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最速の女神たち   作者: YASSI
最強のチーム
203/398

みんな愛華が大好きだから

 愛華の家は、特に豪華というわけではないが、代々その土地で暮らしてきた農家のつくりで、建物は古いが、近年開発された周りの住宅などと比べるとかなり立派に見える。


 愛華の祖父の代には、すでに農業だけでやっていける環境ではなく、基本、祖母が家で食べる野菜を畑で作っている程度だったが、家は昔のままだ。愛華も子どもの頃、畑仕事を手伝ったぐらいの記憶しかない。

 それでも愛華が日本を離れる時には、まだうちのまわりに少しは残っていた田んぼや畑が、真新しい住宅に変わり、今は家の裏の畑ぐらいしかないのは、ちょっとさみしい気がした。


 裏の畑も、以前とは様子が違っていた。

 愛華が所属するストロベリーナイツの名の由来を知った祖父母は、愛華が帰ってきた時、苺がたくさん食べられるようにビニールハウスにして、この時期に合わせて苺を作ってくれていた。


 その上、お世話になってるチームメイトと同じライダー仲間、学校の友だちと餅つき大会をすると聞いた二人は、物置からずっと使ってなかった杵と臼まで引っ張り出してきて、準備万端用意してくれた。


 今はまだ、一人前のGPライダーになることで精一杯で、将来のことなんて考えてなかった愛華だが、いつかここに帰って来て、おじいちゃんとおばあちゃんにいっぱい孝行しようと誓う愛華だった。


 餅つき大会の日は、愛華とスターシア、ラニーニとナオミと、それにシャルロッタまで早起きして準備を手伝う。ルーシーさんは当然の如く、薪に火を起こしていた。

 学校の友だちもやって来て、すぐにエプロンをして手伝い始める。今回は大晦日前日という事もあって、あまりみんなには声を掛けなかった。声を掛ければ無理してでも来てくれるかも知れないが、家の大掃除とか、家族で旅行を計画してる子もいるだろうし、寮にいる子は早く帰省したいだろうし、後輩たちまで引き込むのはさし控えた。

 今回の学校の友だちは、親友の智佳と紗季と美穂、それに由美だけ、のはずだが、どこから聞きつけたのか、体操部の由加里と智佳の後輩二人までやってきた。


「先輩たちだけで餅つきするなんて、ずるいです!」

 とツインテール揺らして、軽音部の後輩みたいなセリフで迫られては追い返すわけにはゆかず、全員一致で参加を承認。


「あれ?でも璃子の家って岐阜の奥の方だろ?寮母さんが今日から実家帰るとかで、寮も三日まで閉めちゃうって聞いたけど、早めに帰らなくていいの?」

 智佳が思い出したように後輩の一人に尋ねた。意地悪ではなく、岐阜県の山間部、ローカル線を乗り継いで、さらに駅からバスで一時間半かかるところまで帰らなくてはならない後輩を心配したのだ。雪が積ってたら、もっと大変だろう。

「璃子は今晩、うちに泊まっていくので心配ないです」

 もう一人の子が答えた。

「智佳先輩ちに泊めてくれるなら、それでもいいですけど」

 もしかしたら、彼女たちの本当の狙いはそちらかもしれない。

「うちはいいけど、わたしは今晩、愛華んとこ泊まっていくよ」


「「「そんなのずるいです!」」」


 由加里を含めた後輩三人が、声を揃えて抗議した。

 智佳が泊まるとは、愛華も聞いてなかったのだが……。


 愛華の家は、古い和風の家なので広い座敷がある。卒業試験の勉強をしなくてはならない愛華は、シャルロッタが来てからも自分の部屋で寝ていたが、ラニーニたちが来てからは、ルーシーさんスターシアさんも含めて、座敷にお布団を敷いて、七人一緒に寝ていた。

 最初、不満顔をしていたシャルロッタも、ナオミが、

「これは日本伝統のガッシュク(合宿)スタイル。これを経験するとレベルが数段アップする」

 と言うと、祖母の敷いてくれた布団に喜んで潜り込んでいた。


 GPにデビューする前は、レースで遠くのサーキットへ遠征した時なんかは、車の中で寝るのがあたりまえだったとラニーニが言っていたように、子どもの頃からレース生活をしてきた彼女たちは、快適なベッドじゃないと眠れないという種類の人間ではない。今でも、サーキット近くに部屋がない時には、チームのトレーラーで寝ることもよくあるので、狭いのは気にならない。


 愛華がスターシアの顔を伺うと、「別に構いませんよ。大勢の方が楽しいです」とつぶやき、皆頷いた。


 まあ、愛華の部屋にも二人は寝れるし、あと四人ぐらい増えてもいいかな?


