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最速の女神たち   作者: YASSI
フルシーズン出場
177/398

迎えた最後の朝

 Motoミニモ シリーズにおける順位による獲得ポイント

1位 25p

2位 20p

3位 16p

4位 13p

5位 11p

以下1ポイントずつ減っていき、15位1pとなる。



 そして、遂にシーズン最後の朝を迎えた。


 愛華とシャルロッタは、出来るだけエレーナと顔を合わさないようにしなければならなかった。

 エレーナは勘が鋭い。そして愛華もシャルロッタも、すぐに顔に出る性質(たち)だった。


 そんな愛華とシャルロッタの態度なので、逆に気づかれないほうが不思議だ。


「あの二人、何をコソコソしているんでしょうね?」

「おそらく、スターシアが考えている通りだろう」

 朝食も、離れた席で急いで食べ、すぐに部屋へと戻った二人が何を企んでいるのか、エレーナもスターシアもとっくに見抜いている。


「私から、アイカちゃんに言っておきましょうか?シャルロッタさんはともかく、アイカちゃんなら話せば理解してくれると思います」

「いや、アイカなら理解している。彼女はシャルロッタに付き合っているだけだろう。シャルロッタを孤立させるよりマシだ」


 シャルロッタが勝ちにこだわっているのは、エレーナも知っている。おそらく誰でも気づいているだろう。エレーナも優勝でチャンピオン決定を飾らせてやりたい。しかし、ここで取り溢すようなことがあれば、タイトルは泡と消える。泣いても笑っても最後のレースなのだ。


 ここにきて、シャルロッタは大きく成長している。ライディングテクニックは元々超一流だったが、競技者としての心構えが、それに追いつこうとしている。ただ、ライダーとしての本能は、簡単には覆えないということか……。


 エレーナ自身、昨年この場所で、シャルロッタの勝負に応じてしまった。“最速”という言葉の響きに抗えないライダーの本能は、エレーナも理解している。しかし、今回は自分が同じフィールドにいてやることが出来ない。道理を言い聞かせたところで、反抗し、チームから孤立するだろう。

 本能を剥き出しにしたシャルロッタを止めることは、スターシアにも出来ない。せめて愛華だけでも、味方でいてやってほしかった。


「実際のところ、シャルロッタさんのエンジン、どこまでいけるのですか?」

 エレーナの思考を、スターシアが遮った。スターシアも出来ることなら、シャルロッタの望みを叶えてやりたいと思っている。

「わからん。セルゲイ親父の話では、かなりくたびれてはいるが、1レースぐらいならもつとみていたそうだ。ただシャルロッタが、異常を訴えた」

「では、いける可能性もある訳ですね?」

「可能性はある。だが、ことバイクに関してのあいつの感覚は、最新の計測器より鋭い。具体的に何が?とはわからなくても、間違いなく異常があるのだろう。多少のことなら誤魔化してでも勝ちたいあいつが、わざわざ言ったんだ。トラブルの危険性があれば、抑えて走らされることは、あいつにもわかっていたはずだ。確かな何かを感じたのだ」

 初日から異変に気づき、予選でもエンジンを痛めないように走らせることは、シャルロッタにとって、耐え難い苦痛だったに違いない。エンジンを載せ替えることも出来ず、それでも決勝を、完走するためでなく、勝つために耐えてきた。

 自業自得とは言え、勝たせてやりたかった。しかし、リスクを考えるなら、様子を見ながら確実に四位以内を目指すしかない。

 チームミーティングでは、状況次第では優勝も諦める的なニュアンスで伝えたが、余程他が遅れない限り、優勝は捨てているのが本音だった。ゴール目前で止まったでは、去年の自分と同じだ。


 奇跡に二度めはない……。


「少し妬けますわ」

 再びスターシアが、エレーナの思考を遮る。久しぶりに聞くセリフだ。

「どういう意味だ?」

「『もしかしてアイカちゃんなら』って思ったでしょう?」

「馬鹿なこと言うな。奇跡は二度も起こらない。アイカに期待するのは、シャルロッタを無事ゴールへつれて行くことだけだ」

 正直、エレーナは心の奥を覗かれた気がした。返答自体、何を期待していたかを物語っている。

「昨年のタイトルは、奇跡ではありませんよ。エレーナさん自身、『レースに奇跡はない』とよくおっしゃっているじゃないですか」


 そうだ、あれはアイカが押し上げた必然だった。レースに奇跡はない。だからといって、どんなに万全を尽くしても、勝てるとは限らないのも事実。

 すべてのリスクを摘み取ることは出来ない。だからレースは何が起こるかわからない。

 リスクを避けようとして、裏目に出ることもある。

 今、大きな成長をしようとしているシャルロッタを抑えつけるよりも、あの二人に自分たちのレースをさせてやる方がいい可能性もある。少なくとも、結果がどうあれ、必然を受け入れられるのなら、二人にとっては更に進化する貴重な経験となる。

 可能性の高い低いでなく、可能性の大きさに賭けてやるのが、育てる者の務めだろう。


「嫉妬するのは私の方だ。あいつらと一緒に走れるスターシアが妬ましい。すべての責任は私が持つ。シャルロッタとアイカを、全力で支援してやってくれ」


 これでタイトルを獲り損ねたら大変だな。なにしろメーカーもスポンサーも、大々的な記念イベントまで企画しているのだからな。

 まあどうせ長くは走れないポンコツの身だ。そろそろ楽させてもらうには、いい口実だろう。


「私の持てる力の限りを尽くして、エレーナさんにはまだ楽なんて、させませんので」

 スターシアは、まだまだエレーナをこき使う気満々で答えた。


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[一言] 指揮官の覚悟は配下の兵どもに現れる。
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