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最速の女神たち   作者: YASSI
最強のチーム
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ご注文はいちごですか?

「せっかく日本まで来てあげたってのに、あたしをほっといてアイカはなにやってるのよ!」

「勉強です」


 ぶんすか文句言うシャルロッタに、ルーシーはたった一言で返す。来日以来、何百回と繰り返されている会話だ。


 ルーシーのもとに、突然モスクワにいるエレーナから「シャルロッタの身柄を空港まで引き取りに行ってくれ」と連絡があったのは、五日ほど前のことだ。「迎えに」でなく、「引き取りに」と言われた時点で面倒な事になっているのは予想できた。

 そして予想通り、シャルロッタは中部国際空港の入管で取り調べを受けていた。


 しかも、その理由が呆れる。

 シャルロッタのパスポートの髪と瞳の色は、地色のブルネット。しかし、そこにいる彼女の左目は、不自然な青色の瞳、もう一方は眼帯で隠されていたが、頼んでもいないのにはずして見せつけたその瞳は、地球人類ではあまり見かけない金色であった。おまけに金髪縦ロールのウィッグまでしているので、不審に思われても仕方ない。


 職務に忠実な日本の入国審査官は、シャルロッタの事は知らなくてもコスプレーヤーというものの存在は知っていた。最近は外国人にも多くいて、彼ら彼女たちにとって日本は聖地だという。この娘もそんな一人と思われた。だからといって、このふざけた変装のまま入国審査をパスさせては、悪しき前例となる。別室で事情を訊く事にした。


 そこまで行ってもシャルロッタは、いくつかの簡単な質問に対しても、いちいち意味不明の中二病的答えを繰り返し、終いには「右目が疼く……一刻も早くここから出さないと、この空港が消滅することになる」と言ってしまった。


 シャルロッタはその場で拘束されたが、イタリア領事館員が駆けつけて、身元の保証と精神的な疾患があるものの、決してテロや犯罪を犯すものでないことを証明してくれた。しかし、日本の入管としては収まらない。領事館員に彼女の滞在中の身元引き受けを求めたが、そこまでは拒否された。

 シャルロッタの奇行はイタリアでは有名だ。如何に楽天的なイタリア人でも、クリスマス時期にシャルロッタの面倒には関わりたくない。彼らにも家庭がある。


 シャルロッタは愛華の名前を出したが、愛華はまだ未成年。身元引受人としては相応しくない。そこでイタリア領事館員はスミホーイに責任を押し付けて、エレーナの知るところとなったらしい。


 ルーシーはシャルロッタの身柄を引き取り、彼女のわがままに従って、愛華たちのいるmioに駆けつけたものの、すでにパーティーは終わっていた。

 シャルロッタは、日本でやりたいことトップ(スリー)である学校帰りのカラオケボックスが、自分の来る前に終わっていたことを大いに怒り、延長して再開することを要求したが、女子高生をこれ以上遅くまで引っ張ることはできない。


 結局、後日またしましょう、ということで愛華たちが宥めたが、シャルロッタは不満いっぱいだった。

 そもそも普通に入国していれば十分間に合ったのだが、ルーシーが身柄の引き取りに行かなければパーティーはなかったので、なんとも言えない。面倒なので、カラオケボックスというものが、このようなところでないのは、敢えて触れないでいた。


 翌日からシャルロッタも、愛華と共に学校まで行ったが、当然愛華が補習を受けている間はルーシーに校外へと連れ出された。

 補習が終わる時間に再び学校に戻り、特別に許可をもらって、愛華と一緒に体育館でトレーニングをさせてもらう。シャルロッタは天才の例に洩れず、筋トレというのが大キライだったが、放課後ティータイムのエサに釣られて我慢して参加。仕方ないので由加里など愛華と家が近いか、同じ路線を利用する数人でルーシーの運転するワンボックス車に乗り込み、途中のファミレスなんかに寄ってみた。


 ファミレスで、制服姿の女子高生数人の中に愛華がいても、余程のファンでなければ気づかないであろうが、シャルロッタは目立ち過ぎた。

 外国人が白百合の制服を着ていても、普通なら留学生と思っただけだろうが、その制服は、ゴシック調に改造されたカスタムで、日傘を持った金髪縦ロール、眼帯つきとなると、もうコスプレとしか思えない。秋葉原辺りなら珍しくない(?)かも知れないが、地方都市の、それも郊外のファミレスである。

 店内にいた客からジロジロ見られ、携帯のカメラを向けられると、自らポーズまで取っている始末に、さすがのルーシーも困り果てた。


 その中の一人が、GPライダーのシャルロッタとは知らずにSNSにあげた写真を、ファンが「あの残念なシャルロッタ」と気づき、たちまち愛華がいたことまで拡散してしまった。由美さんが気をつかってくれたことを、一撃でぶち壊してしまった破壊力は、さすがシャルロッタである。


 一昨日と昨日は、無理矢理シャルロッタに普通の格好をさせ、愛華が補習を受けている間は紗季たちが町の案内やショッピングなどにつき合ってくれたので、なんとか治まっていたが、今日は紗季も三年の元生徒会として、いろいろしなくてはならないことがあるらしい。


 

 もっともルーシーは、シャルロッタのワガママにつき合わされるのを意外と苦痛と思っていないようだったが、何度も「アイカはなにやってるの!」とか「サキはどうしたの?」とか言われ続けてるのに、ちょっと鬱陶しくなってきたようだ。

 だが、それもあと一日の辛抱である。明日、学校行事のクリスマス礼拝が終われば、愛華たちも本格的な冬休みとなる。それに合わせて、頼れる同志の応援を要請していた。


 それにクリスマス礼拝のあと、紗季の家でシャルロッタ念願の、友だち集めてクリスマスパーティーが開かれることになっている。少しはシャルロッタも満足してくれるだろう。


「日本の女子高生の間では、クリスマスに友だち同士でプレゼント交換する習慣があります。シャルロッタさんはもうご用意されましたか?」

「あたりまえよ!一昨日サキとケーキの注文に行ったとき、買ってきたわ。なに買ったかはルーシーにも秘密よ。あたしよりアイカは大丈夫なの?プレゼントなしでパーティー行ったらハブられるわよ」

 シャルロッタは、微妙に日本のカルチャーに詳しくなっていた。

「さあ、どうでしょうか?」


 ルーシーは昨日、愛華が由美たちとこっそりmioでショッピングしてきたのを知っている。知っているというより、「シャルロッタさんには内緒で」と愛華から相談されて許可した。

 シャルロッタと違い、愛華の制服姿はそれほど目立たない。万一気づかれて騒ぎになっても、mioの店内であれば警備員もいるし、由美が一緒であれば危険はないと判断した。


 愛華とシャルロッタの安全の確保というのは、ルーシーに与えられた最重要任務だが、もう一つエレーナから頼まれている事があった。


 世界の頂点で極限の速さを競い合っている彼女たちにとって、普通の女子高生のような生活は望めないが、憧れもあるだろう。エレーナの時代と比べたら、甘いと言われるかも知れないが、僅かな時間でもそれが安らぎとなれば、シーズン中の集中力にもつながるだろう。出来る限り友人たちと過ごす時間が楽しめるよう、配慮してやって欲しいと直接頼まれていた。ルーシーとしても、愛華とシャルロッタが日本でかけがえのない思い出を残せることを願っていた。


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[一言] 最凶の問題児、着弾‼︎‼︎
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