「ちょっと待って!智佳が泊まるなんて、私、聞いてないんだけど?」

 祖母に今晩は泊まる人が四人増えた事を伝えようとした時、美穂が待ったをかけた。


「そうです。お家の方に外泊の許可はとってあるのですか?」

 元生徒会長もなんか反対みたいだ。由美は先日のクリスマス会のあと、紗季の家に愛華たちが泊まったのに自分は誘ってもらえなかった事を、実は相当恨んでいるんじゃないかという気が、しないでもない。


「えっと、わたしも聞いてなかったけど、璃子さんの家はすごく遠いみたいだし……」

「それなら智佳さんの家に泊まればいいでしょ!?」

 外泊の承諾を得ていないのは、智佳の家でも同じ気がするのだが、毅然と言う由美に、誰も突っ込む勇気が湧かない。

「そうですね。智佳はバスケ部の先輩なんだから、後輩の面倒をみてあげなきゃ。先輩のおうちに泊めてもらえるのなら、ご両親も納得されるでしょうし」

 紗季も由美に乗っかって、智佳を排除した。なんか美穂が複雑そうな顔してる。


「だったらわたしが愛華先輩の家に泊めてもらうのは、問題ありませんよね!」

 紗季の論理によれば、体操部の後輩である由加里が愛華の家に泊まるのは問題なしとなる。

「あなたの家は近くじゃないですか?!お餅を食べたら、とっとと帰りなさい!」

 滅多に声を荒げたりすることのない由美に、由加里は叱られた。


「という事で、今晩は女学院を代表して元生徒会長である私が、愛華さんと共にスターシア様方にお付き合い致します」


「「「「「「由美さんこそ、全然関係ないでしょッ!」」」」」」

 今度は後輩三人に加え、智佳・紗季・美穂の六人の声が揃った。


「なにおっしゃいますの?私は女学院を代表して……」

「権力の横暴です!」

「スターシア様のようなお方をおもてなしするのは、元生徒会長である私の」

「不信任!」

 愛華以外の女学院生全員が、元生徒会長の提案を否決した。


 そんなわいわいガヤガヤの光景をラニーニは、

(愛華ちゃんは学校でも、みんなに愛されているんだなあ……)

 と日本語はわからくても、楽しそうで微笑ましくも、ちょっと羨ましく眺めていた。

 

 


「そんなところで揉めてないで、愛華たちも餅つきをしないかね?」

 おじいちゃんに言われてそちら方を見れば、すでに炊けあがったもち米を臼にあけて、ルーシーさんが“ぺったん、ぺったん”していた。おばあちゃんはルーシーさんに合わせて、手水を加えながら粘りの出てきたもち米を裏返したりしている。傍らでシャルロッタが、早く代わって欲しそうに眺めていた。シャルロッタに杵を持たせるのはなんか危険な気がする。おばあちゃんが心配だ。


 他のみんなも、一旦不毛な言い争いをやめて、臼を取り囲んだ。


 段々お米が潰され、粘りのあるお餅になってくると、おばあちゃんが臼からお餅を取り出して、テーブルの上の片栗粉を敷いた台に置く。みんながそれを分けあって、まずは鏡餅を作り始めた。


 おばあちゃんはすぐに、釜戸で蒸していた新しいもち米を臼にあける。

 最初はおじいちゃんがある程度形を整え、今度はシャルロッタが杵を持って、ルーシーさんが手もとを務めた。


(よかった。ルーシーさんなら運動神経いいから、シャルロッタさんが臼を外しても避けられそうだ)


 まあ、シャルロッタもルーシーも、持ち前の運動神経ですぐにコツを掴んで、意外と様似になっていた。


 みんなが交代で餅をついたり、鏡餅や切り餅、ビニールハウスで収穫した苺とあんこを入れて、苺大福を作ったりした。


 シャルロッタも苺大福作りに挑戦、もともと商品として出荷するつもりの苺でなく、形も大きさもバラバラなので、出来上がる苺大福も不揃いなのはいいとしても、あんがはみ出したり、強く握り過ぎて苺が潰れているのはどうだろう?本人曰く、上手く出来たのは自分で食べてしまったから、残っているのはみんな失敗作だそうだ。それなら仕方ないか……。


 いろいろ軽いハプニングなんかもあったりして、みんなが餅つき大会を楽しんでいた。

 

 

「愛華、おまえは本当にいい人たちに巡りあえて、幸せ者だね。みんなに感謝しなきゃいけないよ」

 一通り餅つきの流れを教えたおばあちゃんが、一息ついて愛華に話しかけた。

「わたしも本当に幸せだと思ってる。みんなにもいっぱい感謝してるし、おじいちゃんとおばあちゃんには、すごく感謝してるよ」

 おばあちゃんはにこやかに微笑んだが、隣で聞いていたおじいちゃんは、うるうるし始めた。そのやり取りを、ルーシーがスターシアに通訳して伝えている。

「愛華はやさしい子だから心配ないね。でももし、好きな男の人できたら、私たちのことは気にしなくていいのよ。外国の人でも構わないから、連れて来てくれたら歓迎するよ」

「えっ?わ、わ、わたしはまだ、お、男の人、好きな男の人なんて、ぜんぜん考えたこともないから!」

 いきなり好きな男の人とか、家に連れて来るとか言われて、慌てて食べかけてた餅をのどに詰まらせそうになった。

 もっと慌てたのはおじいちゃんだ。

「な、なにを言ってるんだ!わしは認めんぞ!愛華はまだ18だぞ。男なんてまだ早い!しかも外国の男なんぞ、絶対に許さん!」

 涙ぐんでた目を突如吊り上げて、真っ赤になって怒り始めた。「もし好きな人ができたらという話ですから」とおばあちゃんがなだめても、想像すらしたくない様子だ。

「ご心配なく、おじいさま。私が側にいる以上、そのようなことは絶対にさせません」

「アイカさんに近づく男は、私が全力で排除します」

 スターシアの言葉を、ルーシーが自分の決意と共に伝えると、おじいちゃんは深々と頭を下げた。

「スターシアさん、これからも愛華のことを、よろしく頼みます」


 愛華とおばあちゃんは、この人たちの方が心配だった……。


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