道の心得があるが、合気道は特に体の重心と姿勢を重要視すると聞いている。

 それに乗馬。オートバイは鉄馬とも言われるように、感覚はそれに近いものがある。元々ride(ライド)という言葉は、馬に乗るという意味だ。下半身でホールドして、手綱は馬に指示を与えるだけなように、ハンドルはスロットルやブレーキを操作するために手を添えているだけというのが基本だ。これがハンドルをきって曲がる四輪との大きな違いで、四輪の運転をdrive(ドライブ)、二輪の運転をride(ライド)と区別される所以だろう。


「私は由美さんほど上手く馬には乗れませけど、一応乗ったことはあります。でも私の場合は、スキーが得意だから、そのおかげかな」

 紗季も少し恥ずかしそうに、それでもしっかりとアピールするように言った。

 乗馬もスキーも、自力以外で移動する中でバランスをとるというのは、バイクのライディングと共通している。


 それともう一つ、ハンナとスターシアが感心したのは、この状況で三人ともそれほど緊張していない事だ。

 バイクに初めて乗ったのであれば、大抵、力が入り過ぎて動きが硬くなるものだ。愛華ですら初めてバイクに乗せた時は、緊張でガチガチになっていた。ましてテレビカメラが回って、大勢の一流ライダーの見守っているというのに、三人ともバイクに乗れるのをとても楽しんでいるように見える。


 由美はもとから度胸が据わっているのだろう。有名人や地位の高い人の前でも気後れしない。何をするにも、自信に溢れ、出来ない事も練習すれば必ず出来ると信じているようだ。おそらくそういう人生を歩んできたに違いない。アカデミーで多くの生徒をみてきたハンナには、そう感じられた。


 紗季は由美ほど自信家ではなかったが、先ほどのシャルロッタからの無理難題かつスパルタな指導と比べたら、やさしくきれいなスターシアから教わるのが楽しくて仕方ない様子だ。


 亜理沙ちゃんは……、根っからこういう人みたいだ。


(向こうのチームは上達が早いだけに、張り切っているようだけど、案外驚かせられるかも……)


 ハンナとスターシアは、顔を見合わせてニンマリした。

 

 


 お昼に番組製作側が用意してくれたお弁当も、チームごとに分かれて食べた。いつもは仲のいい友人たちでも、対抗レースと聞いて相当意識しているようだ。負けず嫌いの智佳や由加里が真剣になるのはわからなくもないが、紗季や由美までもがそこまで張り合うとは、ちょっと意外な気がするが、それだけバイクの魅力にとりつかれたんだろうと、愛華は気楽に考えていた。


 午後からは途中、愛華たちはプロモーション撮影のために、教習を抜けて本コースに移らなくてはならない。ハンナと琴音、フレデリカも自分たちのテスト走行がある。ヤマダの貸し切りとはいえ、Motoミニモクラスのためだけに貸し切っているのではないので、走れる時間は限られている。


 最初の予定では、智佳たちもGPライダーの走りを見学する事になっていたが、みんな対抗レースに向けて、もっと練習がしたいと言い出した。


 高橋は、あまり張り切り過ぎるのもどうかと思ったが、本人たちがやる気になっているのなら、集中力が続く限りやらせてみた方がいい、というハンナの提言で、講師たちがいない間は中井が全体を見るという事で、智佳たち六人は教習コースで練習している事になった。交通安全センターの指導員もいるので問題はない。というより、彼らこそ初心者に教えるプロである。


 尚、シャルロッタにはその事を伝えていないので、自分の本当のサーキットテクニックを見せられると張り切っていた。まあ、その方がいい映像が撮れるだろう。


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― 新着の感想 ―
[一言] シャルロッタとフレデリカがチョッピリ可哀想な気がする...。
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